第141話
「酒といえば……次は商業ギルドか……」
思い出されるのは商業ギルドからの報告書。
基本的に商業ギルドが行うことはこちらからは報告を受け取るだけだ。 特に今のギルド長になってからは査察をしても問題は見受けられないので差し止めはしない。
にしても今まで渡り人に対し一定の距離を置いていたオーフェンがなぜ。
この国にとってこのネーアの街は特殊な場所だ。
この街というか森が。
年に数回やって来る渡り人のほとんどが何故かこの森に出現する。
この国の者にとって渡り人は注視すべきものだ。
特に貴族にとっては。
この国の物にはない固有の魔法、見たこともない持ち物。
それを自分の手に入れたことを自慢の種にしている者が階級が下になればなるほど多くなる。
高位貴族は過去の渡り人の事件を詳しく教え危険性と有用性、取り扱い……接し方について学ぶ。
下位貴族は人数も多く、成り上がった者、新興貴族も大勢居る。 平民から貴族に上がる故に学がなく渡り人の危険性を知らずに珍しい物に目が眩む者が多い。
故に傲慢で無体な行動を起こしがちだ。
そんな下位貴族と渡り人の諍いは大抵渡り人の魔力暴走というそこに住む者を巻き込んで終結することが多い。
欲深い者がここを統治すれば、金のなる木の渡り人はそれこそ来たそばから捕らえられ、欲しがる貴族に売り渡されるだろう。
売られた渡り人は権力闘争の道具に使われ、戦いの道具にされ使い終わったら捨てられる。
そうして渡り人の怨みを買い滅びた国が歴史にはある。
それを学んだからこそ、ここを統治する者は渡り人の扱いには慎重になる。
歴史から学んだ渡り人の取り扱いは、必要以上に干渉せず自由にさせること。
客人として来て時期が来たら帰る。
稀に素行が悪く危険な者が来れば秘密裏に処理する。 稀に化け物がいるが。
自ら渡り人に関わりに行ったりはしない。 そう代々伝えられて来たしそうするつもりだ。
そしてこの地は王名により任じられた。 だからいくらこの地が欲しかろうと簡単に手にすることはできない。
代わりにそう言ったものの矛先になる代表が商業ギルドだ。
いち早く異世界の物が持ち込まれるのが商業ギルドだからだ。
貴族の手先になりこの地のギルドマスターに就きたい者は多い。
手先ではなくとも物珍しい物が持ち込まれ、それが高値で売れる。
欲深い者ほどここのギルドマスターの地位が美味しく見えるはずだ。
そんな者達に狙われるオーフェンの立場は危うい。
だが、オーフェンは狙う者達が多いのを逆手に取り、渡り人とは線を引き、ここに集められた異世界の物を王都に送ることで他の者がなるよりは……と言う心理を上手く使い数十年という長い間ここに君臨している。
渡り人に対する姿勢は我が家と通ずる部分もあり好ましく思っていた。
そんなオーフェンとは時候の挨拶はすれど互いに干渉しない。 そんな関わりを続けて来た。
だが、ここに来て橋沼桜に入れ込み始めた。
……話を聞くか。
一人で考えても限度があるかと考えることをやめた。
「お前は監視の者に指示を出して来てくれ。 代わりにイネスを寄越せ」
「分かった」
ソファーから立ち上がりドアの方へ行く長谷川がふと立ち止まりこちらの方を向いた。
「そういや感想聞いてなかったな。 ……あっちの世界はどうだった?」
あちらの世界の事と聞き思い出されるのは先ほどの景色。
外との隔たりを感じさせないガラス、光の海に立つ美しい景色。
美味い食事に心地の良い音楽。
「長谷川」
「なんだ?」
ニヤニヤ気持ちの悪い顔をしている長谷川に疑問をぶつける。
「あれが……あちらの王都なのか?」
「いや? あれは……うん。 地方都市だぞ」
思っていた事と違うことを聞かれたらしく小首を傾げる。
アイテムボックスからカタログギフトを取り出しペラペラページをめくり先ほどの飲食店のページを見せてくる。 いや読めん。
「地方都市?」
「何ていうか……こっちで言うここみたいな場所だ」
地方都市? この街と同じ? アレで?
……アレで?!
「冗談……ではないんだな」
凄まじいな。
「んで、どうだった?」
「……素晴らしい、素晴らしいが王都はアレよりも凄いのか……とんでもないな」
「だろ!!」
私の感想に満足したらしく、長谷川は珍しく鼻歌交じりに部屋の外に出て行った。
しばらくしてイネスが来たらしくドアをノックする音が聞こえた。
入室を許可すると
「失礼致します。 ……お疲れですね、メイドにお茶を用意させましょうか?」
「いやいい、それよりも王へ緊急で報告事項ができた。 通信の魔道具を使用するから準備を頼む。 それと商業ギルドのギルドマスターへここに来るよう連絡をいれてくれ」
「かしこまりました」
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