04 その4 ~嵐の前の静けさ的な?~

深い渓谷から這い出たレッドドラゴンの群れ7体の内、ザックの設置した特殊結界で魔力欠乏に陥れて6体を深い渓谷に叩き落し(比喩)、最後の1体をマロンが首チョンパで斃した。

━━━━━━━━━━━━━━━


- 探索者ギルド -


「な…何ていいました?…申し訳ありませんがもう1度お願いできますか?」


探索者ギルドの受付嬢(リンシャでもサンディでもない別の人)がマロンに向かって訊く。


「耳が悪いのか?…医者に掛かった方がいいと思うが…」


マロンが「ふむ…」といいながら一考してから諭すようにいうが…


「いえ!…えと、耳が悪いんじゃなくてですね…」


「ふむ…赤いトビトカゲを仕留めた。査定をしてくれ」


再び同じ言葉を放つマロンに言葉を失う受付嬢の背後からヒソヒソと小声が聞こえてくる。


「…赤いトビトカゲって…」


「…レッドドラゴンじゃないの?」


「…ほら、先日見張りの塔から連絡のあった」


マロンは見たまんまで「赤いトビトカゲ」と思っていたが、聞こえてきた言葉に(あれは「レッドドラゴン」という名前の生き物なのか…)と認識する。人類の生息域には殆ど姿を現さない幻獣の一種なので、勉強して知識を得た以外の者が知らないのは無理は無い…が、その不勉強さもパトリシアから追い出された材料の1つなのかも知れない(苦笑)



「えと…査定しました所、こんな感じになりました…」


「ふむ?」


差し出された書類にはこう書かれてあった。



【レッドドラゴン(仮)査定書】

---------------

過去に類を見ない個体レッドドラゴンの為、王都のオークションに掛けてその落札額から手数料(徴税+輸送料+オークション手数料など)を引いた額を支払う…王都への輸送に日数が掛かる為、最低でも2箇月は掛かるが少なくとも大金貨か更に上の白金貨相当の収入が見込める

◎すぐに収入が欲しい者向けに、個体毎の最低討伐報酬を…といいたい所だが、何しろ過去に討伐例が無い個体の為、現在協議中。少なくとも1週間は待って欲しい

※過去に討伐された記録を調べた所、レッサ-ドラゴンやワイバーンなどの竜種か亜竜種が50年前にあっただけだった。それ以前に見たとされ、存在だけは記録があったが討伐の記録はそれだけだった

---------------



「ふむ…では、あるじに相談をしてくる」


マロンは自分だけでは判断できないと考え、それだけいうときびすを返して探索者ギルドを出て行くのだった。


「え…と、では報酬の件は保留ということで?」


受付嬢の言葉に足を止めマロンは軽く振り返ると頷き、再び外へと歩き出すのだった。そしてマロンが見えなくなってからあちこちから囁くように声が聞こえてくる。


「…やってることってぶっきらぼうな冒険者に見えるけどさぁ~…」


「マロンちゃん、見た目だけは可愛いんだよな…」


「ギャップ萌え?」


「おい…それ、彼女の前でいうなよ?…半殺しにされるからな?」


「可愛いってこと?」


「ギャップ萌え?」


「どっちもだ…本人は漢らしい恰好いいって思ってかあんな態度を取ってるみたいだからな…」


「「ふぅ~ん…」」


「な、何だよ?」


「お前、マロンちゃんのストーカー?」


「…んな訳ないだろ!」


「あぁ…以前大怪我したのって…ププー!」


…などと酒場から段々と大声になって喧嘩を始める暇そうな探索者たち。今日も平和だな…と思った受付嬢は溜息を吐く。


「…まぁ、マロンさんが居る限りは、平和なのか…な?」


と思えるくらいには…



- ザック邸 -


「主」


「ん?…あぁ、報酬貰いに行ったんだっけ。幾らくらいになった?」


懐から(胸元ともいう)査定結果の書類を取り出して手渡すマロン。ザックが慌ててそっぽを向くが、年相応以上に育った胸がぽよよんと揺れている事実は変えようが無かった!w


「あ、あぁ…なになに…え?」


査定結果というよりは中間報告というか選択を迫っているような文章に驚くザック。最後の注釈にも驚いたが…


(レッサードラゴンなら討伐記録があるのかぁ~…)


流石に報酬が幾らとまでは書いてないが。ワイバーン翼竜も討伐記録があるとだけでそちらにも報酬額が記載が無い。


(う~ん…王都にオークションねぇ。何か悪目立ちしそうだしギルドで即金で討伐報酬貰った方が良さそうだよなぁ…幾ら安くなるっても金貨で数百枚は貰えるだろうし?)


但し、その場合は探索者ギルドの金庫に報酬がそれだけあればという前提になる為、探索者ギルドの本部から送金されてくるのを待たねばならないだろう。若しくはギルドの口座に預け入れるとしても、振り込まれるのはその場でできても現在の口座残高以上に必要になった場合、送金されて来るには矢張り何箇月か掛かる訳だが…


(う~ん…なら、匿名でオークションに掛けられるならそっちの方がいいかな?…最悪、マロンの名前で出せばいいか。討伐したの、こいつだし…)


黙って考え込むザックの目前で佇んでいるマロン。ジト目でマロンに視線を向けるザックに、マロンは首を傾げるだけだったが…


(くっそぉ~…黙ってれば可愛いケモミミ娘めぇ~…)


と、苦悩を隠しながらマロンの魅力に人知れずPRPRぷるぷるするザックであったw


尚、オークションに踏み切ったのには、ここ暫くマロンがダンジョンの第1~9階層で掃除と称したストレス解消で魔物を殲滅しまくって得たドロップ品の売却で探索者ギルドが火の車(本部からの送金が間に合ってない)と直接聞かされたこともある。ここでレッドドラゴンの討伐報奨金を即金で!…などといってしまえば、本気で潰れかねないな…と思ったのも事実。


「じゃあ、王都でのオークションに掛けてくれと伝えておいてくれるか?」


「了解」


踵を返して歩き出そうとするマロンに慌てて声を掛ける。


「ああ!…それとね」


「む?」


「暫く自重して?…ダンジョンの掃除」


ずがぁ~~~ん!!!…とショックを受けたマロン。耳がぺたんと垂れてしまい、


「…ぜ、善処する」


と、何処ぞのお偉いさんがいうような台詞を残し、黄昏たそがれた雰囲気でマウンテリバーサイドへと向かうのだった…(苦笑)


「はぁ…探索者ギルドを潰す勢いでドロップ品拾ってくるんだもんなぁ」


いっその事、まだ儲かってるであろう冒険者ギルドに籍を移した方がいいのかもな?…という考えも浮かぶが、


「…ま、本気で探索者ギルドがヤバクなったら考えればいっか…」


と思うザックだった。


「あ、そうだ。修復を頼まれてたんだっけ…」


自室に戻った時に机の上に無造作に置かれた2振りの刀…といっても1つ1つはそれ程長くなく60cm前後。鍛えてない人では持って振り回すだけで息が上がってしまうが鍛え抜いた訓練された人なら問題無く使い熟せるだろうがドラゴンの首を叩き斬るなんて芸当ができるのはマロンくらいだろう。少なくともマウンテリバーに居る冒険者や探索者の中では…


「さて、どんなもんかな…あ~、ひび入ってるなぁ…」


一応強化処置は施してあったが素材がこの近辺で採れる金属…鉄を鍛えた鋼鉄だった為、流石にドラゴンの鱗を攻撃した衝撃に耐えきれなかったようだ。しょっちゅうダンジョンに行くマロンの為に創った双刀だったのだが、無いとは思うが盗まれたり無くしたりすると


