31 その14 ~マウンテリバー、魔族の侵攻を受ける!…その14~

外壁の防備を強化することが最優先だと考えるザック。まずは第2波で攻められた北側を先にした方がいいと唯一の門である南門から北回りの…門を真正面に見据えて右側を先に強化する。左側はレムに頼んで修繕のみ先に済ませた。残りは明日でいいなと考えるザックだが…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 翌日…になる前日と本日の境目…深夜 -


〈GURURURU…〉


ごぉぉおおおっっ!!!


深い峡谷の底から纏まった炎の息ファイヤブレスが放たれる…が。


ぱきゃあ…


石橋に仕込まれた魔方陣により魔法で編まれた攻撃魔法の一種であるファイヤブレスは直撃する前に雲散霧消するかのようにほどかれ消失する。


〈GURU…〉


〈〈〈GURAAA!!!〉〉〉


ぶわさぶわさと羽ばたく数頭の赤い人影…否、人間にしては大きく、背中には体を支えるにしては不釣り合いな程に小さい翼。そして暗い影から月明りに舞い出たその姿は…マロンに赤トカゲと呼ばれたレッドドラゴンたちであった!


〈GURAAA!!!〉


最初の1頭が石橋に向かって突撃するが…飛行魔法が解除され、慣性でぶつかるのみに留まる。だが、次々と後続のドラゴンが激突して石橋にガンガンとぶつかっていく…


〈GURUU!!〉


がしっ!…と追突されたドラゴンが石橋に前足…というか腕を伸ばして掴む。後続のドラゴンたちは先頭のドラゴンの足を、届かない者は手近な足や胴体を掴む。


〈GYAOOO!!〉『尻尾は掴むんじゃねぇっ!!』


びたーんっ!…と、尻尾を掴んだ誰かを弾き飛ばす先頭のレッドドラゴン。何頭かが巻き込まれて峡谷へと落ちて行くが、魔方陣の影響下から脱すると再び翼を羽ばたかせてホバリングを開始する。


〈GURURURU…GYAOOO!!〉


ミシミシと音を立てる石橋。そして…


ぴき…びしびし…


ぽろぽろと走り始めたヒビから小石が落ち始め、遂には…


ビキィッ!!


一際大きいヒビ…否、亀裂が走る石橋。そして…


〈GURAAA!!!〉


ごぉぉぉおおおっっっ!!!


至近距離からファイヤブレスを放つレッドドラゴン。防御魔方陣の魔法解除の効果を完全発揮するには微妙に時間が掛かる。解除されるまで発揮していたブレスの効果…吹き付ける勢いと高温との相乗効果で亀裂が溶け崩れ始め…


びきびきびき…がらがらがら………


遂に先頭のレッドドラゴンにへし折られ、支えを失った石橋が崩れ始め…魔方陣が崩れてしまった今はレッドドラゴンを縛るモノは無い。


〈GUAAAA!!!〉


ごぉぉぉぉおおおおお!!!!!


後退したレッドドラゴンと後ろの仲間と同時にブレスを吐き出す。そしてファイヤブレスが纏まり、見た目以上に威力が上昇して石橋を溶かし、崩し、付け根以外を跡形も無く消し飛ばす…(流石に壁の傍の魔方陣に依り、マウンテリバーサイド側はファイヤブレスの影響を受けずに石橋の付け根は残った。だが、ノースリバーサイド側には更に強力な最外壁が存在するが故に、物理的にへし折られた石橋から先は全く影響を受けずに残っていた。石橋は中央から2/3程が溶け崩れ、マウンテリバーサイド側は人が1人立てるかどうかの幅が残り、ノースリバーサイド側は1/3近くが残ることとなったのだった…


夜間の警らで出歩く者は居たが、流石にノースリバーサイドを見て回る者は居らず、防衛用ゴーレムもメンテで最少人数しか配備してなかった為に深夜の暴虐には気付かず仕舞いだった…



- 翌日 -


「な…何だこりゃっ!?」


早朝の巡回でノースリバーサイドに用事があった者の第一声である。


「何が…橋が…落ちている!?」


50年間、1度として落ちなかった橋が落ちている。その事件はマウンテリバーサイドを駆け巡り、既に平民街と貴族街の境が不明瞭になった現在いま、橋の前に大勢の人間が押し寄せていた。尤も、貴族は領主の館に保護されている為、集まった者は平民しか居なかったがw


