練習作

@yakumo_aska

三題噺(だったもの):トランポリン・雪・焼肉



「――――はい、はい……被害者は……4歳の男児が――――」


知らない。

私は知らない。

あんなやつ育てる気なんてないし。

私は悪くない。




跳ねる。

跳ねる。

落ちる。

落ちる。

跳ねる。


繰り返し、繰り返し、繰り返し。ループする。




「ねえ、今度焼肉連れてってあげるよ。良いとこなんだ」


うるさい。

私の邪魔をするな。興味ない。

食事なんかじゃ焼け付く熱情は感じられない。



「あ、見て。雪、降ってきた…綺麗だね」


綺麗なものか。

もっと軽やかに飛べなければ。

もっと鮮やかに飛べなければ。

誰も私を見てなどくれない。



――ねえ。

――ねえ。



黙れ。

今更。

何を。



『結婚してくれ』

え。

『バツイチでさ……子供もいるけど……それでも君がいいんだ。本気だよ』

――――嬉しかった。

『でさ、そうなったらそんなこと止めて俺と』

――――は?




ずっとずっと飛び続けてきたのだ。

幼いころから何千何万回も。あの柔らかくも力強い舞台の上で。

なぜそれを否定する?なぜ否定した上で私に愛を囁ける?

理解ができなかった。嫌悪さえ覚えた。

彼の息子にすら。







あの子が「跳んでみたい」と言ったらしい。

正直気にくわなかったけど、トランポリンに興味を持ってくれること自体は嬉しい。

仕方なくいつも練習している場所に案内し、用意してあげた。



そう。仕方なかったのだ。

夢中になって飛び跳ねているあの子から目を放し




――――グキッ




わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。

わたしはわるくない。








彼が何か叫んでいる。


おまえが――――見ていれば――――ひとでなし――――治療費――――


なんのことだろう?

考える理由もない気がする。


よし。今日も跳びに行こう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

練習作 @yakumo_aska

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る