第24話「冒険者シーラ Part2」

「えっと・・」

「あたいら、これから冒険者ギルドとか村の探索行くけど行く?」

「・・・はいっ!ご一緒させてください。」


 シーラは、偵察には団体で行動した方が、何かと都合がいいと考えた。

 骨拾いの男達は、すでに一階で酒盛りを初めており、置いていく事になった。

 同行しているのは、シーラと腐肉漁の二人の女性だ。


「そういえば、あんたの名前聞いてなかったね。あたいはゾーヤんで、こっちのでかいのがソフィー。」

「・・・異議あり。でかいはひどい。せめて、背の高い凛々しいお姉さんとかを、提案する。」

「背が高いくせに、胸は小さい事を凛々しいとか言って、逃げるのやめれば?」

「ゾーヤこそ、背が低いからって部不相応な胸を見せびらかして、承認欲求満たすのやめたら良いと思う。」

「ふん!胸がない奴は、ほんとに卑屈よね〜負け惜しみありがとさん。それであんた、名前は?」


「・・私は、し、シラ、シラです!」

「しら?変な名前だね。」

「・・同意。でもシラ可愛い。」

「あははは、ありがとうございます。ソフィーさんも素敵な、三つ編みですね。」

「ん、毎日ゾーヤが結んでくれる。ゾーヤ唯一の特技。」

「おいっ!」


 ゾーヤのチョップがソフィーを襲うが、それを体の大きさを感じさせない身のこなしで軽やかに交わした。ソフィーは、灰色の長髪を一本にまとめて三つ編んでいる。


「あっ!武器屋ですよ!少し見ていきませんか?」


 シーラが、ここぞとばかりに、村唯一つの鍛冶屋を偵察しようとする。鍛冶屋を見れば、その領の軍備が手にとるように分かるのだ。冒険者としても、命を預ける武具を預けるいわば生命線。シーラの提案はなんなく受け入れられる。


 鍛冶場が曝け出されている店を覗くと、店番を任されているシェリーが応対した。


「いらっしゃいませ、ロイ爺の鍛冶場へ。見ない顔ですね、最近いらした方ですか?」

「何これちょー可愛いんだけど!!ねぇソフィ、あんたもそう思うっしょ〜!!」

「えっ?!ちょ、ちょお客ぅう!!?」


 シェリーを見るや否や、年上のお姉さん方が彼女をおもちゃにし始めた。ゾーヤは、彼女を後ろから抱きしめると、ほっぺを両手でくしゃっとしたり、手を握って糸人形のように踊らせた。


「・・激しく同意。この子は私の妹にする。」

「ちょっとソフィー?あたいが先に目をつけたんだ。この子はあたいんのだよ!」

「可愛いものは早い者勝ちじゃない。その子が決める。」


 二人がシェリーに、夢中になっているのをよそにシーラはしれっと、店内を見て回った。敵地の軍備を丸裸にするためだ。


 最初に彼女の目に入ったのは、整然と並べられた鎧だった。

 帝国で一般的に配備されている鉄の板金鎧、これは上下合わせて20kg〜30kgもする。

 そして騎馬できるまでに軽量化に成功した鋼の板金鎧、これは10kg〜20kgだ。

しかし、鋼は貴重でその分値が張ってしまう。貴族しか手が出せない領域だ。

 両者とも価格は、平均より少し高いくらいだった。


“まぁ辺境で、これほどの板金鎧がこの値段で手に入るのだから、むしろ破格の値段と言えるな。となれば、子爵位相当の装備は覚悟せねばならないという事か。魔のボロキアを開拓し、既にこれほどの軍備を生産可能としているこの手腕。フレイム・ロックウェル・・噂の蛮勇というのは眉唾物か?”


 そして彼女は、最後に並べられている鎧に目をやった。それは、革鎧だった。

 最初の一領は、ごく普通のモンスターなどの革を利用したものだ。

 革鎧は、金の無い者には大変重宝される。

 扱うモンスターによっても価格は変動するし、製作者によってその性能は大きく変動することでも有名だ。

 革のなめし方から、一つの工程で革の状態は大きく上下する為である。


 シーラが、次の一領に目をやると違和感を覚えた。


“なんだ・・この存在感は?この革からは凄まじい圧力を感じる。まるで、未だに心の臓が脈を打ち、皮に張り巡らされた血管が躍動しているかのような、気迫が漏れ出ている。一体これは・・・。”


 彼女は、惹き寄せられるように革鎧に手を添えて、撫で回すように値札を手に取った。


「金貨150枚っ!!!?だと・・?」


 シーラは、その価格を見て心底驚いた。それも無理はないことである。何故なら、この世界で最も高価な鎧は鋼が用いられた物で、その相場は金貨30枚前後だからだ。その価格の五倍もする革鎧など、いくら名家のメルボーでもお目にかかるどころか聞いたこともないだろう。


