152 その37 ~遠い地からの侵略 その25~

取り敢えず創ったゴーレム部隊の説明…

●人型サイズの甲冑姿のアイアンゴーレム50体は以降の呼称をその顔の特徴から「フェイスレス」とす

◎9体の下級兵と1体の隊長兵(角付き)を含む10体で小隊として運用

◎カラーリングはオフホワイト。複眼は緑色(保護板で遠目には白一色に見えるが)

◎小隊の構成として、4つの通常小隊と1つの指令中枢小隊の5小隊構成

◎指令中枢小隊は後に説明する大型ゴーレムと4小隊のフェイスレス小隊の司令塔となる

◎指令中枢小隊は下級兵8体に補佐1体、総隊長機1体となる

◎カラーリングはやや暗めのダークレッド。司令官だけ虹色の複眼(保護板で遠目には暗赤色に見えるが)となり、それ以外は通常の緑色となる

●大型サイズの見た目ロックゴーレムの10体は以降の呼称をその体の特徴から「ジャイアント」とす

◎一騎当千の各ジャイアントはフェイスレス指令中枢隊長機か補佐機の指令を受けて独自行動をとる

◎勿論、大規模戦闘時は同一ミッションを同時にこなす場合もある

◎難しいミッションはフェイスレス小隊が実行し、ジャイアント部隊はやることは簡素

◎「密集部の敵を蹴散らす」「固い敵を穿ち行動不能にする」「敵の殲滅」凡そはその3点となる

◎所謂、「力で敵を可能なだけ殲滅する」その1点だけがジャイアント部隊に託されることとなる

━━━━━━━━━━━━━━


- プレゼンの機会襲来…その時、バザーの人たちは -


警報アラート!…正体不明体アンノゥーン接近!…警報アラート!…正体不明体アンノゥーン接近!〉


「…」


一瞬無言になる、バザー側で用意された場…所謂、領主の館の中にある、広い食堂の一室だが…何故警告アラートが届いているかといえば、万一を考えて移動要塞「シディ」の声が届くようにと魔導具を設置する許可を貰っただけのことだ(食堂ではなく、領主の館全体に届くようにと、邪魔にならない地下室の中央部に当たる場所に設置させて貰っていた)


『正体は?』とシャーリーに訊くザック。


『ん~と…あ、この前と同じ集団だね。多分、ドラゴニア軍の後方部隊じゃないかな?』


全く同じではなく、似たような魔物構成の…という意味だろう。まさか蘇生して持ってこれる筈も無い…(蘇生して再利用できないようにと、死体も回収しておいたのだし…)


『成程…』


念話を終えたザックは、目前で


「この声は一体…!?」


とざわついていたダウザーたちに、ニコッ…と笑みを浮かべて報告する。


「どうやら…我がゴーレム防衛隊の実力をお見せする機会がやってきたみたいですよ?」


…と。



「実力…ね。まさかとは思うが…ドラゴニア軍と繋がっている…という可能性は?」


護衛たちに殺気が生まれ、武器に手を掛けてダウザーの背後に広がるが…それ以上に凶悪な殺気と魔力と圧倒的な圧がザックの背後に生まれ…護衛たちが怯む…というよりかは圧倒的過ぎる圧に萎む…アリトアラユルモノがっ!(流石にチビってはいないがw)


「わ、わかった…その、凶悪な君の恋人を抑えてはくれまいか?」


「え…恋人だなんて…」


後ろでイヤンイヤンとクネクネするレム。チョロ過ぎるんだが…と溜息を吐き、


「決してそのようなことはありませんよ?」


と、パチンと指を鳴らすとスクリーンが空中に生まれ…攻めてくるドラゴニア軍を映し出す。


「こ、これは…」


「遠見の魔導具かっ!?」


「このような物…まだ実用化されてない筈だが…」


と、ざわつきだすが、ダウザーの


「静まれ」


の一声で静かになる。聞こえて来るのはスクリーンが発する敵軍勢の鬨の声や走る音と地響きだけだ…


「…前よりは少し少ないのかな?」


「…何故わかる?」


「ほら…画面の右上を見て下さい」


そこには、種別の数が数字として並んでおり、最下行には合計の数字が記されていた。


「ゴブリン系が4000ちょい…その他雑兵が合計2000ちょい…中型が2500ちょい…地竜が3とワイバーンが10…前回は空飛ぶ魔物は居ませんでしたね」


「あぁ…噂では空竜…スカイドラゴンの養成施設が何者かに破壊されたと聞いたな…そのせいだろう」


『『『あ…成程』』』


そういえばそんなこともあったなぁと、念話でゴーレム娘たちとザックは納得するのだった(苦笑)



