35 その3

全国の思春期の男子が夢にまで出て来そうな実現して欲しいと想う両の手の指数にランクインするであろう(独断と偏見)「寝ている間に知り合いの可愛い娘が寝床に入って来て添い寝」(但しザックはそこまでは思い入れは無いがw)を敢行され、起きた時に両人の胸に触れてしまい(但し裸ではないw)、元の位置に戻ったザックが天井を見てたら突っ込まれるという事態に陥る(いや、言葉で「「何冷静に状況判断してるんですかっ!?」」って突っ込まれただけw)立場的にザックは成人になりたての見た目はまだ子供。2人は成人して数年(リンシャは1年経ってるけど見た目は十分大人の体)の身の上なので…という訳で、反省文を100枚書くこととなったそうで…某誰かの言葉を借りるなら、「馬鹿ばっか」ですね。

━━━━━━━━━━━━━━━


- 例の屋敷へ! -


「よお、ザック。数日ぶりだな!」


何となく濃い数日を経たザックから見れば、1箇月振りに感じられるマシュウその人が目の前に居た。


「ガハハハハ!…数日見ない間に何やら大人になった気配が…?」


ジャッカルが鋭い指摘をするが、ザックとしては何を以て大人になったのか見当も付かないので、


「は?…そりゃ成人年齢ですから大人っちゃ大人ですけど?」


と意味わからんと返しておく。


「それよりどうしたんですか?…例の護衛はとっくに期限切れてますよね?」


所謂、ザックに危害を与えた罰として…って奴だ。サウスネクシティのマナのダンジョンに潜っている間にその期限は切れており、帰還する時には別れても良かったが流石にそれもどうかということで別れるってことはしなかったけども(仲が良くなったというのもある)


「ま、まぁ…それはおいといて!」


ジュンさんが汗汗な表情で口を挟んできた。一体何を焦ってるのかな?


「えっとね、ザックくんに見て貰いたいモノがあるんだけど、一緒に来てくれないかな?」


最後にパトリシアさんが煮え切らない他の人の態度にずばん!とストレートにお願いをしてきた。いや、まぁ…今日はこれといって用事は無いし、別にいいんですけどね?…ってことで、こくりと頷いてマシュウさんたちの後について行くことに…えっとパトリシアさん?…何で僕の背中を…あの、胸が…後、歩き辛いんですがっ!?



「ここが例の下賜された屋敷、ですか?」


「あぁ、そうだ」


流石にマウンテリバーの探索者ギルドからだと徒歩では時間が掛かる…という訳で、人が少ない辺りで馬車とゴーレム馬を出してくれと頼まれて、ザックはストレージから出して移動していた。徒歩だとたっぷり1時間は掛かるらしい。位置的には探索者ギルドのあるダンジョンは町の南側…南口から徒歩10分程。対して屋敷は北西の外壁の傍になり、やや楕円のマウンテリバーの南口付近の探索者ギルドからは町の中の街道をうねうね回りくねって結構な時間が掛かるという…


「…というか、ここって外壁の外ですよね?」


所謂飛び地って奴だ。途中、外壁と外壁を突っ切る橋が渡されており、下は渓谷というかかなり深い渓流が流れている。見ながら「…落ちたらまず助からないだろうな…」と思わせる程に深い…。流石、高山の国というだけはあるが、何もこんな所に町を作らんでも…とは思う。流石に壊されたら町に戻れないと思い、こっそりと防御強化を何重にも掛けておいた。例えドラゴンとか巨岩で攻撃されても一撃では壊れないくらいの強力な奴を…お陰で魔力欠乏気味になったので、例の「大容量魔石ラージマギバッテリー」からこっそりと「魔力吸引」を使って回復していた。手の平に収まる大きさなのが幸いしてか、誰にもバレなかったようだ。


「あぁ。元は北にある旧王城への通路だそうだ。さっき通った橋もな」


目前の屋敷は屋敷というよりは城塞に近い。壁がいちいち質実剛健で、外敵に備えていると思えるような装いだ。


「まぁ、中に入ろうか。実は俺らも場所しか知らされてなくてな…今日初めて来たんだよ!」


え…何それ聞いてないんですが?…という言葉を背中からのどん!という攻撃…ではなく、ジャッカルの背中叩きで無理やり飲まされて、


「ガハハハハ!いいじゃねえか、ザックも俺らの一員なんだしよ!」


と、台詞の先読みと思えるようなジャッカルの乱暴な言葉に…ん?「一員」?


