28 その5

サウスネクシティの探索者ギルドに戻り、全滅した探索者の遺体と遺品を持ち帰ったのだが、何故か探索者殺しの犯人扱いにされ、持ち物も検分するとかいわれて没収されてしまった「息吹いぶく若草」チーム(但しザックは除くw)一晩の間、応接室で軟禁状態で過ごし、翌朝になって何とか解放されることになった…が、女性陣の下着の予備だけは何故か返って来ず。散々怒鳴りまくって悪態をついたジュンとパトリシアだったが、ザックと一緒に下着を調達しに行くことに…なる所だったが、ザックが素材があれば作れるとうっかりいってしまったことで材料を買いに行く羽目になる。そして宿に戻ってから針仕事…ではなく、いつもの錬金術生活魔法を駆使して2人の為に魔法を付与した下着ほぼ魔道具を創造するのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 結局無罪放免? -


「はぁ…またギルド行かねーといけないんだが…」


「気が向かんが呼び出される前に行くか」


「「はーい…」」


マシュウの気が重いといった表情に同様に気が進まないジャッカルが応え、女性陣が矢張り気が進まないとテンション下げ下げの返事で応える。ザックは無言で頷き、一行は仮住まいの宿亭から出た。



「「息吹いぶく若草」チーム、来たぞ」


「「「…」」」


探索者ギルドに入るなり、マシュウが受付にそういい放つ。このサウスネクシティの探索者ギルドは探索者が少ないのかわからないが、マウンテリバーよりも閑散としていて受付カウンターは空いていたのだ。マウンテリバーなら少なくとも数分は待つだろう。そしてマシュウ以外のメンバーは壁際で無言待機だ。


「えっと…少々お待ち下さい?」


受付嬢は慌てて奥へと引っ込んで行った。マシュウらが来たと報告してるのだと思うが中々戻って来ない。最初こそ受付カウンターでじっと静かに待っていたマシュウだが…


「呼び出されたってのに、何ですぐ出て来ないんだ?」


と、ジャッカルが先にキレタw…いや、女性陣たちも静かにキレテいるが声に出してないだけで殺気を飛ばしまくっており、ザックが横で苦笑いしている。


(…まぁ、今回は単なるとばっちりだから少しは抑えてあげないと可哀そうかな?…あの受付嬢さんだけは)


無論、あのギルド職員は対象外だが。このサウスネクシティの探索者ギルドがどれだけ貧乏なのかは知らないが、冤罪えんざいで探索者から金銭を巻き上げるなんて言語道断の行いだ。


(それとも、この町ではそんなことがまかり通っていて誰も彼もが容認してるってことなのかなぁ?…それだともっと上の方に報告しないとダメだよね…。ま、今回はマシュウさんたちに任せるしかないか。こんな子供がいっても聞いてくれないだろうし…)


そうザックは判断し、大人たちに任せることにした。一応、フォローはするつもりだけど…変な方向に話しが行きそうになったらね!



- 三度の応接室 -


「あ~、すまんな。ご足労頂いて…」


「いえ…」


例の紐付き手提げ袋アイテムボックスを強奪しようとしたギルド職員手負いのおっさんが痛めた側の腕を肩から吊るした三角巾で支えて(結局完全には治癒されなくて痛みが残っちゃったんだねぇ…。それでも後でポーション代は請求したけど(まだ支払われてない))空いてる方の手で汗を拭いている。緊張の冷や汗か痛みに耐えてる脂汗かはザックの位置からは見えない。


「あたしらの下着をか(むぐぅっ!)」


ジュンがいきなり叫び出したのでジャッカルが慌てて口を塞ぐ。


「あ痛たたたた!」


塞いだ手を噛まれてジャッカルも大声を張り上げる!w


「…おいおい。静かにできないなら出てくれんか?」


ギルド職員手負いのおっさんが苦み切った顔で静かに口にすると、


「あ、すまん。静かにさせる」


とマシュウが応え、後ろを見て睨むと2人は静かになった。尚、パトリシアはムスゥ~!とした顔で最初から静かだが何か言いたげにしていた。逆に静かなのが怖いとザックは苦笑いを更に渋いものへと変えていたが気付いた者は居ないだろう…


「あ~…マウンテリバーの探索者ギルドに問い合わせた結果、「息吹いぶく若草」チームの諸君に罪は無いと判断された。依って、無罪放免が相応しい結果となった」


「おお…」と小さく声が上がる中、ギルド職員手負いのおっさんも小さく「…全く以て気に入らないがな」と呟く。


「では、残りの物も返却して頂けるんですか?」


パトリシアだ。珍しく噛みもせず、平坦な声で質問をしていた。


「それは既に処分したから返「ふざけないで頂けますか?」却できないと…なに?」


ギルド職員手負いのおっさんはパトリシアに台詞を被せられたせいか、それとも生意気な台詞を吐いたせいか…恐らくは両方だろう…怒気を孕んだ声で訊き返す。


「処分した物を返せとは異なことを…あんな汚物要らないだろう?」


「ふざけないで!…あれはザックくんが清浄化クリーンで綺麗にしてあった予備の下着です。着用する前の女性用下着がどうして汚いと?…どちらかといえば汚いのはそんなモノをどうにかした貴方なのでは?」


