第295話 アースドラゴン討伐を終えて
アースドラゴンとの戦いが終わって、翌日。
私が倒したアースドラゴンの甲羅が置かれたイルク村の広場は、いつになく賑やかな宴の会場となっていた。
何度か甲羅を殴りはしたものの、前回と違い甲羅を割ることなく倒す事ができていて……洞人族達が上手く解体してくれたのもあって甲羅は綺麗に形を保っていて……討伐を記念するモニュメントのような扱いになっている甲羅の周りには、無事にアースドラゴンを討伐できたことを、黒ギーの串焼きや酒の入ったコップ片手に祝う皆の姿があり……甲羅に触れたり寄りかかったりとそれぞれの方法で、無事に討伐出来たことを喜んでいる。
そんな甲羅の上には誇らしげな表情で甲羅の頂点に優雅に立つフラニアの姿があり……他の六つ子達も負けじと甲羅を駆け登っている。
「ミァーン」
私が一番。
とでも言いたげなフラニアの一声を受けて、負けるもんかと必死の形相となるフラン達の様子を広場の隅の方で眺めていると、両手に酒の入ったコップを持ったナルバントが、のっしのっしとやってきて声をかけてくる。
「関所の方のアースドラゴンを穴から引っ張りだせるのは、明日になりそうじゃのう。
深く大きな穴に落としてその上に岩石まで落としてくれて……まぁ、楽に倒せた分だけ片付けは大変ってことなんじゃろうのう。
そういう訳でこっちのはしばらくはこうして飾っておいて……手を付けるのは向こうが片付いてからになりそうじゃ。
これだけ大きいのが二匹分ともなれば、売るにしても使うにしても結構なもんになる訳じゃが……ディアス坊は使い道をどうするのか、考えておるのかのう?」
そう言ってナルバントは右手に持ったコップの酒を一息に飲み干し……それだけでは足りなかったのかもう一つのコップの酒も飲み干してしまう。
すると気を利かせたらしい犬人族が数人がかりで酒樽をこっちへと持ってきてくれて……それを受けて子供のように目を輝かせるナルバントのことを何とも言えない気分で見やりながら言葉を返す。
「魔石は一つを王様に送って一つを魔石炉に使って、腱とかは弓に使うそうだからアルナーや鬼人族に譲って……甲羅なんかは売るよりも防具にしてしまったほうが良いかもなぁ。
これからジョー達には西側関所を守ってもらうことになる訳だし……クラウスのように良い防具を使ってもらいたいところだな」
「ふぅむ……オラ共としちゃぁ魔石炉分をもらえた上、アースドラゴンの防具を作るなんていう面白い仕事を任せてもらえるなら文句も無いがのう……素材を売って金貨なんかを手に入れなくて良いのかのう?
この宴の酒やら飯やら……結構な金がかかったんじゃろうし、そこら辺の財布事情は問題無いのかのう?」
「ゴルディア達が言うには、稼ぐつもりならむしろ今は売らない方が良いらしい。
隣領でも獣人国でも、他の地域でもアースドラゴンが出たとなって、そこら中に素材が溢れている状態で売っても、大した金にはならないとかなんとか……。
稼ぐつもりなら売るよりも使って、その性能の高さを周囲に見せつけて……程々に品薄になった頃に売る方が良いらしい。
今回の宴の酒とか食料とか結構な品を仕入れてもらいはしたが、それでもまだ少しの余裕があるそうだから……とりあえず夏過ぎまでは金に困ることはないそうだ」
「なるほどのう……本職の商人達がそう言うなら、それが良いんだろうのう。
夏頃になったらまた色々考えなきゃならんようじゃが……まぁ、坊達ならなんとでもするんだろうのう」
「まぁ、いざとなれば狩りでもなんでも、やれることをして稼ぐとするさ。
それよりも私は、関所作りに防具作りに……ナルバント達の仕事量の方が気になるんだが……問題は無さそうか?」
私がそう問いかけるとナルバントは「問題無い無い!」と笑いながらそう言って……コップを構えた両手でもって酒樽の蓋を殴り、割ると同時に中身……質の良さそうなワインをコップですくいあげ、ごくごくと喉を鳴らしながら飲み始める。
右手のコップのワインを飲む間に、左手のコップでワインをすくい、左手のコップのワインを飲む間に……と、なんとも無茶な飲み方をしてみせて、一瞬注意しようかと迷うが……洞人族はその髭のおかげなのか、いくら飲んでも酒が毒になることは無いそうだし、まぁ、今日くらいは好きにさせてやるとしよう。
私達がそんな会話をしているうちに六つ子達は全員が甲羅の登頂に成功し、甲羅の頂点で押し合いながら一塊となって、メァメァミァミァと楽しそうに声を上げ……それを受けて宴を楽しんでいた皆は、さらなる盛り上がりを見せていく。
そうやって賑やかさが増ましていく広場へと、西側の方からやってきた馬車が入り込んできて……関所予定地に様々な物資を運んでくれていたゴルディア、アイサ、イーライの三人が姿を見せる。
馬車を止めてアイセター氏族に馬の世話を任せて、そうしてから三人で妙に真剣な顔をしながらこちらへとやってきて……ゴルディアが代表する形で声をかけてくる。
「おう、避難民達の方は落ち着いていて……ぼちぼち、今日明日辺りには帰り始めるそうだ。
ペイジン商会から礼の品というか、討伐にもう数日はかかると思って用意していたらしい、数日分の食料をもらうことになったから、それらはあっちの地下貯蔵庫の中に入れておくぞ。
正式な礼というか、手間賃っつーか……そこら辺の品はもう少ししたら届くそうだ。
……でまぁ、あれだ。
旧知の仲とはいえ、こんなにまで深く関わった以上は、俺達も領民になろうかと思うんだが、どうだ?
ギルドの方はここの領民として運営していきゃぁ良いし……これから隣国との商売までやるとなったら流石に他人事って訳にはいかねぇからなぁ。
俺もイーライもアイサも、今日からここの領民……追々、ギルドの他の連中もこっちに来ると思うから歓迎してやってくれや。
懐かしい顔が勢ぞろいってな感じになる訳だが、問題はねぇだろ?」
そう言ってゴルディアはその太い腕をずいと差し出してくる。
もう既に領民扱いをしていたというかなんというか……これまで散々この領のための、領民の皆のための仕事をしてもらっていた関係で今更という思いもあるが……しっかりとけじめを付けておくことも大事なんだろうと考えて、差し出された手をしっかりと握り返す。
するとゴルディアは不敵な笑みを浮かべて……後ろに控えていたアイサとイーライは素直な笑みを浮かべて、そしてアイサ達も手を差し出してきて、ゴルディアと私の手の上にその手を乗せてくる。
「今までも散々世話になってきたが、これからもよろしく頼むよ」
三人の目をしっかりと見やりながら私がそう言うと、三人は更に笑みを深くして……そしてワインを飲みながらそんな私達の様子を見守っていたナルバントが、
「めでたいめでたい! 良い記念じゃからお前達も飲め飲め!」
と、そう言って中身が半分程に減った酒樽をこちらへと持ってくる。
するとゴルディアは何を思ったのか、その酒樽を両手で抱えて持ち上げて……そのまま酒樽に口をつけて残る中身を、凄まじいとしか言えない勢いで飲み干してしまうのだった。
――――あとがき
お読み頂きありがとうございました。
次回はスーリオ達のその後や、他の戦場のその後、今回の件の影響などなどについてとなる予定です。
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