第34話

 ソフィーのことは手を尽くして探した。

 王国に戻るはずがないので、隣国中を旅して。


 旅の中では様々な人々に出会い、今までみたこともないような景色を目にした。

 世界は広くて美しかった。

 その美しい景色をみるたびに、ソフィーにも見せたいと思った。


 王国の方は、あれほどの飢饉が起きていたのになんとか収束させたという噂を聞いた。

 なんでも、異世界からきた少女が「お告げにたよる政策なんてばからしい」として、制度改革を行ったらしい。

 王族制度も廃止。

 農業も新しい技術をどんどん取り入れているらしい。

 どうやら、その改革を行っているのは長い黒髪の幼い見た目の美夢という少女だという。


 学園で王太子の側にいるときはマナーなど王国の様式が身につかない無礼な少女だと思っていたが、どうやら何者にも染まらない性質のもちぬしらしい。


 お告げになんかたよらずに、国民のために働ける人間を積極的に登用して、王国は大きく代わり、今までとは違う、神から与えられる豊かさから自分たちが豊かさを作り出すようになったという。


 お告げにあったのとは違う、自ら運命を切り開いて国を豊かにするという姿勢に国民からの支持は厚い。ただ、美夢は王太子に手ひどいフラれ方をして以来、男性不信の独身主義だということだ。

 本当にあの王太子は酷い。


 なぜこんなに王国のことを話しているかというと、今日、久しぶりに王国に戻ってきたのだ。


 そう、やっと居場所が見つかった。

 僕の居るべき場所。

 そう、ソフィーの側だ。


 まさか、王国にいるなんて思いもしなかった。


 王国の街並みは宝石と様々な色で飾れた華美なものから、レンガや自然の材料の色がいかされた質実剛健なものが揃い前よりも重厚感のある落ち着いた街並みになっていた。


 その中の一軒の店の扉を開く。

 温かくて甘いどこか懐かしい香りに一気に包まれる。


「いらっしゃいませ……。どうして、ここに?」


 驚いた顔がはっきりと見えた。

 彼女は慌てて、こちらに駆け寄ってくる。

 甘い香りが強くなる。果物と砂糖と素敵な物を煮詰めたソフィーが煮てくれていたジャムの香りだ。彼女に作り方を教えてもらったけれど、ソフィーの作った味にはかなわなかった。


「ずっと、会いたかった」


 そういって、側にまできた彼女を香りごと抱きしめた。


「なんで、なんで……私は、マンディに自由になってもらいたかったのに。幸せになってもらいたかったのに……どうして……」


 ソフィーが腕のなかで声を震わせる。

 泣いているみたいだった。


「僕にとっての幸せは君がいることなんだ」


 腕の中のソフィーが顔を上げる。涙で濡れているけれど、瞳は輝く夜空のようだし、頬は薔薇色。手に触れる黒髪は艶やかな絹のようだった。


「私、本当にお嬢さまの……マンディの……側にいていいの?」


「ああ、側にいてくれ。愛してる」


 すると、ソフィーは腕の中で子供のようになきじゃくった。

 そんなソフィーが愛しくて仕方がなかった。


「私も、愛しています」


 腕の中でソフィーは囁き、どちらからともなくキスをした。





 ■■■




「こうして……追放された元令嬢は愛する女性に告白をして、本当の意味で一人前の男となったのであった。めでたし、めでたし」


 小さな少女を膝にのせた女性が真っ白な絵本を手に少女に微笑んだ。

 膝の上の少女は微笑み、母親に聞く。


「ソフィーとマンディーはそのあとどうなったの?」


「ん? 幸せにくらしているわ。今でも。まあ、それまでに色んなことがあったけれどね」


 母親は少女に優しいけど、いたずらっぽい眼差しを向ける。


「さあ、絵本を読んだから約束通り畑仕事のお手伝いをしてちょうだい」


 そう言うと少女と母親は二人の住む家の庭にある小さな畑に向かう。


「こうやってね、大きく美味しい実がなるようにお願いすると早く育つのよ」


 そう母親が祈るような姿勢をすると少女も真似して手を組む。


「おいしくなりますように」


 少女と母親が祈ると、庭の作物はあっという間に育つ。

 さっきまで芽が出たばかりの植物はのび、一気に実をつけた。


「おーい、そろそろ、夕飯にしよう。パンも焼けたよ」


 二人が一通り畑の世話を終えると、太陽を紡いだような美しい金髪の男性が二人に声をかける。


「やったあ、パパのパンにママのジャムは最高のとりあわせだものね!」


 少女が元気いっぱいにいうと、三人は幸せそうに微笑んだのであった。



――第一部 完――


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