ハンターギルド、もしくはみんなの平和を守る会
「わたしは疾風のリーゼ。この街の平和はわたしがまもーる!」
狼の頭が描かれた看板が掲げられた建物に入ると、小さな少女が芝居がかったセリフと共に特撮ヒーローのようにポーズを決めてぼくらを出迎えた。
「で、ここはまあ、みんなの平和を守る会みたいな感じかな」
テトはまるでポーズを取った女の子のことなど目に入っていないかのように何事もなく話し始めた。
「そんなほんわかした名前じゃない、ハンターギルドだハンターギルド。魔物を狩る誇り高き職業なんだぞ」
ハンター、つまり狩人ということか。
「この世界、魔物とかいるのか?」
「そりゃあいるけど」
「その、どんな感じなんだ?」
「……百聞は一見にしかずって言うしね、ここで暮らしてれば今に見ることもあるだろうから、その時になれば嫌でもわかるさ」
と、テトは具体的な描写ははぐらかした。というか今に見ることもあるって……魔物って町中に出たりするもんなんだろうか。それとも俺がこれから近いうちに街の外に放り出されると遠回しに言いたいのだろうか。どちらにしても恐ろしいったらない。
「おい、おまえらわたしを無視するな!」
ほんの少し放置されただけで少女はバタバタと両手両足を振り回し始めた。
「なあ、なんか怒ってるけどいいのかよ。知り合いなんだろ? あのちっちゃい子」
「ちっちゃいって言うな、殺すぞ!」
なんとも気性の荒い子供である。
「彼女はまあ、義理の妹みたいなもんかな」
そう言ってテトはため息をついた。義理の妹……? と俺は二人を見比べて首をかしげる。少女は、見たところ歳はハンスと同じくらいか少し下かくらいに見える。笑った時に口から覗く八重歯が幼さを余計に助長していた。
「ん?そういえばお前見覚えないやつだな。よそ者か? なあ、おまえもハンターにならないか?」
少女はフッと不敵に笑い、こちらに手のひらを伸ばす。
「彼、うちの食事もままならないんだ。ハンターなんて到底無理だよ。それよりドルボルを呼んできてくれ」
「なんだそうなのか。ま、頑張れよ。生きてりゃなんかいいことあるさ」
少女は気の毒そうに僕を見上げ、励ますよにぽんぽんと俺の腰のあたりを軽く叩く。
「いざという時は私が苦しまないようにサクッと殺してやるって」
そう言って俺の首へと手を伸ばし、喉を掻っ切るように手刀で空を切った。
少女は「おとーちゃん。なんかテトがよそ者連れてきたー!」と大声を出しながら部屋の奥へと小走りで消えていった。
……なんだっていうんだ一体。俺は触れられてもいない首をさすった。
「なんか、殺人予告されたんだけど」
「心配しなくてもあいつにはまだ無理だよ。子供のくせして見栄張ってるのさ」
いや、俺は別に実行可能かどうかを心配しているわけではなく、どちらかというとあんな小さな子が人に向かって平然と「お前を殺す」と宣言したことについて心配しているわけだけど。
「おおテト!調子はどうだ、ちったあでっかくなったか?」
奥からスキンヘッドの巨漢が現れた。その身体は服越しでも分かるくらいにムッキムキだった。足を進めるたびにドスンドスンと地面が揺れる。
「こんな短期間ででかくなるわけないだろ。少しお願いがあってね。こっちの彼、色々あって孤児院で預かることになったんだ。か弱くて血の気の多いやつに斬りかかられたらとてもじゃないけど自衛もできやしない。そういう奴らにぼくの身内だってことをしっかり言い聞かせておいてくれると助かるかな」
「よしわかった。俺の方でしっかり広めといてやる。で、おめぇ名前なんてんだ?」
「あ、マサトですけど」
「おうマサト!俺はこのハンターギルドの長をやってるドルボルだ。おめぇも色々大変だとは思うけど頑張れよ」
「ガハハハハ」と豪快に笑って俺の肩を叩いた。その瞬間、バカみたいな衝撃が走った。
「~~ッ!」
痛ってえええええええええ!
「おお悪い悪い、痛かったか?」
「だから言ったじゃないか。か弱いって」
「いや、まさかこれほどとはなぁ」
肩の骨が粉々に砕け散ったんじゃないかってほどの激しい痛みに悶絶している俺の姿を見て、その原因であるドルボルさんは悪びれもせずにガハハと笑った。
「男のくせに情けないやつだなーおまえ」
少女はうずくまる俺を見下し、足先でちょいちょいと小突いた。どうやら彼女の中で俺は完全に格下に認定されたようだった。肩をさすりながら、俺たちはハンターギルトを後にした。
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