39 その7

緊急要請でノースリバーサイドに現れた探索者や冒険者たちが各々指定された最外壁へ派遣され、侵入してきた魔物たちとの戦闘が開始された頃…また、ザックたちも遅々としてだが最外壁を耐久値再生デュラビリティ・リペアーで修復しながら進んでいた。そこに遭遇する探索者のチーム。女性だらけの4人組に遭遇するザックだが、悠長に話しをしている間に最外壁から最悪が襲い掛かる…魔物の軍勢だ。ザックは心の中で溜息を吐きつつ、この場を切り抜ける為の努力を開始するのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 戦闘開始コンバットスタート -


ずががががが…!!!


という音と共に排出される土塊弾クレイバレット。弾は直下の地面…の地下より供給される為、地盤沈下でもして設置されたマギ・クレイマシンガンが崩れ落ちない限りは攻撃可能だろう。


「逝けぇ~っ!死ねぇ~っ!」


「…」


言葉使いが少々汚いのがピクシー形態をとっている従者のシャーリーだ。彼女用に機関砲の操作座席は人形サイズとなっている。その隣の機関砲には無言で人間サイズの操作座席に座っているレムだ。人間の少女…身長は僕と大して変わらないが若干小さいかな?…サイズなので、座席サイズは特に考えなくても良かった。2人が操作している機関砲は小鬼ゴブリン魔犬コボルドなら1発でも数体を纏めて吹き飛ばし、魔豚オークでもほぼ一撃で。魔鬼オーガですら2発で仕留められた。仮に直撃を外しても秒間5発で発射される機関砲の雨あられの土塊弾の遠距離攻撃の前には何をする前に足を止められ、仕留められるしかなかった。何より、普通の機関銃などに比べて小物のゴブリン・コボルドはビーム攻撃を受けているみたいに纏めて数体づつ吹き飛ばせるのでみるみる内に、数を減らせたのが大きかった(身長が低い為、射線が上から斜めになる為に数体になったが、真横から撃っていればもっと多く吹き飛ばせただろう)



「…す、凄いわね」


「え、えぇ…」


「「…」」


暫く無言で佇んでいたトレハンチームの彼女らは、目の前の信じられない光景を見ながら呟く。が、


「!…後ろに回り込まれてる!!」


とのシャーリーの警告に、ばばっ!…と背後を見る。まだ距離はあるが、数体のゴブリンが弓矢を手にこちらを攻撃しようとしていた。


「くっ!…撃たれる前にるわよ!!」


シャロンの声にメンバーたちは「はいっ!!」と応じてザックに渡された魔法の弓矢を撃ちまくるのだった…



トレハンチームの彼女たちがバックアタック部隊を撃退した頃、ザックは新しい魔導兵器を創造していた。それは先に設置したマギ・クレイマシンガンのように設置式で、より大きかった…。大きいということは、恐らくより強力な攻撃力を持つ…ということだろう。知っている者が見れば、それが何なのか…恐らくはこういっただろう。


「大砲?」


と。



〈グガァァァッ!!〉


どんどんゴブリン、コボルド、オーク、オーガたちが吹き飛ばされたり風穴を開けられて倒れて行く中、ついに巨人が3体とも壁の中に侵入を果たした。探知によれば、まだ外に魔物が居るには居るがほぼ全て小物とオークとオーガであり、それより大物といえばこの3体のフォレストジャイアントだけだ。中々入って来ないと思っていたのだが仲間の増援待ちだったようで、諦めたのか3体とも侵入して来たという訳だ。


(…もっと壁から離れてくれないかな…)


流石にこの大砲を撃つと、余り壁に近いと一緒に破壊しかねない。後で修復をする身としては無駄な破壊はしない方がいいし、余り大きい穴が開いてると土壁で塞がないと耐久値再生デュラビリティ・リペアーが効かない可能性がある…なんて考えていたら、手に持っていたこん棒を投げつけられた。


「!…やばっ!!」


慌てて土壁アースウォールを機関砲の防御壁より前に生成して即アースウォール・デフアップ土壁硬化を掛ける。慌ててたので高さ2m厚さ10cm程度の土壁が生成され、土塊弾が土壁に跳弾して慌てることとなった。


「ま、マスター!いきなり過ぎますよぉ~!?」


「…」


流石に操作座席の前には防御用のシールドがあるので跳弾してきても安全な筈だが、いきなり目前に土壁ができてびっくりしたシャーリーが抗議してくる。レムも涙目で無言の抗議をしているが、ぷるぷる震えている様がちょっと可愛…いや、その…ゲフンゲフン。


ごがんっ!!…


投てきされたこん棒が土壁に当たり、


ごごんっ!!…


ぴきっ


2回目の投てきで土壁にひびが入り、


ごがっ!!