 ちなみに、金貨150枚もあればそこそこの屋敷が一軒建ってしまう金額だ。


 彼女はただ、開いた口が塞がらず少しの間、革を撫でたり、値札を見返す事を繰り返した。そこへ、一人の青年が声をかけてきた。


「どうかされましたか?」


 シーラは咄嗟に、手を引っ込めて隠した。

 おそらくこの店で一番高価な品物を、勝手にベタベタと触っている事を怪しく思われたと考えたからだ。

 必死に取り繕うように、言い訳をしながら後ろを振り返ると、言葉が途中で止まった。


 目の前にいる人間に、虚を突かれたからである。


「・・私の顔に何かついていますか?」

「へっ?あ、いや。そんなことはない。大変凛々しいお顔だ。」

「・・有難うございます。それで、見たところ冒険者の方とお見受けしますが・・?」

「あ?あぁそうだ。魔導士のシラだよろしく、お願いします。実は、今日この村に着いたばかりでして、早速鍛冶屋を知り合いと見にきたところなんですよ。」


 シーラは、落ち着きを取り戻し、冒険者シラとして振る舞った。シラの話を聞いた青年は、この村の説明から、おすすめの武器や防具なんかを目の前で丁寧に説明し始めた。

 彼女は、相槌を打つもその内容は馬耳東風だった。


“な、なぜここに、貴様がいる!!?第一皇子アージハルト殿下が領地、魔のボロキアを代官として開拓を命じられた。貴族の落ちこぼれにして、蛮勇として名高い・・フレイム・ロックウェル士爵。貴族である貴様が、なぜ陽も高いこの時間から鍛冶屋などに・・。まさかっ?私がメルボー家の人間だと気づいて!!?・・そんなはずはない。メルボー家特有の紫に近い蒼色の髪も、わざわざ特別な染料で染めてきた。変装は完璧なはずだ。だとしたら・・”


「これなんか、魔導士の方でもいざというときに扱える短剣ですよ。」

「へっ?」


 そう言って、フレイムはシーラに見事に磨かれた厚手の短剣を手渡した。シーラは、手渡された短剣を手に取ると、なれた手つきで振り回し、鋭い目つきで刃先を舐めまわした。


「これは・・とても良い剣だ。剣の重心を感じさせない見事な肉付き、これならばどんな人間が扱っても真っ直ぐ刃を触れる上に、突き刺すことも容易だろうな。そして、この刃の鋭さ、美しさえある。・・・ハッ?!」


“しまった!いつもの癖で、品評をしてしまった。”


「シラさんは、大変博識でいらっしゃるのですね。流石、高位の冒険者様ともなると、魔導士であろうがあらゆる武器に精通されるのですね。」


「も、も、も、もちろんだ、ですとも。私は、魔法一つで赤狼級になった魔導士ですから!」


「それはそれは、私は実戦では魔法を使えない身でして、シラさんには尊敬の念を抱かざる負えません。」


「そうですか、この剣はお返ししますわ!製作者様には、大変良い剣だったとお伝えください。」

「有難うございます。実はこの剣は、私が鍛えた物でして。」

「えっ?お前が?」

「はい、これは申し遅れました。私は、このボロキアの地を第一皇子殿下から任されているフレイム・ロックウェルと申します。そして、一介の鍛治師でございます。」


“鍛治師・・ならば祝福は「槌」。そうか、それで名門ボードウェルを追い出されたのか。不憫なことだ。”


 シーラは、小さい頃から剣しかふるってこなかった為に、貴族としての腹芸を苦手としていた。

 名門貴族ならば、ボードウェル家の一人息子が神から、鍛治師としての祝福を授かった為に、追放されたことは周知の事実のはずである。


“これで合点がいた。領地経営の合間を縫って、普段から鍛冶屋に顔を出しているならば、ロックウェル卿が今ここに居ても、おかしくはない。私の存在を気取られていたわけではないならば、恐るに足らず。”


「そうでしたか。これは丁寧なご挨拶恐れ入ります。一つ士爵様にお尋ねしたいのですが。」

「はい、なんなりと。それと硬い言葉は好きではありませんので、どうぞ気を楽に。」

「気遣い有難うございます。それではお聞きしますが、この革鎧は一体。」


すっかり落ち着いたシーラは、ここぞとばかりにフレイムから情報を引き出そうとしていた。


「あぁ、魔獣の革鎧ですね。」

「魔獣・・。」

「はい、魔獣です。シラさんほどの冒険者でしたら、魔獣討伐クエストなんかも受けたことがおありでは?」

「あぁ、もちろんある。我が領地でも、度々魔獣が出る。その討伐には、・・」

「領地・・ですか?」

「いや、ほら!あれだ、前の拠点のことだ。あそこは私の縄張りのような場所だからな?!!!」


“私の大バカ!!すぐ気を緩めると、素が出てしまう!!昔から二つのことを同時にできないのが、私の欠点だ!!!”


「なるほど。前の拠点を愛してらっしゃったんですね。」

「そうなんです!ご飯は美味しいし、風景もとても綺麗でした!!」

「ふふっ、とても良い場所なんでしょうね。そこまで力説されると、今度お伺いしたくらいですよ。」


“ふぅ、なんとか誤魔化せたか。ロックウェル卿は噂に違わず、頭が弱いようだ。しかし、私も人のことは言えないほどに、演技が下手だな。今後の課題としよう。”


「おっと、申し訳ありませんシラさん。私はそろそろ行かなくては。」

「これは引き止めてしまい申し訳ありませんでした。閣下自ら、ご説明いただき光栄でありました。」


 フレイムは、にこりと笑ってその場を後にした。


 フレイムが店をでた後に、改めて店内を物色するシラを尻目にフレイムは獰猛な笑みを浮かべていた。

 彼の貴族としての腹黒さは、怪物級である。



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