第3章 迫り来る危機

前兆

01 その1 ~マロン服を求めて(いや、彼女の着ている服と同様の頑丈な服をだ)~

マウンテリバーダンジョン。いつから存在していたのか誰もわからない。唯、魔族侵攻を防ぎ、ノースリバーサイドの大城壁が完成した頃には既にあったといわれている。戦いに長けた者たちが調査をし、中は地上とは別のことわりが働いていること。様々な魔物が跋扈していること。倒しても倒しても、一定の期間が経過すると似通った魔物が再発生すること。何より…魔物は斃すとちりに還り、ドロップ品と呼ばれる代物を落とし、持ち帰れば財を成せることがわかり…荒くれ者が集まることとなり、マウンテリバーの町は一時的にだが無法者の巣窟となった。領主はこのままではいけないと悟り、国に嘆願書を出すこととなる…画して、探索者ギルドの設立が行われ、また冒険者ギルドもやや遅れて設立が成された。荒くれ者たちをやや緩くはあるが規律で纏め上げ、その戦闘力は落とさずにダンジョン攻略を進める為に…。そして、北からの侵攻に備える為に…

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- 半世紀を経た大侵攻の兆し… -


「あ、マロンお帰り~。今日は早いね?」


慌ただしく正面玄関を開けたマロンが息急きって屋敷へと入って来た。偶々ロビーに居たザックはマロンにおかえりをいうが、その様子がおかしいことに気付く。


「…何かあった??」


あるじ…ダンジョンの深部で何か良くないことが起きている可能性が…」


どぅん…!


そこまでマロンが口にした途端、地響きが伝わって来た。ダンジョンが存在するのはマウンテリバーサイドなのにだ。深い渓谷を挟んでいる為、例え地下で何かがあってもここまで響いてくることはない。


「ひょっとして、渓谷より深い場所で何かが…?」


「かも知れない」


地理的には第26階層の存在する深さは渓谷より深いだろう。そこで何かが暴れていれば…伝わってくるかも知れない。そんなやり取りをしていると、再び正面玄関のドアが開けられる。


「…って誰?」


そろそろ門番とか雇った方がいいかなと思案するザック。実の所、屋敷の外と中を繋ぐ門はあるのだが誰でも開け閉めできる状態なので玄関まで通り放題なのだ。門番が居ない為に誰も留める者が居ない訳で…


「失礼する。私は探索者ギルドの者で…」


「冒険者ギルドの者だ。ザック氏はいらっしゃるだろうか?」


と、ほぼ同時に2名のおっさんが居丈高に口上を上げ、互いに顔を睨んで


「「ふんっ!!」」


と背けていた。


(…何なの、この仲が悪いおっさんたちは…)


と、困った顔をするザック。


「え、えーと…探索者ギルドの方と冒険者ギルドの方ですか…どういった御用で?」


どう対処していいかわからないので、なるべく失礼の無い喋り方で質問する。一応新人ではあるが貴族なのでもう少しぞんざいな喋り方でもいいのだろうが…いきなりなのでやや下手に出てしまったのかも知れない。


「「おお、御子息ですかな。…御当主は居られますかな?」」


一字一句同じ台詞を吐くと、再び顔を見て背ける2人に、


(コントか何かかな?)


と、矢張り困り顔になるザックだが…


「御当主はこちらに御座います…」


と、執事のコナンがいつの間にか現れ、ザックを当主だと説明する。2人はややショックを受けていたがすぐに我を取り戻して懐から書簡を取り出し、コナンへと手渡す。恐らくは上の者から若い当主だからと説明でも受けていたのだろう。まさか子供とは思わなかったのだろうが…(見た目は子供だけど16歳なので成人していますw)



「…帰りましたな」


「はぁ…何かドッと疲れたよ。中身はなんて?」


2通の書簡を開いて速読でもしてるかのような速度で読み終えるコナン。


「…そうですね。簡単にいうならば…」


「えぇ~っ!?」


じろり、とマロンを睨むザック。マロンはいきなり見詰められてそっぽを向く。ケモミミがやや赤いのは気のせいではないだろう!w


「きっ…着替えてくるっ!!」


と、ダッシュで廊下を駆け抜けるマロン。


「ほっほっほ…」


意味深な微笑みを向けるコナンだが、


「多分、マロンのせいだろうなぁ…ったく」


ここの所、マロンはストレス解消…いや、1~9階層の掃除と称して毎日のようにダンジョンに潜っている。その間、彼女の着ているメイド服は汚れはするものの破損したことがない。大抵は敵に攻撃を受けずとも殲滅するのだが、矢張り疲労してくれば油断も生じるし、隙を突かれて被弾することもある。そんな場面を少ないだろうが、他の探索者や冒険者たちに目撃されてるのだろう。そして…


