第196話



「これは歩道橋です、下をご覧ください」


ここは3階部分の歩道橋、連絡橋……なのか? まあ、どっちでもいいか。

通行の邪魔にならないように端によりガラスで出来た手すりから下を見てもらう。


「……道? 真っ平だな、土……石でもなさそうか? あれはなんだ?」


「遠くで見た四角い物が動いてますね、確か……自動車……でしたかしら」


「あんなに動いててよくぶつからないな」


私のすぐ後ろの三人が各々感想を述べる。

陛下は素材について、オリヴィア様とアルフォート様は自動車について。


「あれはアスファルトと言って土とは違います、道を補強しているもの……でしょうか?」


「補強?」


「はい、あの動く箱、自動車は重さが人の10倍から20倍ほどあります。 さらに人の重さの300倍から400倍の大型の物もあります、土や石だとすぐに抉られてしまい耐えられないのです」


「あの灰色の地面はそんなに硬いのか」


「数年は耐えられます」


「……数年だけか?」


「長期にわたって耐えられるものもありますが、それよりもその分安く、早く使えます。 ここは交通量も多いので工事期間が短く済む物が好まれます」


「数年ごとに工事か。 ……その分費用が掛かるのか、いや仕事を増やせると捉えるのか? 耐久によるな、人だけだったらもっと持つのか?」


「数年単位で仕事になるなら、一定数の人員分はそれで食べさせられますね、……今の普請と変わりませんが」


「あぁ、問題は材料費か……導入する費用が高ければ意味が無い。 今の普請でも特段困ってはいないからな」


「比較検証する必要がありますね」


私の話を聞いてアルフォート様と陛下が導入に関して話し合いを始めてしまった。


それよりも何よりも……


「原料もですが、施設が無ければ作れませんよ?」


「そこは桜の知識があるだろう?」


さも当然というようにアルフォート様に言われる。


「知識があったところで私だけではどうしようもないですよ」


「……というと?」


「技術も必要になります、施設を作るにしても、原料を採るにしても、機械を作るにしても技術が必要です。 私はこちらの世界で単なる一般人でしたので技術はありません。 専門の知識もありません。 調べてどうこうできるものでもありません。 アルフォート様は例えば魔道具の作り方を見るだけで作れますか?」


「それは……作れないな」


「なるほど……」


「こちらの知識を取り込むのも難しいな」


陛下とアルフォート様は残念そうにそう言った。

私のにわか知識で危険に晒すわけにはいかないよ。


……でも技術ならマッヘンさんが何とかしちゃいそうだよね、と目を輝かせてあれこれ質問をし再現するマッヘンさんの様子が脳裏に浮かんだ。

いや、一人じゃ無理か、と頭を振った。


「にしても随分と規則正しく動くのですね」


道路を観察していたオリヴィア様がそう言う。


「道路交通法と呼ばれるものがあります。 あれを運転する者はそれを学び、試験を受け運転する許可証の運転免許証を得なければいけません。 無免許で運転すれば違法になります」


「罰則があるのか?」


「あります、金銭で済むか懲役……牢屋に入れられるかは時と場合によりますが」


「運転するだけで牢に入れられるのか」


驚いたよう声を上げる陛下。


「安全にはかえられません」


「だからあんなに規則正しく動くのですね」


なるほどと、動く自動車を見つめるオリヴィア様とアルフォート様。


他にも質問が次々にやって来て歩道橋を渡るだけで30分ほど要してしまった。

高々数十メートル進むだけなのに。


ちなみにサフィリア様の質問は瑠璃さんが、ローレンツ様の質問は長谷川さんが一対一で答えてた。

私だけ三対一なおかげで喉が少し痛くなり、今後続くであろう説明ラッシュに喉について一抹の不安が募った。


通常ならホテルから商業施設まで5分とかからない。

だって連絡橋を渡ったら着くんだもの。


それなのに1時間もかかってしまった。

……長かった。




さて入り口の扉をくぐり


陛「……これ全部がお店……か? いや、下にもある?!」


サ「外にも驚きましたが……なんとまぁ」


オ「道も建物も広く綺麗、まるで屋敷みたいねアルフォート」


ア「そうだな。 それに涼しいな……にしても、こんなにお店があるとは……同じような店もある……のか? 利益は出るのか?」


ロ「こんな規模の建物が商売用……? 飲食店か? あれは」


陛「床が浮いている? どうやって浮いているんだ?」


陛下が入ってすぐに吹き抜けになっている部分まで行き下を覗き込んだ。

入ってすぐに各々の口から感想が述べられる。

どこから答えて行けばいいのこれ……。


私達3人は皆さんが落ち着くのをしばし待ち、疲れたのを見計らって長谷川さんが誘導し、入口すぐのカフェで小休止することにした。

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