「ゲホッゲホッゲホッ…えと、今、「一員」っていいました?」


「おう、それが?」


僕の台詞に鋭く勘付いた女性陣2人が「まぁまぁ」と執り成し、


「そんな話しはいいから、早速中を見に行きましょう?」


「そうそう。凄いらしいよ!?」


と、普段の彼女らからは感じない、あからさまな何かを隠す意志を感じるザック。


「…って、脇を掴まないで下さいよぉっ!」


と、2人に両脇を抱えあげられて城塞屋敷へと向かう僕。マシュウは馬車を厩へと回す為に馬車に乗り直して入り、ジャッカルはそれに付き合うのだった…



- 屋敷内部へ! -


「お帰りなさいませ、お嬢様!」


「お、久しぶりぃ~!セヴァス!!みんな!」


執事と数人の使用人が待ち構える中、ジュンさんとパトリシアさんに両脇を抱えあげられたまま正面玄関に入る。ちなみにパトリシアさんがその歓待の声に反応し、ジュンさんと僕は固まったままだ。


「えと…お知り合い?」


ジュンさんがフリーズからいち早く復帰してパトリシアさんに問うと、


「うん?…あれ、いってなかったっけ?…元、うちの実家の雇い人…てか私専属の人たちよ?」


「実家…専属…」


ジュンはこんらんした!


ではなく、まぁ混乱してるんだけど。


「…ひょっとして、いいとこのお嬢様?」


僕も想像がつく範囲で質問を投げ掛ける。パトリシアさんはニパッ!と笑顔を浮かべて、


「うん!そんなとこ。取り敢えずちょっと疲れたし、お茶でもしようか?」


とまぁそんな訳で、3人で広めの部屋に使用人さんたちに案内され、その前にパトリシアさんが後から来る男性2人も案内させるようにと言付けていた。多分だけど、あのままだと下人扱いされて怒られると思ったみたいだw(いいとこのお嬢さん付きで、馬車を任せてたマシュウさんたちが下人扱いってのは何となく想像が付いたし、使用人の人が「下人じゃなかったんですね!?」と驚いてた時の台詞も聞こえてたしね…(苦笑))



「ふぅ…まさか下人扱いされるとはな…」


既にされてた!…って驚いてる僕を他所に、ウォータークリーン洗濯改で全員の汚れを落とした後、用意されてた茶菓子にお茶で小腹を満たしながら今後の予定を話し始める。無論、リーダーであるマシュウと、副リーダーのジュンさん主導でだ。


「それは兎も角、何で僕がチーム会議に参加してるので?」


僕が手を挙げて質問する。仮加入の期間は過ぎており、今では唯の他人である筈だ。


「は?…おまっ、説明してないのかっ!?」


慌てたマシュウがジュンを見る。


「え?…マシュウが説明したんじゃ?」


どっちもどっちな会話のやり取りを見て「はぁ~」と溜息を吐く。いや、見てて微笑ましいというか報連相をスルーした稚拙な内容というか…


「あ~、責任の擦り付け合いは見ててどうかと思うが…」


おお、ジャッカルがまともな台詞を吐いている!…じゃなくて。


「では問いますが…僕の立ち位置って今、どうなってるんですか?」


どストレートに訊いてみる。それがわからなければ、次の質問をどうするかとかわからないしね。すると、マシュウが頭をぼりぼり掻きながら…てか後頭部から白い埃が大量に…ウォータークリーン洗濯改じゃフケなんて落とさないしなぁ…ってきたなっ!


