宮廷魔導士の名家に生まれたけど、授かったギフトは鍛治師でした。追放され、辺境で魔法剣を鍛えて見返します。

悲劇を嫌う魔王

第1話「魔導士の大家に、鍛治師が産まれちゃいました。」

−−帝国暦300年5月1日


 ヴァルデン帝国帝都ミリアにあるバルドラン大聖堂にて、皇帝アースハルトを筆頭に、上位貴族たちが家族を連れ一堂に会していた。豪華絢爛な大聖堂の、白を基調に金細工が施された祭壇上に、マクニス教の教皇が白銀の杖を携え朗らかな笑みを浮かべていた。


「それではこれより、唯一神マクニスの御名の元“神託の儀”を執り行う。」


 帝国では、全ての人民に教会で5歳を数える年になると、教会にて“祝福ギフト”を授かる。これは、生涯に渡り研鑽を積み、世のためにその力を使うことで死後、唯一神マクニスがいる“神園ミデン”へと行けるとされている為である。

 そのため、その力を駆使して成果を上げ、貴族になった者、商売で成功する者、将軍になる者が世界に覇を唱えていた。


ちなみに、ヴァルデン帝国初代皇帝“アークハルト”は、神から“戦王”を授けられた。


帝国の歴史は、侵略の歴史である。


「皇太子こちらに。」


 祭壇下で、跪いていた子供たちの先頭にいた赤髪の少年が立ち上がった。その金色の瞳には、爛々とした希望が満ち溢れ、祭壇場の玉座に座った父皇帝アースハルトを見据えた。皇帝は、息子を見つめると鷹揚に頷き息子を促した。


 少年は、祭壇の階段を力強く上り、そして神から“剣聖”を賜った。

大聖堂には、大きな拍手と歓声が上がった。皇太子は、少年らしく喜び舞い上がった。しかし、すぐに父の存在を思い出し、振る舞いを改め皇帝に跪いた。


「皇帝陛下、私、アージハルトは、帝国の繁栄の為に“剣聖”を神より賜りました。この国のため、陛下のため、人民のために剣を振るうことを未来永劫誓います。」


「うむ、期待しているぞ。其方は、この帝国の皇太子である。その重責は軽くない。これからは、剣の修行に励み、弱きを守り、帝国に仇成す者らを誅せよ。」

「はっ!!」


 拍手と大きな歓声が一際大きく、大聖堂に鳴り響いた。

 剣にまつわる“祝福”は、「戦術級」に分類され、剣聖、剣神、剣王、剣技、剣の五つである。神から剣の祝福を賜れば、十人の訓練された兵士を相手取っても引けを取らない力である。百人将位は手堅い力であり、剣神を賜れば大将軍位は手堅い武力と評される。

 つまり、王太子がこの度授かった“剣聖”はまさに人の領域から外れた武力を帝国が、手にしたことを意味する。帝国の歴史を振り返れば、侵略を繰り返してきた血濡れたものである為、相応しい称号と言える。

 しかし、大聖堂にいる皇帝を含めた重鎮たちは内心、眉を顰めていた。皇帝であるアースハルトは、次代の皇帝が「戦術級」の祝福を授かったことに一抹の不安を感じざるを得なかった。

 “祝福”は、「戦略級」と「戦術級」の二つに分類されており、力の在り方が違う。例えば、初代皇帝が授かった“戦王”は「戦略級」に属している。端的な力として、戦事の戦略がずば抜けているという事だ。例えば、兵糧の調達や、糧道の確保、防衛、兵法から人心把握、調略といった戦術の粋を集めたような能力である。

 この力で、一小国だったヴァルデンを帝国に至らしめたのだ。そして、その子孫である現皇帝も“戰”を授かっていた。この力もあって、他国からの侵略も許さず帝国はそれなりに平和を享受していた。その反面、才能不足ということもあり、他国への大きな侵略戦争も成功していないという実情もあった。

