19 その3

探索者ギルド直営宿の料理長(他称)に頼まれたハーブティー用のハーブを集め終えて…多少は嫌味を込めてだけど…宿に帰還するザック。そして重過ぎる肩掛けバッグ(料理長から拝借してた奴)が多少の騒動を巻き起こしたが無事に練習用ハーブをサクヤさんに渡すミッションを無事に終える。だが、ザックは料理長から聞かされる…その力持ちの原因を…。画して、下心ゼロでサクヤさんの悩みを解消する魔道具を創り出し、残りの仕上げを明日以降に残して眠りにつくのだった…

━━━━━━━━━━━━━━━


- 翌日。取り敢えずわからないことはギルドで訊いてみよう! -


「お早うございます!」


ザックは朝飯を済ませた後、探索者ギルドに赴いていた。流石に朝の依頼票争いの時間帯だけにギルドは探索者でごった返していたが、冒険者ギルドと違ってダンジョン関連の依頼はそう多くなく暫く待っていればゲットした依頼票を手に受付へと列を成して並ぶ勝者とすごすごとダンジョンに直行する敗者へと別れていった…


「あはは~…相変わらず短期決戦だなぁ…」


と呟いて、適当な列の後ろに並ぶザックだった。



「はい次の人…ってザックくん!昨日は有難うね!!」


何の気なしに並んだ列はリンシャさんの受付カウンターだったようだ。ガタイのいい探索者が前に並んでいると、受付の人が誰だかわからなかったので意識して選んだ訳ではない。


「あ、いえいえ。何か可愛い柄とかあっていいかなぁ~と…他のお世話になっている人たちにもお土産渡していますんで…」


と、汗汗としつつもリンシャにぺこぺこするザック。そして肝心の質問をすると…


「あぁ、それでしたら…」


と、紙にギルドからの辿れる経路を書いて貰い、受け取るのだった。


「えっと、幾らでしょうか?」


紙を受け取ったザックが訪ねると、


「え?…あ、あぁ~…これくらいいいですよ。お土産のお礼と思って下されば!」


と、ぱちっ!とウインクしてにっこりと笑顔のリンシャスマイルを受け取る。ドギマギしたザックは、


「は、えと、有難う御座います!」


と、ぺこぺことお辞儀の後にダッシュでギルドを出るのだった…


「…」


余りにも急いで目の前からザックが居なくなったことに、後ろの探索者が暫く呆然としていたが、同様に固まっていたリンシャに申し訳なさそうに


「あのぉ~…自分の番なのですが、宜しいですか?」


と自分の受付をして貰おうと声を掛けたが、物凄くぶっすぅ~とした声と顔で処理を始められてがっくりするのだった…合掌。



- 金属加工店 -


「あった、ここかぁ…」


貰ったお手製の地図を頼りに歩き、凡そ20~30分で辿り着いた。周囲は小さい工場などが立ち並び、金槌を叩く音や木を切る音などが聞こえてくる。


「こんな所に職人通りがあったんだねぇ…普段はギルドとダンジョンや外しか行き来してないから気付かなかったなぁ…」


ザックの今までの稼ぎではギルド内の店舗で買える初心者向きの装備や消耗品しか買えなかった為、ほぼギルドと宿とダンジョンの行き来で完結していたというのもある。冒険者であればギルドに設営してあるのは食堂兼酒場と有料の小規模図書室しかないので外に出る可能性はあるのだが、ダンジョン探索が主の探索者たちは中~上位の者くらいしか外の店舗に行かない者が殆どだろう(装備品が高級品になるにつれ、ギルド内の修理工房では扱い切れない為)


(…ま、いいか。頼めれば頼むし、何かいいデザイン本でもあればそれを買って自分でやるでもいいし…)


入口からやや離れた位置で辺りをキョロキョロしていたザックだが、やがて意を決して金属加工店へと入る。



「…」


(そういえば店に入る時、何ていえばいいんだろ?)


生まれてこの方、入ったことのある店といえば…


(探索者ギルドの中のお店と大衆食堂と…)


生まれた村には店などはなかった。物々交換が主だったのでそもそも店という概念も無かったように思う。マウンテリバーに初めて来た時は無言で食堂に入ったけど特に何もいわれずに受け入れて貰えたので問題はなかった…と思う。今思えば、変な子供って思われたかも知れないけど。


探索者ギルドに来たのは偶々だった。冒険者ギルドの方が外の門に近かったんだけど…所謂洗礼ってのを浴びて、その上ギルドから蹴り出されたんだっけ…で、荒々し過ぎて自分には合わないなと思い、呟いていたら道行く人に「もう1つのギルドに行ってみては?」といわれて赴いたのが探索者ギルド。こっちはそんな荒々しい歓迎なんかは無くて…そもそも人が疎らだったんだよね。とっくにみんな仕事に出てて。


(最初は「勤勉だなぁ」と思ったけど、逆に働かないとその日の飯にも困るような人が多かったってだけで。実力があっても、装備のメンテなどでやっぱりお金が掛かるから毎日仕事しないとキツイっていう…う~ん)


そしてまた思考が逸れていることに気付いて店内を見回すザック。と、丁度そこに店員か店主かはわからないがカウンターに現れ、


「いらっしゃいませ、何用かな?」


と、声を掛けてきた。


「あ、はい。実は…」


腕輪に細工をしたいが金属加工を頼めるか、それともデザイン本があるなら買えるか…と質問した。


「そうだね。その腕輪を持って来ているなら見せて貰えるかな?話しはそれからだ」


それもそうかと、持っていた巾着袋からサクヤの腕輪を取り出し、見せる。


「…」


手を出して待っている店員、若しくは店主。


(やっぱ手渡さないとダメかな?)


渋々腕輪を手渡すザック。一応銀メッキしているから銀の腕輪と思って貰えればいいなと考えるが、よくよく考えたら模様を彫る依頼をしたら内側の疑似ミスリルがバレるかも知れない。それに気付いたザックは、


「あのっ!やっぱり自分で彫ってみたいと思うので、何かデザイン本とか手本になるような物があれば売って欲しいのですがっ!」


と、慌てて叫んで腕輪を返すように手を差し出すのだった…



「ほら、これだ。どーせ彫刻刀なんぞ持ってないんだろう?…金属向けのセットがある。これも買っていけ」


面白くもなさそうな顔でデザイン本と彫刻刀セットを置く。合わせて銀貨8枚と結構な値がしたがそうそう出る物ではないんだろう。手持ちでも十分買える額なので我慢して買うことにするザック。


(本が銀貨5枚に彫刻刀が3枚かぁ…)


痛い出費宿代160日分だが仕方ない。


(芸術系に手を出すと金が掛かると聞いていたけど本当なんだなぁ…)


と思いつつ、


「有難う御座いました」


と頭を下げてから、店を出ながら背中で買った物を隠しつつ、ストレージに仕舞い外に出た。


(さて、これで腕輪に模様を付けてからサクヤさんに渡そう!)


足取りも軽く、ザックは宿へと戻るのであった!



- 探索者ギルド直営宿 -


「ふぅ…これで後は模様のデザインを選んで細工を施すだけだね!」


ザックは部屋に戻り、早速ベッドに寝転んでデザイン本を開く。目次を見て模様のページを開いて見る。…それから1時間が経過しただろうか、ザックはベッドをゴロゴロと体勢を変えながら本を眺めているが、一向に腕輪のデザインを決められなかった。


(不味い…芸術品なんて縁が無かったから、何がいいのか全然わかんない…)


頭から煙を吹く…訳ではないが、かなり茹っていたザック。


(う~ん…頭を冷やすついでに腕輪をしている人くらい居るだろうし、観察がてら散歩して来ようかな…)


我ながらグッドアイデア!…と思いつつ、本をストレージに仕舞うザック。それから久々のお出掛けということもあり探索時の普段着ではなく、短衣チェニックの上下に巾着袋の紐を腰に結わえておく。中身は以前と変わらず、小石やポーションの小瓶、短めの長剣ショートソードが入ったままになっている。


「あ…ストレージからお金を出すのもいいけどバレたら事だしな…」


最近、トンと出番の無い財布をストレージから出して中身を確認する。


「あ~…やっぱし空っぽかぁ…幾らか移動して巾着に突っ込んでおくか」


流石にポケットや懐に入れておくとスリにやられる為、財布はあれから使わずに銅貨をボタン付きのポケットに入れるようにしていた。流石に強化してあるボタンは突破できずにスラれてはいなかったんだけど、いい加減使い勝手が悪くて困っていた所だ。


「財布にも強化掛けておいて…う~ん、幾ら突っ込んでおこうかな?」


暫し悩んだ後、どうせ大きな買い物はしないだろうと、買い食いできる程度の小銭を入れておくことにした。


「…まぁ、銅貨20枚もあればいっか」


ストレージから銅貨を取り出し、財布へチャリチャリと入れていく。そして巾着袋へと仕舞い込む。少し考えてから、念の為に銀貨も5枚程追加しておいた。


「う~ん…僕以外が口を開けられないようにしておいた方がいいかな?」


ベッドに座り巾着袋を足の上に置いて見詰める。


(紐を引っ張って口を閉じて、開ける時は口を両手で引っ張るから…まぁ両方に細工しとけばいっか…)


ザックはストレージの砂を物質変換してある物を創りだして巾着袋に組み込んだ。


(よし、これで僕以外は物を取り出せないようになったな…)


満足気に頷くと、腰のベルトに紐を結わえて部屋を出るザック。戸締りを確認すると、受付の人に「夕方までには戻って来ます」と伝えてから外出したのだった…



「はぁ…1人くらいは腕輪してる人が居ると思ったんだけどなぁ…」


思ったよりお洒落アイテムである腕輪をしている人が居らず、がっくりするザック。よくよく考えてみれば、一般人が居る区画ではそんな出費をするくらいなら食に金を掛けるか装備品に金を掛ける冒険者や探索者の方が多く、一般人はそもそも用事が無いと仕事中である時間には外に出掛けないので、専ら外に居るのは荷運びをする人足や仕事の用事で外に出ている者が多い。子供は外で遊んでいると人さらいにさらわれてしまうとかで姿を見掛けることは殆どない(親と一緒に歩いていることも偶に見るけど時間帯が悪いのか見掛けない)


(働いてる人がお洒落アイテムなんて付けることは…まぁ殆ど無いよねぇ…)


身分の高い女性なら兎も角、イカツイおっさんが腕輪を付けることは…ほぼ無いと断定(失礼w)したザックは、仕方なくアクセサリー店に行ってみることにした。陳列されているアクセサリーなら、流行のデザインやヒントになる模様なんかがあるかも知れないと期待して。



「う~ん…これは想定外だったな…」


よくよく考えればちょっとした安物のアクセサリー店なら平民街区画にも存在していたが、腕輪などは高価な部類となる。とすると貴族たちが住んでいる区画に行かないといけないのだが、ザックはバリバリの平民オブザ平民。下手をすると、みすぼらしい見た目なので少し身形がマシなスラムの住民…とまではいかないかも知れないけど、どう見ても貴族街なんて入れないのは火を見るより明らかだ。仕事で行き来する可能性のある冒険者の中・上位者ならば通行手形を発行されるので、境界に立っている守衛に見せれば中に入れると聞くが、ザックはそもそも冒険者ですらない。


「うーん…門の傍を誰か腕輪してる人でも通ってくれればいいんだけどなぁ…」


こちらをチラチラ見ている守衛の目が厳しい。用も無いのにぼ~っと貴族街区画を眺めている子供が居れば、それは気になるのは確かだろう。


(ん~…これ以上は眺めてるのは無理かなぁ…しょうがない。本人に本を見て好みの模様を訊いてみるかなぁ…)


と、嘆息してから引き返そうとするザック。だが、後方不注意で目前が闇に閉ざされ、やけに柔らかい感触が彼の顔を…いや、顔だけに留まらず、全身を覆う!


(なっ!…何だ、この柔らかい壁は!?)


そして、ぽよん!…と弾き飛ばされて尻餅を突いてしまうザック。開かれた視界に上を見上げたその先には…恰幅のいい肥満体としか形容し得ない図体の男が立っていた!(ボインな女性とぶつかったと思った人、残念!)



「おや、大丈夫かい坊主?」


その恰幅のいい男は、見た目に反して紳士的にザックに手を伸べて起こそうとする。


「あ、いえ、大丈夫です。申し訳ありませんでした!」


慌てて立ち上がり頭を下げ、深々と腰を折るザック。どう見てもその男は貴族街の住民だ。普通ならば馬車で行き来すると思うのだが、恐らくはすぐ近くの平民街の店にでも用があって徒歩で出歩いていたのだろう。傍には従者が付き従っており、ぶつかったザックに何かいいたそうな目をしているがあるじの制止に動けないようだ。


「いやいい。こちらも前を見てなかったのだからな」


それだけいうと、従者を引き連れてスタスタと歩いて行く貴族っぽい男。その腕には腕輪が装着されており、斜め読みで見た本の中に模様があった気がした。


(お~…ああいう模様が流行ってるのかなぁ?)


ただ、男性が付けている腕輪では女性であるサクヤには似合わないかも知れない。ザックは周囲を見回して人が居ないことを確認すると、注意して宿へと帰ることにした。



- 探索者ギルド -


「お、帰って来たな…ザック!」


声がした方を見ると、ハンスがこちらを見て手を挙げていた。土産をあげなかったからなのか、見ると怒っているように見える。


(うーん…スルーするか…)


聞こえない振りをして宿の方へと歩くと…


「てめぇっ!聞こえないのか?ザックっ!!」


と怒鳴って、受付カウンターを乗り越えてハンスがこっちに来る。


「えっと?…そんなにお土産を貰えなかったのが悔しかったのかい?」


「あぁ!?何いってやがる…って、土産って何だ?」


「え?…あ、いや、何でもない…で、何か用?」


怒りのボルテージが微妙になったハンスに、用事は何かと訊くザック。ハンスは何をいおうとしたのか思い出し、「ちょっとこっち来い」と、カウンターの奥へと引っ張り込まれる。


「ちょちょちょ!な、何だよ、おい!」


というザックを無視して、2人は職員の休憩スペースへと歩くのだった…



- 探索者ギルド・職員休憩スペース -


「…誰も居ないな」


「そうだね…で、何?こんな所に連れ込んで…って、まさか…!?」


独り芝居しているザックを見て目が据わるハンス。


「何考えてるんだよ…いや、いわなくていい。そんなんじゃないからな?」


はぁと溜息を吐くハンスにザックは馬鹿を止めて、適当な椅子に背もたれを前にして座る。


「…で、一体何の用事が?…僕、ちょっとこれからやることがあるんだけ」


「…お前、今日何処行ってた?」


「え?」


ハンスも椅子に座ってこちらを睨んでいる。いつもの軽い雰囲気と違い、珍しく真剣な目付きのハンスを見て、戸惑いつつもザックは答える。


「貴族街の門の傍まで行ったけど…それが何か?」


「はぁ…やっぱりな」


(やっぱりって何がだ?)


訳がわからなくて訝し気な顔をしていると、


「ザック、お前…探索者ギルドの規則、覚えてるか?」


「え?…あ~…よく覚えてない」


ダンジョンとの往復やマウンテリバーの外の草原との往復で何も咎められたことはない。サンフィールドの長期出張でも同様にとやかくいわれたこともなかった。ザックは(何か規則違反をしたっけ?)…と悩むが、正解は見つからない。


「はぁ…あのな?「用事が無い限り、貴族街には近づくな」って規則があるんだよ…まぁ用事があっても許可が下りてなきゃ近寄っちゃならんのだけどな」


そこまでいわれて、


「あ…」


と口を半開きに思い至るザック。


(だから、守衛がチラチラとこっちを見てたのか…)


「今日、あの門を護る守衛たちの上司から連絡があったんだとよ…副ギルマスがぺこぺこ米つきバッタの如く、頭を下げてたって訳。わかるか?…それがどういうことか」


「あ、うん。非常に不味そうだってことは」


「…まぁ、反省してるようだし。俺から上にはいっておいてやるよ。いいか?…許可なく近づくんじゃないぞ?…あそこに冗談でも近寄るとな…」


「近寄ると?」


ハンスが怖い顔で溜めるのでオウム返しに訊くと…


「守衛が問答無用で捕まえに来るぞ?…ザックが子供な風体だから、何もしなかったみたいだけどな。もし、ぶつかったっていう商人のおっさんが財布でも無くしてたら、お前…」


ごくりと唾を飲み込み、あの時にぶつかった恰幅のいい男を思い出すザック。


「そのままスリをしたガキとして、処刑されてたんだからな?」


「ぅぁ…」


首に親指を当てて横に掻っ切る仕草をするハンスに、思わず小声を漏らし…


「わかった。用事が無い時は近寄らないようにする…」


と、力無く項垂れる。


「…ま、わかればいいや。じゃあな?」


ハンスはぽんと肩を軽く叩くと休憩室を出て、


「宿に戻るんだろ?…」


と、声だけで外に出ろと促した。ザックは少々ふらつきながら休憩室を出て、宿へと戻る。


「…ちぃと脅かしが過ぎたかな?…ま、あいつの為だからな…」


ちっ…とハンスは舌打ちして受付カウンターへと戻るのだが、普段並んでない探索者たちが列を成して怒鳴っていてビビるのだった…南無ぅ。


━━━━━━━━━━━━━━━

部屋に戻ったザックくん。今日は作業に身が入らないとベッドに入ってそのまま寝て過ごしました(ふて寝?)



備考:

探索者ギルド預け入れ金

 金貨250枚、銅貨1617枚(サンフィールド治水工事報酬金:金貨500枚より50%の手数料徴収済み、探索者ギルド直営宿延長2週間分の宿賃天引き済み)

ストレージ内のお金

 金貨23枚、銀貨10枚、銅貨61枚

本日の買い物:

 デザイン本と彫刻刀代で銀貨8枚

財布に移動:

 銀貨5枚、銅貨20枚

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