第61話 再びズーの元へ
「おい、アッザムどうやって殴り込みをかける?こっちはもうルーがいるからどうとでもなるぞ」
目をたぎらせ、楽しそうに話すラルフ。
「ちょっと待って下さい。私の事をなんだと思ってるんですか?私よりも強い人はいくらでもいますよ」
ラルフの言葉にルーは少しだけ反論する。
「でもゾルダンとカルゴだっけ?あいつらは強そうに見えたか?勝てない相手か?」
「そりゃまぁ…私の方が強いかと」
「だろ?おい、ナナ。ルーが病院送りにしたアレスを含めて4人の中で一番強いのは誰なんだ?」
「そんなの私に決まっているじゃない!」
ナナはツンとした顔で答える。まるでそんな分かり切った事を聞くなと言わんばかりに。
「それじゃあルー。ナナと戦ったらどうなんだ?手こずりそうか?」
「いえ、一撃で倒せるかと」
ルーはナナの顔を見ずに即答した。
「ちょ、ちょっとぉ!」
ナナは反論するが、実際のところルーの言う通り一撃で倒されるだろうと自覚していた。ルーの一撃をもらえば、アレスと同じように体をくの字に曲げて病院送りになる。
「という事だアッザム。ごり押しでも行けるぞ」
「分かった、嬢ちゃん期待してるぜ」
アッザムはルーに笑顔を向ける。反対にルーは、
「もうっ!」
とご立腹な様子であった。
「何にせよ、襲撃を掛けるなら早い方がいい。時間が経つほど向こうの警備は万全になって行きやがる。かといって今の恰好ってわけにもいかねぇ。特に嬢ちゃんのそのボコボコの鋼の鎧じゃあな」
「確かにそうですね。先日ドラゴンさんとの戦いでおもいっきり魔石も消費してしまいましたし。心許ないです」
「とりあえずズーには急ピッチで仕上げるように言ってある。本当なら嬢ちゃんの装備も俺の新しい武器も仕上がっていてもいいんだが、どっかの誰かさんが横入りしてきてよ」
アッザムはそう言ってラルフに皮肉めいた笑いを向ける。
「悪かったよ。でも俺がこのままじゃどうしようもないんだ。しょうがないだろ」
それを聞いたアッザムは高笑いをする。
「分かってるよ。とりあえずズーの所へ向かうぞ。他の装備もメンテナンスしなきゃいけねぇしな」
アッザムに言われるがまま、ラルフたちはギルドを出てアッザムのアジトへと向かう事にした。
ズーの所に着くと、ズーを始めとする職人5人ほどが忙しく働いていた。
「全く、この間からろくに寝とらんぞい」
そう言うズーは全身から汗が噴き出している。他の者たちも同様だ。
「終わりそうか?」
アッザムが尋ねると、
「うるさい!黙ってろ!」
と怒鳴るように返事をした。仮にもアッザムはボスである。このような口を利くのはズーだけである。そして、アッザム自身もその事に関して全く怒っておらず、
「忙しい時はいつもあぁなるんだよ」
といった調子で「隣の部屋で休んでようぜ」と作業部屋から出て行ってしまった。
アッザムに付き従うまま別室に着いたラルフ達。ラルフは開口一番、
「なぁ、時間が掛かるならアジトに戻った方がいいんじゃないか?」
「いや、それは出来ねぇ」
と即答する。
「なんでだ?」
「俺たちが装備をこさえる場所はここしかねぇからな。そんな事敵も知っているだろう。ここもいつ襲撃を受けるか分からねぇ。とりあえず装備が出来上がるまでここからは移動しねぇ」
それを聞いて驚くラルフ。しかしアッザムは
「おいおい、別に驚く事じゃねぇだろ。戦いはもう始まってるんだぜ?直接殴り合うだけじゃなくて相手をいかに不利な状況に追い込む事が肝だ」
ラルフは敵のやり口に驚いていたものの、アッザムの話を聞いて納得する。
(確かに偽の情報を流したり、ルーの動きを封じようとしたり、俺たちをまともに戦えないように追い込んでいるからな。まともな武器を使えないようにじいさんたちを襲うのもあり得るって事か…ん?待て待て待て)
「おい、俺たちの行動ってもしかして誰かに監視されてるって事か?」
「ん?さぁな」
「さぁなって」
「分かんねぇんだよ。どこで誰が見ているかなんて。それに誰が敵かってこともなぁ」
ラルフはルーにドラゴンの監視をさせるのが相手の思うツボになる事は分かっていたが、ここまで警戒する必要があるとは思わなかった。経験上、自分に危害を与える者の視線には人一倍敏感に反応する。だが今は警戒する必要がないという意識があったために、気が抜けていたのだ。
ルーにおいても同様であった。彼女に至っては王女という立場、そして常に守られる存在にあったために敵という認識を向けられたことなどない。人間が絡んだ争いごとは今回が初めてである。
2人は自分自身が気を緩めているなどという自覚はなかったが、アッザムの警戒意識の高さにさらに気を引き締めるのであった。
