第29話
不思議なことに追っ手はおらず、私たちは簡単に逃げることができた。恐らく誰も想定していなかったのだろう。私が逃げられるなんてことも、助けがやってくるということも。
流石ぼんくら王国。王族の警護までここまでゆるゆるなんてつくづくアマンダお嬢さまが王太子妃とならなくて良かった。
アマンダお嬢さまは王妃教育の一環として、どうやら城の内部の地図をすべて把握しているらしい。しかも、一般にはしられていない隠し通路や隠し部屋の存在も。
そのおかげで私を見つけ出すことができたといっていた。
暗い廊下を、アマンダお嬢さまとひたすら走る。
薄暗い中を走っていると、自分がどこにいるのか、何をしているのか、何者か全部分からなくなる。
だけれど、そんなことはどうでもよくって。
ただ、マンディと二人きりで走っていると、まるで自分たちはまだ子供のままで二人でかけっこをしているような気分になる。
脚は痛くて、息はあがってしまってすごく苦しいけれど、やめたくない。
このまま二人でどこまでも走っていきたい。
二人でならどこまでだっていける。
そんな気持ちになっていた。
だけれど、それは気持ちだけ。
しばらく走ると、私の脚はサイズの会わないヒールの高い靴に重くて豪華なドレスのせいで限界を迎える。
脚がもつれて、転んでしまった。
冷たい石造りの床に膝が打ち付けられる。
固く冷たい床に手をつくと、闇がどんどん迫ってくるような気がした。惨めな気分だった。
なんで私なんかのためにお嬢さまがこんな目にあわなきゃいけないのだろう。お嬢さまを助けたつもりだったのに、結局助けてもらってしまっている。私じゃ、お嬢さまの役にたつどころかお荷物なんじゃないか。
そんな絶望感に近い闇が転んで、その場にとどまっている間にせまってきた。
「……お嬢さま、私を置いて逃げて下さい」
あえてマンディと呼ばなかった。
だけれど、お嬢さまは私に手を貸すどころか、気が付くと私はお姫様抱っこしていた。
「あの、お嬢さま……?」
「……」
だけれど、お嬢さまは返事をしない。
ただ、私を抱きかかえたまま走り続ける。
さっき追いかけてきた闇をどんどん置き去るように、お嬢さまは風をきってはしっていく。
お嬢さまの太陽の光を紡いだような金色の髪が闇のなかでキラキラと輝いていた。
「ねえ、マンディ?」
「……なあに?」
今度は返事をしてくれた。
怒っていると思ったので、返事があって安心した。
「助けに来てくれて、ありがとう」
「ソフィーのためならいつだって、私は駆けつけるよ」
私はその言葉が嬉しくて、マンディに抱きついたけれど、慌てて少し離れる。だって、自分の心臓の鼓動が想像したよりも早く大きく脈打っていたのを気づかれるのが恥ずかしかったから。
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