第七二話 次元拘束(ディメンションロック)
「では、行こうか……」
エツィオは左の掌に
「先生、死なないでくださいよ……あとで私の言うこと聞いてもらうんですから」
私は彼に一言かけるが、エツィオはその言葉にニコリと笑って無造作なくらいの所作で
「美しい女性に頼られたら……頑張るしかないね!」
エツィオの姿を見た
「ああ、まほうつかい……おとこをころすのつまらない、おんなだせ」
「
エツィオは光線を防御結界を前面展開させて防ぐ、光線は結界に阻まれてそれ以上彼の体に到達することができない。その様子を見て
「あああああっ! おとこはいらない! おんないたぶる!」
「ゲス野郎だな……お前は」
エツィオは片手で
効果を発揮しない魔法を見て、
それまで私は
じっと待つ……前世でも仲間を信じて最高のタイミングで飛び出せる瞬間を図る、これは声や目の動きだけでなく作戦をきちんと理解してその瞬間を押しはかる……これができないと世界を救うなんてことはできなかったのだ。
そして私はきちんと待った、少し信頼感は薄いがエツィオと言う魔法使いがきちんと役目を果たしてくれるその瞬間まで……。
エツィオが絶え間なく
「ミカガミ流……
「!? おんな! ぐぎゃっ!」
まさに超高速で
先ほどと違い確実に
「……エツィオさん! 止めを!」
私の声に反応したエツィオが両手を前に突き出す……その手の中に巨大な炎の球体が生み出されていく。こ、これは……悠人さんなんかよりもはるかに強力な炎を生み出せるのか。
「くらえ!
急いでその場を離れた私の眼前にエツィオが放った爆炎が空間ごと焼き尽くす……
「な、なんて威力なの……」
この光景は前世でよく見せられた……
魔法の炎が収まると、瓦礫なども真っ黒に変色し柱の中に入っていた鉄筋なども高熱でぐにゃぐにゃにねじれてしまっている。
その中心に、黒く炭化した物体が落ちているが……形を維持することも難しいようで、すぐにボロボロと崩れ落ちていく。
どうやら
「敵は倒せたようですよ……エツィオさん?」
エツィオに声をかけると、彼は私の顔を訝しげるような表情でじっと見ていたが、すぐにふっ……と息を吐くと突然手を横に振る。
その動作と同時に、私はいきなり浮遊感に包まれ……あたりが一気に真っ暗な空間へと変化していく。これは
「な、何を!」
「これで君と二人きりで話すことができる……
エツィオはゆっくりと私へと近づいてくる……私は必死にインカムのボタンを押して叫ぶ。だが、インカムにはザーッと言う砂嵐のようなノイズが入るだけで反応がない。
「……ちょっと! 誰か助けて! なんで聞こえないの!」
エツィオは慌てる私を尻目に、目の前に立つ……その目はあくまでも冷たい。私はその場にへたり込みながらも必死に後退りしながら必死に逃げようとするが、一向に距離が開くことはない。
怖い……怖い! 魔法が使えない私はこの空間から出るには彼に空間を解除してもらう必要があるのだが、どうしたら彼は解除してくれるのだ? もしかして……私襲われてしまうんじゃ……と言う女性として絶対に避けなきゃいけない結果を想像して血の気が引く。
エツィオは私の視線に高さを合わせるようにしゃがむと、私の目を見つめたまま無表情で口を開く。
「君の……ミカガミ流を見せてもらった、あれは
「そ、それがなんですか? それ以上近づかないでください!」
私は背中に刺していた
エツィオは怯える私を見つめたまま、
「あれは
「え、えっと……その……」
……
つまり、あの技を繰り出せている時点で私はミカガミ流剣士としては最上級の存在に近いと宣伝して回っているようなものなのだった。
「答えろアカリ アライ……女子高生のふりをしているお前は一体
エツィオが私に顔をグイッと近づける……ふと彼の目を見ると、敵意というものは感じられない、少しだけ複雑な感情を込めた何か、が感じられる。
私は目を逸らして……どうしようか迷う。この世界の人に前世のことを話す? いやいや幾ら何でもそれは私が頭のおかしい人間としか思われないだろう。
だから話せない……幾ら何でもそれは無理だ。
「な、何者でも……ないです……私はただの女子高生で……」
「……チッ……、わかった。なら僕の話をしよう」
エツィオはかなりイラついたように、頭をガリガリと掻くと私の目の前にどかりと腰を下ろす。あれ? 暴行されるかと思ってた私は拍子抜けして……まだ恐怖感を感じて震えていた体をさすりながら相手の出方を待つ。
「エツィオさんの話ですか?」
「そうだ……ここなら他の人間がいない。なら話して結果が異なったとしても無理矢理君の記憶を消してしまえばいいだけだ」
それはそれで何する気なんだよ! とは思うけど……私は少しだけ目の前の男性に興味を抱いて、思わず正座をしてしまう。
「……現金だな、君は。ったく……」
呆れたようなエツィオの目を感じながらも、私は続きを話すように促す。
「本来
エツィオは私を見ずに、何か苦しい言い訳をする子供のような不貞腐れ方で口を開いていく……女性にしか伝播しない能力なんて前世では聞いたことがないが、実際に起きている以上この世界ではそれがアリなのだろう。
その次に彼が口に出した言葉に私は正直……本気で驚いた。
「で、なぜ僕に受け継がれたかだが、僕は魂が女性なんだ」
「……へ?」
思わずめちゃくちゃ間抜けな顔で聞き返す私……その顔を見て、プルプルと震えながらエツィオは完全に顔を真っ赤にして……だから言いたくなかったんだ、とも言いたげな顔でもう一度吐き捨てるように口を開く。
「だから……私は体は男性だけど、女性の魂が宿ってるの! だから言いたくなかったのよ……」
エツィオの声でとても女性らしい喋り方をされた私は……ポカンとして口を開けている。
えーと、この人は私と逆? ってことかな? 非常にイケメンなのに、女子高生に囲まれても普通にしているあの姿を見て、何か変だなとは思ってたが……女性の魂が宿っていると……。
ほーほー……するって〜と
「私はそれまでもちゃんと魔法を使えてた……その時は男性としての意識しかなかった。でもある日私は事故で死にかけたのよ……その時に
エツィオは憎々しげに手を見つめて……ため息をつく、その仕草は男性的だったがおそらく彼が二〇年以上男性として生きてきたその証に近いことなのかもしれない。
「それまで散々女性を口説いて、抱いてきた私が……魂が女性だったなんてわかった日にはどうなると思う? 人生観なんて完全に変わるわ。もうほんと死にたい……」
そこまで話すと再び私の顔に自分の顔を近づけて……頬を膨らませて、私に指を突きつける。あら、エツィオ姉さんちょっとお怒りですね。
「さあ、話しなさい。あなたは何者なの?」
「わ、私は……その、エツィオさんとは逆です……」
そこまで話してくれたエツィオに嘘をつく気にはなれずに、私も素直に魂の性別を話すことにする……ああ、穴があったら隠れたい……私は顔を赤くしながらもなんとか言葉を口にする。
この世界に生まれて、この話をするのは初めてだ……だから、私は本当に次の言葉を口にするのに勇気を必要とした。
「私は女性ですが、男性の記憶や能力があります……だから、私も同じなんです……」
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