第5章 ドワーフの国編

第70話 ドワーフの国ギガンテ


 夕食会が終わって次の日。俺たちはドワーフの国ギガンテに向かうことにした。

 そう言えばシーラとメアのことをすっかり忘れてたよ。


 だけど良く考えてみれば、誰と誰が付き合おうと仲間であることには変わりないからな。

 恋愛中心で考えるとか、俺らしくない笑えない冗談だな。


 クエスと一緒にみんなで朝食を食べて、そろそろ出発しようと城の中庭に出る。

 するとそこにもう1人の知り合いがいた。


「げっ……魔王アレク!」


 おい。俺の顔を見て『げっ……』とか言うなよ。

 赤い髪と褐色の瞳のエルフ。彼女は冒険者のシリル・エイバリッタだ。

 ゲームのときはプレイヤーキャラで、俺のお気に入りの1人だった。


 魔族の転生者ジェリルからシャトラを取り戻す戦いにはシリルも参加したけど、俺が無双して活躍の場を奪ってしまったんだよな。

 相手がジェリルだから、普通に戦ってたら大量の死人が出たけどな。


「よう、シリル。相変わらずクエスのために頑張ってるみたいだな。俺は直ぐに帰るから安心しろよ」


 シャトラに物資が無事に届くのは、シリルたち冒険者が隊商を護衛してるからだ。

 アレクを恐れて冒険者たちがいなくなったら最悪だからな。さっさと消えるか。


「待って……いいえ、待ってください!」


 シリルが呼び止めるけど、理由が解らない。


「取り乱しまして、大変失礼しました。先日はシャトラを、クエス様を救って頂き、ありがとうございました!」


 俺の目を真っ直ぐに見て礼を言うと、深々と頭を頭を下げる。ああ、シリルはこういう奴だったな。


「おまえが礼を言う必要なんてないよ。俺もクエスに雇われただけだからな」


「アレク様が報酬どころか戦利品すら受け取らなかったことは、クエス様から聞いています。

 アレク様のご厚意がなければ復興も遅れ、シャトラの市民も苦しい生活を強いられるところでした」


 何だよ、クエス。そんなことまで喋ったのか。

 クエスを見ると当然って顔してるし。

 シリルとクエスって仲が良いんだな。


「いや、それは誤解だよ。俺は報酬と戦利品をクエスに貸しただけだ。利息も取るし、慈善事業をする気はないからな」


 こんなことを言っても、俺の意図はクエスにバレてるからな。シリルだって知ってるよな。


「だけどシリルが恩義に感じてるなら、これからもクエスを助けてやってくれよ。俺はクエスもシャトラも気に入ってるからさ」


「はい……必ずや、クエス様のお役に立って見せます!」


 思わず苦笑いする。いや、こういう堅苦しい感じじゃなくてさ。俺はシリルとも普通に仲良くなりたかったんだよ。自業自得だし、今さらだけどな。


「アレク、あんたには私たちがいるわよ」


「そうだよ、アレク。私はずっとアレクの傍にいるからね」


 ああ、顔に出てたのか。レイナとソフィアに慰められるなんてな。

 気持ちは嬉しいけど。ソフィア、ずっととか言うのは重過ぎるからな。


「私もアレクの隣にいるわよ。これからだって……ねえ、アレク。そろそろ出発しない?」


 エリスがはにかむように笑う。そうだよな。俺にはみんながいるから。


「じゃあ、クエス。俺たちはそろそろ行くよ」


「はい、アレク様。また直ぐにシャトラに戻って来て下さい。お待ちしております」


「なんで直ぐな訳? クエス、あんた図々しいわよ」


「はい。図々しくしないとアレク様に会えませんから」


「そのときは私たちもまた一緒に来るからね」


「いいえ、ソフィアは遠慮して下さい。私はアレク様と2人きりでお会いしたいんです」


「それは駄目よ。私たちが許さないから」


 クエスもみんなとすっかり打ち解けたよな。

 色々あったけど、みんなと一緒に来たのは正解だったな。


「みんな、今度は空を飛ぶからな。落ちる心配はないけど。コントロールが効かなくなるから、俺からあまり離れるなよ」


「ああ、『飛行魔法フライ』ね。全員一緒に飛べるとか、アレクの魔法ってホント便利よね。え……ちょっと待って! きゃゃゃーー!!!」


 俺はレベルMAXの『飛行魔法フライ』を発動して、ギガンテに向かった。

 音速を超える速度にみんなが悲鳴を上げてるけど。まあ、直ぐに慣れるだろうな。


※ ※ ※ ※


 ギガンテは如何にもドワーフらしい国だ。

 都市全体が要塞みたいな王都ガシュベルには、重厚だけど精巧な彫刻が施された石造りの建物が立ち並んでいる。


 まるで芸術品のような街なんだけど……俺たちは観光なんかしないで、直ぐにダンジョンに向かった。


「結構固いわね。でも私の相手じゃないわ」


 重装竜アーマード・ドラゴンの頭を串刺しにして、レイナが白い歯を見せて笑う。

 まあ、ドラゴンとしてはそこまで強くないけどな。

 

