侵攻

18 その1 ~マウンテリバー、魔族の侵攻を受ける!…その1~

ノースリバーサイドでダークエルフたちの居留地を整備するザック。そしてマウンテリバーサイドではダンジョンの異変を調べる為に探索者と冒険者の混成部隊を編成して派遣していた…だが、第5階層で再びドラゴンの脅威が現れたことを知ることになる。たった1人生き残り、帰還した斥候が伝えた真実に、マウンテリバーサイド・両ギルド上層部は恐怖するのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 両ギルド上層部、本部へ打診する… -


「…このまま話し合っても意味は無い。唯、時間を浪費するだけだ…」


「そう…だな」


あれから数時間が経過…宵の口だが既に就寝していた両ギルドの上層部全員が叩き起こされ、合同で今後の方針を話し合う…という名目で探索者・冒険者両ギルドの幹部連中と領主の執事が顔を合わせて(領主は不参加)会議をしていた訳だが…


「どうでも良くは無いが…領主はどうしたんだ?」


と探索者ギルド・ギルド長が領主の執事に訊くと、


「具合が悪いということでお休み頂いている」


と表情を変えずに返す。


「そうか…」


過去にあった事件を思い出し、未だに過労で寝臥せってるのかと思う探索者ギルド・ギルド長。冒険者ギルド・ギルド長は(軟弱な…)と憤慨していたが声に出すことはなかった。



結果としては両ギルドの本部に救援要請と王国の首都…王都への増援要請を行うというものに決定した。ダンジョン階層を隔てる障壁を破壊はできないものの、少なくとも壁を溶かして掘り進んで階層移動をする存在…複数のレッドドラゴンが居り、それが第5階層から第4階層まで上がって来ていることは事実だ。第1~5階層の内、第3階層以外は洞窟構造の為にあの巨体では進むのに時間が掛かるだろうが…それも時間の問題だろう。


「今すぐに救援要請を出しても…」


「あぁ。恐らくはとてもじゃないが間に合わんだろうな…」


そう話す両ギルドのギルド長。領主執事はそんなこともあろうかと、出頭要請が来た時点で王都へその旨の手紙をしたためて出してある。どうせ時間が掛かるだけ掛かった後、そう決定付けられるだろうと予想してだが…残念ながら両ギルドの本部には要請としては出せない。依って、ランクA以上の冒険者を集められるだけかき集めてくれと緊急依頼の形で出してある。


本来であればレッドドラゴンのような脅威度AのモンスターはランクAのパーティを最低でも3つで相対するものだ。防御・攪乱・攻撃の役割に分け、更に回復役の者が居ると安定して戦えるが…教会の治癒者ヒーラー聖職者プリーストなどは王都に手紙を送ったからといってホイホイと出張って来る訳ではない。そして大抵の場合は「お布施」をまず要求され、こちらが高額と思えるお布施を収めたとしても僻地であるこの地マウンテリバーに派遣されてくるのはせいぜい最底辺のヒーラーと同行者1~2名程度だろう。中央の彼らはこの地を護ることの意味を知らず、また突破されてしまった場合…どのような結末を迎えるかなど、興味は無いのだろう。結果として自身の首を絞めることになるのだが、知った時は既に遅く…余程の対抗戦力を持ってなければ滅びるしかないということに。


(…とはいえ、聞いた話しで完全に信じている訳ではないのだが…)


何しろ、マウンテリバーの北…ノースリバーサイドの最外壁の外は山で囲われているだけで移動しようと思えば山を越えて人里に降りることは可能のように見える。どうしてノースリバーサイドやマウンテリバーサイドで魔物や魔族たちを防ぐことができているのか…そこまで掘り下げた詳しいことは聞いてないのだ。


(これは年貢の納め時かも知れませんな…)


執事は此処からでは見えない北の方角を見据え、強化魔法を扱える魔法使いを手配できないかと考えを巡らすのだった…



- 案内役の仕事を終えたゴーレム軍団、その後… -


「あ~…仕事が無いか、だって?」


オリジナルコアの持ち主。統括個体の「ナル」の言葉だ。要はダークエルフたちの居留地への案内の為に生み出したはいいがそれ以降は特に仕事らしい仕事はなく。取り敢えずダークエルフたちの住環境の構築補佐を頼んでいたのだが…それもほぼやり終えたという。


(とんでもなく高性能なの創っちゃったなぁ…)


ザックは「たはは…」と苦笑いを浮かべて「次の仕事か…」と考えるが、すぐには思い浮かばない。ナルがいうには、ダークエルフたちのフォローにはサブリーダーコアを持つ個体も1~2体と平ゴーレムたちが10体も居れば問題無いらしい。尚、オリジナルコアを持つ個体…まぁこの子なんだが、自ら「ナル」と名前を付けてくれと頼んでくるわ常時ベタベタいちゃついてくるわで、リコ皇女の堪忍袋の緒が切れまくってる始末で…当の彼女は怒り疲れたのか所詮ゴーレムと気付いたのかは知らないが、現在絶賛不貞寝ふてね中である…w


(女心はわからん…)


