第80話 意識が途切れる
ゲートをくぐったルーたちは魔界へと入る。この時ルーは抱えたラルフの息が荒くなっているのに気付く。
「ラルフ、大丈夫ですか?」
心配そうな顔で見つめるルー。
「まだ口が聞けるんだから大丈夫だ」
と笑ってみせた。だが実際はかなり辛そうである。それもそのはず、未だに足からは血が滴り落ちている。このブーツの中は一体どうなっているのだろう想像しただけで寒気が走る。
る—は額に手を当てる。
(熱い…足のケガと魔力の使用過多により、体温調節が上手く行っていない)
一刻も早くラルフを休める場所に運びたい。だが、ルーはラルフの意見を尊重した。
「もうすぐですから…頑張って下さい」
ルーは込み上げそうな涙を堪え笑顔を作る。そしてラルフは応えるようにもう一度笑ってみせた。
そんな会話をしている内に上空からこちらに接近する気配に気づく。
「どうやら我々の存在にすぐに気付いたようだな。待ち焦がれていたようだ」
冥王が上空から降りて来るドラゴンを見ながら言う。そのドラゴンはすぐさまルーたちの前に降り立った。
「た、卵は?」
取り乱した状態で問うドラゴン。ラルフは卵の布を取り外し、
「この通り、大丈夫だ」
「おぉ…」
ドラゴンはそれ以上言葉にすることは出来ず、ただ声を漏らした。卵が無事に返って来た事で不安から解放されたのだろう。冥王はそのドラゴンに近寄り、そっと頭を撫でた。そして、落ち着きを取り戻した後、ラルフとルーに向き直る。
「此度の件、そなたたちには本当に世話になった。礼を言う」
冥王がそのように告げると、冥王とドラゴンは揃って頭を下げた。ラルフもルーもお互いに顔を合わせて微笑む。
「約束したからな、絶対に取り返すって」
そうラルフが答えた時、ドラゴンはやっとラルフがルーに抱えられている事に気付く。そしてラルフの足から滴り落ちる血を見て気づく。
「ラルフ、お前足を」
「あぁ、ちょっとな。無理をしちまった」
ラルフは強がって答えた。平静を装っていたが、全身脂汗を掻き、呼吸は荒い。
「私たちのせいで申し訳ない」
再び冥王が頭を下げる。
「気にする…な」
そこでラルフは意識が途切れた。
「ラルフ!」
ルーが声を荒げる。しかし反応はない。
「ラルフ!ラルフ!」
体を揺するが、反応はない。
卵を返した事で、これまで張っていた緊張が切れたラルフ。肉体的にも精神的にもとうに限界を超えていた。
そこへ後ろで控えていたゾルダンが駆けてくる。
「すぐに傷の手当てをしなければ、命の危険もあります!」
「そんな」
顔を青ざめるルー。ゾルダンはルーが抱えるラルフの足の状態を見るためブーツの中を覗く。
「こんな状態になるまで」
ゾルダンは絶句した。
「ゾルダンさん、あなたはナルスニアの従事する方です。ゾルダンさんの力でラルフに最先端の治療をして頂く事は出来ませんか?」
ルーはすがるように懇願する。
「あなたたちにはフォレスターを捕まえるのに協力して頂いた恩があります。私に出来る限りに事はしたいのですが、私は一兵卒の身。最先端の治療を受けさせられる可能性事が出来るかどうか——」
「——ならば私がお前たちの国に出向こう」
冥王がそう口にした。
「私はお前たちの敵対する組織が「冥王」と名を付けるほどのドラゴンだ。恐らく価値があるのだろう。それにお前たちも私に興味があるのだろう?それを交渉材料にしてはどうだ?」
「それは…本当ですか?」
ゾルダンは驚きの表情をする。
敵の組織が注目を置いている冥王と接触出来る事は非常にありがたい。ゾルダンはそれを願っていたが、あまりにも強大な存在が故に難しいと考えていた。
(まさか冥王自らが進言してくるとは)
「それを交渉材料に使えば可能でしょう。直ちにラルフさんを城へ!」
冥王は頷き、
「という事だ。すまないがまた人間たちの国へ行ってくる。お前は卵を連れて帰れ」
「分かりました」
ドラゴンは素直に従う。
「冥王さん、いいのですか?」
ルーは申し訳ない気持ちで冥王に尋ねる。
「あぁ、問題ない。我が子を救ってくれた恩人のために私が出来る事は何でもするつもりだ」
「ですが、あなたがこのドラゴンについていないとまた卵が」
「あぁ、大丈夫だ。すぐに妻にはここを離れてもらう。帰る場所は魔界の奥深く。人間たちが早々に来られる場所ではない。だから安心するといい」
「ありがとうございます」
ルーは深々と頭を下げた。
「では一足先に戻ります。ルー、ラルフが元気になったらまた会いましょう。この子と共に」
そう言うとドラゴンは卵を口へ加え込み、再び空へと舞い上がって消えて行った。
「では私たちも向かおう。ラルフ殿のために」
冥王の言葉にルーとゾルダンは頷き、再びゲートをくぐり、ナルスニアへと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます