第15話 別の成果物を求めて

 回復草…その名の通りそれだけでも効能のある代物だが、ポーションの原料にもなる。

 開拓者、そして日々生活する人々にとって回復草は生活必需品と言っても良い。どれだけあったとしても余剰ということはなく、回復草を求める声は常にある。

 その需要に答えるため、ホープ大陸の各国は回復草の栽培を試みたがどの国も上手く行かなかった。そのため回復草は魔界で採取するしかない。

 幸い、回復草は比較的安全な場所に生育しているために容易に採取出来る。よって回復草の採取は開拓者になりたての者たちや開拓者ではない者たちがこぞって採取していた。それ故に回復草を巡って奪い合いが起きることがしばしある。それが先日の件である。

 ラルフが金を稼ぐため毎日のように回復草を多量に採取しており、たくさんの者たちがそれを目にしていた。奪い合いに巻き込まれたのは必然と言っても良かった。

 ラルフはそれを反省し、他の食い扶持を見つけるために思考していた。


 本来であるならば魔物討伐による素材回収を行えばいいのだが、ラルフに戦闘能力はないどころか戦闘経験でさえもない。

 かつて奇跡の実を探索した時にゴブリンに襲われたことが強烈なトラウマとなっており、その恐怖が有無を言わさず魔物との戦闘は避けさせていた。「逃げる」一択であった。

 だがその臆病な性格のおかげでラルフは今日まで生きて来られた。勇猛果敢に戦いを挑んでいれば殺されていたに違いない。 なぜならラルフは魔物を倒すような武器を持っておらず、そして身を守る防具もないのだ。そんな状態で魔界にいる事態が無謀なのだ。

 よって魔物討伐という案は採用されない。

 

 他に魚や小動物などの獲ってもいいが、それでは得られる金額はごくわずかだ。第一、ラルフの身なりでは買取りをしてくれる店などない。

 そうなると、いつも買取りをしてくれている店主が買い取ってくれる成果物を手に入れるしかないのだ。安全圏内で採取出来て且つ買い取ってくれる成果物。

 ラルフは朝から店主の店に足を運び、話を聞きに行くことにした。


「こ、こんちは」

「おう、坊主どうした?今日はやけに早いな。お前はいつもその日に成果物を売りに来るのに…昨日は遅くまで魔界に居たのか?」


 店主はラルフの事を坊主と呼ぶ。

「もう坊主と呼ばれる年齢ではない」と主張したが、「いいじゃねぇか」の一点張りで遂にはラルフが根負けした。


「いや、そうじゃないんだけど…」

「じゃあどうした?」


 ラルフは先日の回復草を奪われた時の件を話した。


「今までもちょくちょくあったんだ。でも最近はちょっと採取する間隔が多かったからか目立ち過ぎた。試しに昨日も行ったら後を付けてくる奴がいてさ、採取どころじゃないんだ」

「そういうことか…まぁ俺としては少しの間、大人しくしていろとしか言えねぇな」

「あぁ、それは俺も分かってる。魔界は行くけれど、ここ1、2週間は何も採取するつもりはない。ただ、これからは回復草以外の物も採取しようと思うんだ。俺に採取出来そうな物を教えてくれないか?もちろん金は払うよ」


 ラルフは先日イリーナから受け取った15Jの内、10Jを店主のいる机に置いた。

 この金も本来なら魔界のいつもの隠し場所に保管するところなのだが、後を付けられているため、その隠し場所に行くことさえも出来ず、危険だが金を持って行動するしかなかった。

 もちろん金を使ってしまえば良かったが、ラルフに金を使うという習慣はない。ラルフにとって金は溜めるものなのだ。食う物ならその変にある物を拾って食えばいい。金は使わない。

 この根底にあるのは、やはり開拓者になるためであった。

 

 そんなラルフがこの10Jを使ってさらに金を稼ぎ出すために情報を買うことにした。物を買わないラルフが実体のない情報を購入するのだ。これは一大決心と言ってもいい。

 だが逆を言えば、それほど現況に困っていたのだ。


「やけに太っ腹じゃねぇか」

「あぁ、金を使うこと自体が初めてと言っていいくらいだ」


 すると店主は店の奥へと入り、そこから一足のシューズを持ってきた。


「この間、食う物に困った奴がシューズを売りに来た。俺は買取るつもりは毛頭なかったんだが、懇願されてよ。それで仕方なく10Jで買取ったはいいが、どうするか困ってたんだ。お前にこれを買取った値段の10Jで売ってやる」


 ラルフはそのシューズを手に取る。

 お世辞にもいいシューズとは言えない。おまけに汚れている。

 しかし、ラルフが今履いているボロボロの穴あきのシューズよりはずっとマシだった。


「俺は情報が欲しいんだが?」

「何、情報も教えてやるよ。それともこんな靴はやっぱりいらねぇか?」

「いや、そういうことならありがたく貰う。今の俺の履いているのよりずっといいしな」

「よし、交渉成立だ」


 ラルフは足元に置いた靴をためらわず履く。


「少しだけ大きいけど、これなら大丈夫そうだな」

「売りに来た奴もお前と同じくらいの体型だったからな」


 ラルフは履いたシューズで地面を蹴ってみる。


(うん、足が守られている感じがする。前よりずっといい)


 今までは地面の感触がそのまま足に伝わっている感触がした。

 そのため、尖った砂利などを踏むと足に痛みを覚えていた。


「どうだ、それならお前の逃げ足がこれまで以上に活かすことができるだろう?」

「あぁ、ありがとう」


 ラルフは嬉しそうに笑った。


「それで回復草以外で採取出来そうな物なんだが…」

「なんかあるか?」

「坊主、戦うのは——」

「——無理だ。力もなけりゃ装備もない」


 ラルフは店主が言う前に自分ではっきりと答えた。


「となると、いつもの収集になるわけだが、魔物が多数生息する地域へは近寄りたくないのだろ?」

「あぁ。対処出来ないからな。なるべくなら避けたい」

「鉱石の採掘は?」

「道具がない。それに鉱石って洞窟で採取するんじゃないのか?」

「そういうわけでもないぞ。外で採掘できる場合もある」

「だとしてもやっぱり採掘道具が必要になる。俺に道具はない。それに鉱石ってやっぱり重いだろ?逃げる専門の俺にとっちゃ致命的だ」

「魔物の討伐もダメ、採掘もダメじゃあいつも通り植物の採取くらいしか残ってないぞ」

「やっぱりそうなるよなぁ」


 ラルフは天を仰ぐ。

 漠然と手っ取り早く金を稼ぐためのいい方法がないかと店主に聞きに来たが、やっぱりそんな物はないようだ。


「今までおめぇは回復草しか採取してこなかったろ?これからは他に採取するのを増やすしかないな」

「回復草以外って?」

「いや、解毒作用のある薬草や火傷に効く薬草やらまんべんなく集めるのさ。これもいい機会だ。魔界でこれからも活動するんだろ?教えてやる」


 ラルフは店主に手招きされ、回復草以外の植物を教えてもらうことにした。これにより、回復草に特化せず採取活動を行えるようになる。


「まぁ、こんなところか」

「覚えられたかどうか分かんないけど、とりあえずありがとう。他にはなんかないのか?」


 すると店主が腕を組んで何やら考えるような素振りを見せる。


「ない事もない。他の者がなかなか手を出さなくて、ちと痛い思いをするが手に入る物がある」

「痛いって魔物か?魔物は無理だぞ」

「いや、魔物じゃない」

「おっちゃん、教えてくれ!」

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