104 その5 ~村娘救出作戦勃発~

マウンテリバー出立の日に思いも寄らないダークエルフたちの見送りに困惑し、そしてジェリコ皇女を押し付けられるっていう…婿って…僕は彼女を嫁にするといってないんですけど!?

そんな笑劇的な見送り劇の後、今度はマウンテリバーの各ギルドの幹部連中が現れる。言い分としては実にこちらの意向を無視した内容なんだけど…既に説明責任はされているってことで無視することにした。人の持ち物で街の運用を回そうなんて勝手過ぎるしね!…そんな不毛なやり取りの最中に追加の人員が走ってくる。レムの耳打ちに(アレか…)と気付き、その場を急ぎ立ち去ることにする。これ以上付き合っても不毛な上に出立が遅れちゃうからね!

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- そんなこんなで1週間が経過… -


マウンテリバーでの出発の不毛なやり取りをパスしてから1週間。心配していた追撃は無く(というか追撃できるだけの余裕は無いと判断していたが)旅程は順調だった…


勿論、街の外へ出れば魔物や凶悪な動物が跋扈する山の中だ。そちらは時折にだが遭遇しては返り討ちにしていた。勿論素材やら食用可能な肉などはきちんと剥ぎ取って、使えない部分は分解して錬金素材としての材料に使える場合は譲って貰ってストレージの肥やしにしていった。いつ使うかもわからないしね?


何故山の中を進むのかって?…そりゃあ追撃部隊が出るなら街道を通るだろうし。同じ人間同士で戦うのはちょっとね…あの時は向こうの都合で争いにならなかったのでホッとしたけど。やっぱり知った仲とか同じ街の住人との争いは…極悪人でもない限りはけたいし…


そんな中で、山の中…林の中を馬車と歩兵部隊ゴーレム娘たちと一緒に移動していた。当然馬車が通れないくらいの木が密集している部分もあったので、馬車が通れるくらいに伐採してストレージに収納しながら進んだ。気になるのは…伐採したのがバレるとそこから何処へ進んだか追跡されるんじゃないか?…ってことだけど。ゴーレム娘たちがダミーとして伐採を適当に行って追いかけてくれてることだ。お陰で伐採した木がどんどん増えてるんだけど…当分木小屋ログハウスとか作っても尽きることが無いくらいに…(苦笑)


※アイテムボックスに収納はできないので、数人で抱えて持ってくるんで最初はトレントでも現れて追いかけて来たのかとびっくりしたよ(苦笑)(無論、横倒しになって追いかけてくるトレントは存在しないw)



「此処が最初の村?」


「…違いますね。あれは街道の傍に存在する筈ですから」


此処は街道から凡そ2km程外れた場所だ。木が林立するので街道まで視界は通らないし余程大きい音でもない限りは響かないだろう。


「じゃあ…村の跡地か何かかな?」


崩れかけている建物があちこちにある村の跡地。どの程度の昔かはわからないが恐らくは魔物に襲われ、余儀無く避難を強制されたのだろう。半分以上は朽ちており、残っている建物でも半分は屋根は落ち、壁も崩れて中を見てみるととても人が住めるような状況ではない。


外を見てもあちこち荒らされた跡がある。流石に年月が経過して風化したのか足跡もわからず何者が襲ったのかはわからないが…


「…!」


大人しかった索敵役のシャーリーがいきなりある方向に顔を向ける。…尚、今は馬車を降りて(馬車は収納済みだ)あちこち手分けして村跡を探索中である。


「どうした?」


相変わらずの肩車モードのシャーリーに問うと、


「マスター、あたしの胸、気持ちいい?」


「ああ…じゃなくて!」


顔を真っ赤にして取り繕うマスター可愛い!…じゃなくて(耳も真っ赤なので多分そうだと思う)


「ゴブリンとコボルドの集団が近付いてる。後、多分これはウルフ…こっちも多数」


その言葉を聞き、僕は魔眼で周囲へと目を展開する。近~中距離なら探知魔法よりより詳細を知ることができるので便利だ。探知魔法は真上から見た平面的な地図のイメージで知覚できるけど、魔眼では立体的なイメージで捉えられる。尤も、この能力は割と最近になってから得たんだけど…


「…本当だ。その後方に強力な個体が数体…これは………オーガ?」


この辺にオーガが居るなんて聞いたことないけど。でも、だからこの村がこんな被害を受けて移住を余儀なくされたのだろう。


流石にマウンテリバーから1週間も離れれば情報なんて伝わるのに時間が掛かる。仕事で調査依頼でもなければわからないのだろうし…


「…こっちに近付いてくる気配はない…か」


「でも、こちらに気付けば襲って来るかも?」


「まぁ確かに…」


ザックは探知魔法に切り替えて探知の範囲を広げてみる。


(あれは巣…か?)


ゴブリン・コボルド・オーガの巣を探索してみると、そこには多くの魔物たちがうごめいていた。


(これは…)


巣の隅々まで探索するザック。従者ゴーレムたちは探索に集中しているザックを護るように周囲を固める。シャーリーは周辺の索敵を密として各ゴーレム娘たちに伝達している。流石に襲って来る魔物は居なかったがゴーレム娘たちを見て興味を覚えた強力な動物(熊とか)が何頭かが返り討ちに遭っていたが…(苦笑)


(人間の女性が何人か…クソッ…)


所謂繁殖の為に捕らえられた人間の女性がナニをされているらしい。探知魔法では光点と文字でその存在の情報が表示されるだけなので更に細かい情報が欲しい場合は…


「レム、シャーリー。あいつらの巣に捕らわれてる人間が居る。救出する義理も義務もないけど…」


現在ザックは唯の無職の平民だ。助けてくれとも頼まれてもいない。だが…知ってしまったのだったら…


「私たちはマスターの意向に従います」


「そうそう。所謂、「マスターの命令の儘に」って奴だよね?」


レムとシャーリーがそういうと、周囲を警備していたゴーレム娘たちも、


ざざっ…


と、左片足を折ってしゃがみ、左腕を胸の前に掲げて頭を下げる。まるで


「マスターの仰せの儘に…」


と無言で俯いていた。


「マスター」


「…うん」


「マスター?」


「ああ!…此処から北西に3kmの山の中に奴らの巣がある。地図と情報を…よし、それを見てくれ」


知覚した情報を念話ネットワークにコピペして公開する。瞬時に従者ゴーレムたちに情報は共有される。


『中隊長のイオNo.010です。つきましては小隊員を100名都合して頂きたく…』


いきなり少し離れた位置に居たイオから念話が入り、いわれる儘に製造番号のゴーレム娘をストレージから取り出して行く…



- 村娘?…救出作戦開始! -


「えっと…僕はどうすればいい?」


「こちらに用意した小屋で寛いでいて下さい。お手を煩わされることはありません」


「えっと…」


気付けば、村跡に建造された何処かで見たような小屋があった。その隣には救出対象の村娘?の収容・治療を目的とした白っぽい小屋もある。


「さ、どうぞ?」


「あ、あぁ…わかった」


促される儘に小屋の中に入ると…廊下を挟んで幾つか部屋があるようだ。そして大きな部屋の中に先導されて入ると…どこぞの小屋の地下室みたいな部屋だった。そこには壁がスクリーンとなっていて…既に先行している部隊の目から見たが映し出されていた。


(やっぱり…)


時折左右を映し出されているその画を見ながら用意されていた席に着く。3km先の巣までもう残り1kmとなっている救出部隊はそこで3つに分かれるようだ。尚、右上に周辺地図も同時に映し出されている。恐らく探知魔法を使っている隊員のモノなのだろう…


(囮の部隊。救出部隊。撤退路を確保する部隊。この画を送っているのは撤退路確保所属か…)


囮部隊が派手に動いて魔物を誘き出し、巣の中の魔物たちが減ったタイミングで救出部隊が中に入り、救出後に全体で脱出…といった感じだろうか?


暫く壁の映像を見詰めていたザックだが、


「救出する人数は把握しているの?」


と訊くと…


「先程の情報から…9名だと把握していますが」


とナルから返答がある。


「そうか…」


と答えるが、もう1度確認しようと巣の近くまで接近していたゴーレム娘(中隊長)を介して探知魔法を行使すると…


「…生存9。死亡…3。生死不明…1か」


「可能なら死体も持って来ましょうか?…その…アイテムボックスに収納すれば荷物に…はっ…し、失礼しました」


「いや、構わないよ。死んだら唯のお肉だからね…唯…損傷が激しい場合は…」


少し考え、ザックはぎりっと歯を噛みしめ、


「巣毎燃やしてしまうか…いや、焼滅した方がいい…か?」


ゆらり…と席から立ち上がるザック。何か押しちゃいけないスイッチを押してしまったかのように…


「兎に角、救出対象を救い出してくれ」


「はい」


「その後、魔物は殲滅する」


「…はい」


「最後に、巣をぶっ潰す」


「え…いえ、はい」


「救出した人たちはすぐに処置を開始して欲しい。僕は準備するから…」


戸惑いつつ、ナルとレムはザックの言付けをこなすべく、バタバタと動き出す。ザックはザックで別室に向かい…ストレージから自分専用の装備品を取り出していた。



『配置完了です!』


『囮部隊』


『こちらも配置完了です!』


『よし…救出作戦を開始する!』


中隊長のイオNo.010が宣言し、村娘救出作戦が開始される。囮部隊が動き出し、巣穴の前で適当に弓矢を放ち(勿論当てないでひょろひょろ矢を足元に落とす)…わざとらしい動きで逃走を開始する。そして大騒ぎをする見張りのゴブリンに巣穴から何頭かコボルドに暇そうなオークが出てくる。


「もっかい撃て!」


ひょろ矢を数本撃ち込み、揶揄からかうようにうろついては逃げ出して行く…イライラしたオークたちは


ぐもおおおおっ!


と叫び、増援を巣穴から呼び出してドスドスと走り出した。


『囮作戦成功です。これからできるだけ遠くに誘き出します!』


『了解』


見た目には凄い素人臭い足運びで逃げ出す囮部隊。それを追う魔物たち。暫く巣穴からぞろぞろと魔物たちが追う為に出て行くが…それも数分くらいで出て来なくなった。


『…残存する魔物も僅かです。今の内に突入します!』


『了解』


こうして、救出部隊が巣穴へと突入していく…



「…よし。準備オーケーだ」


フル装備のザックが呟き、部屋から出てくる。


「ん?…レム、どした?」


部屋の前にレムが仁王立ちで睨んでいた。


「いけません。マスターはこの地で待っていていただけないと…」


「いや、レムたちはあの巣穴を吹っ飛ばす手段を持って無いだろう?」


「っ!?…ですがっ!」


基本、ゴーレム娘たちには土属性か水属性、稀にシャーリーのように風属性の魔法持ちが存在しているが…火属性持ちは居ないのだ。更にいえば光属性も存在しない。体を構成しているのが土を素とするせいなのかは不明だが…稀に闇属性の使い手もいるがそれだけだ(当然、自らの体と相反する樹属性はやはり存在しなかった…)


「いいね?…あの巣穴は僕が無きモノとする」


「…はい」


レムは強い意志を感じるザックの瞳に屈した。そして…体がゾクゾクとしていたが…必死に我慢していたのだった…!w


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最後にレムの隠された性癖が暴露…って何なんこれw


備考:果たして、拉致された村娘たちは無事に救出されるのだろうか?…(されます…生きてる子に限りますが)

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