第5話

 えっ?

 どうして、こうなったって?

 ビジネス的判断というのは直感力および反射力なのだ。


「俺の婚約者にならないか?」


 この質問において、私の答えは「はい」が一番適切だろう。

 よく、ロマンス小説とかのヒロインだとここで答えにためらってごたごたやすれ違いを起こすけど、ハリウットのラブコメを思い出して欲しい。


 ああいうヒロインは、ゴージャスでリッチで爵位がある男と言い争いをしているうちに、『YES』と答えて夢のような生活を手に入れているのだ。


 お約束にしたがうように、私できるだけ無感情に「はい」と答えた。

 ただの相槌のごとく。


「はい」


 そうすると、面白いことに目の前のイケメンは狐につままれたような顔した。

 いやー、愉快愉快!

 さっきまであんなに身勝手で傲慢だった人間が狐につままれたような顔しているのをみるのは楽しい。

 気分、爽快☆


 これだけでも、「はい」って答えた甲斐があった。

 ついでに、相手が動揺している間に交渉も進めてしまおう。


「で、今から私が婚約者ってことでよろしいんですね?」


 ずいっと一歩前にでて、目の前のイケメンを見つめる。

 さっきまでの俺様な雰囲気が崩れ初めている。

 余り威圧的にし続けると、可哀想&開き直られたらまずい、のでまっすぐみつめるのではなく、ちょっとだけ下から上目遣いでみることにした。


 上目遣いくらいの方がまっすぐみつめるより、こちらも余裕ができる。しかし、目の前のイケメンは本当にイケメンだった。

 睫毛長いし、肌は滑らか、顔立ちはちょっと彫りが深めだけど彫刻のように整っている正統派イケメンだ。


 それに目が綺麗。

 白目の部分は青みがかって澄んでいるし、虹彩っていうのは光を受けて表面に虹色の輝きを帯びている。なんだか、この光がいっぱい差し込んでいる感じ何か懐かしい気がする……。


 こんな風に人の瞳を観察することって無かったけれど、本当に綺麗だ。私があまりにも惚けた顔で観察していたのだろうか。

 いつの間にか余裕を取り戻したイケメンが、笑った。


「そんなに、俺の顔が珍しいか?」

「い、いえ。美男子だなあと……」


 私は思わず本音を口に出していた。だって、黙っていた方が負けのような気がする。

 なんか、恥ずかしいことをいったような気もするけれど、このまま勢いにのって交渉を進めてしまおう。


「で、婚約者というのは何をすればよろしいのでしょうか? また、婚約期間の生活費や結婚準備のための支度金はいただけるんですよね。支払い方法は? 返済義務は?」


 別に婚約者になったていいじゃん。

 私がこのまま破産すれば、多くの人が生活に困って死んじゃうし。

 婚約したからって誰が死ぬわけでもないし。




 結婚するなんて誰もいってないし……ね?

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