60 その11 ~迫りつつある脅威~

①ディアナの要望した高額商品の数々…だが、全部馬鹿正直に購入するとザック邸が破産するので家具類は見て回るだけで一瞬だけストレージに収納・簡易鑑定を行って後で錬金術で複製することにし、医療用の器具や物資は最低数だけ購入し(1つづつでは販売しておらず、最低購入個数があったので幾つかは1つではなく5つなどとなっていた)、衣類は1着づつ発注した(後で何着分か複製する予定)

②ディアナは元貴族らしく、複製するにしても1流店の物を着慣れている節がある…ということで、使用人たちの服(普段着や作業着など)を創って着心地を確認しようと思っていたのだが…何故か女性奴隷だけ創ろうと考えていたのだが全員(ディアナ除く)の物を創ることになってしまい…いや、まぁ、雑な作りの市販品を繕いながら使い続けるよりいいか…という訳で、15人の使用人たちの衣類を創る羽目に…いや、まぁ、いいんだけどね…(主人をき使う奴隷とか…)

③その素材をマロンのダンジョン第1~9階層掃除…攻略ストレス解消のついでに獲って来て貰うよう依頼した。その報酬として、マロンのメイド服を作ってくれと頼まれた。いやまぁ、それはいいんだけど…普通のメイド服ではすぐ傷むと判断したザックは、チート級のメイド服を創ろうと考える。駄菓子菓子、誰が想像できただろか…何処から聞きつけたのかマウンテリバーの服飾店から譲ってくれと追い回されるという結末に。マロンは無力化して対処するということに…(苦笑)

④ディアナには無事にドレスや白衣各種を渡し、満足を得られたようだ。喜んで貰えたようで何よりだが、廊下は走らないように注意しないとならなかった…ん?何その生暖かい眼差しは?…おーい、レム、シャーリー?

━━━━━━━━━━━━━━━


- マウンテリバーダンジョン・第26階層 -


「やべぇ…マジかよ…」


「撤退を考えた方が良さそうだが…」


「あいつらを見捨てるのか?」


「だが、このままでは俺らも道連れとなり兼ねない…」


「!?…ブレス、来るわよ!!」


視界が黄色く染まり、そして真っ白になる。余りの高熱のブレスは周辺を蒸発させながら一行の傍…いや、かなり離れていたのだが視界を染める白で距離感が全くわからなかった。そして…


「…っ、撤退する!」


リーダーが問答無用で決定、返事を待たずに現エリアから脱出する為に後退を始めた。


「ちょ、おいおいリーダー…返事も待たずにかっ!?」


リーダーと呼ばれた人物は足を止めて無言で指を指す。そして2秒の後、再び歩き始める。


「あそこは…ちっ、わかったよ」


舌打ちをしてリーダーに突っかかりそうになった青年は指差された方を見、納得はいかないが自らを無理やり納得させ、リーダーに続いて歩き出す。


「「「…!?」」」


暫く指先を見ていた2人は我に返ると2人に続く。雇われた運搬者ポーターは何もいわず静かにやや荷が減って軽くなった巨大なリュックを担ぎ直すと4人に追随する。第25階層から降りたばかりだが、一行は数分歩いただけで危険と判断して今回の遠征は諦めざるを得なかった…


「ったく。あんな化け物が跋扈してるとか…此処は地獄かってーの…」


ブレスによって溶け蒸発した床や壁を見れば無理も無いだろう。第26階層は超強力なブレスを吐き出す竜種の巣窟であり、先に侵入していた冒険者パーティが目の前で消えたのだ。あのまま留まっていれば次は自分たちの番となる…高熱のブレスの対策をしていない現状では撤退の2文字しか取れる方策がないのだった…



- マウンテリバー・冒険者ギルド -


「ジンのパーティが戻って来ただぁ?…で、コウたちのパーティはどしたぁ?」


副ギルド長が上がって来た報告に質問を投げ掛けると…


「え…と、報告では「全滅した」とありますが…」


「なっ…」


思わぬ報告に二の句を告げられず絶句する副ギルド長。だが、無理やり開いた口を閉じ、報告に来た部下に命令する。


「…それは本当なのか?…確認させろ!」


だが、その命令は実行されることは無かった…


ばぁん!


とドアが開けられ、ドアを開けた人物が中に入り…彼の仲間が後頭部を小突いていたせいだ。


「おい!いい加減ドアを蹴破るな!!」


「ってぇな!…急ぎだからしょうがねーだろ!?」


そんな空気を読まない気の抜けたやり取りに緊張感を失った副ギルド長室。


「…何だ?仲間割れなら他所でやって欲しいんだか…」


副ギルド長が苦虫を噛み潰したような表情で2人に突っ込む。知った仲ではあるが礼儀というものが未だになってないなと心の中で呟いていると、


「さっきの話しだがな…本当だ」


「あぁ…俺らが目の前で見ていたからな…」


ジンが事実を告げ、副リーダーであるカイがそれを肯定する。ややちゃらんぽらんなジンのみの証言では怪しいのだが、誠実さを絵に描いたような男。カイが真実だと訴えている。恐らくは10中8,9…本当なのだろう。


