50 その7 ~サンフィールドに往こう その7~

サンフィールドの領主の館を無事脱出したザックと領主婦人たち。そしてゴーレム馬車をストレージから出して中に一時避難する(普通の建物に立て籠るより安全だからだ)

やがて賊を殲滅したレムが現れる。ザックたちはレムを労う為に外に出て事後報告を聞くことにする。

ひとまずの危機を脱したザックたちは、中断していた「お話し・・・」を継続すべく、応接室に戻るのであった…

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- 応接室での会話・パート2 -


「うん、無理だと思います」


結論として…魔法を使ってガンガン工事を進めないと無理…ということだけがわかっただけだった。


「だよね…一応説明する為に手紙を送ったんだけどね?…全然理解してくれないのよ…困ったわ…」


いきなり砕けた調子の話し方になったミランダ婦人。いつもは堅苦しい調子だったのだが…それだけに苦労が偲ばれるというものだ。恐らくは何度も説明の手紙を送っては「話しにならん!」とか突っぱねられているのだろう…というか、こちらが「素」なのか?


「…」


こくり


何とはなしに私兵の人に視線を向けると、疲れた様子で頷く。どうやらこちらが素であるらしい。それとなく全員を見渡せば、疲労が伺える。サンフィールド産の体力回復薬スタミナポーションは効きはいいが、1日1本までという制限がある。劣化コピーした僕の物なら回復の度合いは少なめだが3本くらいまでは飲んでも大丈夫なように改良してある。ストレージから10本程をそっと取り出すと、


「お顔を伺うに、お疲れのようですね…宜しければこれを」


と、11本目を取り出して目の前で飲み干す。ほんのり甘めの味付けをした体力回復薬スタミナポーションは少し疲労感を感じていた体に心地よい。


「…」


婦人は10本の小瓶を受け取り、1本の蓋を開けて飲む。


「ミランダ婦人!」


私兵が止める間も無く飲んでしまった為、慌てるが…


「あら、ほんのり甘いのね…それに即効性もあるなんて…」


と、明らかに疲労感が減少した顔つきになってきた。


「ほら、お前たちも」


と、残り9本を押し付ける婦人。


「ですが…」


恐らく、今日の分を飲んでしまったのだろう。朝っぱらから飲む必要があるとはどれだけブラックな労働環境なのか…。躊躇ためらう私兵にザックが補足する。


「大丈夫です。この体力回復薬スタミナポーションは僕が改良を施した物で…1日3本までは飲んでもいいようになっています。ほんのり甘い味付けで飲みやすいですし、即効性もあります。但し…」


「「「但し?」」」


矢張り、何かあるのか?…と訝しむ私兵たち。


「回復力はサンフィールドの物より低いですけどね?」


と、苦笑いをした。要は、回復量を犠牲にして少し便利に飲み易くした物だと説明した訳だ。


「な、成程な…」


「それなら疲れた時に飲んで、ちょくちょく回復した方がお得、という訳か…」


うちの奴サンフィールド産は1日1回しか服用できない癖に、疲れきっちまっても2本目はダメだからなぁ…」


ダメという訳ではないが体力が殆ど回復しなくなるのだ。恐らく…1日経たないと薬効が切れず、残っていると追加で飲んだ体力回復薬スタミナポーションの薬効の効果が発揮できないのだろう。これはHPポーションの制限本数を上回って飲んだ時も同様に存在する約束事だ。何事も過ぎたるはなんとやら…ということだろう。蛇足だが、水薬の共通事項として、飲み過ぎるとトイレが近くなるのは生理的に発生する為、戦闘時には注意して然るべきである(戦いながら垂れ流すなら別だけどw)


「これって製法とかは…秘匿事項かしら?」


複製する気満々の婦人が訊いてくるが…


「そう…ですね。現物を解析するのでしたら止めはしませんが?」


そういった瞬間に、私兵に目配せをするミランダ婦人。ザックは苦笑いしながら飲んだ残りの6本の行く末を考える。


(まぁ、許可が出たんだからできれば残りは解析に回しちゃうだろうねぇ…水で薄めてる訳じゃないから簡単にはできないけれど…)


同程度の品質の体力回復薬スタミナポーションが世に出回るが何年後か…ザックは(できればいいよね…)と思いながら、応接室から出て行く私兵を眺めていたのだった。



「話しが脱線したわね…さて」


脱線の元凶はザックであったが…婦人が元のレール話しに戻す。


「そうですね…まず」


ザックは何故人力のみの工事がダメか。魔法を扱う人を、唯単に工事に参加させればいい…という訳ではない理由を順序立てて説明する。それはザックの生活魔法の実力を暴露すると同等の行為ではあるが…迷惑を掛けた罪滅ぼしというのもあり、全てではないが…説明するのだった。


『…シャーリー。気付いているか?』


『傍聴者の存在?』


『レム…それは盗聴者でしょ?』


ザックが従者ゴーレム2人シャーリーとレム念話テレパシーで問う。当然気付いているとは思ったが、念の為確認する。


『じゃ、その手癖が悪い奴らを頼む』


『『はい…』』


レムがこちらを見て頷き、


「失礼します…」


と、スタスタと歩き出す。その隙にシャーリーがザックの胸元から姿を消して飛び出し…レムの頭へと隠れる。


「…どうしたの?」


婦人が訝しみ、レムの後ろ姿を見送りながら問うと、


「あ、いえ…少し手癖…耳癖ですか?…が悪い者が居たようなので」


と答えると、婦人はいきなり立ち上がり…


「まさか…」


と、呟く。ザックが


「まぁまぁ…」


と座るように促すので仕方なくと渋々座り直す婦人。念の為、私兵2人をドアの外で門番として警戒して貰い、室内は婦人とザックの2人きりとなるが…その内に体力回復薬スタミナポーションを解析に回しにいったか、それとも他の私兵に配りに行ったかは不明だが出て行っていた1人が戻って来た。


「只今戻りました」


「あら、ご苦労様…足りたかしら?」


「えぇ、まぁ…」


どうやら何本かは解析に回して、残りを配布した…といった感じだろうか?…まぁ、譲った後に悪用しない限りはどうでもいいことだ。ザックは表情を変えずにそのやりとりを目を瞑って聞いていた。



「驚…くべきことだけど。それは本当のことかしら?」


本当なら「恐ろしい」とかいおうとしたのだろう…いい換えてたけど。僕の魔力量は…会ったこともないけれど、恐らくは「宮廷魔導士」と呼ばれる人種と同等か上回ってるんじゃないかな?…と思う。


何しろ、1日にあの貯水池の修繕・改良を数箇所回って作業する。とか…治水工事を1日に数箇所回って工事する…とか。通常の魔法使いと呼ばれる人には無理なんだろう…その証拠に婦人の顔が青褪めている。


まぁ、期間内に水を満たして歩くだけなら…何とか普通の水属性魔法使いでも何とかなる仕事だったんだろう。その場合…魔力量だけが問題だろうし。


(その魔力量だけど…仕事中にどんどん増えてって…ことが終わった後にはサンフィールドに来る前の2倍以上に肥大してたけど、さ…(苦笑))


所謂、子供の頃に魔法を使って魔力枯渇状態になって寝ると、翌朝には最大量が増えるって奴だ。余りやり過ぎると魔力が満タンになるまで数日掛かったり、寝起きが余り良くない(人に依っては頭痛がするとか頭がぼ~っとするとか)らしいけど…僕は…まぁ、魔力回復に…今となっては1日じゃ最大量回復しないのが珠に瑕かな?…必要ならMPポーションを飲むか、大容量魔石ラージマギバッテリーから補充すりゃいいんだけど。


(まぁ、普段はその余りある魔力を逆に大容量魔石ラージマギバッテリーに充填してるんだけどね)


最大量の半分を残し、余りを充填するだけなので無理はしていない。毎日の努力がいざ!って時に役立つのだし!!(力むことか?w)


話が逸れた(心の中でw)


「本当ですよ?…それは貴女もご存じのことですが…」


此処にレムが居なくて本当に良かった…でないと、再び闇のオーラで応接室が極寒地獄になっていたことだろう!(実温度ではなく、背筋に悪寒が走る方向でっ!)


