第五四話 恐怖の夜(テラーナイト) 〇八
「では僕は新居さんを手伝いに行きます。ホテルに敵を寄せ付けないようにお願いします」
ホテルの前に……巨大な
銀毛が月明かりに照らされて、美しく輝く。
その時インカムに緊急通信が割り込んでくる。声は開発部門の長を務めている台東のものだった。
「こちら司令部、
その言葉に三人の顔に緊張が走る……既に新居 灯が倒された可能性もあるが、
「僕が行きます、大丈夫……彼女は強い。そう簡単に倒されないはずです」
いうが早いか、狛江はすぐにホテル内へと走り出す……
「頼んだぞ! 新居を助けてやってくれ!」
「わ、私は戦闘員ではないのですが……」
青山は震えながら江戸川に怯えたような表情を見せる。そんな青山の表情を見て頷く江戸川は、護身用の拳銃を青山に渡す。
「安心しろ……ここからが俺の見せ場だ。隠れているんだ」
江戸川はヘリコプターの中から、取っておきの火器……最新式の
「さて……久々の戦場だな……武器も弾丸も豊富にあるから、内戦に参加した時よりは状況はマシだな……」
江戸川は有効射程内へと侵入した
視認されていないのに頭を撃ち抜かれて倒れていく仲間を見て、
「さあ、ここは通さねえぞ!」
「う……あ……」
私は今地面に這いつくばって苦しんでいる……魔法で作られた
体のあちこちが焼けるように痛い……衝撃波で痛んだ部分が軋むような鈍い痛みを伝えてくる……これは骨にヒビとかも入っているかもしれない。
弛緩した口の端から、軽く涎が垂れていてとても気持ち悪い……失禁しなかっただけマシなのかもだけど。動こうとしても筋肉が硬直と痙攣を繰り返していて反応すらしていない。
「あぐぁっ……や、やめて……」
哀願するような絞り出した呻き声に、アマラ・グランディは満足そうに微笑むと、私を踏みつける脚に力を込める。
「随分頑丈なのね……普通の人間なら丸焦げになってもおかしくないのに……」
アマラは少しそこまで呟いて疑問を感じた。
どうして目の前の女は死なないのか? 恐ろしくタフ……いや違う、新居 灯という少女は魔法に対する抵抗力を有している?
『こいつは一体なんなのだ……?』
この世界の人間は、魔法に対する抵抗力を持っていない。それは魔法使いであるアマラですら同様で、彼女は幼い頃から
普通の……しかも見た目はたった一六〜一七歳の少女がそんな訓練をしているとは思えない……目の前の、今倒れている女子高生剣士は何者なのか? アマラの背筋がゾッと凍ったような感覚に襲われて、後退する。
「あなた……一体何者なの……?」
「わ……わた……」
くそっ……口が動かない……でも手足になんとか感覚が蘇ってきて少しずつ力が入るようになってきた。ここまでで気がついた、というより思い出したことがある。
ノエルの魂は、これと同じ
目の前の
しかし……私はまだかろうじて生きている……つまり、私というよりノエルの魂が有する
前世でノエルは仲間の魔法使いエリーゼ・ストローヴにお仕置きと称して、さんざん魔法を浴びせられてきた記憶があり、その時の体験が今の魔法抵抗力を作り出しているのかもしれない。
そう考えると、エリーゼの
──目の前の魔法使いはそこまでじゃない。
「ああ……ま、まだわ、たしは……」
その事実が私の心に強い勇気を巻き起こす……賢明に、生まれたての子鹿のように私は四肢を震わせながらなんとか立ちあがろうとする。その姿に恐怖感を抱いたのか、アマラが後ずさって距離を取ろうとする。
「な、なんなのよ……あんたは……一体なんなのよぉ!」
ゆっくりと私は日本刀の切っ先を
「私は……この世界を守るために……やってきた剣聖の魂を継ぐ者……新居 灯だ!」
全力で私は床を蹴り飛ばし……怯んだままの
「くっ……!」
日本刀が
「あああああああっ!」
私は防御結界の上からお構いなしに
絶対の自信を持っていたはずの防御結界が崩壊していく様を見て、アマラの顔が恐怖に歪む。
「ち……力押しだと……」
「物理攻撃を防ぐ結界……でも完全じゃないわね」
防御結界を失ったアマラに追撃を入れられれば……だがしかし私は体を支えきれずに体勢を崩して地面へと膝をつく……身体中の力が一瞬で抜けたような凄まじい倦怠感を感じて、膝をつき日本刀を支えにして何とか目の前の敵を見据えて震える足に力を込めるが……まるで自分の体ではないかのように前へと歩くことができない。
「うぎゃあっ!」
回転しながら凄まじい速度で飛んでいく
頭を狙ったつもりだったが、うまくコントロールできなかったのだろう、とはいえ当たっただけでも儲け物、と考えるべきだろう。
「き、貴様……」
「はっ……ざまぁ無いですね……」
私は荒い息を吐きながら、ニヤリと笑う。しかし困った、私の足は再び生まれたての子鹿のように震えていて、膝をついて動けなくなっている。ここから再び距離を詰めるには少しだけ体力の回復が必要になる。
私が動けない、と判断したのか憤怒の表情を浮かべていた
その音に反応したかのように、彼女の左右へと火炎が巻き起こる。これは……召喚魔術か?
火炎が次第に蜥蜴のような姿へと収束していく……蜥蜴と言っても、大きさとしてはこの世界で言うところのコモドオオトカゲくらいの大きさはあるだろうか?
「
これはまずい……
「よくご存知ね……今のあなたの身体で、この攻撃が避けられるかしら? やりなさい」
その命令に呼応して、二体の
「や……やられる……ここまでなんて……」
家族にもミカちゃんにも最後……会いたかった……、先輩の顔もう一度見たかったな……。
私が覚悟を決めて、目を閉じようとしたその時……私とアマラの中間、ちょうど火球が飛来するその軌道上に銀色の毛を輝かせた何かが割って入る。
「アマラァーーーーーーッ!」
火球を難なくその鋭い両手の爪で弾き飛ばしたその
弾き飛ばされた火球がホテルの壁に当たって爆発を起こす……熱波と衝撃でホテルが軽く揺れるが、微動だにしない目の前の
「し……志狼さん……東京へ……ここへ来てくれたんですね……」
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