第66話 次の目的地
キスダル・パラミリが『
エリザベスが俺の腕に思いきり抱きついていた。
「ねえ、アレク……これって、どういう状況?」
聞き慣れた声に振り向くと、レイナが睨んでいる。
「アレク……私も訊きたいんだけど」
「私だって……アレク、買い物に行くんじゃなかったの?」
エリスとソフィアまで何故か不機嫌な顔をしてる。
後ろの方に他のみんなもいるな。
だけど何を言ってるんだよ。勘違いだって。
「ちょっと別件で用があって……いや、正直に話すよ。
俺を尾行してた奴がいたから、今までそいつの相手をしてたんだ。
エリザベスもそいつの後を追って、ここに来たんだよ」
「尾行って……アレク、大丈夫なの? 貴方なら心配ないとは思うけど、相手の正体は解ったの?」
エリスが気遣わしげに訊く。
俺のことを心配してくれる気持ちが伝わって来るな。
「ああ。追い返したからとりあえずは問題ないけど。
尾行してた奴は325レベルで、背後にいる奴はさらにレベルが高い可能性があるからな。決して油断して良い相手じゃない」
この辺りの情報は正確に伝える必要がある。
エリスたちも巻き込まれる可能性があるからな。
「325レベルって……いったい何者なの?」
「ガスライト帝国の
俺とエリスが話をしていると、他のみんなも緊張した感じて耳を傾けている。
だけど1人だけ、反応がみんなと違った。
「話は解ったけど……だからってエリザベスがアレクに抱きついてるのはどういうことよ?」
俺とエリスが話している間も、エリザベスは当然のように俺の腕に抱きついていた。
ていうか……何故か勝ち誇るような顔でさらに胸を強く押しつけてるのはどういうことだよ?
「なあ、エリザベス。話がややこしくなるから、そろそろ俺から離れろよ」
「えー……アレク様、嫌ですよ。久しぶりにアレク様と一緒にいられるんですから、もう少しこのままで良いですよね」
エリザベスは上目遣いで甘えるように言う。
こいつは直ぐに暴走するけど、我がままを言うのは意外と珍しい。
「ああ、解ったよ。少しだけだからな」
「アレク様、ありがとうこざいます! うーん……アレク様の体温と匂い。アレク様に僕の全てが包まれてるみたいだな……アレク様の1番は僕ですからね」
レイナが思いきり睨んでる。
おい、エリザベス。絶対にわざとやってるだろ。
俺はさらに30分もエリザベスに抱きつかれていた。
みんなには悪いから、後で合流すると言って先に行って貰ったけど。
レイナはずっと睨んでいたし、ソフィアも残ってずっと涙目だった……何なんだよ、この状況は?
※ ※ ※ ※
エリザベスと別れてみんなに合流すると、キスダルとガスライト帝国について詳しく説明した。
まあ、ガスライト帝国についてはゲーム知識と、諜報部隊が集めた情報だけどな。
ガスライト帝国は聖王国とは大陸の反対側にある大国で、ゲームのときは他種族連合軍の主力の1つとして魔族軍と戦った。
エボファンの世界では珍しい魔法と科学を融合させた国で『
ちなみにエボファンでは『人造人間』が種族で『殺人人形』がクラスだ。
『人造人間』のプレイヤーキャラはいないけど、NPCとしてならそれなりに登場する。
ゲームのキスダルは『殺人人形』部隊のエースで、ガスライト帝国で起きるイベントに登場するけど、エリスたちメインキャラと直接絡むことはなかった。
「キスダルが俺を尾行していたからって、背後にガスライト帝国の奴らがいると決めつけるのは早計だと思うんだよ。
もちろんガスライト帝国についても調べるけどさ、相手がガスライト帝国だと思わせるためにキスダルを使った可能性もあるからな」
俺がそう考える最大の理由は、諜報活動には向かないキスダルに俺を尾行させたからだ。
『
俺が元魔王だと知っているか、カスバル要塞での戦いぶりを知っている奴じゃないと、俺を尾行しようなんて思わないだろう。
だけど相手がガスライト帝国の奴なら、そいつは魔族軍の内情に詳しいか、大陸の反対側にある聖王国で起きた出来事を、リアルタイムに近いタイミングで掴んだことになる。
特に後者の場合、それだけ諜報の能力に長けた奴が『認識阻害』を過信してキスダルを使うとは思えない。
まあ、あくまでも可能性と想像の話だけどな。
相手が間抜けなら対処は簡単だから、最悪の状況を想定しておくべきだろう。
「情報収集の方はエリザベスに頼んだから、何か解ったらみんなにも教えるよ。
もしキスダルや他の奴がまた何か仕掛けてきたら俺が対処するけど。みんなもキスダルレベルが相手になる可能性を考えて行動してくれよ」
俺と一緒にいると危険だから、別々に行動しようなどと言うつもりはない。
それはみんなが自分で決めることだからな。
みんなは自分で選んで、俺と一緒にいてくれているんだ。
俺はみんなを守って、みんなが自分を守れるようにサポートする。
「325レベルか。私はもっと強くならないと」
「そうだよね……私も頑張るから」
レイナとソフィアは互いに競い合って。エリスは自分自身を見つめながら、強くなろうと頑張っている。
他のみんなだって頑張っているし、相手が強いから逃げるなんて考えていない。
相手との力の差を考えずに戦うのは無謀だけど。解った上で勝つために強くなろうとしてるから大丈夫だ。
俺もできることは全部やるし、みんなのことは絶対に守る。そのためにできることは全部やるつもりだ。
「まあ、この話はこれくらいして。次のイベントはどうなるか解らないし、まだ何ヶ月も先になるからさ。俺はドワーフの国ギガンテに行こうと思ってるんだけど、みんなはどうする?」
「勿論、一緒に行くに決まってるじゃない。あんたと一緒の方が面白そうだから」
「私だってアレクにどこまでもついていくからね」
レイナとソフィアが即答する。いや、どこまでもって……ソフィア、ちょっと重いんだけど。
エリスは無言で頷く。ああ、何も言わなくても解ってるよ。
「でもギガンテって……エルフの国のさらに東よね?
結構遠いけど、アレクが行くって言うんだから当然理由があるのよね」
「ああ。今のみんなが攻略するのに丁度良いレベルのダンジョンがあるんだよ」
「そういうことかよ。アレク、俺もその話に乗るぜ」
「俺も同じ意見だ。『ルプテリアの多重迷宮』もさすがに飽きたからな」
グランとガルドがニヤリと笑う。
他のみんなも異存はないということで話が纏まった。
「だけどさすがに
「いや、移動時間のことは心配しなくて良いよ。今回は魔法で移動するからさ」
元魔王であることを隠さなければ、移動時間なんてどうにでもなる。
「だけどギガンテに行く前に、寄りたいところがあるんだ。ギガンテに行く途中だから構わないよな?」
「それは構わないけど、魔法で移動するって具体的にどうするの?」
みんなはそっちが気になるみたいだな。
まあ、初めての経験だろうし。俺も今回はみんなと一緒だからちょっと楽しみだ。
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