 「戦術級」は、言ってしまえばどこまで行っても、「個の力」の延長線上でしかない。大きな絵を描くには、なんの力にもなってくれないと言うわけだ。そのため、帝国の未来を憂う者らは、考えを下方修正した。


“皇太子を中心とした、優秀な臣下をつければ問題なし”


 兵士に対する、畏敬が強いこの帝国ではこれ以上ない“武の象徴”としてのシンボルとなってくれるであろう、皇太子に、戦略級の才をもった配下を配せば、次代の帝国も安寧を得られるだろう。

 最も恐れるべきは、帝国が内側から反乱が起こることである。神から、人を治め操る才を得られなかったのだから、これから王太子は剣術と帝王学の習得に明け暮れることになるであろう。

 そんなことを、上位貴族たちが考えている間に、続々とその子らが神から“祝福”されていく。

そんな時に、一際大きな怒声が大聖堂に鳴り響いた。


「そんな馬鹿な!!私の息子がそのような、低俗な力を与えられるわけがない!!教皇様どうか、もう一度神にお尋ねください!!これは絶対に何かの間違いなのです!」


「いいえ、間違いではありませんよ、ボードウェル卿。神は決して間違われません。神の為すことには、全て意味があるのです。その壮大な神の計画の一部を、担わせる為に。あなたの御子息も、“清廉の槌”を授かったのです。」


「・・・そんな馬鹿な。」

 ボードウェルと呼ばれた男は、見るからに上位貴族に属する高貴な服装で身を纏っており、知的な壮年の男だ。明らかに、息子が授かった“祝福”に落胆の色を隠せないでいた。この息子が授かった“祝福”は、「槌」。つまり、鍛治師の才能を授かった。

 貴族位にいるものの多くが、希少な“祝福”を授かり、国に大きく貢献してきた者たちの子孫であり、現代においてもその“祝福”を受け継いでいくものが多い。鍛治師は一介の技術者に過ぎない。到底、貴族として求められる絶大な影響力は、備わっていないのだ。

 

あまりの、ボードウェルの落胆ぶりに皇帝が口を開いた。


「ボードウェル卿よ、何をそんなに悲しんでおるのだ。今日は、其方の息子の晴れ舞台、もっと喜んでやれ。そちは長年、宮廷魔導士として余を支えてくれた。そちの息子は、我が子も同然なのだ。余の子の晴れ舞台を、一緒に祝ってはくれないか?」


ボードウェルはその場に泣き崩れ、絶え絶えになりながらも、返答をする


「へ、陛下ッ..!私は、この身に余る陛下のご高配に、この身が引き裂かれそうなのです。我が伯爵家は、代々魔道を極め、陛下の治世に微力ながらお力添えしてきたのです。それにもかかわらず、我が愚息のなんたる恥知らずな事か、このような者が嫡子とは..。しかし、陛下!!どうかご安心ください。この者は即刻、ボードウェル家から除名致します。そして相応しいものを、後任といたします。」

 

 この発言に、皇帝を含めた貴族たちは、肝を冷やしていた。わざわざ、皇帝自らが助け舟を出したにもかかわらず、その行為を無碍にした挙句、正面から否定したのだ。普通であれば、ここは皇帝の顔を立てねばならいのが慣習だ。


しかし、この状況を静観している貴族たちは、ほくそ笑み、囁き合っていた。


「やはり、ボードウェル閣下は皇帝陛下と袂を分かったのでしょうな。」

「左様、ボードウェル卿は魔導大臣側に与する為に、息子を捨てたのだろう。」

「なるほど、王太子が“剣聖”を得たときから、この筋書きは決まっていたと。」

「フン、魔法などくだらぬ。帝国は、武力によって繁栄を得たのだ!つまりは、武官である我らの功績だ。あのような、陰湿な日和見主義者が、陛下の側にいる資格など元々無かったのだ!」