「そういえば国境に配備されたブラックドラゴン部隊もあったんですよね?」


「あぁ…だが、余り長期に離れる訳にもいかないし…第一、部隊の半数も墜とされることとなれば国境の護りが疎かになると判断したのだろう…流石に敵国に今攻め込まれた場合…」


そこで溜息を吐くバザー。そしてチラとスクリーンを見上げ…


「これは外壁との…我がバザーとの相対距離…か?」


指差した数字は、既に彼我の距離が10kmを割り込んでしまっている(表示している数字はkm単位とm単位の2種が表示されている。1kmを割り込めば、kmの方は非表示となる)←9km (9,989m)みたいな感じで表示されてると思いねぇっ!


「そうですね。殲滅するとなればそろそろ動き出した方がいいのですが…」


余り近過ぎれば、外壁を突破されて被害が出る可能性が高くなる。外壁の4隅には見張り台は建設したが、あくまで外敵を見張るだけで障壁を発生させる…なんて設備は無い。


この外壁には元々壁の防御力を高める魔方陣も彫られているのだが…古過ぎて一部機能していないことが判明している。壁の一部が欠落していたりして、魔方陣が欠けてしまっているのだ。立ち去る時にはサービスで補修再生修理してもいいかな…とは思っていたが。


(流石に後10数分じゃ無理過ぎるからなぁ…耐久値再生デュラビリティ・リペアーが如何に有能であっても…)


暫く黙っていたダウザーは…苦悶の表情でこう決断した。


「わ…わかった。防衛を…頼み申す」


と。その後ろに隠れていたファーサ第1婦人が、ダウザーのケツを抓っていたことは心に仕舞っておいた方がいいよな?…と思いつつ、


「承りました…ナル」


「はっ…」


そして動き出すゴーレム防衛隊。既に所定の位置にて静かに出番を待っていたフェイスレスとジャイアント。此処から…世界の…戦略の常識が覆る時が到来したのだった…


※ゴーレムを組織的に運用して戦闘に投入することは、今までは無かった為。自律行動ができるゴーレムがそもそもこの世界には居なかったのもある



- バザー・ゴーレム防衛隊…ファーストコンバット! -


『ジャイアント部隊。「果てを焼くモノ」を撃て』


『オール?』


『全弾だ。初戦闘だ…派手にぶちかませ!…だが、わかっているな?』


『オーライッ…』


これから放つ攻撃は有効範囲は半径1kmだ。今、投擲しても彼我の距離はまだ5km以上はある。敵軍のど真ん中に命中しても被害はあちらだけでこちらには無い。せいぜい…熱風で人間の肌が火傷を負う程度だが…


(外壁の外には味方の人間は居ない。問題は無いな…)


どんっどんっどんっ…


とても槍を投げた音とは思えない音が鳴り響く…投げた瞬間に音速を突破してソニックウェーブが数m先で破裂したせいだ。人間が傍に居た場合は鼓膜が破けるだけならまだマシで…


(はっ…ゴーレムのみの運用前提でなければ問題だらけの部隊だな…)


角付きの暗赤色のフェイスレスが考える。隊長機と補佐機のみ、思考コアが内蔵され…現場の判断を任されている訳だ。暗赤色のフェイスレス下級兵たちは主に索敵や周辺情報の収集に特化しており、戦闘力はオフホワイト部隊よりは低い。だが…戦場は情報を制した方がより強い。飛行情報収集機ドローンを飛ばしていた部下からの進言が届く。


『「果てを焼くモノ」命中…敵軍の半数を焼いた模様』


焼滅範囲をやや重ねてばら撒いた結果…一瞬にて敵軍の雑兵部隊はほぼ全滅。中型部隊も半数が行動不能に。大型部隊も一部が大火傷で行動不能になったことがわかる…が。


『撃ち漏らしの雑兵と中型・大型の群れが移動再開!』


敵軍は大きく散開し、一転集中攻撃では防ぎきれない規模に膨れだす。普通の指揮官なら当然の指示だろう…だが。


『螺旋葬で大型を仕留めろ。残る敵軍はフェイスレスにて各個撃破。殲滅せよ!』


『『『はっ!!』』』


それまで無言を貫いていた…フェイスレスのオフホワイト小隊が動き出す。そのやや離れた場所ではジャイアント部隊が残存する螺旋葬を順次ぶっ飛ばしていた…


どんっ…


どんっ…


どんっ…


どんっ…


どんっ…


都合、2投づつ…5回に分けて投擲された螺旋葬は、遅れて響いてくる打突音というよりは…貫通して地面に激突している音と思われる。遠くに立ち上る煙がその証拠だろう!


『大型の地竜と思われる竜種。3体撃滅を確認』


『その他、中型種8割がた撃滅を確認』


『小型種と中型種、残存個体…外壁まで1kmを切りました!』


『フェイスレス・オフホワイト部隊…突貫せよ!』


『『『イエス、サー!』』』



スクリーンには中距離戦闘から近接戦闘に移ろうとしていた所が映し出されている…どうやって映し出されているのか不明だが…兎に角、バザーの外では死闘が繰り広げられているのだ。


「これは…本当に今…我がバザーの外で繰り広げられているというのかね?」


「確認しに行きたいというのであれば止めはしませんが…」


「…衛兵!」


「は…」


「確認はできているか?」


「はい…あ、いえ…もう既に外は陽が落ちてますれば…我らの目では戦いの音しか確認が…ですがっ!」


「…もう良い。下がれ…」


「…はっ」


既に夜の時間帯へと突入していた。時間を忘れて話しをしていたせいか、夕食もとらずにいたのだ。ザック側から携帯食料を提供し、その味に興味を示したカーシャから今後提供の意思はないかというやり取りがあったのだがそれはまた別の話…


「このスクリーンとかいう物にははっきりと映っているのだぞ?…どういうことか」


ダウザーの問いに答えられる衛兵は居なかった。


「それはですね…このはゴーレムの目に映っている風景が伝達されて映されているのです」


「…なに?」


「簡単にいえば、人間よりゴーレムの目にははっきりと暗い場所も見えるのです。そのイメージのまま…此処に映し出されるんです」


ザックははっきりと、人間の目より高い性能をゴーレムが持っていると説明する。


「成程…」


ダウザーは夜間でも昼間と同じように敵が見えるということは…と考えていたが。


「あなた?…何を考えているか知りませんが…この子たちは町を護る為だけに運用するのですよ?」


と突っ込みを入れるファーサ第1婦人。


「あ、いや…そうだったな…はっはっはっ…」


と、誤魔化すように笑うダウザー。


『ありゃ考えてたね?』


『多分ね…』


『何を?』


『『『ドラゴニア帝国への報復行動』』』


(あぁ…)


ザックはそんなことはできないようにと…専守防衛に近い行動制限ルールをゴーレムたちに課していた。


護るだけならこちらにダメージを出さないようにすれば…少なくとも攻撃しに来た者たちにしかダメージは発生しない。失敗すればその分損害は出るし、恨み辛みも出るだろう…軍としても用意した魔物という武器を失うのだ…それを承知して尚且つ侵攻してくるのだ。自業自得しかない…


(まぁ…大人ってつまんないメンツとやらでガツガツ遣り合うっていうしな…面倒だよなぁ…)


流石に攻めて来た軍のトップを潰し続けていれば…その内に攻めて来る人材が居なくなる訳だけど…


(それやったら軍との全面戦争になっちゃうからダメだしね…)


だが…軍のトップは短気な性格であり、この2回目の敗走でブチ切れた結果…全軍を以て攻めて来るとは…夢にも思ってなかったザックなのであった…イヤ、ドンダケタンキナノ?


━━━━━━━━━━━━━━━

次話、ゴーレム防衛隊の実力を思い知ったダウザー。ザックに何と失言するのか…乞うご期待!


備考:いや、何で失言の内容を期待しなきゃならないのか…(苦笑)

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