第229話





アルフォートの館



「疲れた……」


「お疲れ様です」



陛下の発言から約1週間後の今日無事に領内の屋敷に帰ることが出来た。

私一人であれば身の安全を考慮して陛下にグリフォンの使用許可を求めるのだが、今回はオリヴィアも一緒だ。

彼女を魔獣の背に乗せるわけにはいかない。

行き帰り共に馬車を使い、往復で2週間掛かった。


早速オーフェンに連絡を取り館に来てもらった。


「それで早速報告を聞かせてもらおうか」


「はい、あれはアルフォート様から連絡を頂いた後のことでした……」



そう言ってオーフェンはあの夜以降のことを語り出した。


元々オーフェンには今回陛下が桜の保護や魔力回復に関して貴族に通達する気でいると情報を流しておいた。


それを受け、オーフェンは商業ギルドの者達に、他領の商人たちの動向を探らせていた。

ここ数日は前からの延長で自販機に関する問い合わせが続いていたが、アルフォート様が戻られる数日前から内容に変化が見られ始めた。


例えば、前まではいつ売り切れるか、今度また買えるのか、という質問が相次いでいた。

最近は商品の入れ替えはあるのか、他にも商品が出るのか、という取り寄せられることが継続する、という前提の話に変わりつつあった。


耳の早い商人たちだ。


つまりはこの取り寄せている渡り人は魔力を回復していると言う事が確定していた。

中には、魔力を回復できる商品は入荷するのかという直接的な質問もされた。

そんな話は当然一蹴したが。


「なるほど……短期間で民まで広まっていると言う事だな」


「はい」


「王都の商業ギルドのザルフはどうだ?」


「あちらからも連日日夜問わずに連絡が入ってます。 魔石がもったいない事ですね」


「……ならば動くならもう少しだな。 王都からここまでだと1週間はかかる。 こちらに入り込んでいた者への連絡ももう少しというところか……。 桜には悪いがしばらく廃村から出すわけにはいかないな」


「その方が宜しいかと。 自販機を設置した渡り人への面会要求も後をたちませんから」


「下手に顔を出せば囲まれかねないからな……」


まだ商品を取り寄せている渡り人と回復させる渡り人がイコールだと察知されていないようだ。

陛下からも『橋沼桜は魔力を回復させる渡り人、王室の保護下になる』 としか知らされていない。

どうやって回復させるかも周知されていない。


だが……


「時間の問題だな」


「ですね」


自販機で物を販売している渡り人の名前が橋沼桜だと言う事は商業ギルドでも周知の事実だ。

桜自体売り始める前に領内で物を売ったり買ったりしていたようだ。

それが商人の耳に入り、その商人から貴族の耳に入るのも時間の問題だな。



「耳に入った後が勝負だな」


「強引に確保に動くのか、からめ手で来るのか」


「陛下を始め上位貴族の味方は出来た。 あらかたのことはごり押しで何とでもなるだろうが……」


「からめ手の方に注意をしておかねばなりませんね」


「あぁ、こればかりは動向を注視するほかないからな。 範囲が広すぎる。 なのでオーフェンの方も十分注意するように。 何かあれば連絡してくれ」


「かしこまりました」




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