珍しく激オコなパトリシアが珍しく長文を喋ったことに驚く「息吹いぶく若草」チームの面々。普段はほわわんとしていてバカっぽい言動が目立つ彼女だけにハトが豆鉄砲を喰らったかのような顔をしていて面白い…じゃなくて、ちょっと不味いんじゃないかなとザックは思っている。もし、あのギルド職員手負いのおっさんが最下級だとしても貴族の一員だった場合、アレが適用されてしまう可能性がある。


(所謂、貴族侮辱罪だっけ?…平民の者が貴族を侮辱した場合、その場で斬り捨てられても文句がいえないって奴だ。探索者ギルドの中間管理職的な立ち位置のあのギルド職員が貴族というのは有り得ない訳じゃないし…うう、人物鑑定ができないのがこんなに恨めしく思ったことはないな…)


ザックができるのは植物鑑定のみ。このスキルは樹属性魔法生活魔法の派生魔法で固有スキルという訳ではない。一般的に鑑定魔法といわれてるのは固有魔法であり、人物に限らず生物と物品の鑑定が使用範囲だ。生物は生きとし生けるもの全てであり、人間に限らず動物や魔物もその対象とされている。負の生物であるアンデッドも対象とされているのは理由が不明ではあるが鑑定対象となっているのだからできるのだろう。また物品は生死が関係ない物全てが鑑定対象となる。熟練度が低い場合は名前程度しか判明しないが繰り返し使用することで熟練度が上昇し、詳細な情報が開示されていくようになる。最終的には全ての情報がわかる…ということらしい。鑑定魔法の所有者は国や国有機関に所属して活動することが多く、冒険者や探索者には滅多に居ないことから世間一般では何処までその能力で鑑定対象の情報を得られるかは知られていない。せいぜい、生物なら種族名と属性や性質が。物品なら名前と簡単な使い方がわかる程度だろう。


「~~~~…ふぅ」


パトリシアに挑発?されて怒り心頭で顔を真っ赤にさせていたギルド職員手負いのおっさんが怒りを抑え込むセービングスローに成功したかのように、息を吐いて顔を拭く手を忙しく動かしていた。


(うわ…あの手拭い、搾ったら汗が流れ出るんじゃないかな?)


と思うくらいには湿った程度ではなく、見るからに汗でギトギトしてる気がする。見てたら一般職員下っ端にいって手拭いのお替りを貰ってるし…


「下らない世迷言でわしを怒らせんでくれないか?…汚物は消毒…いや、破棄したといった筈だ。依ってここにもギルドにも無い。いいか?…無いのだっ!」


(売ったな…)


(どっかの好きモノに売り払ったんだな…)


(何てこと!…何処のどいつに…キモイ!キモ過ぎる!!)


(…)


心の中で売却したと決めつけるパトリシア以外の面々。パトリシア1人だけが更に氷の表情でおっさんを見詰めていたが、最後には「そう、ですか」と呟き、ギルドを出て行ってしまった。


「…いいんですか?パトリシアさん、出て行っちゃいましたが…」


ザックが心配して訊くと、


「あ?あぁ…頭を冷やしに行ったんだろ?…放っておけ」


と返すジャッカル。結局、後は淡々とした事後報告の台詞だけをカンペを読みながらおっさんが喋り、一方的に打ち切って退出。一般職員下っ端から謝罪の言葉を頂いてこちらも退出…と相成った。え?…賠償金?…そんなの無いない。一般職員の人からそっと耳打ちされたけど最下級騎士爵と思っていたおっさんは実は準男爵で爵位が1代限りで子供には継げないらしいけど、とある功績を上げて何年か前に授与されたとか。で、その後からやりたい放題だったらしくて手が付けられないから余り無理いわない方がいいと…。実際、ギルド内の実力が上の同僚が余りに酷いので意見をいったら首を物理的に飛ばされたとか…


(あちゃ~…あんなのに反抗したらパトリシアさん、ヤバクないかな?)


出て行く時に見せたニヤケ顔がかなり怪しい。いや、パトリシアさんじゃなくておっさんの方だけど。


「マシュウさん、ジャッカルさん。あのおっさん、パトリシアさんに何かちょっかい掛けそうな予感がするんだけど…」


と、不安気に2人に何とかしないとって進言するけど、


「いや…腐っても貴族さまだろ?…下手なことすると打ち首にならないか?」


「あ~…しょうがねーな。パットを確保しに行くか…ったく面倒なこって…」


マシュウは自分の身可愛さに乗り気ではなく、ジャッカルが面倒なことにならないようにとパトリシアを探しに走り出した。


「あ、ちょっと!あたしもパットを探しに行くわよ!?」


と、ジュンも追いかけ始めるが余り体力が無い為に、1時間くらい後でゼーハーいいながら宿に戻ってくるのであった!w



時刻は深夜ともいえる午後10時過ぎ。先程、ジャッカルさんが2階の窓から戻って来て大声で咆えた後、また外に出て行った。宿の人たちも既に殆どが就寝し、起きていた主人が「うるせぇっ!」と怒鳴り込んできた時はびっくりして謝ってたら、「子供はさっさと寝ろ!」といって戻って行った。ちなみにマシュウさんも探しに出ているので此処には寝ているジュンさんと僕しか居ない。


「あ、お帰りなさい」


「ただいま~」


パトリシアさんが戻って来た。この人も2階の窓からだ…てか、探索者の人たちって軽業師みたいによく2階の窓に登れるよね…。僕?…まぁ、やろうと思えばできるけど。


「何処行ってたんですか?」


「ん?…ちょっとね。手紙出して来た。それよりお腹空いたけどご飯は?」


「あ~…もう食堂閉まってますよ?」


「あちゃ~…もうちょっと早く帰って来れば!?」


ぐぅ~と可愛らしい?音がパトリシアさんのお腹から聞こえてきた。苦笑いしながらそんなやり取りをして、ちょっとじゃ済まない時間…この宿は門限が午後9時くらいで帰って来ないと問答無用で閉めちゃうらしい…なので、こうフォロー?してあげた。


「いえ、もう10時ですし。「この暗い中、何処うろついてるんだ~!?」ってジャッカルさんがさっき戻って来て猛り狂ってましたけど、大丈夫ですか?w」


といってあげた。


「うわ…やばぁ~…わかった!寝る!!」


「あははw…はい、おやすみなさい」


ドタバタと走り出したので、


「ジュンさんが寝てるので静かに…」


といったらソロソロと歩き出したのが可笑しかったけど…


(さて…このまま起きてると、また主人にどやされそうだし、書き置きだけしておこうかな…)


と、今もパトリシアさんを探して出払っている男性陣2名の為に、メモを書いてテーブルの上に置いておいた。



- 後日談 -


いや、後日といってもマナのダンジョンを擁するサウスネクシティを僕ら「息吹いぶく若草」チームがマウンテリバーに戻ってから数週間後、らしいんだけどね。らしい…というのは風の噂に聞いただけで、書面とか関係者に聞いた訳ではないってこと。何かというと…


「あのギルド職員手負いのおっさん、ギルドを首になったって話しだぜ?」


「準男爵も取り上げられて平民に戻ったとか聞いたぜ?はっ!…いい気味だぜ」


「へぇ~…。そうなんですか」


マシュウとジャッカルがザックに聞いた話しをいい気味だと話す。横で聞いてる女性陣2人はムスっとした顔で聞いてない振りをしているが内心は「いい気味よね」と思っていることだろう。対するザックは一晩軟禁された以外には特に何もないせいか感心薄で流しているが…


「そういやサウスネクシティの探索者ギルドから謝罪金ってのが届いてるんだが…何か知ってるか?」


「いや?…まぁ悪さしまくってたおっさんを追い出したお陰でって意味じゃねーか?」


「かもなぁ…」


「ちょっ!…その謝罪金って、まだ使ってないわよね!?」


マシュウがジャッカルと謝罪金のことを話しだした途端、ジュンが目の色を変えて嘴を突っ込んできた。流石このチームの金庫番というところだろうか?w


「え?…あぁ、まだ使ってないってか届いてすらいないんだよ」


「何ですって!?…今すぐ金額といつ届くか確認して頂戴!!」


「あ、あぁ、わかったから顔!近いって!!」


と、金が絡むと形振り構わなくなるジュンさんだった…。ちなみに、謝罪金って幾らだったかというと、金貨10枚とか。共有資産がこれで2桁になって暫くは安泰な「息吹いぶく若草」チームでした!


━━━━━━━━━━━━━━━

今回はちょっと短め。次話は翌日、凝りもせずにマナのダンジョンに挑むよ!



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨950枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨170枚、銀貨108枚、銅貨163枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨2枚、銀貨57枚、銅貨80枚(変化なし)

今回の買い物(支出金):

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

本日の収穫:

 チーム共有資産として金貨10枚…は、マウンテリバーに戻ってから受け取ります(個人資産じゃないので特に書かないけど)

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