新たな問題
第22話 イリーナとの会話
落ち着きを取り戻した後、職員は退室し、2人きりになったところで騒動の件について話をする。
ラルフがあの時点で開拓者ならば、同じく開拓者登録をしているロンを処罰する事が出来た。
もっともそこにロンが貴族であるという事は考慮していないが。
「ラルフ君、あのクソとは…ロンという貴族とは面識はあったの?」
「クソって…」
「クソよクソ!本当にクソ野郎よ。私、本当に許せないんだから」
「あはは、ありがとうございます。ちなみにあの貴族の事は全く知らないです」
ラルフは知らないと答えたが、これは間違いである。魔界で一度ロンと擦れ違っているのだ。
ラルフはロンと護衛達を見るや否や、面倒事に巻き込まれると思い、逃げるように立ち去ったのだ。そのためロンの顔を覚えていなかった。
しかし、ロンにはよほど印象に残ったらしい。多分、シンシアのパーティでの失敗が強烈に残っていたのだろう。
今回の件はロンが一方的な憂さ晴らしのために起こしたことなのだ。
「それであの時…あなたを助けてくれたのはシンシア様だったのは分かっているわよね?」
その言葉に強く反応するラルフ。
「あいつは!?」
「前にも聞いたけれど、シンシア様とは何か縁があるのね?」
「まぁ…はい…」
イリーナは未だにはぐれ者であるラルフがイリーナと接点がある事が信じられなかった。だがラルフの反応を見るに間違いなく面識がある事が分かる。
「前にも同じことを聞いたのだけれど…もしよければ教えてくれないかしら?」
ラルフは渋るような顔をする。その表情から察するにいい関係とは思えない。
迷った後でラルフは重い口を開きシンシアのとの関係を話し始めた。
「そんな…」
真相を知ったイリーナは悲痛な表情を浮かべる。
流行病に侵され、命が消えようとしていたお互いの母親。
ラルフは藁をも掴む思いで魔界に赴き、そして幸運なことに奇跡の実を見つける事が出来たのだ。
しかしそれは絶望の前兆であった。
国の王妃の命を救うため、非情になったレオナルドはラルフから奇跡の実を奪い取った。
その奇跡の実で王妃の命は救われ、笑顔を取り戻したシンシア。
一方ラルフの母親は無残にも亡くなってしまい、最愛の人と呼べる存在を失った。
どちらに転んでも救われない命があり、決してハッピーエンドを迎えることが出来ない物語。
イリーナはラルフに何て声を掛ければいいのか分からなかった。
ラルフがシンシアやレオナルドを恨まないのは無理なことだと思った。
「ちょうど1年くらい前にその事実を知って、あの女は俺に謝って来たんです」
「それで…ラルフ君はシンシア様を許してあげたの?」
「はは、まさか…俺はお前の母親を殺してやると言いました。本気でそう思っていました。でもあいつの母親である王妃はもう死んじゃってて。代わりに私の命で許して下さいって剣を差し出して来たんです。だから殺してやろうと思ったけど…でも俺は殺しませんでした」
「なんで…殺さなかったの?」
「なんか違うと思ったんです。あいつもただ母親が無事に戻って欲しいと願っていただけですし。その気持ちは俺も分かりますから。だから殺さなかった…「殺せなかった」の方が正しいのかもしれません。その代わりにもう関わらないでくれってお願いしました」
「でもシンシア様はそれが出来なかった。あなたを助けるためにシンシア様は行動をした」
「はい…あいつは約束を破ったけれど、結果的に救われました。あの時の俺は壊れていた……本当に。助けてもらえなければ俺は終わっていました」
イリーナはラルフに手を貸した時、右手にビンの破片を持っていたことを思い出した。
ロンを亡き者にしようと考えていたのかもしれない。
もしそれが現実となっていていれば、間違いなくラルフの人生はそこで終わっていた。
「心底憎んでいる相手に助けてもらった。でも正直複雑な気持ちです」
ラルフはやるせない表情を浮かべていた。
イリーナはそんなラルフに微笑み返す。
「私も多分、今のラルフ君と同じ表情を浮かべると思うわ」
それを聞くとラルフもイリーナに笑い返した。
「ただ私が思うのはあの時シンシアは単にラルフ君に対し罪悪感を持っているだけじゃないと思うの。あの時のシンシア様の言葉は、ラルフ君を尊敬していないと言えない言葉よ」
「おれ…に?」
「ええ。多分影ながらラルフ君をずっと見守っていたのでしょう。多分、最初は罪悪感から。でもあなたの信念の持った生き方に惹かれた。私がラルフ君に惹かれたように」
イリーナはラルフに軽く微笑む。
するとラルフは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「そうか…じゃあ最後にお礼でも言っておかないとな」
「えっ?最後って?どういうこと?」
「俺はこの国を発とうと思います」
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