そんな2人の真剣な表情を見て、ナナは口を開く。
「ねぇ、ルーさんは強いから何とでもなるだろうけれど、あんたは弱いんでしょ?止めといたら?」
口は悪いがこれはラルフに対するナナの思いやりであった。ルーは誰にも止められないほどの強さがあるが、ラルフにはそれがまるでない。気を引き締めた所でどうにもならない事はある。ラルフが貴族と立ち向かうのは無理に思えたのだ。
「ナナの言いたい事は分かる。でもドラゴンと約束したんだ。俺が降りるわけにはいかない」
「でもあんた戦闘になっても戦えないじゃない。はっきり言って邪魔になるのよ」
「大丈夫だ。邪魔にならない程度に動くつもりだ」
「その邪魔にならない程度に動くために横やりを入れて作らせたのがそのブーツってわけか」
ここでアッザムが割って入った。
「何度も言うなよ。悪かったって言っているじゃないか」
「そう怒るなよ。でも手札が増える事に越したことはねぇからな」
ナナは自身やアッザムのラルフのやり取りを見て、これ以上言ってもラルフがフォレスター家に乗り込む事を止めようとしないと悟り、
「もう好きにして。でもあたしも余裕がないんだから自分でなんとかしなさいよ」
とぶっきらぼうに言った。
またその横で見ていたルーはそんなナナの癖のある優しさを嬉しく思い、
「ナナさん、ありがとうございます。ラルフは必ず私が守りので」
とにこやかに笑った。それを見たナナは
「何言ってんのよ、あたしは邪魔されるのが嫌なだけよ。あんたしっかりと手綱を引いときなさいよ」
と恥ずかしそうに言い、そっぽを向いてしまった。
そんなやり取りをしていた所でズーが部屋に入って来る。
「おい、嬢ちゃん。おめぇの鎧、やっと仕上がったぜ」
「本当ですか!?」
「ふわぁ、疲れた。早速ちょっと着てみろ。来い」
ナナはすぐに立ち上がり、部屋を移動する。そしてラルフたちも釣られるように移動した。
「どうだ?」
そこにはルーが来ていたミスリルの白い鎧の面影は全くなく、漆黒に塗りつぶされた鎧があった。また以前彼女が身に付けたものはアルフォニア王国騎士団の統一のデザインされたものであったが、今回ルーは必要と感じない部分を削ぎ落した感じになっており、簡素化されていた。ルーは早速その鎧を身に纏う。
「良い、すごく良い。ズーさん、これ本当にいいです!」
「あったりめぇだ。誰が触ったと思ってやがる。それで嬢ちゃん、腕はどうだ?動かしやすいか?」
ルーは特に腕や肩の部分を必要最低限にし、動きやすさを重視したのだ。
「えぇ、とっても」
ルーは満足したように答えた。
「よし、嬢ちゃんの方はこれでしめぇか。後はアッザムのだけか」
「じじい、その調子で頼むぞ。ちなみにいつ頃出来そうだ?」
「心配するな、夜には出来上がる。それまで休んでいろ」
「あぁ、そうさせてもらう」
とアッザムは答え、「おい、今のうちに休んどけ」とラルフたちに休息を促した。
夜、ズーが疲れた顔をし、再びラルフたちのいる部屋に入って来た。
「おい、アッザム用意できたぞ。ほらっ」
アッザムはズーから武器を受け取る。
「出来たか、ドラゴンクローが」
アッザムはドラゴンの爪を利用し、それでドラゴンクローを作らせていたのだ。2本の爪が、ぎらりと輝きを放っている。
「それがあればドラゴンの固い皮膚にも傷がつけられる代物だ。だから向こうがちょっとやそっといい装備をしていたって簡単に引き裂くことが出来るぞ」
「ありがてぇ、じじい良くやった、ゆっくりしてくれ」
「そうさせてもらうわい。さすがに疲れた。騒動が終わるまでちょっとの間は店じまいだな」
そう言うと、部屋を出て行こうとするが、
「おっ、そうだ。小僧お前にもあるぞ」
急な申し出にラルフは面を喰らう。
「俺?俺はもうブーツももらったし」
「いいから、おいこれを」
ラルフが貰ったのは腕に装着させることが出来る小さな盾であった。ズーはドラゴンのうろこを使い、それを張り合わせて盾にしたのだ。
「それなら重くねぇし、邪魔にはならんだろう?」
「あぁ助かった。じいさんありがとう」
ラルフは部屋を去ろうとするズーの背中に向かって声を掛けた。ズーは返事をせず、代わりに手を上げて答えた。
「ちょっと~、私には何かないの?」
ナナは少し疎外感を感じており、思わず声を出して聞いていた。
「悪いな、店じまいだ」
そう言って今度こそ部屋を出て行ってしまった。
「何よ、もう!」
その場は少しだけ笑いに包まれていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます