136 その21 ~遠い地からの侵略 その9~

新大陸の空竜基地に意図せずに接近したザックたち一行。そして迎撃されるも、無傷で解呪して空竜を解放するザック…案の定、空竜…スカイドラゴンたちは隷属魔法を掛けた人間たちに報復行動を取る…だが。彼らは全て斃されてしまった…空竜基地は半分以上が大破してしまったが、それで復讐ができたかどうかは…彼らしかわからないだろう…

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- 取り敢えず人里を探して三千里(そんなに移動してねぇっ!) -


ごとごとごと…


相変わらずゴーレム馬車で移動してはいるが先の襲撃を鑑み、隠蔽魔法で肉眼からも魔法的探知からも隠れての移動だ。余り物音を立てても不味いし移動時に土埃が舞うと不味いので並足なみあしでの移動となる。つまり…人の徒歩移動よりはマシ…という移動速度だった。


また、ザックがずっと探知魔法を使っていると、いざ!…って時に魔力不足や精神的疲労で役に立たない…という窮地に陥ることも在り得る為、元々ゴーレム馬車に備えておいた探知装置を改良した。魔力タンクを増量して持続時間の延長。探知範囲と精度を上昇。インターフェース面では文字だけでなくわかり易く音声ガイドを付け加える…などなど。御者台だけでなく、キャビンからも操作を可能とし、画面が見えるように、警報や音声が聞こえるように改良されたのが一番喜ばれた模様…


(…どちらかというと、御者台に居なくても警戒できるようになったからかねぇ?)


御者台に独り…寂しそうな背中を見せるモンブランが哀愁を誘う…でも、折角御者台が広くなったからと行こうとすると引き留められて行けないし…ごめんモンブラン。僕が不甲斐ないせいで…


寒くてもくしゃみなんてしないけど、心の中でモンブランに謝罪してたら、


「へっくしょん!」


と盛大なくしゃみが…えっと?…ゴーレムも噂されるとくしゃみするもんなのっ!?(謎)



「行けども行けども、道の果ては見えず~♪…って、道なき道を進んでるんだけどなぁ~…って、うん?…何だありゃ?」


モンブランは独り言が多くなっていた。そりゃそうだろう…隣に居る筈の相棒であるマロンがキャビンに引っ込んでしまったからだ。代わりに誰か来るだろうか?…と思っていたが、マスターが来たそうにしていたが他の連中に引き留められていた…。ま、まぁ…マスターは成人年齢とはいえ、まだまだ身体はお子様サイズだ。クッションも無い御者台に座るにゃきついお年頃だ…それはそうとして何かが視界に映った。


「えーっと…探知装置っと…鑑定結果を…ん?…ドラゴン種?…つか蛇みたいに見えるが…何だこりゃ?」


探知画面上にも光点は●ではなく、幾つかの●を結んだ状態でうねうねとうねっている。つまり、相当に巨大でそれが蛇みたいな形状をしている証左だ。


「距離は…まだ50kmくらい先か…だがこちらに真っ直ぐのコース…このままじゃやばいぞ」


キャビンへの通話をオンにして叫ぶモンブラン。


「警告!…またドラゴンが来た!!」



- キャビンサイド -


『警告!…またドラゴンが来た!!』


「…こちらでも確認した」


「でも、これ蛇っぽいよね?」


「だねぇ…」


見た事の無い竜種で困惑するキャビン内。


「…停めて」


『了解』


ごとごとごと…


停車する馬車。また迎撃ではなく、解呪するのだろうか?…そう思っていたザック以外の面々だが…


「結界&隠蔽」


半透明な結界が構築され、その上に隠蔽魔法の薄い膜が被せられる。


「シズターズに確認を取って」


「あ、うん…『聞いてた?宜しく』」


数秒後、頷くシャーリー。そして、


「全然見えないし妹ちゃんたちにも見えないって」


虚空を見て頷いていたシャーリーがこちらを見て報告。


「…うん」


わかったと声に出さずに頷くザック。


「取り敢えず、シスターズを召喚」


ぱぱぱっとシャーリーの妹たちシスターズが現れる。


「…お疲れ様」


ザックが労うと、


「はいです!」


「マスター!」


「お姉さま、帰還しましたわ!」


と、三人三様の反応を示す。


「…マスター、妹たちとあたしの扱いに差が無い?」


「そんなことは…無いよ?」


今や小さい人サイズに育ったシャーリーと、初期サイズのシャーリーと同サイズのシスターズをキョトキョトと見比べ、頬を赤くするザック。思春期の男の子然とした反応に、シスターズはニヒヒ…と笑みを浮かべ、こしょこしょと内緒話をしているw


「はいはい、そこまで。敵が接近してるんですから…」


レムが仲裁し、レーダーマップ然とした探知装置の画面(キャビン内部設置)を睨む。


「マスター…いざとなったら他の娘たちを出して迎撃した方がいいのでは?」


彼女たちが以前の儘の性能ならば、それは囮として使い捨てろ…そういってるのと変わらない。そんな意見具申する統括体ナルにザックは…


「そんなことはしなくても大丈夫だと思う。まぁ見てろって…」


そういいつつも、ストレージ内の彼女たちの修復は続行中だ。但し…使い捨ての汎用ゴーレムとしてではなく…1人1人がモンブラン級に強い…強個体として…それ故に、時間は掛かるし、素材も消費して減って行く…何より、溜め込んだ素材は多いが…同時に消費する魔力が多過ぎる…故に、1体1体を修復し、強化し、ナルからバックアップを貰って再インストール…その作業は時間が掛かっていた。



『敵…仮称「蛇」を肉眼で確認しました』


モンブランがボソる声量で報告してきた。キャビン内は静かなので聞こえるのだが、この結界は音を半分程度は素通しなので最接近時には聞こえなくなるかもしれない。


「敵さんが接近して来たら聞こえなくなるので、以降は念話で宜しく」


『了解』


と返した瞬間。


ぴかっ


「「『え?』」」


とハモった直後、世界が光で白1色となり…轟音でザックを含む生き物組全員の鼓膜が破裂した。


(マジかぁ~っ!?)とザック。4度目DEATHね?(苦笑)(…自ら口を塞いで声を漏らさないように悶えてますがっ!)


(ぎゃあああああ!?)サヨリさんはいきなりの鼓膜破裂の痛みに乙女に有るまじき絶叫を上げて悶えている模様(但し、周囲のゴーレム娘たちに口を塞がれてますがっ!w)


(耳っ…がっ!?)ジェリコ皇女は流石皇女だけあって、痛みに耐えてますが…片手で口を塞ぎ、片手で片方の耳を抑えている模様…だが!…もう片方の耳からは容赦無く血が流れ出てますがっ!


尚、ゴーレム組は鼓膜はかなり頑丈に創られているし、聞き取り強度を落とすことで難を逃れている模様(そのまま聞くと音声受容体が破壊されるので…ボリュームを落として難を逃れているってことで)


(痛ぅ~…)


ぼたぼたと耳から流れ落ちる血をシャーリーとシスターズが手拭を用いて拭いてくれている。今の攻撃で、キャビンの左右のドアの窓は全て割れ散ってしまっている。御者台側と後方確認の為の小窓の方はヒビは入っているが流石に割れてはなかった(面積が小さいからか強度的に割れ難かったのだろう)


耐久値再生デュラビリティ・リペアー


聞こえはしないが、次に同じ攻撃があると…今度はサヨリとジェリコの身体そのものに異常を来すかも知れない…そう思ったザックは馬車に再生を掛けた上で強化を施す。そして、すぐにヒールハンド癒しの手当てを掛ける…


「あ…」


「有難う」


サヨリとジェリコ皇女が感謝の意を示すが、まだザックは自身の耳を治していないので聞こえはしないが…その口の動きでわかる為、頷いておく。


ヒールハンド癒しの手当て


そして自身にも掛けて治癒させる。流石に4回目ともなると治療もお手の物らしい…慣れたくはないが(苦笑)


「う゛う゛う゛~~~…痛かった!!」


サヨリが泣いている。最初の怪我がこれではトラウマものだろう…わからなくはないが、余り大声で怒鳴らないで欲しい。もし、あの「蛇」が地獄耳だった場合、生存者が居るという事実が漏れてしまうし…


「サヨリさん?…静かに。あの敵に生きているとバレると、更に強い攻撃を加えられますよ?」


ジェリコ皇女もそれがわかっているのか、静かに…だが強い意志でサヨリをたしなめている。サヨリは


「ひっ!?…」


と小さく悲鳴を上げて黙った。


(…ナイスジェリコ皇女。さて…)


この攻撃は恐らくブレスだろう。唯…凄まじく高い光量と攻撃音からすると、先のスカイドラゴンなんて比較にならない…あのドラゴンたちはこいつに倒されたんだろうな…。結界は隠蔽も重ね掛けしてたのに関わらず、ブレス攻撃は命中していた。とすると…


余りの高熱で陽炎のように揺らめいていた外気が少しだけ下がったのだろうか…歪んでいた光景がまともに見えるようになってきた。


「…は?」


間の抜けた声を上げるザック。それも無理は無いだろう…


「周囲が抉れて…」


「何これ…数mの溝?」


「これじゃ…結界に隠蔽偽装してたってバレバレじゃ…」


「不味いっ!?」


結界の在る場所は…周囲の溝と違ってその部分だけ護られて地面が凡そ元の状態を保っている。周囲は高熱と余りのブレスの威力で削られ、溶解してしまっているが…隠蔽されて地面がそのまま素通しで見える範囲は…


「ぐっ…転移!」


結界解除後に緊急転移で回避するも、魔力量に余裕が無かったザックは意識が朦朧となってしまった。


大容量魔石ラージマギバッテリーから吸収…」


だが、短時間での吸収は余りいいとはいえず、僅かに吸収したものの中断してしまう。身体が拒絶反応を起こしているのだ…


「く…仕方が、ない…」


ザックはレムの手を借りて馬車の外へ出ると、ストレージから強化ゴーレム娘たちを取り出す。そして、アイテムボックスをレムに渡すと、


「後は頼む。彼女たちにこれを…」


といい残して力尽きる…いや、単に疲労で意識を失ってしまっただけで、十分に休息を取れば目を覚ますのだが…



「…マスター、有難う御座います」


イワンNo.011が首を垂れて感謝の意を示す。今、彼女の前にはかつてのゼロスリーナンバーの同僚たちが立っていた。


ミナNo.037イオナNo.107ミクNo.039ロゼNo.060ルミNo.063サシャNo.034…それにイオNo.010


名を呼ばれる度に、彼女たちは身体をぴくん…と揺らす。


目を覚ましなさいスタートアップ


身に帯びた軽装鎧ライトアーマーから軽く…だが鮮やかに響くような起動音と駆動音が聞こえてくる…どうやら、唯の鎧ではなく。


「…力炉内蔵鎧?」


「え、何…この魔力量と圧は…」


そして、


かっ!


と見開かれる瞳…総勢7名の14の瞳が見開かれ、レムの手からアイテムボックスが彼女らに吸い寄せられ…消える。


「え…アイテムボックス(小袋型)が…」


イオがその疑問に答える。


「心配には及びません。アイテムボックスには…我々の艤装と装備品が入っていました。そして今…各々に配備されたのです」


「艤装?」


聴き慣れない言葉にナルが言葉を漏らす。


イオはロゼに目配せをし、ロゼは頷くと


「此処は我々には不利な地、ですね…」


と、馬車を収納するロゼ。既に全員馬車から降りている為にそれは問題無い。だが…何を意図しているのか不明な為、マロンとモンブランが警戒する…


「何を!?」とマロン。


「馬車を収納した意図は!?」モンブランがロゼに険しい表情で問う。


「…転移します。集まって頂けますか?」


「「「は?」」」


ザックが創造したゼロスリーナンバーのゴーレム娘たちには…そんな機能は無かった筈だと、ナルは自らのデータベースを検索しつつ考えていた。だが…この子たちはマスターが強化するといっていた…では?


そんな考えを巡らしている間に、ミナ、イオナ、ミク、ロゼ、ルミ、サシャの6人は円を描くように立つ。その間にザックをお姫様抱っこしたモンブランwとマロンが入り、続けて残る8人とシスターズたちが入る。空中に浮いていては一緒に跳べないかもと、シスターズはシャーリーの手や肩に座っている。


「準備はいいですか?」


「あぁ…」


「では…装身!」


「「「きゃっ!?」」」


「うわっ!?」


軽装鎧ライトアーマーが輝き…その眩しさに目を瞑り、眩しさが収まったと見て目蓋を開くと…


「「「…え?」」」


そこには…見た事の無い…軽装鎧に装着された…小さめの武器らしい物を多数装着した装身具?…を装備したイワンたちが立っていた。


「!…敵に居場所がバレたようです。では…転移!」


何の溜めもなく、軽くコマンドワードを唱えるイオ。そして…高速で転移魔法が実行され、全員別の場所へと移送されるのであった…


━━━━━━━━━━━━━━━

人型…艤装…多数の砲塔…うっ…頭がっ!?


備考:●娘か●むす?…いえ、艤装したゴーレム娘DEATH!(ちょっ!)

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