07 その7

「マウンテリバー領主の娘の護衛依頼」を請けさせられて翌日。僕以外にも護衛を雇ったようで「疾風のドレッド」という冒険者パーティに御者を含む馬車。総勢7人の所帯となった訳で…大所帯って程でもないけど人数はそこそこ多いんじゃないかな?…で、初日に休憩地に寄った時にそれは起こった…そう、護衛対象である「マリアンヌ=フォーチューヌ」さま…本人からは「マリア」と呼べっていわれてるからマリアさんで通すけど…が賊に狙われた訳だ。まさか御者さんも賊の一味だとは思わなかったけどね。冒険者の皆さんも足を射抜かれて動けなくなったのは誤算だったかな…早く御者さ…賊の1人がマリアさんから手を離せば良かったんだけど、殺されちゃったら大変だったしね…運良くナイフを離してくれた隙を狙って無力化に成功したので良かったかな?最終的には賊の人たちを全員拘束してドレッドさんを除く3人でマウンテリバーの然るべき所に送り届けて貰い(まだ1日目の地点なので戻った方が早いし、領主邸では裁くにしても人を呼ぶ必要があるので時間が掛かる為)、僕とマリアさんとドレッドさんで領主邸へと向かい、僕とドレッドさんの2人で起こった顛末を説明したんだ…何故かドレッドさんだけマウンテリバーに戻り、僕が居残ることになったんだけど…何故?ほわぃ?

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- 領主邸 -


結局。あれから領主邸でお風呂入ったり食事(夕食)を食べたりした後、軽く談話をしてからもう遅いから、詳しいことは明日…ということで、与えられた客室で寝ることに。


ちなみにお風呂から出た後、メイドさんたちに着替えを(ほぼ強引に)させられ…っていうか、娘さんしかいないようなのに何で男の子向けの子供服があるんだ?…え、婿入りしたお子さんの残してった服ですか、そうですか…まぁ、小綺麗な服に身を包んで夕食にお呼ばれになって談話して、寝る時にまたメイド軍団が来て寝間着に着替えさせられた…何なの、もう…



「はぁ、疲れた」


ベッドに入ってようやく1人になることができてホッとしていると、マウンテリバーを出てから起こった数々、そしてサンフィールドに出向している間の数々を思い浮かべる。


(…何かこの数箇月は濃密な日々だったなぁ。それまでの1年が希薄…って訳じゃないけど、生きていくだけで一杯一杯だったし)


特に最初の1箇月はロクに収入を得られず、安宿とはいえ収入が少な過ぎて「必ず返しますから!」といって支払いを待って貰ったり、お腹を空かして戻っても宿代を支払っちゃうと飯代を出せずに食わないでいたら(朝夕の飯有りだと銅貨5枚だが、素泊まりも可能でその場合は銅貨4枚になる)「子供が何遠慮してんだ。黙って食ってけ!」って料理長に厨房で食わせて貰ったりと、恩を受けまくってたんだよね…。だからこそ、恩返しで厨房の中で色々と料理や飲み物の案を考えて貢献してきたってのもある。やっぱ、厨房の中だけでは新料理なんておいそれと考えつくものじゃないし、僕はダンジョンだけじゃなく、外にお使い系の依頼をこなすこともあるので、出先の食堂なんかで色々と料理のアイデアなんかを仕入れることもできた訳だし…ぐぅ。



翌朝、いつもの鍛錬の時間より少し前に目が覚めて、メイドさんを呼んで(ベッドの横のテーブルに呼び鈴があって、起きてるかどうかわかんないけど、用事があったらこれを鳴らしてといわれてたので)みたら…本当に来てビビったよ。メイドって大変だなぁ~…


