41 その2 ~予兆…? その2~

レムと恋人みたいに手を繋いで…傍から見れば「リア充爆発しろ!」といわれそうな甘々な雰囲気を纏いながら復興が進むマウンテリバーサイドを巡回という名の散歩をしていた。その後、外壁の外側の様子を見てまわり、大穴を開けられた部分は表面だけの補修をしてるだけで魔方陣などは全く再構築がされてなかったのでついでに修復することに。

そして、50年前にあった侵攻には矢張り「カ・レン」が現れていたそうだという。斃したらしいが彼の大悪魔は現代でも生存していた。どうやら悪魔というのは見た目だけ殺しても死なないものらしい…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 予兆を予想したけどいつ来るんだ? -


「暇だなぁ…」


ザックが外壁の更に外側に防備を準備しつつ、つい零す。普通に1人で続ける作業としては暇という程単純作業ではない筈だが…慣れてしまうとながら作業になってしまう辺り、ザックらしいといえばらしい。


「マスター。また魔力最大値が増えたんですか?」


周囲に魔物や魔獣が現れないか周辺監視をしていたシャーリーが溜息と共に「呆れた…!」と大袈裟に茶化す。レムもザックの傍…いや、やや離れた場所で2人の会話に耳をダンボにして(大きくはなってないがw)聞いている。


「え~…まぁ。倒れない程度まで魔力を酷使してたらいつの間にかね…」


やってる作業は外壁の外に空堀を掘ったりその堀の底に罠を設置したり、更に外側に強固な土壁を生成したりなど、王都の城壁より強固な段構えの防備を準備しているのだが…


「こんな大掛かりな防御壁を1人で準備しろだなんて、領主や各ギルドの上層部は何を考えてるんでしょう?」


と、レムがぷりぷりと怒っている。どうやら黙り勝ちなのは内心怒っていたからのようだ。


「あ~…それ。僕から上申したんだ。ダメっていわれるかと思ったんだけど、通って良かったよ」


「「え゛…?」」


ザックの予想の斜め上の事実に、レムとシャーリーが固まる…いや、本当に固まると落っこちて来るので妖精羽は動いてるけどもw


「そ、それって…」


「無給?」


「あ~…まぁ、特に報酬の交渉はしてないけど…まぁ飯代くらいは出るんじゃないの?」


飯食うのはザックだけだし、ゴーレム連中は魔力カプセルと消耗品だけ補填できれば問題は無い筈。町を警らしてるゴーレムたちは無理な労働を強いられてないか?…とかはナル部下たちが町中で働くついでに監視しているとナルから聞いてるので大丈夫だとは思うが…そもそもナルたちも無茶な労働を強いられてないのかも気になるっちゃ気になるが(苦笑)


「町ん中で働いてるゴーレムたちはちゃんと手当とか貰ってんのか?」


「そりゃあ貰ってますよ。魔力カプセルだってタダじゃないですし、衣類だってボロくなってくれば修繕するか買い直さないといけませんしね」


防衛ゴーレムと警備ゴーレムたちは基本的に創造時の武器と鎧などの装備を着こんでいるが、鎧を除装すると人間のような裸ではなく、ゴーレム然とした体が素体となっている。着こんでいる装備品はそれ程強力ではないので破損することもあり、修理や新たな装備品を買う為に稼いだ給金を貯めているそうだ。余り騒動に巻き込まれてない個体は創造当時の装備品を修繕しながら着続けているそうだが、町中での騒動によく巻き込まれる警備ゴーレムなどは最低でも1回は装備品を買い替えているとか…


「魔力カプセルって…あぁ、もう1年だし与えたのは使い果たしてるか」


「そうですね。まぁ貯魔石マギバッテリーに魔力充填するのと大差無いですから、魔力持ちの人たちに屑魔石を持ってって充填して貰ってそれを買ってるって感じですよ」


屑魔石は最低ランクの魔物…例えば角ウサギやゴブリンから得られる魔石などを指す。幼体では得られないが青年体以上なら得られる可能性はある。成体でも屑ではないだけで魔石のランクとしては最低なので大差は無いと思うが討伐のし易さは多少ではあるが青年体の方が楽だろう。


「そっか…」


そうであれば今頃起きてきた僕が魔力カプセルを生成して供給するとなると、その人たちの仕事を奪ってしまうことになるのかも知れないなと思うが…まぁ後で相談すればいいことだろう。そう思いながら今日の防備施設を創る区画を見渡して次々と土壁や空堀を創造していくザックなのだった。



「差し入れ、ですか?」


「うん」


「余裕ですね…まぁストレージの中で錬金できる強みか…流石マスター…略してサスマス!?」


「は、流行らせなくていいからね?それ!」


サスマタみたいで何か嫌だと思いながら却下するザック。クスっと笑いながら魔力カプセルを包んだ袋を受け取るレムに彼女の頭の上でニヤニヤするシャーリー。


「…誰かが口にしてるの聞いたら絶交ね?」


「うぐ…わ、わかったよ…マスター」


シャーリーに釘を刺すザックに、再びくすくすと笑うレム。


「じゃ、今日はこれで解散てことで」


「はい」


「りょ~かい!」


ザックは予めセットしてある小屋の中に転移し、レムとシャーリーの2人はナルの所属するマウンテリバーの事務所に向かう。時刻は夕暮れも近く、そろそろ空模様は青暗くなりかけている…といった感じだ。



〈・・・〉


それまで存在さえ感じられなかった影がのそりと動き出す。


〈…ふっ〉


そして一声吐くと、掻き消えるように姿を…否、存在が消え失せる。まるで、あの時の大悪魔のように…



- 翌日… -


「旦那様!…有難う御座います!!…わたくしたち一同、全員感謝感激雨霰ですわっ!!!」


翌日、朝っぱらからナルたちと防衛・警備ゴーレムたちが小屋の前に土下座していた…


「あ、いや…そんな大袈裟だよ…」


と、ザックはドン引きだったのだが…


「いえっ!…これだけの魔力カプセルで…わたくしたちは今後10年は戦えますわっ!!」


と、簡易アイテムボックス化した袋(見た目はよくあるお店で貰える紙袋(大))に詰め込まれた魔力カプセルを


どん!


と地面に置いていた。


(あ~…1人辺り1年分しか創ってないんだけどな…10年は無理だろ)


この世界は1週間7日。1箇月4週間。12箇月で1年という感じで336日で1年となっている。一応400個づつ渡して余りは予備ってことで余分には渡してあるが流石に10年は無理だろう。


「一応レムに説明しといたけど…1人400個づつな。仲良く分けてくれ」


まだ分けてなかったのかと呆れてたザックだが、苦笑いでレムが。ナルはハイテンションになりながら手分けしてナル部下と防衛・警備ゴーレムに手渡していた。一応、紙袋の中に小袋(こっちはアイテムボックス化はしてないが魔力カプセルを400個づつ封入してあるので小袋というよりは中袋サイズとなっている)を取り出しては1人に1つづつ…と、そこに現れる知らない人物が。


「これは…何をしてるのかね?」


「…誰?」


思わず問うザック。レムとナルも知らないと首を振る。シャーリーもくるんとひっくり返りながら、


「誰?…このおっさん」


と呟いていた…というか器用だな。上下ひっくり返りながらホバリングとか…


「ふんっ…この俺を知らぬとはとんだモグリだな…」


と、踏ん反り返るおっさん。見た感じ、ローブ姿に杖を持った軽装布装備からして魔術師ぽい見た目だが…


「我のゴーレムをそそのかすとは…どんな卑怯な手を使ったの知らんが…」


「ねぇ…何いってんの?この人…」


「さぁ…」


謎の魔術師の戯言たわごとにシャーリーとレムがぽそぽそと話しているが…丸聞こえだw


「…」


思い出そうとナルが見ているが思い出せないらしく、足がたしたしとイラつくようにビートを刻んでいるw


「あ…」


そして、ナル部下と警備ゴーレムの何体かが思い出したかのようにぽそっと声を漏らす。


『ん?…誰か思い出したのかな?』


直属のゴーレムたち…シャーリー、レム、ナルのみにだけ届く念話で話すザック。部下ゴーレムを統括しているナルが代わりに質問してその情報を聞き出す。ゴーレム同士では会話というよりは思念のやり取りになり、しかも人間よりは高速に伝達が可能な為、タイムラグは殆ど存在しない。そして伝えて貰った情報とは…まぁこんな感じだった。



◎王都から派遣されてきた魔術師の1人

◎魔力摂取用の、屑魔石に魔力を充填して売って貰ってる魔術師の1人

◎何回か隷属魔法を掛けられたことがあるが、何の影響も無かったので放置してるが…

◎隷属魔法を掛けた個体に対してだいぶ馴れ馴れしく付き纏っているので困っている



まるで女性にストーカーする異常行動を起こす男性のようだ。だが、相手は人間なので対処に困っているということだろう…というか、隷属魔法?…それって奴隷に対して行使する魔法なんじゃ…


『ゴーレムを制作した時に、まず掛ける魔法でもありますよ?』


少しでも知性がある個体には有効な魔法だということだ。尤も、うちのゴーレムで知性があるのはシャーリー、レム、ナル、サブリーダー、モンブラン、ダークエルフ組みの2人だけだ。サブリーダーのは微妙だが、一応疑似的な知性が備わっている。それでも行動パターンが少々複雑なだけでトップダウン型のAIと似たようなもので条件式が複雑なだけで人間と同等な知性といえるかどうか微妙な所だ。純粋にボトムアップ型AIと同等なのはサブリーダーを除くシャーリー、レム、ナル、モンブラン、ダークエルフ組みの合計6人だけなのだ…だが、これら全員はザックを頂点とする命令系統が確立されており、既存の隷属魔法にそれを貫き通せる力があるとは思えない…


『…汎用タイプのゴーレムには効くのか?』


『書き換えが不可能なコアに効くと思いますか?』


『いや…どっちにしろ、あいつのやってるのは…』


『はい。非合法な行為…となります』


『…はぁ』


この間、無言でちらちらと視線だけ動かしているだけで、イライラした魔術師の男はドスの効いた声でこう言い放った。


「もう一度いう。我のゴーレムをどうそそのかしたかは知らんが…返して貰うぞ?」


念話でのやり取りの間にそんな荒唐無稽な主張をしていたらしい。余りのアホさ加減に再三溜息を吐くザックとその他。


「はぁ…誰が誰のゴーレムと?」


ザックが誰とはなしに訊いてみる。そしてナルが間髪入れずに


「あなたたち、旦那様が創り出したゴーレムじゃないと思う者は挙手しなさい?」


と、静かに問い質す。


「「「…」」」


全員が無言で微動だにしなかった…


「では、旦那様謹製ゴーレムと自負できる者は?」


「「「はい!」」」


全員が一斉に挙手して叫び出す。


「な…ん、だと!?」


謎の魔術師は自分の思い通りにことが運ばないとわかると、そのまま絶句するのだった!


━━━━━━━━━━━━━━━

きっと、人間のように考え判断するゴーレムを持ち帰って研究して量産して売り出そうとする悪の結社の魔術師に違いないでSHOW!(王都は悪も蔓延ってそうだしねぇ…)


備考:謎の魔術師にゴーレムを奪われる現場に居合わせるものの、誰も隷属魔法には掛かってなかった罠w(以下、次話!)


所属ギルド:

 無所属

ストレージ内のお金:

 金貨277枚、銀貨1020枚、銅貨781枚

財布内のお金:

 金貨10枚

住所:

 マウンテリバー南東角に一軒家(という体の小屋住まい+土地所有)

本日の収穫:

 外壁の外の防備用施設の設置費用として日給金貨1枚を月末に支給される予定

保護者:

 シャーリー(探索者ギルド所属・ランクD)

 レム   (探索者ギルド所属・ランクC)

 ナル+部下(探索者ギルド所属・ランクC)※全員合わせて。ナル単体や部下単体ではD相当

 マロン  (両ギルド所属・ランクC)

 モンブラン(冒険者ギルド所属・ランクC)

他:

 ダークエルフたち(ザンガ、サフラン)ダークエルフ陣営所属…ノースリバーサイドで活動中

 防衛ゴーレム8体(2体は破損して土塊状態になったので埋葬された)

 警護ゴーレム4体(6体は(以下同上))

 防衛・警護ゴーレムたちはマウンテリバーサイドで警備活動に従事(最後の命令を守ってるだけ※)

※マウンテリバーのリーダーの命令を聞いてマウンテリバーサイドの平和維持に努めろ…という内容。ゴーレム製作者が誰かはわかってないが、利用できるのなら…ということで領主以下は両ゴーレムを利用しているとのこと(ザックが製作者だとはつゆとも思ってない模様)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る