16歳の子供(何度もいうが、一応成人年齢であるw)どころか爺さんな年齢になっても永遠にわからないのが女心だが…それは兎も角、折角量産した人型ゴーレムだ。力仕事を任せてもいいし、人にできることなら関連情報を教え込めやり方をインストールすれば大抵のことはこなしてくれるだろう…但し、魔術コアは入れてないので魔法が必要な作業は無理だが。現在可能な魔術は、せいぜい仲間同士で念話に依る意思疎通ができる程度だ…ザックはそれ程特殊な作業をさせるつもりはなかった為、極々基本的な機能しか付与しなかったのだ。だが、平やサブリーダーから上がって来る様々な情報を統括管理している統括個体であるナルには人間の心のようなモノができつつあるらしい…それは直接ザックと接しているレムやシャーリーにもいえることかも知れないが…



「え?…もっかいいってくれないか?」


執事コナンから伝えられた話しが信じられなく、ザックは耳がおかしくなったかと思い…聞き返すが、再び伝えられた内容に一切聞き間違いは無かった…


「それは…本当…なのか?」


「ええ、私どもも信じたくはありませんが…真実本当のことです」


マウンテリバーが魔物どもの侵攻を受けている。町には非戦闘員一般人が多く、戦闘力が低めだが護衛程度には役に立つ探索者たちが避難誘導をしているらしい。そして現有戦力冒険者・衛兵で防衛しているが劣勢も劣勢。吹っ飛ばされたり攻撃が勢い余って家屋が壊されたりして町がめちゃめちゃなんだそうだ…


「はぁ…で、マロンは?」


「ご想像の通り、です」


「さいですか…」


コナンと2人して俯いて吐息を「はぁ」と吐く。恐らく、嬉々として侵攻して来た魔物や魔族なんかと暴れてるんだろうな…と容易に想像がつく。もし、器物損壊の賠償を求められた場合、大赤字で屋敷の運営が傾くどころかザック自身がどうなるか…などとウツになりそうな事案だなと落ち込んでいた所へ女神の救いの手が差し伸べられる。


「マスター…大丈夫です。もし、町が壊滅的な状況に陥っても私たちが居ます!」


ナルだ。その背後にはいつの間にか集まっていた総勢29体…否、29人の彼女たちが勢揃いし、こくりと力強く頷いている。


「人は治せませんが…建造物なら私たちで修復、建て直しができます。勿論、進んで壊せとは申しませんが…止む無く破壊してしまっても…安心して下さい。私たちが支えます!」


まだ生まれたばかりで所々言葉が足りないが、とても心強い仲間たちがそこに居た。ザックはゆっくりと振り返り、そして両手をナルに伸ばし…握手をする。


「ありがとう…」


「いえ…マスターのお役に立てるならこれくらい…」


「はい、そこぉっ!いちいちイチャイチャしない!!」


いつの間にか起きて来たリコ皇女がしゅうとめの如く突っ込むw


「べっ…別にいちゃついてないでしょ!?」


と反論するが、眼の圧で黙らされる。流石皇女…目は口程に物を言うとはよくいったもので、無言の圧力で反論を許さなかった!w


「…ま、それはいいわ。町の方がヤバイんでしょ?」


「あぁ、まぁ…」


「民たちは戦闘の役には余り立たないし…戦闘部隊の者どももまだ癒えてないし…」


流石にたもとわかったとはいえ、すぐ敵対しろというのも酷よね…とぶつぶつと呟くリコ皇女。本人は小さくささやいてるつもりだろうが、目の前のザックには丸聞こえなのだが…(苦笑)


「それなら、居留地付近の森から木材を伐採。岩場から石材を切削。粘土層があれば掘っておいて貰えませんか?」


ザックがそういうと、


「…家屋の素材、ですか?」


リコ皇女が聞き返すとこくりと頷くザック。


「…わかりました。例の馬車の中に運び込んでおけば宜しいですね?」


頷くと、そのまま駆け出す彼女。本来なら居留地のダークエルフ城で過ごしていて貰いたいのだが…毎日のようにお屋敷ザック邸に遊びに来ていたのだw…急報を受け、自らの役割を与えられた彼女は…ダークエルフたちは此れから忙しくなるだろう。だが、漫然と毎日を過ごすよりはお役目が在った方が生活に張りがあるというもの。


「宜しくね?」


既に目前には居ないが、ザックはそう呟く。そして勢揃いしたゴーレムたちに振り返ると1つ頷く。


「…お任せを」


ナルがそう口にし、それを合図にサブリーダーたちが先頭に歩き出す。平ゴーレムはそれに続き、ザック邸を出てからノースリバーサイド全域へと散らばって行った。特に命令は与えてないが、ナルが先程いった…戦後復興のお役目を実行すべく、建材の確保に動き出したんだろう。


「そういや、平たちはせいぜい人間程度の力しか無い筈だけど…」


役に立つんだろうか?…そう思っていると、


「大丈夫ですよ?」


と、ナルが腕に引っ付いてベタベタするのだった(苦笑)


━━━━━━━━━━━━━━━

統制個体の性能アップと共にサブ・平個体も躯体性能が微増するので当初よりも高性能化してるのだが創造主のザックは気付いてなかったりしますw(これが全く感情が無い機械的ゴーレムなら変化は無い…故にレムとシャーリーも当初より各躯体の性能は好感度上昇と共に上昇していたりします)



備考:ザック本人が気付かない内に忠誠心マックスになった上に好感度と愛情度が天元突破してそうなオリジナルコア統制個体「ナル」だったw(ヤンデレになる予定は一切ありません…えぇ、ありませんとも!…すげー嘘臭いw)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る