がらがらがら…


3回目の投てきで強化されている筈の土壁が完全に崩れ去る。


「…ちぃっ」


ザックは慌てて魔導式マギ・大砲バズーカに乗り込み、魔力を充填開始する。


「こいつが攻撃可能になるまで少し時間が掛かる。時間稼ぎを頼む」


ザックが仕込んでいるマナ吸収機構の他、自身の魔力を大砲にぶち込みながら大容量魔石ラージマギバッテリーから魔力吸引で補充する。流石に急ごしらえの攻撃用魔導具な為、一番簡単な空気中の魔素マナ吸引の魔法陣しか仕込めなかったので急速充填には自身の魔力をぶち込むしかなかった訳だ。


〈圧力上昇…魔力充填率、80%…〉


何処かで聞いたような機械音声マシンボイスが響く中、シャーリーとレムが機関砲で雑魚たちを掃討している。オーガまでは倒しきれるが巨人ともなると表皮で弾かれるのか小さい傷ができる程度だ。巨人だけに再生能力が強いのかその程度の傷は数秒で塞がってしまい、致命傷には程遠かった。


「不味いわよ!…奴等、その魔導具の攻撃範囲を見切ったのか…」


シャロンの声に見れば、機関砲の射程外を迂回して横から後ろへと回り込む個体が増えてきた。急ごしらえのこの武器は10m程しか射程がない。射程外になると土塊弾はその姿を保てずに消え去る為だ。その代わり、射程内であれば強固な貫通性能を持つ為、小物であるゴブリンやコボルドなどは纏めて撃ち抜くしオークやオーガなども2発で絶命させる威力を誇る。


「「うわぁっ!こっち来るなぁっ!!」」


エッタやカロンたちが慄きながら弓矢を放っている。モナは無言で攻撃しているが、額に流れる汗がその焦りを語っている。


〈圧力上昇…魔力充填率、101%…〉


何故か100%を越えて報告してくる機械音声マシンボイス。砲身の先端からは魔力が収束しているかのように光が砲身内部へと流れ込んでいる。恐らくマナ吸収機構が空気中のマナを吸引している様子なのだろう…決してタキオン粒子が流れ込んでいる訳ではないと(ちょっ!w)



「ちょお!まだだの!?」


エッタとカロンが悲鳴を上げている。前方から来る魔物は巨人3体がゆっくりと、だが確実に足音を響かせて接近中だ。オークとオーガが全て撃ち倒され、小物であるゴブリンとコボルドは前からでは接近は無理と判断したのか、迂回して横と後ろから襲い掛かる方針へと切り替えたようで、トレハンチームのメンバーが対処している。が、多勢に無勢で弓矢で攻撃可能な距離は、もう無い。


「仕方無いわね…」


シャーリーが座席から飛び立ち、空中から有り得ない急角度で曲がってゴブリンの頭を…蹴り飛ばした!w


〈ゴブゥッ!?〉


意訳すれば、「信じられない!?」だろうか?…蹴り飛ばされたゴブリンは、


ずだん!だん!だん!ごろごろごろ…


と、地面を思いっきり転がって退場して行ったw


「さぁ、るわよ!」


と声を張り上げて次の獲物へと目を走らせるシャーリー。レムも(仕方ないなぁ…)と思ったか、


のそり…


と座席を立ち、固まっていたモナを襲い掛かろうとしていたコボルドの首根っこを


むんず、


と掴み上げ、おもむろにぶんぶんと回転させてから


ぶんっ!


とぶん投げて…投げた先のゴブリンやコボルド連中を纏めてストライクした。


〈ごぶぅ~っ!?〉


〈こぼぉ~っ!?〉


何体かの彼らが弾き飛ばされてピクピクしてる中、レムは眠い目で次の標的を探し出す。視線が合ったゴブリンが


ビクンッ!?


と肩を跳ね上げ、自然体で近付いてきたレムに恐怖して…逃げたw


「…次は」


ふいっと視線を動かすと、投げられる対象と確定する前に次々と逃亡しだす小物たち。だが、ほとぼりが冷めた後にマウンテリバーに侵入されるのも面白くない。


「レム。すまないが1匹も逃さないで欲しい。シャーリーもね」


主人の命令マスターコマンドにこくりと頷くレムとシャーリー。いきなりトップスピードで走り出すレムと、最初から全開全速のシャーリーのキルポイント争いが始まり、トレハンチームの彼女たちは呆然と見ていることしかできなかった…(シャロンだけは接近する小物たちを迎撃していたがw)



〈魔力充填率120%。波…いえ、魔力砲発射準備完了です〉


何か言い掛けて言い直す機械音声マシンボイス。砲口が伸長して先端からはバヂバヂとマナがスパークしている。まさに臨界まで充填が完了しているのだろう。


「よし、目標…緑の巨人…3体とも離れたか…」


流石に纏まっていれば纏めて倒されると判断したのか、距離を空けて接近してくる巨人。こちらの武器が1つしか砲身が無い上に発射可能になるまで時間が掛かっている為に短時間でそう何回も撃てないとわかったのだろう。なかなか知恵の回る魔物だ。


〈問題ありません。セレクターを拡散モードに変えて下さい〉


「拡散?…これかな?」


見れば、直進と拡散の選択レバーがあり、今は直進モードとなっていた。


「変えたけど…ん?」


元々表示されたターゲットスコープにターゲットサイトが1つから3つに増える。現在、前方には巨人が3体しか存在しない為に3つに増えた模様。個別ターゲットの有効目標数が最大16で、猶予は13あるようだ…そして、16ある内のターゲットサイトが3体の巨人にどんどん重なって行く…1体辺り5つ×3で15のターゲットサイトが消費され、1体につき5回攻撃されるということだろうか?


〈目標固定完了です…トリガーをどうぞ〉


びーっ!


…とターゲット完了の音が響き、先程まで緑だったターゲットサイトが赤に変化する。トリガーは魔導砲のコンソールに備わっている、砲身が無いモデルガンみたいな物がそれだろう。ザックは自然と握り部分を利き手である右手で握り、人差し指を引き金に掛ける。


「これで倒せればいいけど…ファイヤーッ!!」


カキンッ


引き金を叫びながら引く。乾いた金属音を鳴らしてトリガーが絞られて落ちる。バヂバヂとスパークしていた砲身の先端から…


どぱっ…あっ…!!!


と、直視していたら失明しかねない光の洪水が放たれ、音は然程せず、15の光弾が3つの目標に向かって曲線を描いて殺到した。尚、砲身より後ろに居る「暫定味方」と射手が判断した者には光と音の影響は無い。



「…ったか?」


それフラグ!…と突っ込まれそうな台詞を口に出したザック。遠くから見ていれば、3つ光の柱が立っている様が見えただろう。実際には少し間を空けた3箇所に15の光の柱が立て続けに立っているのだが…


「ぺっぺっぺっ…うわ凄い土埃…」


モナが咳き込みながら口の中の砂を吐いている。他の者も同様だが…叫んでいるのは彼女だけだ。シャロンは薄目を開けながら最後の1体であるコボルドを蹴り倒すシャーリーを認め、他に動く魔物が居ないことに安堵の息を吐く。尚、完全に死ねば光と散ってドロップ品を残す魔物なので死体は残らないが、ドロップ品が1つもないことに訝しんでいたが…


「あぁ、ドロップ品ですか?…」


と、唐突に耳の傍で訊かれて狼狽える。


「あたしたちが回収してるので残りませんよ?…尤も、この地で拾った物は一旦ギルドで回収して金銭で分配するって規則ですし。問題無いですよね?」


それだけいうと、シャーリーは離れたようでその気配も薄くなる。


(確かに、そのような規則だったな…)


それより口の中がザラザラで気持ち悪いと、水筒を探し当ててうがいをするシャロン。


がらがらがら…ぺっぺっ…


「リーダー!私にもぉ~!!」


びたん!と抱き着いて来たエッタが水筒を強奪してうがいをし、カロンとモナも…


「あ~!?…水がもう無いぃ~!?」


モナが喚く。そこへ


「ウォーター」


と生活魔法の水属性魔法のコマンドワードが聞こえ、モナの持つ水筒がいきなり重くなったのかぐい~っと腕が下がって慌てて持ち直す。


「ザック…くん?」


見れば、魔導具の武器から降りた少年が居た。


「あ~…お節介、でしたか?」


ばつが悪そうに頭を掻きながら彼は問う。


「あ…いや、助かった」


見ればモナは例もいわずにうがいをした後、ごきゅごきゅと残っている水を飲んで


「美味しい!…なにこれ、飲んだことの無い!?」


と更に大声で喚いていた…


(はぁ、こいつら帰ったら教育し直しだな…)


と、シャロンは心に誓ったという…



どぱっ…あっ…!!!


と、直視していたら失明しかねない光の洪水が放たれ、音は然程せず、15の光弾が3つの目標に向かって曲線を描いて殺到した。尚、砲身より後ろに居る「暫定味方」と射手が判断した者には光と音の影響は無い。


〈第1目標…撃破〉


5つの光弾が真上からの曲線を描いて中央の巨人の頭上に着弾し、全弾が頭・肩・両腕を貫通して行く。地面まで貫通した光弾はそこから超高熱の光の柱を形成し、巨人の体を完全に分解・蒸発させる。魔導砲から数mの距離で形成された光の柱は1mも離れるとその効果を失って影響を与えることはなかった。


〈第2目標…撃破〉


やや右回りに曲線を描いて右に離れていた巨人も中央の個体を似た最期を遂げる。違うのは頭上というよりやや右上…巨人からすれば左上からの光弾の着弾により左腕・左足・側頭部から光弾が着弾したことにより、被弾部位が若干違ったということだろう。結局は最後に光の柱による超高熱で分解・蒸発させられるので些細な違いということだろう。


〈第3目標…撃破〉


右に迂回していた巨人と違い、左に離れていた巨人だ。右か左かの違いだけで最期は分解・蒸発なのは同様だ(説明が雑w)…3体とも同じなのは、断末魔を上げる暇も無く消え去ったという事実。これ1つだけだ…


〈全目標消失。戦闘終了を確認しました〉


「ん?…ゴブリンやコボルドたちは?」


〈お二方に殲滅されました〉


「そう…か。じゃあ、機関砲と防御壁も含めて回収」


了解ラジャー


ふっ…と機関砲と防御壁が消え去り、魔導砲も消える。ザックの手には金属性の鎖のペンダントが握られていた。ペンダントヘッドを見ると、中に機関砲と魔導砲が収納されていることがリストで確認できた。


(…これってウエポンボックスか?)


所謂アイテムボックスの兵器版だ。兵器関連だけ収納できるアイテムボックスで、汎用性は無いが一般的なアイテムボックスより多くを収納できると聞くが…


(確か、軍しか所持できなかったような…)


もっと突っ込んでいえば、先程の機関砲も魔導砲も現在の国の軍部にすら備えてない最新武装を超える兵器なのだが、ザックはそこまで気付いていなかった…


━━━━━━━━━━━━━━━

せいぜい、発掘された後込め式の中折れできる拳銃(装填数は1)とライフル銃(装填数は2)…そして大砲くらいでしょう!(使い方を確かめる為に多くを破損させて実用に足りる現存数も僅か…といった程度。実際に防衛などに使われてるのは弓矢にバリスタくらい)口止めの簡易契約はしてるけど、トレハンチームには口の軽いメンバーがいる為にどうなることやら?



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨953枚、銀貨804枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨282枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨78枚、銅貨80枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(後日アップの予定はあり)

本日の収穫:

 トレハンチームのお姉さんたちの色々な目線(ちょっ!?w)

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