開拓者のラルフ

第74話 超越者の覚悟

「はあーーー！」

　三節混をウォッカへ目掛けて叩きこもうとするナナ。ナナはエッジを止めた後にアッザムとカルゴに加勢していた。

　ウォッカはナナの攻撃をナックルで受け止め、すかさずナナへ反撃しようとするが、

「————！ちっ！」

　そこへ間髪入れずにアッザムとカルゴの攻撃が続く。格下の相手とはいえ、さすがに３人から攻撃を受けては防戦一方であった。だが焦っているのは攻めているアッザムたちの方であった。

（くそっ、こんなに攻めているのにちっとも攻撃が通らねぇ）

　ウォッカは鎧などを着こんでおらず、軽装である。肩など肌を露出させているほどである。急所を攻撃しなくとも、ある程度のダメージは期待できる。だが、アッザムたちの攻撃が入る事はなかった。装備していたナックルで全て受けきっていたのだ。

　このままではいけないとさらにギアを上げようとするアッザム。だがそれが仇となった。同じように焦っていたナナと接触しそうになり、動きが一瞬止まってしまう。その隙に乗じて、ウォッカはカルゴの攻撃を凌いだ後、一度後方に下がり距離を取る。

「あんた、しっかり合わせなさいよ！」

「うるせぇ！」

　ナナやアッザムは不満を漏らすがこれは仕方のない事であった。即興で作ったパーティに阿吽の呼吸を取るのは無理があるのだ。２人もそれを理解しているが、思うように攻撃が通らないため、その煮え切らない思いを吐き出してしまった。

（あぶねぇ、やっと呼吸が出来る）

　ウォッカは大きく息を吸い込む。ルーの奇襲を受け、その後防戦一方で、呼吸さえも思うように出来ない状況にあった。しかしここでようやく酸素を取り込む事が出来た。渇望していた酸素が体中に行き渡る。

「おい、ケンカしている場合か！」

　カルゴがナナとアッザムを叱る。そしてウォッカを休ませないためにすぐに単身で攻撃に移る。

　だがカルゴの攻撃はウォッカに取ってたやすく受けられるものであった。先程とは違い、相手のモーションを自分の目でしっかりと確認が出来た。自分の左肩目掛けて、カルゴの右腕から振り下ろされる手斧。カルゴは自分の左腕のナックルでそれを弾く。そして、右拳を力強く握る。

「歯ぁ食いしばれよ！」

　カルゴの背後にナナとアッザムが攻撃を仕掛けて来ているのが見える。しかしウォッカは攻撃を止めようとしない。なぜならカルゴを攻撃した後で十分対応する時間があるからだ。ウォッカは己の拳をカルゴの腹に突き刺す。

「————！」

　ウォッカの拳が接触した部分の鎧はべこりと凹み、そして衝撃と痛みがカルゴを襲う。目を見開き、苦悶の表情をするカルゴ。

「よし、これで１人脱落…いっ！」

　苦悶の表情を浮かべながらも、カルゴの目はウォッカを捉えていた。カルゴはこの一撃を食らう事を予想していた。故に腹に力を込め、耐え抜いたのだ。

（こいつ！俺の攻撃に耐えやがった）

　カルゴはウォッカの心情を読んだのか、

「俺はな、タフさを売りにしているんだ」

　そう言ってカルゴは攻撃に転じる。左手の手斧を水平にしてウォッカの頭を目掛けて攻撃する。この攻撃を予想していなかったウォッカは慌てて首を曲げる。手斧は頬の一部を掠ったが、なんとか首がつながったまま避ける事が出来た。カルゴはさらに追撃をしようとしたが、この一撃が限界であった。痛みに耐えきれず、膝を付く。

　だが休む間もなく、背後に控えていたナナとアッザムがウォッカに襲い掛かる。

「おい、せっかくカルゴが捨て身で作った攻撃のチャンスだ。今度は合わせろよ！」

「それはこっちのセリフよ！」

　アッザムとナナはこの機を逃すまいと、怒涛の攻撃を繰り出した。再びウォッカは防戦一方になる。

（こいつら、もう合わせてきやがる。器用な奴らだ）

　ウォッカはナナとアッザムの連携に舌を巻きつつも冷静に２人の攻撃を凌ぎ続け、息が切れるのを待った。そしてようやく衰えて来たところを見計らってナナの下半身目掛けて蹴りを入れようとする。ナナはすぐさま攻撃を止め、後ろへと避ける。同時にアッザムも一度後ろへと退いた。

「おい、カルゴ。大丈夫か？」

「あぁ、なんとかな。丈夫な鎧を着ていて助かった」

　カルゴは攻撃を食らった腹を抑えながら立ち上がる。

「で、これからどうするの？」

　ナナは２人に問う。正直あれだけ攻撃をしたのに防がれてしまってはもうお手上げの状態だった。アッザムもカルゴもそれは同様に感じていた。

（あいつら、攻めあぐねているな）

　ウォッカは３人を見て、今が好機だと感じた。３人に攻撃を仕掛けようとしたが、その３人の背景でエッジが吹き飛ばされる光景が目に映る。

「エッジ！」

　ウォッカは３人を無視し、すぐさまエッジの方へと駆けだした。ポーションを取り出し、それをエッジに飲ませる。

「すまない。あの女、底が見えん」

　なんとかエッジは立ち上がる。この時ウォッカはエッジの姿や言葉に動揺していた。

　戦う事を好み、単純な性格をしているウォッカは、昔エッジに戦いを挑んだ事がある。結果は惨敗。パワーは自分が多少なり勝ったが、スピードを生かした戦い方に終始圧倒された。そのエッジがルーという女を前に弱音を吐くほどなのだ。

　ルーの元へアッザムたち３人が駆け寄る。先程まで若干戦意を失いかけていた３人の目には再び闘志の目が宿っていた。

　ウォッカは冷静に現況を掴もうと試みる。自分とアッザムたち３人では自分が優勢である。反対にルーとエッジでは、エッジの方が分が悪い。一見、イーブンに思われるが、ルーがエッジを圧倒しており、このまま続けば先にアッザムたち３人を倒すより、エッジが先に倒される。そうなればすぐにルーが加わり、あっという間に決着が付いてしまう。

「…エッジ、ここは引くしか——」

「——ダメだ！」

　エッジはすぐさまそれを拒否する。

「でも俺たちじゃこいつらには」

「俺たちは卵を持ち帰る」

　エッジの揺るがぬ意志。

「分かった…エッジお前はあのガキを追え。４人は俺が止める」

　エッジはウォッカを見て一言、

「…頼んだ」

　その時のエッジの声はどこか静かであった。

　そしてすぐに平民街の方へ目を向け、エッジは全力で駆け出した。

「そうはさせませ——」

　ルーが阻止しようとするも、ウォッカがルーへと襲い掛かる。

「——お前たちの相手は俺だぁー！」

「————！」

　ルーに向かって思い切り打ち下ろした拳。ルーはそれを剣で受け止めたが、あまりの攻撃力に足が地面にめり込む。

「フーーー！」

　息を大きく吐くウォッカの瞳は赤く染まっていた。