17 休日 その2

ダンジョンから帰還した翌日。今度こそ第4階層へ!…と意気込んで装備を整え直してマシュウさんたちが住んでいる宿へ向かったんだけど…ダンジョンに潜った後はふつう、休息日にするらしい。いやまぁ、昨日は少しだけ疲れたけど、正直に話したら変な人扱いされた。そして「休め」と力を込めて進言された。いや、強制かな?…今まで、ダンジョンなんか週に1回休めば問題なかったんだけど…今の世の中、それはブラックとかいって推奨されてないっぽい。しょうがないので休むことにしたけど…本来の休息日と合わせると連休になっちゃうけど…それとも、前倒ししてるだけで休息日でもダンジョンに出掛けるのかなぁ?…ううむ、後で訊いてみるしかないかぁ…え、失明?…大丈夫大丈夫。なんとかって神さまが義眼を普通に見えるようにしてくれたので気にしてないよ!

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- サクヤの場合 -


「…何かいうことはあるか?」


「………いえ」


「そうか…」


「…」


重苦しく息苦しい中、探索者ギルド直営宿のギルド職員サクヤは、ギルド長に呼び出されていた。そして、先の探索者ザックの失明の主原因、直接関わっている罪人として審議を受けていたのだ。否、まだ確定とはなっていないので容疑者としてだが…


「…探索者のザックくんの両目の失明。これは、うちの宿の裏庭の地面の土…あれがザックくんの目に入り、腐らせたと…これは合っているのかね?」


「…その通り、です」


教会の見立てでは、そのように報告が上がっていた。


「…何故、目に土が入ったのか。原因はサクヤ容疑者…君がザックくんを背後から頭を持ち、地面に叩き付けたとあるが…本当かね?」


「…その通り、です」


何が原因でそのような愚考に出たかは聞いてないが、それはこの場で訊けばいいだろう。


「その後、ザックくん本人から聞いたが、すぐその場で洗い流せばあそこまで酷い結果にならなかったと思うのだが、何故許可を出さなかったのかね?」


「…それは」


「…ふむ。では質問を変えよう。地面に子供の顔面を叩きつけて、何故そのままにして説教を垂れていたのかね?…普通に考えれば顔が汚れるのは必至。裏庭の汚れた地面の土なのだから、何らかの影響が出たと…想像がつきそうなものだが?」


「…えと」


それ以上の言葉が出て来ない。余り弱い者いじめをしてるように見られるのも困るのだが…と、ギルド長は考え溜息を吐く。横で記録を取っている副ギルド長の吹き出しそうな顔にイラつくが、いい案もすぐには浮かばない。


「仕方ない。真実本当のことを申し開くまで自室にて謹慎をいい渡す。そうだな…取り敢えず1週間は反省するように。以上だ…」


そしてドアの外に待機していたギルド職員が中に呼び寄せられ、サクヤの自室まで護送するように命令され、サクヤの両腕を2人で掴んで送り届けられることとなった。



「はぁ…」


「お疲れ様です、ギルド長」


「いや、何で若い子にこのような…」


「痛い目に遭ったのはもっと若い男の子ですけどね?」


「いや…わかってるさ。しかし何でまた土が入ったくらいで目が…まさか」


「そうですね。至急調査依頼を出しましょう。ひょっとすると…」


「うむ。私の依頼で実力ある者限定で調査を…」


「はっ…」


探索者ギルドのトップ2人は頷くと、急いで依頼票の資料を作り始めるのだった…



- ザックの場合 -


「あの…もう両目とも普通に見えるので、その…」


「いえ、まだ安定してる訳ではないのですよ?…はい、処置室に着きました」


今日も今日とて検査という名目でザックの両目を調べるらしい。いい加減目だけが疲れてきたザックは、いい加減宿に返してくれないかなと思う。実に1週間は帰ってないのだ…まだ1日かそこらは猶予があるとはいえ、先払いした分が実に勿体ないし追加の先払いが遅れた場合、追い出されるかも知れない…


「宿の方が気になるのですか?」


「え…えぇ、まぁ。もう先払い分が尽きそうですし…」


「それならば大丈夫ですよ?…探索者ギルドにもこちらにザックくんが居ることは伝えてありますから」


「え…でも、それとこれとは…」


「大丈夫です。宿代については教会で代納しています。後で、好きな時に寄付という形でご返納して下されば良いのですよ?」


「え…と、それじゃ心苦しいのですが…」


「勿論、今すぐ寄付しても構いません、よ?」


シスターがウインクしてハートマークを飛ばしてくるんだけど…えっと、ここって教会、だよね?…怖いので、どれくらい教会に居なくちゃならないのか訊いて、その分の宿代を寄付って形で収めることにした。勿論、宿での朝夕の食費は抜いてだけどね。何故だか知らないけど、教会で3食食べさせて貰えてるので…。食費?…オーク肉のドロップ品を少しちょろまかして持ってたので、それを現物寄付って形で食費とさせて貰いました。教会では余りお肉が食べられなかったようで喜ばれたので何より…え、オークの肉って高級品なの?…余り買い取り額が高くなかった気がするんだけど…ってギルドの方で中抜きが酷いのか…余り聞きたくなかった事実だよなぁ…はぁ。



- リンシャの…周辺の場合 -


「はぁっ!?…サクヤがザックくんの両目を失明させたですってぇっ!?」


受付カウンター付近はそれ以後、リンシャが大暴れした結果カウンターは半壊。付近の住民…じゃない、受付嬢はすぐさま退避したので無事だったが止めに入った探索者やギルド職員は全員教会送りかギルド施設内の医務室送りとなった。流石に致命的な怪我などは受けなかったが割と半端なかい打撲だった為、治療という名目で搬送されたという訳だ。流石元冒険者といった所だろうか?…我らが姫は…


「サクヤ出てこーい!この暴力女ぁ~!?」


いや、教会の外で暴れないで欲しい…両拳の治療で来てるんだから…骨が半ばぐしゃぐしゃになってるのに何であんなに元気なのっ!?…神経無いのっ!?


「くそぉ~…あたしの将来の伴侶に何してるのよ…あのアマ!」


怖ぁ…本性を見てしまったら最期、墓まで持って行くしかないとはこのことか…。というか、さっきの暴言でブーメランのような気が…はっ!…殺気!?



以後、付き添いのギルド職員の男には記憶の欠落と共に後頭部にコブができているとのことで、暫くギルドに戻るのが遅れたとか何とか…頭に血が上った女性には近づかない方が無難のようです…



- 教会関係者一同の場合 -


「今日はなんて善き日なのだ…」


「そうでございますね…」


「神の奇跡をこの目で見られるとは…」


「そうでございますね…」


「そうだ、ザックといいましたか?…彼の少年に教会に特別待遇で迎えねば…!」


「それはどうかと…」


「何故?…神の奇跡をその身に現出させたのですぞ?…市井に置くのはどうかと思うのだが?」


「神官長は聞こえないのですか?…この声が」


「声?…はて…一体どのような…」


「…ではこれをご覧ください。口頭で説明申し上げると惚けられる可能性がある為、一筆したためておきました故」


ふむ…といって手紙を収めた封書を開封する神官長。ちなみに、マウンテリバーのような僻地に近い町の教会な為、一番位の高い神職は神官長であり、更に上の者は在籍していなかった。そして神官の書いた手紙には次のように書かれてあった。



マウンテリバーの教会の者へ 代筆:ノーマン=アラモンド


今日、神の奇跡を~!…などと担ぎ上げられてると思うザックくんだけど、彼はそういうの嫌う性質みたいなので目に問題が無いようだったらすぐに宿に帰してあげてね?…でないと、彼の生活にも支障が出るだろうし。


幾ら下界の医療技術が拙いといっても魔法技術もあるんだし、2~3日も検査すれば問題無いとわかると思う。いっとくけど、幾ら目を検査しても、そこには魔法の秘術とか奇跡の秘術…なんて見つからないからね?…すっかり元の目と同等になってる訳だからね。もし…そんな痕跡を探す為だけに本人の意志を尊重しない引き留めなんてしてたら…天罰を与えちゃうよ?…まぁ、わかってると思うけど。


とまぁ、そんな訳だから。あ、そうそう、僕は教会が奉ってる神様じゃないけど、一応関係者だから。無視したり粗末な扱いをしたら怒らない…なんてことはないからね?…どちらかといえば、あいつよりは短気な方だから…覚悟だけはしておいた方がいいよ?


教会の神様、アラ=ラ=ホーユンサの友神、ゴ=デルッサ=ポウより



神官長が読み終えた瞬間、


どぅんっ!


と落雷らしき轟音が響き、先程まで明るかった外がいつの間にか暗くなっており、暗雲が立ち込めていた。そして、一際大きい轟音が響いた瞬間!


ごばぁっ!


視界が真っ赤に染まり、気付くと手に持っていた手紙が消失。神官長と神官の髪の毛が逆立っており…壁の一部が抉られるように消え去っていた。


「こ…これは…」


「警告…いえ、あれから既に1週間です。最後通牒、と捉えた方がいいかも知れません、ね…」


神官と神官長は抉られ消え去った壁を見て、ごくりと唾を嚥下した。ザックが解放されたのはそれから1時間の後になり、その頃には空は元の明るさを取り戻して暗雲もいつの間にか消え去っていたとのことだ。



曰く、神の言葉を軽くみてはいけない。

曰く、神の言葉を疑ってはならない。

曰く、神の言葉を妄信してはならない。自らの頭でも考えよ。



という3か条が教会の教義に付け加えられたそうだ。何故、今更、という疑問は浮かび上がるが、マウンテリバー教会支部の神官長と神官に降臨…はしてないが、神直々の神力行使の実体験から来るものらしい…ぶっちゃけると、「考えるな、感じよ!」…だそうだ。


「うむ…意味わからん」


とは大多数の感想だが、現場に居なかったら普通はそう思うのは無理も無い。



- その他諸々の場合 -


「最近、何か怠いよなぁ~」


「あぁ、何かこう…土が露出してる所に居ると、怠くなるっつうか?」


「マウンテリバーから離れると治るんだよな。呪われでもしたか?この町…」


「うーん、どうだろうな…まぁあれだ。呪いなら教会の仕事だろ?…相談にでも行ってみるか?…お布施でもすりゃ少しは真面目に考えてくれるだろ」


「そうだな…じゃあ行ってみるか!」


そして数人の町民が教会に訪れた途端、周囲が暗くなり、そして暗雲が立ち込めて…


どぅんっ!


と落雷が教会の近くに。


「ひええっ!?」


「何で雷様がぁっ!?」


その数秒後、かっ!と赤く視界が染まった後、


ごばぁっ!


と教会の外壁の一部に赤い光の柱が迸る。


「ぎゃああっ!?」


「か、神様が怒りなすった!?」


「に、逃げろぉっ!」


「何処へだ!?」


…と、マウンテリバーの町民たちはこの世の終わりだとばかりに泣き叫び、教会から尻尾巻いて逃げ出したのだった…南無。


━━━━━━━━━━━━━━━

ほぼ閑話w 偶にはいいでしょうと…短めになっちゃったけどね(そんなにネタが思いつく訳でもなし!(苦笑)



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨170枚、銀貨70枚、銅貨1315枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨1枚、銀貨58枚、銅貨53枚

今回の買い物(支出金):

 宿代1週間分…銅貨26枚(朝夕の食費を除いた1泊銅貨4枚×7日×1割引き)

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

本日の収穫:

 ※井戸の水生成魔道具の費用はザックの失明騒動で関係各者の頭からすぽーん!飛んでおり、後日清算される予定

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