「お呼びですか?坊ちゃま!」


「え?…あのその、僕、ここの子供じゃない、ですよ?」


「ええ、存じております!…ですが、この屋敷に滞在している間はそう呼べと仰せつかっておりますので!」


元気一杯なメイドさん(推定年齢は僕より年上の16か17歳くらい?)がそう応じる。うん、これはいってもダメな奴だ…そう感じた僕は、


「あ~…それでですね…」


要は、いつも朝の鍛錬をしているので、自分の着替えを要求したんだけど、出てきたのは…貴族の坊ちゃまが着るような動き易い貴族服だった…何これ…


「うわなんでぴったし…」


「昨夜の内に仕立て直しました!…どうせ、誰も着ることもない服でしたし?」


う、う~ん…何か闇が深いような…とても口出しできそうもないので、僕の持ち歩いていた荷物…といっても巾着袋と、脱がされた服一式くらいしかないんだけど…を要求してみた。要は、巾着袋の中に仕舞ってある短めの長剣ショートソードの素振りをしたいだけなんだけどね(木剣はマウンテリバーの安宿の自室に置いて来たので今は無い)


「それでしたら!」


…という訳で、この屋敷に昔住んでいたマリアさんのお兄さんが使ったであろう、木剣を何処からか探し出して手渡された。そして…


「何でこんなにギャラリーが…」


領主さんと執事さんと厨房の皆さんは仕事があるということで此処には居ないが、メイド軍団一同とマリアさんと領主の奥様が少し離れた場所に居た…


(しかも椅子やテーブル、飲み物まで用意しているし…流石に座ってるのはマリアさんの奥様だけだけど…)


メイドの一部だけが2人の世話をして、残りはかぶりつきでこちらを見物している。庭師の人も居るが、仕事をしながらと許可が出たそうで(いや、聞くとはなしに聞こえちゃったんだけど)作業をしながら見物してたり…あ、徐々に作業場が遠くになってついには見えなくなった。


(ふぅ…ふぅ…)


そんな中で見物というか、最早見世物になってる僕といえば、素振りに加えて足捌き、体術、仮想敵との組手というか模擬試合を披露してるんだよね…安宿ではそこまでやってなくて、泊まり掛けでダンジョンに籠ってる時、人目が無ければやってたルーティンをこなしてるんだけど…


(う~ん、やっぱやらない方が良かったなぁ?…でも、最近は全然やってなかったから体が鈍り気味だったしなぁ…)


借りている庭園の広場が広かったこともあり、ついウキウキとなって全ルーティンをこなして…うっかりやっちゃったんだよね。何をって?


「あれです!お母さま!!」


「成程…聞いてはいましたがこれ程とは…」


「凄い…」


「生活魔法と聞いてましたが、どう見ても高等土魔術と水魔術ですね、あれ…」


と、土からコップを生成して使えるように表面処理してピュアウォーター純水で洗浄してドライ乾燥で乾かした後、再びピュアウォーターで満たしてゴクゴクと飲み干してからハタと気付いた訳で…。だって、その一連の流れって何も考えずにやってたからね…ギャラリーが一杯居るの知ってるのについうっかり…


「えと…あの…これは生活ま「「「違います!」」」ほうです、よ?」


断じて違う!…と、更に追い打ちを重ねられて反論を封じられる僕。えぇ~…ステータス表とか表示できたら、使える魔法一覧には「生活魔法」の1つしかない筈ですよ?…だって、正規の属性魔法って何1つ発動できないんだもん。生活魔法は発動できるのにねぇ…しかも、全属性が。


(火属性のトーチ明かりと生活魔法のライト明かりは見た目も似てるけど、明らかに消費魔力や持続時間は違うからなぁ…)


発現も見た目も似ている2つの魔法。どっちも火属性で可燃物に時間を掛けて接触し続ければ燃えるけど、それは紙などのすぐ燃える物に限る。たきぎなど、ある程度の量を燃やす為には火種が必要だ。が、トーチは辛うじて可能だがライトには向いてない。何故か…それは持続時間と温度が関係してくる。火属性魔法のトーチは生活魔法のライトより温度が高く、また持続時間も長い。もとより、どちらも火種としては心許ないがライトは手で触れても少し熱いと感じる程度の温度しかなく、持続時間も1時間前後(使用者の魔力値と熟練度に左右されるが、温度は熟練度が上がっても上昇しない)と短く、ちょっと明かりが欲しい時にしか使わないのでそもそも熟練度が高い者は殆ど居ない。トーチは温度に関しては使用目的からライトと同様に熟練度が上がっても熱くはならないが、ダンジョンなどの暗い場所での使用頻度が高い為に比較的熟練度が上昇し易い傾向にあり、持続時間も3時間前後から長い者で半日程までと記録にはある。手を触れると「熱っ!?」といわせる程であることから、低品質紙程度ならすぐに燃え出すだろう(ライト=少し熱いお湯、トーチ=お湯が沸いてるヤカンや鍋程度?)


…話しが逸れた。


「ですから…」


反論しようと努力しているが、結局「凄い魔導士さま!?」という誤解は解けず、朝の湯あみ、そして着替えてて朝食へと雪崩れ込むのでした…



- 朝食後 -


「さて、今回のマリアの誘拐未遂の件なんだがね?」


談話室…というよりは、雰囲気が尋問室になりかけてるんですが…怖い。


「は、はい…えっと、マウンテリバーから順を追って話した方がいいでしょうか?」


チラっと執事さんと見る領主さま。こくりと頷く執事さんに「ふむ」と頷く領主さま。


「では、そうして欲しい」


「はい…」


ぶっちゃけ、長くなるので説明は割愛するけど、ね。話してる間、喉が凄く乾くので…最初は紅茶を頂いてたんだけど、待ってる間の時間も惜しいので普通のコップ(紅茶は紅茶用の小さ目のティーカップだったので)を持って来て貰ってそこにピュアウォーターを自分で生成して飲んだ。ウォーターでも良かったんだけど、どーせ素人にはどっち生成してもわかんないと思ったんだ。



「…という訳です」


「成程」


再び、チラっと執事さんを見る領主さま。そして頷く執事さん。横のメイドさんから手渡されている紙を見ながら確認してるみたいで、ひょっとすると独自に調査した内容とか、昨日のドレッドさんの証言でも書かれてるのかな?…で、僕の証言と相違ないかを確認している?


「えっと、何か問題がありましたか?」


「いや、大丈夫。少し確認していただけ、だからね?」


さっきまでの雰囲気から比べると、随分と柔らかい感じがして…まるで自分の子供に対する父って感じかな?…僕の手には汗で結構濡れていて…


(緊張してたんだな…)


密かにドライで乾燥させる。流石に借りている服で手を拭くなんてことはできないし。一応、ポケットにはハンカチもあったんだけどね…


「では、まずは報酬を出そう」


「少々お待ちを…」


領主さまがそういうと執事さんが頭を下げながらそういい、部屋から出る。そしてすぐに引き返してくる。後ろには報酬の乗ったトレイを持つメイドさんが数人ついて来て…


(…えっと?)


テーブルの上に静かに乗せられるトレイ…その数は5つ。恐らく現金の入っている革袋が3つ。1つづつトレイに入ってたんだけど…。そして他2つは何か現物が乗っていた。


「あの…報酬ですが、多過ぎませんか?」


恐る恐る訊いてみると、


「何、娘が世話になった上に誘拐までも防いでくれたのだ。大したことではない」


「そうよ?…娘が誘拐されたらこんな額では済まなかったですし…」


(そういえば脅迫書を送ったっていってたっけ…一体幾ら…あ、そういえば大金貨100枚っていってたっけ…。大金貨100枚といえば、金貨で1万枚…あ、大金貨は金貨千枚分だっけ…ってことは…えっと…)


暗算で大金貨1:金貨1000で、大金貨100:金貨100,000だから、金貨10万枚…銀貨だと1千万枚…銅貨だと100000万枚…万の上の単位って何だっけ?…と混乱していた(億です…だから、100億枚です。実際に銅貨で支払ったら、普通の人は持ち歩けなくなりますw(そもそも銅貨が1億枚も領主邸に無いし、金貨ですら10万枚も貯蔵してません))


「どうした?」


「あ!…いえ、何でもないです」


やや怪訝な表情の領主さまだったが、慌てて何でもないというと、「そうか…」といい、


「では、受け取り給え…。金貨150枚と、旅に役立つ魔道具を2つだ」


「え…えぇ~!?(もがっ)」


驚きの余り、うっかり叫んで両手で口を塞ぐザック。領主と奥方はニコニコと笑顔になり、ちらっと見た執事も笑顔。メイドたちもニコニコとしている。


「…あの、僕よりドレッドさんたちに…」


と反論してみるが、


「いや、彼らには十分報酬を渡してあるよ?…依頼主のギルドよりも、ね?」


と、ぱちんと領主さまがウインクを1つ(何で男のウインクが多いんだ、この小説…とか思うだろうけど、我慢してくださいwww)


「は…はぁ………」


確かめる術がない現状、頷くしかないザック。


「その恰好だと収めるべき場所が無いな…あれを」


「はい、旦那様」


メイドの1人が部屋を出て、暫くしてから例のブツをトレイに乗せて持ってくる。…そう。僕の所持品の1つ、巾着袋だ。目の前に置かれたそれを見詰めながら領主様がいう。


「これがアイテムボックスとは…。確か、サクチーミ村の特産品と記憶していたんだが?…」


(確か国境より手前の村だったかな?…なら、知っていても不思議じゃないかぁ…)


そんなことを思いながら「その通りです」と答えておく。だが、アイテムボックスは関係無いと伝えることも忘れない。でないと、その村の特産品が格安でアイテムボックス付きの巾着袋を売っていることになってしまうからだ…だが、それではアイテムボックス機能をどうやって付与したか…ということが問題となるんだけど。


「あ、えっとですね…」


結局、また嘘を吐くことになったんだけど、ダンジョン第3階層で吐いた嘘よりは遥かにマシだと思う。それは…


「サンフィールドに仕事で出てたことがありまして、その仕事の報酬に頂いたんですよ」


と。仕事内容に関してはボカしたけど治水工事関連とだけいうと、何故か納得されたんだけど…何でだろう?



取り敢えず2つの魔道具の説明を受けた。簡単に纏めると以下のような物だった。



【堅牢のローブ】

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◎物理&魔法耐性50%

◎常時清浄効果

※充填魔力を使い切ると効果を失う(魔力補充で効能回復)

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【治癒の指輪(効果小)】

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◎微弱な怪我の治癒&状態異常回復効果

※充填魔力を使い切ると効果を失う(魔力補充で効能回復)

---------------



「お~、凄いかも?」


と驚いたけど似たような効果を持つ魔道具なら創造可能だ。例の砂でベースを創ればいいだけだしね!…まぁ、喜んでたら領主様も奥様も僕を見てニコニコしていた。きっと子煩悩な所があるんだろう…と思った。ちなみに前貰った「粗末なローブ虚ろいの容貌の装い」と違って粗末なボロ布みたいな見た目じゃなく、新品じゃないけど品のいい外套ローブだった。色は暗めのダークグレイかな?少々汚れても目立たないって感じでダンジョン探索には向いてるかも知れない。少々厚めの生地なので少し寒くても大丈夫っぽい。尚、足首のちょい上までしか布がないが地面の土などで汚れないように工夫をしているんだろう…多分。


「気に入ったかい?」


「はい!」


「そうかそうか…じゃあ、この魔導士の杖を持って御覧?…これで我が領主お抱えの魔導士に!」


「あ、いえ、それは謹んで辞退申し上げます…」


「…ちっ」


「あなた?」


「え、あ、いや…」


何故かお抱え魔導士にされそうになって、舌打ちされて、奥様に何処かに引き摺られて行く領主様を目の当たりにしたんだけど、見なかったことにした方がいいんだろうな…


「まて!これは誤解だ!うわぁぁぁぁ………」


(笑っちゃ駄目だ、我慢するんだ、僕!)


数日間、我慢した反動で腹筋が筋肉痛になりました…痛ひ。


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備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(変化なし)

ストレージ内のお金

 金貨23枚、銀貨10枚、銅貨61枚(変化なし)

財布内のお金:

 金貨151枚、銀貨12枚、銅貨69枚(護衛報酬現金追加)

本日の買い物:

 なし

ザックの探索者ランク:

 ランクC(変化なし)

護衛報酬:

 金貨150枚、堅牢のローブ、治癒の指輪(効果小)

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