「彼女の服は、攻撃を受けているのに…何故破損しないのか?」


と思うのだろう。確かに口止めはしてないから、恐らく彼女は嬉々としてこう答えたのだろう…


「主に作って貰った」


…と。そして、噂は広まる…


「ノースリバーサイドの屋敷の当主は、頑丈な衣服を造る才能がある」


…と。


「…ったくもう。面倒なことをしてくれちゃってさぁ~…」


「そうですな…」


見せて貰った書簡には、


「頑丈な衣服を作っていることは真実なのか?」


…という質問と、


「本当ならば作って欲しい」


の2つが書かれていた(かなり大雑把に纏めればそんな内容)


「どうする、これ?」


「素材持ち込み、支払えない額を請求すれば諦めるかも知れませんな?」


いやどうだろう?…と思うザック。創るにしても、天然物には存在しない疑似ミスリルと疑似オリハルコンを繊維状にして糸にし、濃縮魔石を砕いて細かい粉にして糸として紡いだ疑似ミスリル+疑似オリハルコンに染み込ませてから直接服の形に成型する。本当なら布にしてから型紙に沿って切断して…とやるんだけど、普通の針が通らないので直接創るしか無い訳で…


「マロンのと同じのを創るにしても、2日で10着くらいが限界だし…何にしても素材を用意できないなら創れないのと同じことだからなぁ…」


普通の金持ちが大量のミスリルやオリハルコンなんて用意できないと思う。国の王だって用意するのに何10年掛けても僅かな量しか確保できないんじゃないかな?…何しろ、マロンのメイド服を1着創るのにそれぞれ鉱石レベルで10kgづつ。精錬して1kgづつは必要だからねぇ…。普通にミスリル1kg用意するんだって相当な金額を積まないと用意できないと思うし、オリハルコンだと1g用意するんだって大変なんじゃないかなぁ~…


(鉱山の傍ならそうでもないんだろうけどね…取り敢えず掘れば出てくる訳だし…純度の問題もあるけど)


そんな訳で、オリハルコンは隠すとして(じゃあ何でメイド如きにんな一杯無駄使いしたんだっ!?…って逆ギレされても困るし)ミスリルインゴットを5kg用意できるならという前提で引き受けることにした。作成する手数料?…1着につき、金貨500枚くらいでと吹っかけてみたんだけど…(流石に大金貨1枚とかいう無茶は控えておいたw)


「わしが買う!」


「いや俺に!」


「是非この私に!」


…と、大絶賛でした。主に大商人とかランクの高い冒険者とか爵位の高い貴族とか…多分、身を護る為の衣服として買うんだろうね…どの人種も危険から身を遠ざけたいだろうし。



結局、最初に名乗り出た3名限定ってことで、デザイン案は自分から出すと(冒険者はお任せだったけど)いうことで2名はそれまで待つことになり、先に冒険者の内着としてミスリル服(僕じゃなくて誰かがそういってたのでそのまま採用。マロンのミスリルオリハルコン合成服よりは防護の能力は落ちるけどね)を創ることに…取り敢えず、


「ミスリルインゴットは少し待って欲しい」


というので待つことに。大体1週間とかいってたかな?…んで1週間後に持って来たので創り始める(振り。既にできてるので)…代金は前金で半額貰って、大体1週間後に


「できましたよ」


といって来て貰い、何処かおかしくないか試着して貰った(オートフィット機能があるんで装備した瞬間に現在の体形より少々ダブついた状態で固定されるけどね。激しく動くだろうからピッタリだと色々困るだろうし)…結果は問題無いと。最後にその上から普段装備してる鎧と武器を装備して貰ってちゃんと防護機能が働くかテスト。結果…


「これ、鎧要らないんじゃね?」


と、鎧を脱いで再度テスト。結果…


「やっぱり鎧要らねーわ!」


とご本人は痛く満足してたんだけど、仲間が不安がるので一応鎧は着て貰うことに…まぁ、重量軽減効果もついでに付与してたのでどっちでもいいんだけどね。金属鎧を着てても大体半分くらいになると思う(装備してる防具限定なので重量武器を装備してもそちらは変化無し)

※鎧下の衣類なので見た目は丸首シャツって感じなのでどう見ても防御力無しにしか見えないっていう…いやぁどーせ外から見えないならデザインはどーでもいいかなと思った次第で…(苦笑)ちなみに、●防護能力は金属鎧の5倍くらい(マロン服の半分)、●自動洗浄機能付与(汗を幾らかいてもいつも爽やか)、●防護フィールド展開機能付与(戦闘時に本人から半径1mくらいに展開。直接攻撃はやや抑えて遠距離攻撃は逸らすか弾く。寒暖毒などの状態異常は自動展開して無効化、或いは効果半減程度に抑える)、●敵意察知能力付与(半径50m程度に敵意を持つ者が接近すると本人にしか聞こえない音で報せる)、●即死無効化(但し1度だけ。即死判定が出ると破損して他機能が半減低下し、即死無効化機能は喪われる)などなど…。ちなみに教えてるのは防護能力を控えめにと自動洗浄機能しか教えてない。他にも幾つかあるけど教えませんとして、仮にわかっても他言無用と伝えておいた。吹聴するなら売らないし前金も返しませんよ?…といったら「ぐぬぬ…」と唸ってから渋々了承していたけどね…殆ど神器レベルの付与機能過多だから秘密は守って貰わないとねw



冒険者さん(恐らくランクSとかそんくらいの人)に鎧下シャツ(と本人が呼称してたんでそのまま採用)を売って後金の金貨を受け取った後、「俺にも売ってくれ!」と冒険者たちが集まって来たけど、必要なミスリルの量と代金を説明したらすごすごと去って行く者と逆ギレして脅してくる荒くれ者の2つに別れた。けど、マロンが殺気を駄々洩れにして睨んでたら怯んで去ってった。脅せば何でも通ると思ったのかねぇ…(暴力で通そうとすれば暴力に屈するとはこのことだね!)


で、デザインが上がったとかで大商人と貴族の2人が後日再び現れたのでデザイン画を拝見したんだけど…


「本当にこれで作るんですか?」


と確認した所、それでいいと…はぁ。


「これ、一番外側に着込むんですよね?」


と再確認した所、「うむ!」と大きく頷いてたので…まぁ趣味は人それぞれだしね。


「では、1箇月後くらいに」


と伝えると、


「1箇月後にまた来る」


といい残して2人は去ってった…いや、この程度なら1日かかんないけどね。どーせ危険な冒険に出る訳でもないだろうから防護能力UPと防護フィールド展開機能と即死無効化の3つを付与しとけばいいだろうし…(これだけでも、剣や矢で刺されても防ぐし毒を蒔かれても無効化する。流石に瓶に入れた毒を直接飲めば影響が出るけど、コップに入れた毒入りの飲料などはフィールド内に置いとけば数秒で無効化するので毒殺は難しくなる。即死は…例えば乗っている馬車を崖から落とされて死んじゃうとか、心臓を一突きで殺されちゃうとか。流石に心臓にずっと貫かれたままだと無理だけど、引き抜いて貰えれば蘇生させて死んだことを無かったことにできるというもの。後は爆発で全身バラバラとかは流石に無理…体を分断するような死に方も同様に無理かな?…首から上が無い体では蘇生もクソも無いし?)


…あ、効果維持時間は魔法効果を発揮してる時間が連続で1箇月程。着てなければ発揮しないので普段ずっと着用はお勧めしないと。まぁ寝てる間も危険が続く…なんてのは冒険者が冒険に出てる間くらいだろうけどね。勿論、使い捨てなんて金貨500枚の魔導具では考えられないだろうから、魔力操作のスキルを持ってる人に頼めば埋め込まれてる魔石に魔力の充填は可能。大体500回までで充填する度に連続使用時間は僅かづつ減って行くと思う(魔石の劣化現象)魔力満タンにするのにランクBくらいの魔法使いの人の魔力10回分くらい(平均値)かな?…ぶっ倒れるまで充填すれば、だけど。それやると寿命減っちゃうと思うので無理はさせない方が吉(訓練中でやりたいっていってるなら止めないけど…魔力最大値上げるには限界まで使用するしかないからねぇ)予想される最大限界使用期間は…450箇月くらい。37年と半年って所かな。無理しないように計画的に使えばもっともつと思う。大事に使えば、それこそ100年とかね?


(使ってる金属がミスリルだから、金属繊維の劣化を考えるともう少しもちそうだけどね…)


ちなみに疑似ミスリルと疑似オリハルコンを使用したマロン服はもっともつ。あれには魔力の自動回復・自動修復魔法陣も組み込んでるのでそれこそ永久機関ともいえる…が、マロンは知らない。そんな神器ともいえるメイド服を10着も貸与されているとは…w


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金持ち相手の殿様商売をしている!…と噂が立ち、悪口をいわれ放題ですがw ザックの狙い目としては、「これで人が去って五月蝿くならなければいいな」…というものです。アーティファクトレベルの衣服がばら撒かれても混乱しますしね!(そして悪者が大集合!…する可能性は未だにある訳ですがそれはまた別の話)



備考:

探索者ギルド預け入れ金:

 金貨712枚、銀貨802枚、銅貨1667枚(尚、両替を希望しなければ貨幣単位で加算される一方となる)

ストレージ内のお金:

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

総額(両替した場合の額):

 金貨1015枚 銀貨25枚 銅貨28枚

屋敷の備蓄額:

 金貨2063枚、銀貨55枚(冒険者の鎧下シャツ代金金貨500枚+大商人と貴族のデザイン服前金計金貨500枚)

 ミスリルインゴット30kg

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクB

本日の収穫:

 冒険者の鎧下シャツ代金(ミスリルインゴット10kg+金貨500枚)

 大商人と貴族のデザイン服代金(同上+前金の金貨250枚+250枚。1箇月後後金が入る予定)

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