第159話



数日後


「ここがいいと思うの」


「やっぱり!! ここ……いいよね」


「部屋は洋風と和風どちらが良いかしらね?」


完成した転位門はひと1人が通れるくらいの大きさで相良さんがネーアの街まで運び灯里と相良さんの家に設置された。


あれを読みきり改良にこぎつけたマッヘンさんは凄いと思う。 私なんかはどこに何が書かれているのかさっぱり分からなかった。


灯里を呼んだ理由は私が寂しくなったからだ。 一人で豪華な部屋に泊まってもつまんない、と言うか王族の向けの宿泊プランを考えるに当たって男性陣が皆我関せずで、どれもこれも良さげに見えて他の人の意見が欲しくなり灯里に頼んで来てもらった。

そしたらなんと春子さんまで協力してくれることになった。 快く送り出してくれたオーフェンさんに感謝。 オーフェンさんは今回は遠慮しますと辞退されてしまった。


ちなみに、私が直接ネーアに行って灯里に頼もうとしたら長谷川さんに止められた。

それで転位門でこちらに来た灯里と何やら話をして灯里からあっちの用事は私が済ませようか? と提案された。

私が直接灯里を誘おうとしただけだから今のところネーアの街に用事はないよ? と返すと灯里も小首を傾げた。

なんか会話が噛み合ってない気がしたがその直後に相良さんの店に設置された転位門から春子さんがやって来たのでうやむやになった。


幌馬車のリビングでテーブルにタブレットとを出しスクショを見せる。

ついでにあちらで購入した宿泊情報雑誌も散らばっている。


こうして皆で旅行プランを考えるのは楽しい。


そうやって話していると長谷川さんが自室に走って行き、しばらくしてこちらに戻ってきた。


騒がしいな。


「決まった」


「決まった?」


何が?


「あちらに行く人選が済んだんだ。 ベルゲマン公爵夫妻だ」


「ベルゲマン公爵夫妻? 王族の誰かじゃなくて?」


……あれ? てっきり王様を案内するんだとばかり思ってたけど違うのか。


「公爵って……爵位で一番上だよね? 確か……」


灯里もよく分かってないみたい。 仲間だね!

そう思って灯里を見たらその隣の春子さんの表情が険しくなっていることに気づいた。


「……ベルゲマン公爵ってまさかローレンツ=ベルゲマン?!」


「そうです」


「春子さん知ってるんですか?」


こんなに取り乱している春子さんは珍しい。


「知ってるも何も……っ!! 前国王じゃない」


「「ええっ!?」」


ひえっ。 なんかどっかがキュって締まった気がした。


灯里と二人で驚いた。


「前国王って? 公爵じゃ……?」


恐る恐る春子さんに質問する。

私たちが理解してないことに気づいた春子さんが説明してくれる。


「灯里さんがこっちに来る前あたりかしら? 今の国王に生前譲位して退位されたのよ。 それで身分が公爵になったの」


「じゃあ結構年配の方なんですか?」


「そうね、確か……60代じゃなかったかしら? そうだ長谷川さん、日時と出迎える場所と人数は決まったのかしら」


「日時と場所は分かりますが人数もですか?」


「そうよ。 従者分も必要になるかもしれないでしょ。 日本には従者なんて居ないし従者用の控えの間なんてのも部屋についてないわ。行く前に色々と説明も必要よ」


温泉も貸切じゃないし旅館自体も貸切じゃないもんね。 それに人数が多くなればなるほど案内が大変になっちゃう。


「出来れば従者だけでも事前にあちらに慣らしたいわね……。 案内は誰がするの? 桜さんの他にこちらの住人誰か行くんでしょう? 」


貴族対応なんて無理!! 断れないなら……せめて……せめて練習だけでもさせて!!

そんな思いで長谷川さんを見る。


「領主夫妻が出ます」


あっさりと救いの手が差し出された。


……いや、救いなのか? 案内する貴族が増えちゃってるんだけど。 むしろ針のむしろじゃないか? こっちのお偉方相手に日本をプレゼン? 一人で? え? 何その罰ゲーム。


……って……え。 あちらの世界を領主夫妻が公爵夫妻に説明するの?


「日時は約1ヶ月後、領主邸で待ち合わせをするそうです。 人数に関して最小限の人数に留めるとは言っているそうですがまだ未定」


領主と王との間で話が済んじゃってるのね。 あれ? おかしいな、私の都合聞かれてないんだけど。 ……まぁ、暇だけど。 でも私蚊帳の外?


「ならまずは候補を決めて領主へ提案をしましょう。 それから夫妻に学んでもらいましょう」


なんだか大事になって不安になって来た。


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