 ギガンテのダンジョン『ビステルタの霊廟』は、魔族の領域以外にあるダンジョンとしては最難関レベルだ。

 エボファンは物語メインストーリーが進むと、他種族連合軍も魔族の領域に侵攻するから、もっと難易度の高いダンジョンにも挑めるようになるけどな。


 みんなは魔族の大規模侵攻で敵を倒し捲って、『ルプテリアの多重迷宮』も完全攻略したからな。全員レベルは70台だ。

 トップはレイナで75レベル。それだけ戦闘で貢献したってことだ。

 エボファンの経験値は単純な人数りじゃなくて、貢献ポイントによって配分されるからな。


 だけどレベルが上がっても油断は禁物だ。

 『ビステルタの霊廟』には最難関ダンジョンに相応しいモンスターが揃っているからな。


 全100階層で5階層階毎にボス。ギガンテからスタートするプレイヤーキャラもいるから下層部は普通なんだけど。50階層を超える頃からモンスターの強さが跳ね上がる。


 レイナが倒したドラゴンもそうだけど、他にもアンデッド系・悪魔系・天使系とバラエティに富んだ上級モンスターのオンバレードだ。

 特に80階層から下は100レベル超えのモンスターまで出現するからな。


 今回はみんなのレベルに合わせて60階層から攻略を始めた。

 ショートカットができたのは、勿論俺が事前に攻略したからだ。

 みんなにジト目で見られけど、今回は60階層までしか攻略してないからな。


 俺が『ビステルタの霊廟』で目指すのは、全員100レベル超えだ。

 キスダルは325レベルだし、背後にいる奴はたぶんもっとレベルが上だ。

 俺が寸止めしたときにキスダルが『深淵の支配者アビスルーラー閣下よりも強い』とか言ってたからな。

 中二病爆発の呼び方は置いておいて、アレクと比較できるくらいの強さだってことだよな。


 そんな奴がいつ仕掛けて来るか解らないし。他の転生者の方から仕掛けてきたのは今回が初めてだけど、これからも無いとは限らないからな。

 俺はみんなを守るって決めたけど。四六時中一緒にいる訳じゃないから、強くなる手助けをしたいんだよ。


「なあ、みんな。ちょっと集まってくれよ」


 俺は『不可侵領域セーフティーエリア』を発動して、収納庫ストレージから大量のアイテムを取り出す。

 全部『始祖竜の遺跡』産のマジックアイテムだ。

 勿論、みんなが普段使ってる装備に合わせて用意した。


 マジックアイテムには装備できる最低レベルが設定されている。だからみんなが装備できる中から選んだので『始祖竜の遺跡』産としては弱い方だけど。

 それでもフル装備すれば、実質10レベル以上の底上げになる。攻撃力や防御力が高いのもそうだけど、ステータスとHPの補正に、消費MPの減少効果まであるからな。


「ねえ、アレク。これって……」


 エリスは『始祖竜の遺跡』産のアイテムだって気づいたみたいだ。

 エリスも前世でエボファンを結構やり込んだらしいからな。


「こんな凄い剣とナイフ……私は初めて見たよ。それに鎧も……アレク、本当に貰って良いの?」


 ソフィアはライトプレイヤーだったらしいからな。ゲームでも『始祖竜の遺跡』に行ったことがないんだろ。


「うん……良い剣ね。アレク、私は気に入ったわ。この鎧も堅いのに軽いわね」


 レイナを含めて他のみんなの反応も良好だ。だけど遠慮してるみたいだからな。


「実は俺もみんなに渡すべきか悩んだんだよ。自分で強い装備を手に入れる楽しみを奪うことになるからな。

 だから勿論強制はしないけど、キスダルみたいな奴がいつ仕掛けて来るか解らないからな。気兼ねなんてしなくて良いから使ってくれよ」


 みんなにもキスダルのレベルは教えたからな。誰も要らないとは言わなかった。

 これで後はモンスターを倒し捲って、レベルを上げるだけだな。


「そんなことより……昨日アレクとエリスが2人きりっだったことが気になるんすけど」


「そうよね……私も凄く気になるわ」


 うん? シーラとメアがニマニマしながら何か話してるけど……

 ああ、そうか。グランとカイの話でもしてるんだな。

 リア充とか……俺は別に羨ましくないからな。

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