「えっと…」


偶々防衛用ゴーレムのメンテでマウンテリバー側に滞在していたザックが困惑顔で現れる。


「どうしたんですか?…って、あれ?」


大勢に囲まれて石橋が見えない状況に困惑し、背後からひょいっと担ぎ上げられ…肩車される。


「ちょおっ!?…って、モンブランか」


「はぁい♪マスター、お元気?」


相変わらずの細マッチョお姉戦士のモンブランだった。隣にはマロンが並んで立っている。


「あ、あぁ…有難う。で…って、何だこりゃっ!?」


肩車され、視線が高くなったザックの視線の先には、本来あるべきモノが一部無かった…


「石橋…叩いて渡ろうとして、叩き壊しちゃった?」


思わずマロンを見ながら訊くと、


「ちっ…んな訳無いだろ?」


と、面白くなさそうな顔でこちらに向かずにマロンが答える。


「お姉さまと一緒に昨晩は夜半まで外の見回りをして、その後は同室で休んだのでそんな暇は無かったですよ?」


アリバイをモンブランが証明する。身内が証明しても証拠とはならないが嘘を付く程には思考コアが育ってないモンブランのいうことだ。嘘は無いだろう…だとすれば、誰がこんなことをしたかだが…


「あれだけ強く防御結界を張ってたのに壊れるかなぁ…」


ポリポリと頬を掻きながらザックが呟く。だが、ザックの想定していたのは石橋の上、若しくは石橋に着地した状態で真正面からの攻撃に対する防御力だ。石橋の下側からの攻撃は想定外な訳で…空を飛ぶ魔物を想定していなかった訳だ。


どの道、破壊された石橋は失われ…外壁による防御力は失われてないが、マウンテリバーサイドとノースリバーサイド、両方の町を行き来する手段が失われてしまっていた。


「ん~…どうしたもんかな…」


流石にあれだけ大きい橋を架けた経験は無い。全長200m余の凡そ2/3が消えてしまっているのだ。単純に計算すれば133m程だが…50年もの過去にどのような建築技術を用いて深い渓谷の中、このような石橋を架けたのか…ザックですら想像が及ばない。


「はぁ…面倒臭いなぁ…」


ぶつぶつ呟くザックがモンブランに橋の前に移動してくれと頼む。


「はいマスター。あそこまで行けばいいのね?」


「あぁ…宜しく」


ずんずんと強引なまでに群集を押し退けて移動するモンブランにその後を付いて歩くマロン。押し退けられた民衆は


「痛っ!」


とか、


「何だ何だ?」


とか、迷惑顔だったが押し退けたモンブランと肩車されている人物を見ると、


「っと、何だ辺境伯さまか…」


や、


「痛てーな…ってバーサーk…じゃねぇ、姉御か」


など、文句をいおうとした面々が口を噤んでいた。中には失礼な呼び名をいおうとして睨まれていい直す者も居たがw(鎧姿なので細マッチョであの口調なので女性体と勘違いされてもしょうがないだろう…顔だけ見れば普通に可愛い系だし?w←マロンベースなので必然的にそうなってしまった…orz)



「さ、着いたわ。降ろす?」


「う、うん…」


しゃがみ込んで首を下げられ、ストっと着地するザック。そしてスクっと立ち上がるモンブラン。そんな自然な所作にモヤっとするザックだが…先に目の前のモノ破壊された石橋を何とかするのが先決だと思い考え込む。


(恐らくトンでもない加重が加わったかして壊されて、魔法攻撃で…高温の炎系魔法で溶かされた?…だろうなぁ…下見ても破片が殆ど見られないし…)


魔眼で見た範疇では魔法の残滓は火、若しくは炎系が僅かに残されてるように見える。だが、それだけで強引に溶かしたなら残されている橋の端も溶解してる筈だが、強引に叩き壊されたかのような壊れ方をしているように見える。斬られれば斬撃跡が見える筈だが…


(何か重い物をぶつけたか…下から引っ張ったかしてヒビが入って折れた?)


どちらにせよ、上から全力でへし折ろうと飛び込んでも質量攻撃は減衰されて破壊までには至らない筈だ。横や下から砲撃すれば可能かも知れないが、そこまで巨大な大砲など運び込もうとしても、渓谷は広いといっても風が常に吹くし安定して飛ばせるような空を飛ぶ手段が少ないこの世界では…ほぼほぼ無理だろう。大砲を運べる程に大型な魔物の鳥が居るとしても、例えばロック鳥などは大き過ぎて渓谷には入りきらないだろうし…


(いや、大砲以上の攻撃力と空を飛ぶ両方を兼ね備えている存在が居たな…レッドドラゴン)


だが、あのブレスは魔法効果で発現する代物で、攻撃魔法を解除する魔法陣も仕込まれていた。当たる前には解呪されてしまう筈だが…


(至近距離からなら効果が消える前にぶち当たるだろうけど…そもそも飛行するにも風系統の魔法を用いて飛ぶドラゴン種なら接近することもできないだろうし…)