「…信じてあげたいのは山々だがな…証拠は?」


本来なら冒険者ギルドで発行しているギルドタグ…首から鎖で吊っているドッグタグのような物だ。その構成素材は余程のことがなければ破壊されないとされている純ミスリルに各種耐性コーティングを施している。コーティング処理は永久ではないので年に1回の更新の際に再度処理を施している。つまり、「そいつを持ち帰っているか?」…と暗に訊いた訳だが…


「ない。死体諸共、超高熱のブレスで蒸発しちまったからな…」


「なっ…」


「あぁ…あれは竜種の放つブレスだった。だが…今まで見たことのあるどのブレスとも違う…」


「あぁ…目の前が真っ白になるなんて、初めての経験だった…だからこそ、情報を持ち帰る為に撤退したんだ…」


ジンはそれだけいうと、ギリリ…と歯を食いしばっていた。


「後で詳しい報告書を上げる。失礼…」


カイがそれだけいうと、歯を食いしばって黄昏れているリーダーの首根っこを掴んで引っ張っていく。


「ちょっ、おい待て!まだいいたいことが…」


ばたんっ!


来た時もそうだが帰る時も慌ただしく荒々しいドアの開閉に閉口する副ギルド長。だが、そんなことよりも、


「わざわざ遠くから呼び寄せた強力なパーティーが潰されただと…」


最高とまではいかないがランクAのコウのパーティが全滅。同様にランクAのジンのパーティが即時撤退する程の相手だ。全滅させられたとされる攻撃が竜種のブレス…とすれば、単純にドラゴンかドレイク。ダンジョンの中なのでワイバーンは考えられ難いが、他にもブレスを吐き出す魔物は存在する。だが…


「超高熱といえば…レッドドラゴンか。或いは…」


火山の環境に似た構造の階層ならば、ランクA程度では相手にならない可能性を秘めている魔物…否、火精霊に属す存在もある。それは…


フェニックス火の鳥か…」


生息地は主に活火山の火口といわれている、火を司る精霊の頂点の1つ。別名不死鳥とも呼ばれ、例え斃されても一定の期間を経て蘇る死ぬことがない存在だ。戦わないで済むなら戦いを避けろとまでいわれているその存在はマグマ流のある地形ではほぼ無敵。傷付けても瞬く間に傷を癒し、逆にこちらは高熱で体力を奪われるわロクに戦う術を持ってないことが多く…要は出会ったら最期とまでいわれている。存在自体が災厄でもあり、攻撃されれば大抵の場合は瞬殺なのだから…


「…まぁ、それがレッドドラゴンでも大して差は無いか…」


ドラゴン種で強さは中くらい。フェニックスと同様に活火山に住み着いている場合が多いが個体に依っては他のドラゴンと同様に普通の山奥に住んでいることも多く、他のドラゴン種と同様に厄介は厄介だがセオリーを守っていれば斃せないこともない。だが…


「第26階層の地形に依っては、だが…」


こりこりと痛む眉間を揉み解し、副ギルド長は上がってくるであろう報告書を待つことになる。その後待っている、ギルド長に報告に依って落ちる雷を考えると、今度は胃がキリキリと痛む副ギルド長だった…


「はぁ…また胃薬を買って来ないとな…」


心労が重なる副ギルド長の未来はほの暗いのかも知れない…



- マウンテリバー・探索者ギルド -


「何?…それは本当か?」


「はい…簡単ではありますが聴き取り調査した時のメモ書きです。報告書はまた後で…」


「いやそれでいい、見せろ」


「…は」


低品質紙に走り書きのメモ用紙をひったくる様に取って読みだす探索者ギルドの服ギルド長。そこにはこう書いてあった…



「第26階層にて異変あり


 ・冒険者ランクA、コウの率いるパーティがブレスの一撃で蒸発…

 ・事態を重く見た同冒険者ランクA、ジンの率いるパーティは即時撤退

 ・可能ならば、深層領域は第25階層までとした方が無難だろう…


報告者:ジンパーティ副リーダー、カイ」


確かに報告書の書式ではないし殴り書きではあるが…


「清書は俺がやろう。うちの探索者連中は25階層なんて潜れる奴は居ないが、一応禁止令を出しておいてくれ」


「はっ」


部下は敬礼をして部屋を退室した。


「…はぁ」


副ギルド長は机の引き出しに手を出し、中から胃薬を取り出して口の中に放り込む。


「水はっと…」


水差しからコップに水を注ぎ、ごっごっと飲み込み、ほぅと一息を吐く。


「また頭の痛い事案か…ここの所、立て続けだが…」


一体何が起こっているのかと思うが、神ならずその身では想像も付かないのであった…



- その他、一般探索者・冒険者たち -


「はぁ?…深層階の侵入禁止?」


掲示板前で叫ぶ探索者の1人に目を向け、ざわつく他探索者たち。


「マジか?…って26階層かよ。全然辿り着いてないっての!」


「まだ15階層辺りをうろついてるんだろ?」


「放っておけYO!」


そんな中、他のランクB探索者のチームメンバーたちが難しい顔でその掲示を見ていた。


「これって、ひょっとして…」


「あぁ…先日のスタンピードに関連してるんじゃないか?」


「下手をすると…」


嫌な予感がする中、探索者ギルドの受付カウンター前に衝撃が走る。主に、物理的に…



「ん?」


「どしたぁ?」


「今、何か響かなかったか?」


「何が?」


「こう…火山が噴火した時みたいな振動とか?」


話している2人の冒険者を見て、周囲の冒険者たちは思った。


(((何でこいつら疑問形ばかりなんだ?)))


…とw


尚、いわれてみて、


(そーいえば何か揺れたような…)


と思う者は少なからずいたようだが、敢えて口にする者は居なかった。何しろ、今はダンジョンの調査パーティを臨時で組む為に非常に忙しかったのだ。目標は第26階層の調査。ジンのパーティが目撃した26階層の状況や様子を確認する為だけの調査依頼をギルドから発布され、緊急性を要するので足の速い者だけで構成する…という内容で、深層領域を行動する都合上、戦闘に耐えられる足の速い個人か、斥候職や遊撃職などを中心に募集していたのだ。戦闘は回避しつつ先を進む必要がある為、足の遅い職業や運搬者ポーターは無し。本来なら26階層などは行き来するのに3日はたっぷりかかるのだが期限として2日が設定されていた。最大で2日であり、早ければ早い程、尚且つ現場の状況を調べて欲しいと来たもんだ。


「…これ、本当にやり遂げられる奴、居るのか?」


…と思う者は多かっただろう。何しろランクBの冒険者パーティでは、第20階層のボスを斃してその先に進めるかは…かなり厳しい筈なのだから。そして…残存するランクAのパーティは存在しない。個人のランクA冒険者はちらほら居るのだが…


「だからこその臨時パーティを組めってことなんだろ?」


「…そうなんだろうな」



- ノースリバーサイド・ザック邸 -


「地震?」


深い渓谷を挟んだノースリバーサイドでは地震が起ころうと、余り響くことは無い。響くとすればノースリバーサイド側で起こった地震だろう。


尤も、ここハイマウンテン王国は活火山は存在しない。火山活動の源泉たるマグマ溜まりなどは遥か昔に全て吹き飛んでおり、ダンジョンなどの特殊な場所でしか溶岩などは存在しないのだ。その昔、ハイマウンテン王国は1つの巨大な火山が鎮座しており、頻繁に火山噴火を起こしていたらしい…だが、とある期間の後はぴたりと火山活動が終わり、代わりに大きな火山が消え失せて、それと比べると小さな…だが人間と比べると大きな山々が多く現れたという。ハイマウンテン王国の「ハイマウンテン」とは、大昔の巨大な活火山の名残りだという…


「地震…ですか?」


傍でお茶の用意をしていたイブが頭を可愛く傾げる。ザックから見れば4歳年上のお姉さんだが、世間的には小さな子供が居てもおかしくない年齢ではある。


「立ってたので気付きませんでしたが…そういえば水面が僅かに揺れてたような…」


だが、それはティーポットを置いた直後に揺れたかも知れないなと思うイブ。どちらとも判断できなかったのでそれ以上は口にはしなかったが。


「そっか…あ、お茶ありがとね」


「いえいえ、どうぞ?」


座っている目の前にティーカップが置かれ、取り敢えず書類を片付けるザックだった。



- ダンジョン3階層 -


「む?」


未だに放置されている木小屋ログハウスの中で休憩していたマロンが揺れを感知し、その表情を険しくする。


「揺れ?」


今日も今日とてストレス解…いや、日課のダンジョン清掃をしていたマロン。昨日などは、探索者ギルド幹部に


「これだけ毎日1~9階層の魔物一掃をされてるなら、ランクを上げて10~19階層も…」


などといわれる始末だ。もう暫く様子を見てランクアップの手続きをするらしい。


「…」


暫く動きを止めて瞑想するように目を閉じていたマロンだが、特に異変を感じることは無かった。だが…


「何かおかしい。戻って報告すべきか…」


と悩んだが、その場での判断はできなかった。依って、急いで荷物を纏め、もしもの時にと渡されていたアイテムボックス機能付きの小袋を取り出して急ぎ外へ出る。そして…


木小屋ログハウス、収納」


と唱えると、その場に放置してあったログハウスは小袋へと収納された。


「これで善し…」


マロンはくるりと反転すると、走り出す。上層へと向かう階段へと向かって…


━━━━━━━━━━━━━━━

今度はダンジョンが何やらキナ臭いようで…1つのランクAの冒険者パーティが消滅してしまいました。果たして、第26階層で何が起こっているのか…モンスタースタンピードが起こりつつあるのか…それは神も知らないかも知れません!(うむ、まだ何も考えてないので!)



備考:

探索者ギルド預け入れ金:

 金貨712枚、銀貨802枚、銅貨1667枚(尚、両替を希望しなければ貨幣単位で加算される一方となる)

ストレージ内のお金:

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

総額(両替した場合の額):

 金貨1015枚 銀貨25枚 銅貨28枚

屋敷の備蓄額:

 金貨563枚、銀貨55枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクB

本日の収穫:

 なし

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