第268話 ギルド式の行商
皆からの報告を聞き終えたなら、軽い鍛錬をした後、イルク村をぐるりと回り……畑か厩舎などでの力仕事を手伝う。
それが終わったなら広場に戻って……広場で待っていると大体誰かが力を貸してくれと声をかけにくるので、体を休めながらそれを待っていると、エリーとセキ、サク、アオイの三人がやってくる。
エリー達は普段の格好ではなく、外套を羽織り、メーア布の帽子を被り、以前隣領に行った時のような余所行きの格好をしていて……私はまさかと驚きながら声をかける。
「どうした? そんな格好をして……まさかもう行商を再開させる気なのか?」
隣領での反乱騒ぎ……私達が行ける範囲の西部の鎮圧は終わったが、東部ではまだ戦いが続いているらしく、まだまだ平穏無事とは言い難い状況となっている。
状況は日々好転しつつあるそうだが、完全な解決にはまだまだ時間が必要で……そんな状況の中に金目の物を持って行商に行くというのは、素直に賛成することが出来ない。
と、そんなことを考えながらの私の言葉にエリーは笑みを浮かべながら言葉を返してくる。
「そのまさかよ。
お父様は今の隣領は危険だからと反対するつもりなんでしょうけど……私達ギルドの商人は、危険だからこそ商機があると考えるの。
危険だから流通が淀んでいる、流通が淀んでいるからお客様が飢えている、お客様が飢えているなんてこれ以上の商機は他に無い。
モンスター、盗賊、逃亡兵なんのその、危険地帯にあえて突き進み、そういった連中をなぎ倒しながら商売をしてきたからこそ、ギルドは今の地位を確立出来たのよ」
そう言ってエリーは外套の中から両腕を顕にし、ぐっと拳を構えて私に見せつけてくる。
それに続いてセキ、サク、アオイの三人も拳を……不思議な形をした鉄甲に覆われた拳を見せつけてきて、なんとも良い笑顔をこちらに向けてくる。
「ゴルディアさんはもちろん、アイサもイーライも、他の皆も拳なり武器なり魔法なりで、障害をなぎ倒して商機を掴んできた訳で……セキ達にもそこら辺のことを教える良い機会になるはずよ、専用の武器をナルバントさん達が仕上げてくれたしね。
それにほら、そろそろ岩塩をギルドに預けておかないとそれこそ商機を逃すことになっちゃうし……そういう訳で笑顔で送り出してくださると嬉しいのだけど」
更にエリーはそう言葉を続けてきて……私は改めてセキ達のことを見やってから、言葉を返す。
「危険だからこそ商機があるか……。
向こうの人達の助けにもなるなら、まぁ……そこまで頑なに反対はしないが……。
……とりあえずその、セキ達の武器とやらについて教えてくれないか?
いつの間にそんなものを作っていたんだ?」
「私も驚いちゃったけど、どうやらセキ達が来てからすぐに作り始めていたみたいよ。
セキ達には一応、体格にあった剣を持たせていたんだけど、獣人ならこういう武器の方が良いだろうって、サナトさんが頑張ってくれたみたい。
ぱっと見はただの鉄甲なんだけど、モンスター素材を使った面白い仕掛けがあって……三人とも、見せてあげてちょうだいな」
エリーがそう言うと、セキ達はにかっと笑い、見せつけてきていた鉄甲に力を込めるというか、拳をぐっと握り込むというか、そんな動作を見せる。
すると鉄甲の手の甲部分でガシャリと何かが動く音がし……三本の長い鉄爪がスッと生えて、その先端をキラリと輝かせる。
「魔力を込めるとそんな風に爪が飛び出る仕掛けになっていて、また魔力を込めると引っ込むそうよ。
三人には剣術、格闘術、その他もろもろ教え込んでいたのだけど、私の戦い方って所詮は人間族の戦い方でしかなくて、三人には合わなかったみたいなのよねぇ。
でもこの爪を軸とした三人の好きなように戦わせると、動きも判断も抜群で……三人がかりなら私が負けちゃうこともあるくらいで、その方が良いみたいなの。
これからも一応人間族の戦い方を教えるし、剣の方も持たせておくつもりだけど、この鉄甲の方も使わせることにしたの」
「えっへっへ、これがあればどんなモンスターだって倒せちゃいますよ」
「オレは自前の爪でもいけるんですけど、これなら割れたり折れたりを気にしなくて良いんで、百人力ですよ!」
「まー、セキもサクも体術じゃぁオレに劣るんですけどね!!」
エリーの言葉にセキ、サク、アオイの順でそう続いて、アオイの言葉が気に入らなかったのかセキとサクが鉄甲での突きを放つ……が、アオイはセキとサクの攻撃を鉄甲で上手く防ぎ、受け流す。
するとセキとサクはムキになって何度も何度も突きを放ち……そうして三人は駆け回って飛び回ってのじゃれ合いをし始める。
「まー……子供っぽさが抜けきってないとこに不安はあるけども、それでもまぁ、あんな風に軽快に、元気に動き回れる訳だし? そこらの盗賊に遅れを取ったりはしないでしょう。
それでもお父様が不安だって言うなら、ジョーさん達の何人かを護衛に付けてくれたら良いんじゃないかしら?」
軽快過ぎる程に軽快に……普通の人には真似出来ないじゃれ合い方を見せてくるセキ達のことを半目で見やりながらエリーがそう言ってきて……その言葉に頷いた私は、エリー達に少し待っていてくれと声をかけてから、村の南部……モントの指導の下、体力作りの一貫ということで畑作りをさせられているジョー達の下へと向かう。
そうして事情を話して、流石に全員は必要ないだろうと、ジョーの部隊に護衛を頼み……それから広場に戻ると、エリー達が早速とばかりに行商の準備に取り掛かっている光景が視界に入り込む。
馬車を用意し、メーア布や岩塩を積み込み……特に岩塩に関しては一生懸命に拾い集めたシェップ氏族が一生懸命に、嬉しそうに積み込み作業をしていて……それに続いてジョー達が旅装や旅具、食料なんかを自分達の鞄に詰め込んで準備をし始める。
「……今までは馬なんて数頭もいればそれで良いと思っていたのに、こうして人が増えると皆の分まで用意してやりたいなんてことを、思ってしまうんだなぁ」
その光景を見やりながら……遠方まで歩かせることになることを申し訳なく思いながらそんなことを言うと、ジョー達は何故だか満面の笑みとなり、エリー達もまた同じような表情になり……そうして力いっぱいの声を上げてくる。
「人数分どころか有り余るほどの馬が買えるように、これから稼いで見せるから……期待していてちょうだいな!」
「馬も白ギーもガチョウも、山盛り買える様にがんばります!」
「出来るだけ早く買い集めて、どんどん仔を産ませて、イルク村を家畜まみれにしてみせますよ!」
「そしたらオレ達が余った分を売りに行って、それでまた一儲けって訳ですね!」
エリーと、セキとサクとアオイのそんな声を受けて頷き、頭を一掻きした私は……せめて準備くらいは手伝うかと、倉庫に向かい必要なものを両手いっぱいに抱え込み、皆が待つ広場へと運んでいくのだった。
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