「いかにも、これで清清するというものです。」

 あくまで、皇帝には聞こえないように囁かねばならない話も、熱がこもって全員に聞こえてしまうような輩もいた。当の皇帝は、事ここに来て為す術もなしと言った様子である。

「左様であるか、いくら皇帝である余とて、臣下の家に口を出す気はない。」


「はっ。陛下のご高配、恐れ多き事でございます。この不始末は、必ずや魔導の果てによってお返しいたします!」


「う、うむ、期待しているぞ。ボードウェル伯爵。」


「父上!」


「どうしたのだ、アージハルト。」


「恐れながら申し上げます。只今、伯爵家を追放されたフレイムは私の学友であり、親しき友にございます!どうかこれから申します、願いをお聞き入れください。」


「ふむ、確かに其方はよく、フレイムのことを話しておるな。よかろう、申すだけ申してみよ。」


「有難うございます。それでは申し上げます。どうか、フレイムを私が拝領いたしました、ボロキアの代官に任命ください。それが私の願いにございます。」


それを聞いた、大聖堂中に動揺が走った。


「な、なんだと?廃嫡された貴族の子が皇族領の代官だと?」

「なんと不遜なことだ。身分もないものに、そのような大役を任せていいわけがない。」

「いや、しかし廃嫡されたとはいえ、名家の者だ。教養だけなら問題ないのではないか?」

「それに、完全にボードウェル家との繋がりを断つのは陛下といえど不安なはずだ。」

さまざまな憶測に火がついたが、皇帝が右手をスッーとあげると大聖堂に静寂が戻る。

「ふむ、アージハルトよ。」


「はい、陛下。」


「今お主が、何を言っているか分かっているのか?」


「はい、陛下。私はフレイムを生涯の友と決めております。この選択に、一切の迷いはございません。ですので、何卒お願い申し上げます。フレイムは掛け替えのない友でございます!」

 この場で、皇太子が拝領した領地の代官に任ずるということは、皇帝になった暁には、フレイムを側近として傅かせると宣言したことになるのだ。それはつまり、ボードウェル家と皇帝二代に渡っての対立を意味していた。

 皇帝アースハルトと次代皇帝アージハルト皇太子は、少しの間見つめ合い。皇帝は意を決し、言い放った。


「それでは最後に、フレイム・ボードウェルに問おう!!汝、アージハルトの要請に応えるや否や!!」

 当事者ではあっても発言権のなかった少年は、今の今まで跪いたままであった。青髪の少年は、顔を上げて立ち上がり、アージハルトを翡翠色の瞳で見つめた。

 その顔を見た、皇太子は正に「げっ」という反応が相応しい表情を浮かべ冷や汗をかいた。そしてフレイムは、皇帝に顔を向けたが、皇帝も先程までの緊張感がどこかへ飛んでしまったように「やれ、やれ」と言ったやるせなさを漂わせた。


「へ、べいかッの、御高恩にっ、が、が、がんしゃ、申し上げますぅぅ、うっぅうう。」

 そう、フレイムは一連の騒動中ずっと、号泣していたのであった。

 人生が決まる前日は、あまりの不安に厠に籠り、夜は結局眠れず、心臓の音がやけに響く中、最悪の結果を迎え。優しかった父上の豹変ぶりに、嘆き、ホームレスの憂き目に遭いながらも、親友の救いの手を前に咽び泣いていたのだ。


「う、うむ。それでは、フレイム・ボードウェルを成人の日付とともに、フレイム・ロックウェルに改め、ボロキアの士爵に叙任しこれをアージハルトの代官とする。」


「あ”、あ”っ、ありがたぎっしあわぜぇ〜〜〜〜」


 少年は、コメツキバッタのようにお辞儀を繰り返していた。その光景を、貴族の誰もが滑稽に見ていたし、相変わらずの情けなさにアージハルトですら同情していた。

 こうして、フレイムは生まれて5年で詰みかけた人生を救われた。そしてこの瞬間を、この場にいた誰もが、茶番と感じていた。しかし後にフレイムは、帝国中の貴族が無視できぬ鍛治師になるなどとは誰もが予想だに、していなかったのである。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る