第269話 六つ子達の成長
エリー達の荷造りを手伝い、村の端まで見送り……そうしてエリー達は隣領へと向かっていった。
メンバーは、エリー、セキ、サク、アオイ、ジョー隊に武装したマスティ氏族が3人。
これだけいれば何があっても対応出来るだろうし……対応できないような大事に遭遇したとしても、マスティ氏族の鼻とジョーの判断力があればこちらまで逃げ帰ってくることが出来る……はずだ。
エリー達も武装をしていて腕には自信があるようだし……出来る限りのことはしたのだからと、この件に関してはこれ以上考えないようにして……イルク村に戻ろうかと振り返っていると、道から外れた奥の方からメーア達の声が聞こえてくる。
今日はここらで食事をしているのかな? と、そんな事を考えながらそちらへと足を向けると……何人かのシェップ氏族の見張りが立つ草原の中に散らばる白い毛玉達の姿が視界に入り込む。
フランシス一家とエゼルバルド一家、それと新参の18人のメーア達はそこら辺に適当に散らばって、草の上に座り込んでの日光浴をしていたり、草を食んでいたり……それと少しずつ成長をして、足腰がしっかりしてきた六つ子達への指導をしていたりする。
そんな中でフランシスはガシガシとその蹄でもって穴を掘って見せて、
「メァーンメァメァ、メァー」
と、そんな声でもって、深く入口の狭い穴を縄張りのあちこちにいくつか作っておいて、いざと言うときのための逃げ場にすると良い、というようなことを六つ子のフランクとフランツに教えているようだ。
「メァーン! メァ!!」
更にフランシスはそんな声を上げて、穴に尻側から入って、穴の入り口に角を向ける形で隠れ潜んで……もしそれでも狼などが襲ってくるなら穴を飛び出しての頭突きを決めてやれば良い! と、そんなことを言っているようだ。
メーア達の角はとても固く、鉄剣で切りつけた程度ではあっさりと弾かれてしまう程のもので……そんな角で頭突きをされたなら、狼なんかはひとたまりも無いことだろう。
頭突きそれ自体の威力も、何度か遊び半分訓練半分で食らったことがあるが、助走をつけた上での全力のものなら、しっかりと構えて受けた私でも思わずよろけてしまう程のもので……上手い具合に当たればたとえ相手がモンスターであっても倒せてしまうかもしれないなぁ。
「メァーメァメァ~」
別の一画ではフランソワがそんな声を上げて、六つ子のフラメアとフラニアにいざという時のための、毛の使い方を教えているようだ。
メーアの毛は食べれば食べる程伸びるもので……やろうと思えばその全身を覆い隠す程に伸ばすことも出来る。
そうなるとしっかりと噛み付いたとしても、狼程度の牙ではその分厚い毛を貫くことが出来ず、下手な鉄鎧よりも頑丈な防具になり得る……らしい。
「メァーメァメァ~、メァ~」
更にフランソワは、以前に毛に草や枯れ草などを絡ませて、草原に擬態する方法を教えたが……他にも泥や土を絡ませたりして、地面の中に潜ったり丸まったりしての地面や岩への擬態も可能だと語り、
「メァーンメァンメァ~ン」
そういった賢い毛の使い方も覚えておきなさいと、そんなことをこんこんと語り聞かせているようだ。
そしてエゼルバルドは……フランとフランカを引き連れてそこら中を駆け回っている。
逃げるにせよ頭突きをするにせよ、その基本となる足腰は大事で……そうやって二人を鍛えてあげているようだ。
更に駆け回りながら、
「メァ! メァメァ! メァー!」
と、勇ましく声を上げ……フランとフランカは「ミァ!」「ミァァ!」と続く。
エゼルバルド曰く、駆けるにしても頭突きをするにしてもコツ、のようなものがあるらしい。
足の動かし方や駆けやすい地面の見分け方、それと耳を上手く使っての追いかけてきている敵の位置や様子の確認の仕方など色々あるようで……駆け回りながらそれらについて教えたエゼルバルドは、更に、
「メァー!! メァン、メァー! メァメァーン、メァ!
メーァ、メァーメァメァー! メァ!」
と、力強い声を上げる。
それは……恐らくだが戦略、のようなものを語っていた……のだと思う。
私ではその全てを理解することは出来なかったが、頭突きをするなら一頭だけでやるのではなく連続でやるのが良いとか……群れ全体でやるのが良いとか、人間族や獣人族のように二足で歩く敵が相手なら、とにかく連続で頭突きをして、一度でも転ばせてしまえば後はこっちのものだ……と、そんなことを言っていたようだ。
……臆病なメーア達が野生でどう生きているのかと不思議に思ったこともあったのだが、なるほど……その角と足と賢さがあれば、それなりに戦えてしまうものなんだなぁ。
そんな大人達の教えを六つ子達は、素直に受け取り吸収し、懸命に学ぶか駆け回るかしていて……そんな光景を私は、少しの間、何も言わずに見続けてしまう。
以前から六つ子達はそうやって、大人達から習う形で様々な勉強というか研鑽を続けていた訳だが、最近はその体が大きくなってきたこともあってか、一段と熱心というか、真面目に学ぶようになっていて……六つ子達もいつまでも子供では無いのだなぁと、そんなことを思ってしまう。
メーアの子供は成長が早く、もう少しで大人とそう変わらない体格になるそうで……長男のフランの頭にはぷっくりと小さな角が生え始めてもいる。
いつまでも可愛い子供のままでいて欲しいという気持ちもあり、立派な大人となって元気に楽しく日々を生きて、いつか良い相手と結婚して欲しいという気持ちもあり……なんとも複雑な気分でそんな光景を眺めていると、エゼルバルドと一緒に周囲を駆け回っていた、フランが大きな声を張り上げる。
「ミ……メァー!!」
それは大人のメーアと変わらない、立派な声だった。
フランシスによく似ていて、いっぱいに想いが込められていて……ああ、もうすっかり大人なんだなぁと私と周囲のメーア達が、なんとも言えない気分で温かい視線を送っていると……どこからかセナイとアイハンの声が響いてくる。
「今のフランの声!?」
「りっぱなおとなのこえ!!」
その声はすぐ側と言って良いくらいに近場から響いてきていて、いや、近くにセナイ達の姿は無かったはずだぞと、私が視線を巡らせていると、座り込んで身を寄せ合って日光浴をしていたメーアの一団の……隙間というか、合間から二人の顔がひょこんと姿を見せる。
どうやら二人はそこに入り込むことで日光浴をしているメーアの毛の温かさと柔らかさを堪能していたようで……もうほとんど昼寝気分だったのだろう、眠そうな目を擦り寝癖で乱れた髪を揺らしながら立ち上がり、駆け回るフランの方へと駆けていく。
するとフランはセナイ達のためなのだろう、その場で立ち止まり、
「メァー! メァー!」
と、力強く声を上げて……そこにセナイ達が突っ込んで、両腕でがっしりとフランのことを抱きしめる。
そんなセナイ達に続く形でフランシスにフランソワ……フラン以外の六つ子達もやってきて……そうしてフランシス一家による、喜び……というか祝福の鳴き声を、
「メァー!」
「メア~!」
「ミァー!」
「ミァ!」
「ミーァー」
「ミァ~」
「ミァー……」
と、一斉に張り上げるのだった。
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