「あ~…そうだな。まず、仮入隊は解除される。例の罪滅ぼしの刑期が終了すれば自動脱退となる訳だ」


マシュウさんがそう説明し、ジュンさんが後を引き継ぐ。


「ザックくんが居てくれた2週間と少しだけど…それは生活水準改善されてね…もうずっと居て欲しいと…チーム内のでの意見は完全一致を見たわ…でも、本人の意思を聞かずにチーム加入をごり押しすることできないし…」


そりゃあ僕の意見も意思も無視してチームに加入されるのはね。別にこの人たちが嫌いって訳じゃないし、居てもいいかな?…とは思うけど。初めてのチーム加入で過ごした人たちなんだし…


「そこで改めて問いたい。ザックくん…俺らの…「息吹いぶく若草」チームに所属を…加入して欲しいのだが…その」


ぽっと頬を染めるマシュウさん…。何で求婚して照れた…みたいな顔してんですかっ!?


「…キモイ」


そのものずばり!…て感想を呟くジュンさん。まぁその辺に関しては異論は無いけど、なんていうかマシュウさんが可哀そうに…あ、ストレートにいわれて床にor2してるし。


「ジュ、ジュンさん…マシュウさんにそんなこといっちゃダメでしょ!…本当のことをいわれて耐えられるマシュウさんじゃないし!」


…あ。(T_T)顔で涙で床を濡らしている…。本当、男性メンバーに容赦無いな。このチームの女性陣は…とまぁ、ジャッカルさんが我関せずと処世術を発動させてそっぽ向いてる中、僕も居たくないよなぁ…と考えを纏めてると、


「ザックくん!…君にはこのチームに居て欲しいの。理由は…いわなくてもわかるわよね?」


と、パトリシアさんが屈託のない顔でお願いという名の脅迫をしてくる。ふと、ジュンさんを見ると、何故かアイコンタクトをしてくるんだけど…


(受け入れなさい…死にたくなければね?)


と、必死になってるのがわかる。そして、ついと視線を周囲に向けると(顔を動かさない程度にだけど)…成程。執事さんと使用人さんたちの動きが妙だ。まるでプロの暗殺者のようなソレに近い気配がする。いや、別に僕が暗殺者やってたとか相対したことがあるって訳じゃなくて、探知魔法がね…それを何となく知らせてくるのでわかっちゃっただけなんだけど…はぁ。


(一体、過去に何があったのかなんて、今訊く訳にもいかないよねぇ…。そういえば正式に入隊したらどうなるのかなぁ?…やっぱ嫌だからってすぐ脱退って訳にもいかないような気もするんだけど…)


仕方なく、ジュンさんの顔に近付けて…背丈の都合で胸に寄り添う形になって、右頬が幸せな状況になっちゃったけども(パトリシアさんの方が巨乳だけどね!)


「…あの、正式に入隊した場合、何かデメリットとかありませうか?(ぽそぽそ)」


「えっと…そうね。すぐには脱退はできなかった筈よ。尤も、チームの半数を超える脱退許可があれば別だけど…(ぽそぽそ)」


息吹いぶく若草」チームはマシュウ(L)、ジュン(SL)、ジャッカル、パトリシアの4人チームだ。つまりは3人が「お前要らない!」と蹴り出しを願えば即時脱退は可能となる。まぁ、そうはならないとザックは思っているが…


「では、逆にどれだけの期間が過ぎれば、脱退を願えば抜けられるのですか?(ぽそぽそ)」


ジュンさんは形のいい顎をついっと上げて考え込み、


「…確か、1箇月くらいかしら?…まぁ、周りが(便利な奴だからと)手放したくないと残るのを願っても、本人が(使い潰されるから逃げ出したいと)抜けたくなる場合もよくある話しだしね…(ぽそぽそ)」


「はぁ…」


言葉の裏に含められた真意に納得しつつ、もしもの時は28日程我慢すればいいか…と想うことにし、ザックは2人に腕を開放するようにお願いする。



「よし、これでいいか…じゃあ、これにサインをお願いします」


「これは…?」


「契約書、ですよ。誓約書といった方がしっくりくるかな?」


その誓約書はこんな内容が記され、簡易契約コントラクト誓約ギアスが掛けられている。



【チーム加入に対する誓約書】

---------------

◎「息吹いぶく若草」チーム加入に際して以下に記す約束事を守ること

・(ザック)本人がチームに加入して基本日程の1箇月(28日)を下回る際に本人から脱退の意思を以て脱退する際、相応の理由がある場合は認め脱退に応じること。また、本人の意思に反し脱退を認めず、無理にチーム残留を強要しないこと