「何処から得た業物なのか!?」


…とか、


「屋敷にはまだ同じような物があるかも知れない…」


と盗みに入られても困る為、材質は普遍的に存在するがそこそこ品質のいい武器の素材として採用されている鋼鉄製にしてあったのだ。


「…まぁ耐久値再生デュラビリティ・リペアーで修復すりゃいっか…」


そうすれば破損する直前まで戻る。失敗しても全耐久値の10%下がって残り90%になる訳だが…そもそも今の所は失敗してないし、仮に失敗した所で問題は少ないだろう…


(幾ら何でも、またすぐドラゴンが襲って来るとも限らないし…)


だが念の為、以前より強力な攻撃向上と頑丈向上の付与を施し、ついでに予備の武器もこさえておく。


(そーいえば如意棒…といったっけ?…伝説級の武器を持ってたと思うんだけど…)


少し考え込み、


(あぁ…確か「返せといわれたから返却した」っていったんだっけ…まぁそうだよな。伝説級の武器を貸与したまま首にしたりする訳ないもんな…)


先日、パトリシアの使いと称した使用人らしき男が現れたんだが、そういうことだったかとザックは納得した。そして修復した双刀と予備の同性能の双刀を鞘から抜いて振り回す。


ぴゅぴゅん、ぴゅん…ぴゅっ!


空気を切り裂く音が部屋中に響き渡り、最後に


ちゃきん


と鞘に納める。


「両方これなら大丈夫だろう…」


マロンが戻ったら渡せるように持っていようかと思ったが…


「書き置きして此処に置いといた方がいいかな?」


と、メモを用意して2セットの双刀を机の上に置く。一応、僕とマロン。それに彼女が許可した者しか持ち去ることはできない筈だから放置しておいても大丈夫だろう…という訳で机の上に置いておいた。え?…僕が許可した者は持てないのかだって?…そりゃあマロンしか許可してないから今の所はマロンだけだね。双刀の使い手は今の所、彼女しか知らないしね…



- 某所 -


暗い洞窟らしい場所、沢山の気配がする中で2体の存在が唸っている…


〈GRRRR…〉『失敗か…』


〈GYAO…〉『は…』


〈GRRRR…GuaU!〉『すぐに次策を…封印が緩んだ今が好機だ!』


〈GYAU!〉『御意!』


魔族の勢力と思いきや、どうやら功を焦って玉砕した竜種たちの拠点だった模様…マロンにトビトカゲ扱いされてる限り、次策も何も…返り討ちに遭いそうだと思うのは気のせいだろうか?



- トレハンチーム、遠征する -


「え…王都にですか?」


「あぁ。お前らの雇い主の依頼でな。王都まで荷の護衛を頼んでも別に構わんのだろう?」


「え~…まぁ。一言いえば大丈夫だと思いますが…」


「じゃあ宜しく頼む。何、別に隷属の契約してないなら往復2箇月の遠征は問題無い筈だ」


「本当ですか?」


…という訳で、一応奴隷商会に確認してからザックに依頼で王都へ荷の護衛ということで旅立つトレハンチームの4人だった。


━━━━━━━━━━━━━━━

ダンジョンはマロンのせいで活動範囲第1~9階層の魔物がすっかり鳴りを潜めてしまい探索者たちが廃業の危機へ!…という訳でザックがマロンに自重を促し、多くの探索者は魔物の討伐よりダンジョン内に生えている薬草や鉱物資源の採取に移行し、若しくは地上の町周辺の資源採取をしている模様。そんな中、トレハンチームは荷物ドラゴンの遺体の輸送護衛任務に!…以前は戦闘力が貧弱過ぎて護衛任務など任せられてなかったのですが、大抜擢といえるでSHOW!



備考:

探索者ギルド預け入れ金:

 金貨712枚、銀貨802枚、銅貨1667枚(尚、両替を希望しなければ貨幣単位で加算される一方となる)

ストレージ内のお金:

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

総額(両替した場合の額):

 金貨1015枚 銀貨25枚 銅貨28枚

屋敷の備蓄額:

 金貨2063枚、銀貨55枚(変化なし)

 ミスリルインゴット30kg(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクB

本日の収穫:

 特になし

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