婦人は、


「確かに…」


と、実際に役立っている貯水池と治水工事の結果を思い出しながら呟いている。虚偽の報告で工事が成されてないのなら、今頃サンフィールドは再び水の買い出しであちこちに出向いてなければならず、住民たちは喉の渇きで苦労を強いられているし、水を求めた他領からの襲撃に遭ってはないのだから…



結局、工事は代替案などで普通の人が実現不可能。魔法使いが参加しても、そのノウハウは無い者では不可能。仮に工事のノウハウを得たとしても、ザック程の土属性魔法の緻密さ、精密さ、堅牢さを実現できる者が…居ない、という訳ではないが…それに加えて絶大な魔力量となるとほぼ替えが効かないとされ…要は


「人間には無理ね。それこそ、魔族みたいな化け物を連れて来ないと…」


という結論に…って、ぇえ~っ!?


「僕、魔族なんですか?」


と、半泣きしたザックがミランダ婦人に訊く。


「…ぁ」


失言と悟った婦人が、思わず母性を直撃されて…


「ご、ごめんなさいね?…つい…ザックくんは人間よ…紛れもなく」


と、テーブルを挟んで相対していたのだが、すっくと立ちあがり…ザックの元へ回り込んだ婦人がしゃがみ込み、ザックをそっと抱き寄せた。


(…)


いきなりの抱擁に息を飲むザックだが…


「お母さんは?」


という問いに、


「あ、いえ…15の秋に村を出たので…」


「そう…」


胸きゅんしたのか、更にぎゅっとされるザック。ちなみにミランダ婦人は初老(この世界では大体40くらい)に足を突っ込んだお年頃だがまだまだ豊かな胸は健在だし、頬にほうれい線が少しでたくらいの容姿だ。


「…」


(お母さんに抱かれるのって…こんな感じなのかな…)


暖かな体温に、少しいい匂い。ぽわぁ~…っとなる頭。


昔から命令を受けて仕事を強要されるが、甘やかされたことはついぞ経験したことはないザック。主に甘やかされていたのは兄と妹だ。勿論父からも褒められたりしたこともない。やるべきことはできて当然。できなかったり失敗すれば殴る蹴るは勿論。兄からも罵倒され、妹からも真似をして物を投げられたりの毎日だ…これではいつか殺されるか…若しくは村を追い出されるかの結末しか無いだろう…


「…はっ、ご、ごめんなさいね?…その…ザックくんを見てたら母性本能を刺激…」


「ミランダ婦人!」


私兵の突っ込みにミランダ婦人が、またもや失言を!…と口をつぐむ。


「あ、いえ…その…お母さんの胸ってこんな感じなのかなと…あ」


ザック自身も失言を放ってしまったと気付き、慌てて婦人から離れて頭を下げる。身分としてはザックは平民だし、婦人は末端ではあるが貴族の奥方だ。例え、ザックが「元辺境伯」の身の上だとしてもだ…


ぶるるっ…


突然の身震いにザックの体が縮こまる。


「え…何っ!?」


見ると、私兵も婦人も身震いしている。応接室は室内だし穴も空いてない。季節的に冬だとしてもこんな不自然な…と思っていると、


「…ますたぁ?」


と、闇のオーラ全開のレムが…ゆっくりと開かれたドアから現れた!



闇堕ちのレムがあらわれました。どうしますか?


にげる ←

たたかう

まほう

どうぐ


びーっ


…にげられない!



え、何これ…まるで浮気現場を見られたようになってんのだけどっ!?


━━━━━━━━━━━━━━━

いきなりドラ●エ風のコマンド式戦闘に戸惑うザックでした?w…ま、まぁ…敬愛するマスターが知らない女と抱擁してたらキレるのかも知れないけれどっ!w


備考:サンフィールド婦人と会議してたらレムにキレられた!(省略し過ぎ!w)

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