・探索者チームの仲間としてできないことや本人が嫌がることを無理強いしないこと。また、死に直結するような無謀な命令を強要しないこと

・基本日程(所謂お試し期間とも)を越えた日に改めて(ザック)本人に残るかどうかを確認し、所属の意思が確認された時点で正式な探索者チームの一員として迎えること。否であれば気持ち良く新たな門出を送ること

---------------



「…なんだ。殊更難しい条件でもあるかと思えば…」


「探索者ギルドのチーム規定と殆ど変わらない?」


マシュウとジャッカルが誓約書を読み終えるとそんな感想を呟く。ジュンもジャッカルの手から誓約書を奪い取り、端から端まで目を通して「はぁ…」と嘆息を漏らす。そしてその手からパトリシアも誓約書を取って読み…


「確かに。個人名がカッコつきで加えられてるくらい?」


と漏らしている。ザックはニヤリと笑みを僅かに浮かべる。その個人名が重要なのだと。


「では、基本日程(お試し期間)は今日から開始ということでいいですか?」


既に2週間程付き合ってはいるが、あれが本性とはわからないし、一応保険のつもりで問い質す。


「え~、あ~…」


マシュウの返答が唸り声だけで何をいってるか不明のまま時間が過ぎる。


「いいんじゃねぇか?…こちらとしちゃあ、ザックの小僧の実力は、な?」


ばちこぉ~ん!と意味不明なおっさんのウインクが飛んでくる。思わず避けたらがっくりとされたが…いや、何か気色悪くて…すまん、ジャッカルw


「あの…馬車とかゴーレム馬とか…借りられるんですよね?」


とはジュンさんの言だ。ま、まぁ…ここからダンジョンに移動するには馬車が無いときついもんね。入る前から疲れたくはないでしょうし、ここまで連絡してる乗合馬車も無さそうだし…(というか、人が住んでる気配しないんだよね…この屋敷の周辺って)


「え…と。まぁ…ていうか、他の皆さんはここまで徒歩だったんでしょうか?」


少し気になり、立っていて一言も喋ってない使用人さんたちに話しを振ってみる。パトリシアさんが頷いてから話し出す使用人さんの1人。うーん…話し難いから主従関係は気にしないようにして欲しいかなぁ…まぁいいか。


「ここまでチャーター馬車で来まして…。乗合馬車などの定期便はこちら側には無いようです」


「せめて、マウンテリバー側に買い出しに出掛ける時用の馬車…いえ、荷馬車だけでもあればいいと思うのですが…」


マウンテリバー側?こちら側?…よくわからない単語が出たので質問すると、


「マウンテリバー側というのはあの町のことですね。渓谷を挟んであちら側をマウンテリバーサイド。こちら側は何て呼ばれてるかは詳しくはわからないのですが…」


「ノースリバーサイドです…」


小さい声でパトリシアさんが補足する。どっちも高い山の中腹より麓寄りにあるから厳密にはおかしいけど、北側と町側って意味合いで分けているらしい。ちなみに南口はより麓に近く、北西のこちらは坂道の上にあるので建物が邪魔しなければ割と高い位置にあるのが見えるそうだ。件の爵位を剥奪されたF男爵の本宅はマウンテリバーの北西の出入り口より少し下の…ほぼ真北に位置していて、この屋敷より標高は低いけどマウンテリバー全体を見渡せる位置にある大きいお屋敷らしい。


「へぇ…ってことはさ。このお屋敷って北西の…マウンテリバーの町の要所の1つなんじゃ?」…とマシュウさん。


今はわからないけど、昔…魔物より強力な魔族なんかが跳梁跋扈してた時代、マウンテリバーの旧王城があった辺りはこの北西の外側に続く道に居たとか居なかったとか(どっちだ!w)…今の時代にもし、そんなのが攻めて来たら真っ先に被害が出るのは…


「大丈夫だろ。今時そんな強力な魔物なぞ地上には居ないしな?」…とジャッカルさん。


「それより、屋敷の中をどーこーするのかが先でしょ?…馬車使っていいからさ、こんだけ買って来てくれない!?」…とジュンさん。使用人さんたちが御用書きを受け取ってからパトリシアさんにアイコンタクトしてから走り去る。いや、いいんだけど…


「じゃ、私たちは使う部屋を決めましょう!」


「さんせぇ~い!」


いや、さんせ~い!じゃなくて…。マシュウさんたちも「おお!」とか「待ってました!」とかいい出して、僕も無理やり決めさせられることに…いいのかな?…いや、良くない!(まだ探索者直営宿を出るとか決めてないし!!)



…後日。宿を出る手配が済み、例のお屋敷に引っ越すことに。サクヤさんからは…


「えぇっ!?…何でぇっ!?…いきなりっ、そんなぁっ!!??」


と、抱き着かれてわんわん泣かれる羽目に。泣きたいのはこっちなんですが?…周囲の視線が死線へと変貌して4方8方16方32方から貫いて来て痛いの何の…いや、精神的にで物理的には痛くはないですけどね?


「えーとまぁ…色々ありまして、ここ暫くお世話になってた探索者チームの方たちが正式にチームホームを構えることになりまして…」


そこに世話になるようになったんですよ…と説明すると、


「わっ、私もそこにっ…うぐ」


首トンやった料理長が


「悪ぃなザック。行ってくれや?」


と、紙片を手渡しながら2本指をぴ!と敬礼して気絶したサクヤさんを抱えて厨房に引っ込んでった。なに今の恰好いい!…と思ったが、慣れてない人がやると人殺しになるのでお子様は絶対やっちゃいけません!…とマシュウさんたちに怒られたのだった…マル


尚、リンシャさんが居た受付(寄ったんじゃなくて正面出入り口を通らないと出られないので)でも似たような騒動があり、事を察したギルド長が似たようなことをして既視感デジャブを強く感じ、今度は素直に探索者ギルドを出るザックであった…マル



「お、そうだ。前いってた奴な。清算しておいてくれ」


と、ジュンさんを通して金貨が革袋で渡される。


「えっと…?」


「あれだあれ…えーっと」


「何とか男爵からの迷惑料よ」


「何とかって…フレグナンス男爵…」


「あぁ、それそれ。それの金貨800枚の内、半分だと切りが悪いから300枚をチーム共用資金として残して、残り500枚を人数で分けたの。本当は色々割合があるんだけど、面倒だし人数で思い切ってね」


「はぁ…」


つまり、この中には金貨100枚が入っていると…。ストレージに収納すると、確かに100枚あった。


「後、あの馬車とゴーレム馬だけど…」


いい辛そうにジュンさんが言葉を濁している。まぁチーム共有にしちゃえばいちいち持ち主に聞いて来なくてもいいのは理解している。唯、あれの価値がどれくらいなのか不明なので、貸すにしても譲るにしても色々と困るのだが…


「別にいいですよ。壊しちゃった!…とかなっても困るでしょうし、買い取りたいなら買い取るでも」


寧ろ、通常より頑丈且つ振動が収まってるだけの馬車に、ある程度御者のいうことを聞くだけの半自動ゴーレム馬なだけだ。素材にはその辺の土を固めて創ったクレイゴーレムだが、見ようによってはロックゴーレムにも見える。馬車に関しては元の追加素材も木材を多少変質させてるだけだし、板バネ式の振動吸収機構も最新式だけど無い訳じゃないし。流石に他所に売りたいので売ってくれ…ってことなら断るけども。


「では!」


喜色を見せるジュンさんだが、一応断るだけは断っておく。


「…あ、でも。転売したいというなら売りませんよ?…多分ですが、普通の馬車工房やゴーレム工房じゃ真似できないと思いますし」


ゴーレム工房ってのがあるかどうかは知らないけど、超一流処じゃないと真似できないんじゃないかな?って思う。だってあれって、ゴーレムを創るだけじゃ動かないしねぇ…魔石と魔法陣と魔力の調整ができて、それをゴーレムに融合させる技術無いと…そして、それを全部一手に熟せる腕を持つ…生活魔法使いじゃないと!(その中の錬金術を、だけどね)ちなみに、世の属性魔法はどれか1つか2つくらいしか身に付けてないみたいだよ?…何故かはわからないけど、相反する属性は無理じゃないけど、身に付けても実使用に耐えるレベルでは行使できないみたい。だから、属性魔法使いは得意属性をなるべく伸ばしているって話し。大変だよね…


話しが逸れたけど、だから、ゴーレム工房ではゴーレムの本体を。それを動かす為の魔石は錬金術工房で創造し、中に封じる魔法陣はまた別の…魔法陣は魔術師ギルドだっけ?…の魔法陣専属の魔術師が作ってるって話しだ。そして全然連携されてない各々は決まりきった規則の中でそれぞれ勝手に創ってるので、極単一行動しか取れないゴーレムしか生み出せないって話し。僕のゴーレム馬を見たら引っくり返るんじゃないかな?…「馬鹿なっ!?」とか「絶対中に人入ってるだろ、これ!?」とかw


「えー…」


「えー…じゃありません!」


結局、月に銀貨10枚で貸し出すことになった。勿論、馬と馬車セットで。代わりにメンテナンスも月イチでやる羽目に…まぁ、やることといったらゴーレム馬の目減りして回復してない内包魔力の充填と、馬車のすり減った耐久値回復くらいだけだ。耐久値再生デュラビリティ・リペアーは失敗すると最大値の10%が減ってしまうので現状耐久値が最大の10%を下回ってればやるメリットはある。逆に10%を上回ってるとデメリットがあるが…場合によりけりだろう。


他、馬車1台だけでは仕事をこなすにも色々大変だろうと、適当な安い馬車を購入して来て貰い(壊れる寸前の荷馬車でいいと言付けたら、非常に胡散臭い目で見られたが…)第1号と同じデザインで幌馬車に再生してから馬ゴーレムも創造した。別に技の1号に力の2号って訳じゃないけど、1号はよくいうことを聞く小技に長けた成長をし、2号は少しやんちゃな力持ちに成長しつつあるようだ。その内に力と技を併せ持つ3号が必要になるかも知れない…



- とかやってる頃… -


「こ、これは!?」


マウンテリバーの夜間の門番用護衛ゴーレムを納品しに来た魔導士だか魔術師だかの風貌の中年のおっさんが王都に帰ろうと乗合馬車の近くに停めた自身の馬車に向かう途中、それを見ていた!


「どうしたんですか?…って、ゴーレム馬ですかね?」


彼の弟子と思われる青年が一目で生きているような馬の正体を見抜く。彼の目利きも師匠と思われる中年のおっさんに追いつきつつあるようだ。弟子の成長も喜ばしいことであるが彼の目は既に弟子でも馬車でもなく、目前のゴーレム馬に無我夢中だ!


「む?…馬車の持ち主が戻って来たようだな。弟子よ!急ぎあのゴーレム馬を買い求めよ!…金貨何枚になろうともだ!!」


「えぇ~?…確かに護衛用のゴーレム卸した所ですから懐は温かいですが…知りませんよ?怒られても…」


と、ぶちぶちいいながらも興味津々といった所か。彼としても目前のゴーレム馬は普通の馬と同様の反応をし、まるで生きているかのような動きをしているのだ。



「ちょっとすいません」


今まさに出ようとしていた時に声を掛けられ、鞭を握る手が硬直して固まる使用人。ちなみに女性である(男性の使用人は荷台の方で荷物を確認していた)


「っくりした…えと、何でしょうか?」


別に馬の前に飛び出して来た訳ではないが、心の準備も無しに知らない人に声を掛けられれば誰でもびっくりはするだろう。心臓がドキドキしているが、先方に気取られないように勤めて冷静に対応する使用人の女性。


「え~っと…実にいきなりで何なんですが…うちの師匠がですね…あぁ、師匠ってのはあそこでこちらをガン見してる中年のおっさんなんですが…」


「はぁ…」


「この馬をご所望なんですよ。これ、ゴーレム馬ですよね?」


「…それを何処で?」


知ったのかと訊く使用人の女性。後ろをチラ見して仲間の使用人の男性にも目配せをする。


「いやね、うちの変態師匠がゴーレム職人を兼任する王都の魔術師なんですよ。まぁいつもの癖で見たことにないゴーレム馬を目敏く見つけて…いわばいつもの悪い癖ってのが出ちゃったらしくて…金貨何枚でも出す!っていったもので困ったものでして…あはは…」


できれば安く済むなら済ませたいんですけどねぇ…とぶつぶつ呟く青年を他所に、2人の使用人は小声で相談する。


「これって…確かザックと呼ばれていた…」


「えぇ…あの子供の創ったゴーレムと聞いてるけど…」


「パトリシア様の探索者チームの一員だと聞いてるが…」


「えぇ…見た目通りの子供だと甘く見ていてはどんな目に遭うかわからないともね…」


「では、言い値で売るなどは…」


「できないわね。それにあの子ゴーレム馬は普通の馬と違って素直でとても楽ちんだし…売るなんてとんでもないって話しよね」


「うむ、そうだな…」


「では…」


「無かったということで話しを付けてくれ」


「了解」



「相談は済んだかな?」


小声で相談してる内に、中年のおっさん魔術師が接近していた。彼はゴーレム馬を嘗め回すように観察しており、ゴーレム馬が嫌そうな顔をして2人を…使用人たちに助けを求めるように見ていた。そう…まるで生きている馬のように…


「えぇ、たった今、済みました」


「おお、そうかね。で、金貨何枚でなら売れると?…荷馬車を曳く馬でいいなら銀貨でもいいかのう?」


「師匠…それじゃ安過ぎるんじゃないですか?」


「だってのう…馬車を曳くだけの馬ならそれこそ金貨1枚にもならんじゃろ?」


「まぁ…そうですが」


黙っていればいいたい放題である。使用人の女性はこの際だからとはっきりといい渡す。


「…お売りすることはできません」


「…なんじゃ、と?」


「ですから、お売りすることはできない「馬鹿かっ!?貴様ぁっ!!」と…きゃあっ!」


持っていた杖で殴り倒され、勢いよく地面に叩き付けられる彼女。彼が荷台から出てきて彼女を抱き起こすと、


「貴様…何処の家の使用人に手を出したか…わかっているのか!?」


と睨むが、


「ほほう…貴様こそ、わしが何処の誰か知っての狼藉か?」


と、胸の爵位を示す印を見せびらかす。


「王都の…子爵か」


名前まで名乗ってないので何処の家の者か不明だが、わざわざいわない所を見るに大した者ではないと思われる。それよりすぐにゴーレム馬に目を惹かれている所を見るに、爵位や立場よりゴーレムラブな変態と思われる。


「ちっ…面倒な奴に目を付けられたもんだな…回復ヒール


胸に抱かれたままでは体裁が悪いと回復魔法を使って抱き起す男性使用人。女性使用人は体にダメージが残ってないと確認するとすぐに立ち、


「済まない。すぐに脱出しよう!」


と、御者台に飛び乗る。男性使用人も荷台に飛び乗り、急発進に備えてまだ固定してない荷物を抑えにかかるが…


「ふはははは!…逃げようなどと考えたか。我から逃げられるゴーレムなぞ存在しないぞ!」


と、何やら呪文を唱えてコマンドワードを叫ぶと…


〈ひひぃぃいいんっ!〉


と、悲痛な嘶きを残してゴーレム馬は倒れてしまい…それっきり動かなくなってしまったのだった…


━━━━━━━━━━━━━━━



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨950枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨284枚、銀貨1020枚、銅貨781枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨58枚、銅貨80枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(後日アップの予定はあり)

本日の収穫:

 チーム共有資金として金貨800枚の内、300枚をチーム共有に分配し、残りを人数で分配した(1人金貨100枚)

 水泥棒の件の報酬は未確認の為、据え置き。

 馬車とゴーレム馬は月に銀貨10枚で貸与することに。メンテナンス費用込みなので高いのか安いのかは不明。だが、最後の話しであんなことに…どうなる次話!w

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