第265話 メーアバダル公助っ人行脚の結末


 敵の親玉を気絶させ、砦内を完全に制圧し……中庭なんかにあった物騒な罠を解除したり、敵兵を改めて、きつく拘束したりしていると、獅子人族の若者スーリオが率いる……100人程の部隊が砦へとやってきた。


「お久しぶりですディアス殿……我々がメラーンガルの防衛で手一杯な所に助力を頂けたこと、感謝に堪えません。

 ……ゲラントからの報告を受けたカマロッツ様の命令により罪人の身柄の受け取りにきました。

 罪人達の所有物に関しましては、装備も物資もディアス殿に所有権がありますので、ご自由になさってください」


 やってくるなりそんな挨拶をしてきて、私がそれにいやいや、物資はそちらに返すよと、そう言おうとすると……いつのまにか側へとやってきたゴルディアが私の横腹を肘で突いてきて、一瞬の仕草で『余計なことはしゃべるな』と、そう伝えてくる。


 それはまだまだ子供だった頃に、ゴルディア達と遊び半分で決めていた合図の一つで……それを持ち出してまで止めてくるということは何かあるのだろうと考えて私は、スーリオに軽い挨拶だけを返して口を閉じる。


 するとゴルディアは満足そうに頷いて、イーライを呼びつけてスーリオ達の案内を任せて……そうしてから私を砦内の、倉庫のようになっている一室へと引っ張っていき……扉をしっかりと閉めてから口を開く。


「周囲の村や町から収奪されたものだから返してやるってのも、それはそれで立派な考えだがな……お前がそれをやっちまうと、マーハティ公の面目が丸潰れじゃねぇか。

 お前が助けに来て、砦をあっという間に落として、その上物資を全て返しての無償の働きなんてされたら、最悪それが遠因となって次の反乱が起きちまうぞ。

 今回の件はマーハティ公に落ち度があるんだし、マーハティ公に損失の補填をさせるのが最良で……物資やら金貨やらはしっかり受け取って、今回頑張ったジョー達の報酬にすべきだろう。

 ……ジョー達もお前の戦友ならいらねぇって言うのかもしれねぇが、それがメーアバダルの常識、なんてことになっちまったら、ジョー達以外の……今後やってくるだろう領民達が気の毒になっちまうよ。

 今回の件で被害に遭った連中を助けたいってんなら、食料とか売り物にしてる名産品なんかを買ってやって、経済を回してやったほうが良いだろうな。

 何を買ったら良いのか分からねぇってんなら、俺やイーライ……いや、俺達ギルドに任せれば良い」


「ああ……分かったよ」


 ゴルディアの言っていることは全くの正論で、私がそう返すとゴルディアは満足そうに頷いてから、のっしのっしと歩き出し……そこらにいた仲間を捕まえて、一緒に物資の運び出しをし始める。


 それと同時にスーリオによる捕虜の連行が始まり……私は歩廊へと向かい、歩廊の上から運び出しと連行が問題無く進んでいるかの見張りを開始し……それからすぐにアイサがやってきて私の鎧にそっと触れる。


「エイマちゃんから話は聞いたよ、鎧への魔力補充は私に任せて。

 これからまたすぐに他の砦に向かうんだろうし、限界まで入れておくね。

 それとエイマちゃんの話の中でちょっと気になったことがあって……助言みたいなこと、させてもらいます」


 鎧に触れたままそう言ってアイサは私の戦い方についての助言……というか、こうした方が良いという授業みたいなことを始める。


「父さんったらせっかくの良い鎧なのに、前の鎧と同じ戦い方をしちゃってる。

 この鎧は前の量産品の鉄鎧とは全く違うしっかりとした作りの鎧で、その上不思議な力を持っていて……ここまでの力があるならもっとこう、良い戦い方があるはず……。

 戦いの最後の方とか所々、無意識でそうできてたみたいだけど……もっともっとしっかり意識して、恐れることなく怯むことなく、本当の意味での全力を込めての速攻とか強力な一撃とか色々出来ると思わない?

 そしてそれはきっと今まで以上の威力と衝撃で敵の戦意をくじくものになるはずだよ―――」



 それからアイサは、アイサなりの戦い方の工夫とか、作戦とか……自分なりに学んできたものを語り聞かせてくれる。


 それは参考になるものもあれば、ならないものもあるという、そんな内容ではあったのだが……それでも目が覚めるような思いがするもので、私は「なるほどなぁ」なんてことを言いながら、頷きながら話に聞き入る。


 そうこうしているうちに物資の運び出しと連行が終わり……スーリオが別れの挨拶をしてくる。


 カマロッツやスーリオはこれからもしばらくはメラーンガルの街の防衛に徹するらしい。


 仮に出撃し、どれかの砦に攻め込んだなら攻略自体は出来るのだろうが、攻略している間にメラーンガルの街が襲われ、被害が出てしまう。


 メラーンガルの街はマーハティ領の政治、経済の中心地で人口も多く、そうした被害を出す訳にはいかないんだそうで………そんなことを別れの挨拶ついでに語ったスーリオは……そうすることで私に他の砦を攻略して欲しいということを、言外に伝えてくる。


 私はそれに対し大きく頷き、任せておけと胸を叩き……スーリオを見送ったなら少しの休憩を取り、それからすぐに砦を後にし、他の砦があるという北へと向かうのだった。


 

 

 それから私達は移動と休憩を繰り返し……そのついでに村や町へと立ち寄り、砦の一つを落としたこと、他の砦や拠点もすぐに落とすこと、これからは何かがあれば私達が助けに駆けつけることを喧伝してまわった。


 そうやって皆を安心させると同時に敵を怯えさせ……士気が下がった所に、私が単騎で突っ込み城門を叩き壊すという戦い方を繰り返していった。


 最初の砦と同じように門を壊したなら中へと入り、アイサの助言を取り入れて防御にも回避にも意識をやらず、全力を込めての……あの亀の甲羅を殴った時のような、渾身の一撃を壁や柱、床なんかに放ち、それを敵に見せつけてから、制圧にかかる。


 私の一撃と、その際に舞い上がった砂埃や破片なんかが鎧の力に弾かれる光景を目にした敵兵は、そのほとんどが戦いもせず逃げもせず素直に降参してくれて……最初の砦の連中を殺さずに捕縛したというのも、その流れを加速させたようだ。


 砦を制圧したらゲラントにその旨を知らせにいってもらい、スーリオに来てもらって引き渡して……そうしたら次の砦か拠点へと向かい、同じことを繰り返す。


 そうして七日程で西側……メラーンガルの周囲の、私達が行ける範囲の砦全てを陥落させることが出来た。


 こちらの負傷者は無し、敵兵は重傷者が出たりはしたが死者は出さずに済んで……そして手に入った物資は山のように積み上がることになった。


 そのうちの使えそうな装備と金貨はジョー達に報酬として与えて、それ以外の物資は村や街に立ち寄る度に出来るだけ安く売り……売るだけでなく食料や酒、それとイルク村に来たばかりのジョー達のために家具や雑貨なんかを出来るだけ高く買ったりしたのだが……それでも結構な量が私達の手元に残ることになってしまった。


 それらに関してはもうしょうがないので、イルク村に持って帰れそうなものは持って帰ることにし、それ以外はゴルディアが作った組織、ギルドに預けて……投資という形で活用してもらうことになった。


 投資として使えばこの辺りの町や村にも良い影響があるんだそうで……それならばまぁ、被害にあった人々も納得してくれることだろう。


 物資をそこらの村や町で売買したことや投資に回したことに関して、モントはあまり良い顔をしなかったが……こういうことで大儲けしてしまうというのもどうかと思うし、大儲け出来るからと、また反乱でも起きないかなんてことを考えるようになってしまったら大問題だ。


 そんなことを望んで、そんな方法で稼いで、それで暮らしていくなど、無法に近い行いで……その度にイルク村を離れることになるというのも願い下げで……。


 ここまで稼げなくてもイルク村でガチョウや白ギー、メーア達の世話をしている方がマシで……いや、それこそが私が心から望む本来の在り方だ。


 そういう訳で私達は、エルダン達が戦っているという東側に向かうことはなく、それ以上この件に関わることはせずに、十分な手助けは出来ただろうというちょっとした達成感を抱きながら……来た時とは全く違う姿の、装備の揃った一団としてイルク村に帰還するのだった。

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