再びブツブツと思考の沼に嵌るザックにツンツンと遠慮勝ちにつつくモンブラン。


「え?…あぁゴメン。じゃあ修復するか」


「え、いえいえ…って、え?」


軽いノリで修復すると宣言するザックに驚き目を軽く見開いて改めて顔を見直すモンブラン。


「え?…何か軽くいっちゃってるけど…って、え?マジ?」


「いやいやいや、流石にこりゃ無理でしょ…あんな長さの木なんて無いぜ?」


「だよなぁ…この近辺にゃあ樹齢千年を超える巨木なんて粗方切り倒されてるし…」


樹齢千年を超えてれば100mクラスの長さの木はあるらしい。だが、そんなものがあれば復興の為に使えという話しになるだろう。唯でさえ殆どの家屋は破壊されて瓦礫の山になっていたのだ。


「ま、いいか」


ストレージ内の錬金魔方陣を起動する。そして普段から溜め込んでいた普通の土を…と思ったが昨日処理し切れてない瓦礫があることに気付く。そう、残り凡そ884tもの瓦礫の山だ。木材の残骸と石材の残骸、その他諸々も含まれているが分解してしまえば関係ないだろう…ということで300t程を分解する。そして石橋の欠片を手に取って収納する。


(…うん?…見たことない成分だけど…まぁ猿真似すればいいかな)


名前だけ見れば「ノースリバーサイド・マウンテリバーサイドの架け橋(欠片)」とだけ表示されており、成分的には人工物…自然石ではないとある。だが、その主成分は細かく見た限りは瓦礫を分解して再現可能な範疇ではあった。


(ん~…でも、前と同じ状態で修復しても、また壊される可能性があるんだよね…)


ならば…と考えた結果。ド派手な過程に後ろのやじ馬たちが五月蠅かったが…後悔はしていない。



- やじ馬たちは見た…目の前の奇跡を!! -


「あれってさぁ…北の守護さまだろ?」


「しっ…守護じゃなくて辺境伯相当の身分って話だぞ?…下手なこといって首撥ねられても知らねーぞ」


「え…見た目は唯の子供だろ?…マジか…」


その瞬間、マロンとモンブランがチラと後ろを見る。


「「「!?」」」


いきなり体が勝手に身震いし、足がガタガタと震え出して落ち着かなくなるやじ馬たち。


「ほ、ほら…いわんこっちゃない…あの2人は専属の護衛だろ。それもトンでもなく強い…」


「い、今、チラっと見ただけだろ…何なんだ…あの殺気は…」


「視線だけで殺されそうだな…まさに死線」


ふと、ざわざわと騒ぎだす周囲の者たち。何だ?…と目をやると…


「え…橋が…完全に消えちまった?」


「マジか…」


「誰か橋をぶった切ったとか?」


「いや…突然消えちまった…って、あれ?」


「まさか…どんな大魔法使い様だよ…って」


「橋が…元通りになった?」


やじ馬たちの目前でいきなり橋の残存部分が消失し、そして数秒後には元のままの石橋が出現していた。ザックたちは何するでもなく同じ場所に棒立ちのままであり、寧ろドタバタと慌てているやじ馬たちの方が動いているだろう!w


「俺たちゃあ…奇跡を見たってのか?」


「神の御業みわざかも知れんぜ?」


「馬鹿…どっちも同じことだろ?」


「「「そうかもな…」」」


どちらにせよ、一生に1度見られるかどうか…そんな衝撃的なモノを見たやじ馬たちであった!



「復興作業が進んでるって?」


「えぇ…奇跡を見たって人限定ですが」


「ふ~ん…あぁ、あの時あそこに居た人たちか…」


朝、橋を架け直した時のことだ。時間が無かったのでやじ馬たちを下がらせてから橋の架け直しをしなかったのだが…結果としてはいい影響があったらしい。コナンからそう報告があって、こんなことがあったんだと説明するザック。


「左様でしたか…ですが、きちんと報告していただかないと…」


「あ、あぁごめん…でもさ…」


「デモもストライキもありません!」


結局、あの後はほぼ魔力を使い切って気絶してしまった為、マロンとモンブランに北のお屋敷ザック邸に送って貰い朝っぱらから寝る羽目に遭ったのだ…2人はロクに報告もせずに警らの仕事に戻ってしまった為、目覚めてから食事をしてコナンに報告を受けたタイミングで何があったか説明を…といった訳だ。


「…まぁ今回のことは仕方無いですが、責任のある立場なのです。今後は気を付けて頂かないと…」


「う、うん。わかった…今後は気を付けるよ…」


そう謝罪してからコナンの頭に生えた角はようやく引っ込んだのだった…(苦笑)


━━━━━━━━━━━━━━━

牙も生えてたかも知れませんw


備考:橋の修繕…建築費として領主から報酬が支払われるそうだが…現状としては報告が行ってどうするかと話し合いの真っ最中だという(領主の年間予算がゴリゴリ減って行く罠w)

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