第92話 サクラとの出会い

 森の見回りをしているのは僕ことセレスだよ。どうやらこの森は安眠できる環境になってるみたいで嬉しい!


「どこで寝ようかな? ……そうだ! サクラが見つけてくれる場所にしよう!」


 どうやらサクラは王都にいるみたいだし王都近くに行けば出会えるかも! 直接会いに行った方が早いって? ……恥ずかしくない? それに向こうは僕のことを知らないかもしれないでしょう? いきなり知らない人に追いかけられる立場になるのを考えると怖いから自重だよ自重! えへへ。僕のことを見つけてなでなでしてくれるかな? そうだ! サクラは僕の人の形態にそっくりのはずだから僕が人形態で眠っていたら無視できないよね? 早速人の形態になって歩き始める。


 魔の森を出てからしばらく王都に向かって歩く。少し違和感があるけどそのまま森へ……森へ……森がない!?


「あるぇ? ここには森があったと思うんだけど……」


 僕が寝ている間に地形が変わったのかな? 何が起きたんだろう。……ふんふん。サクラがやりすぎちゃったの? くふふ。サクラはお茶目だね! きっとおっちょこちょいだ!


 元々森があった場所を確認してみるとサクラの魔力が残っている。どうやらやりすぎたと思って魔力を散らした後が残ってるね。ふっふっふ。ここはセレス様がサクラのために一肌脱いであげよう!


豊穣の神デメテル!」


 なんてことでしょう。僕がスキルを使うだけであっという間に元通り! 森ができちゃいました! ふふん。やっぱり僕はすごいね!


 一仕事を終えて満足した僕は王都付近に来た当初の目的も忘れて魔の森へと戻っていった。


 ―――


 気が付くと目の前に広がるのは大きな建物に金属でできた鳥。黒に茶色の髪の毛をした人達。魔物はおらず僕達そっくりの動物がいる世界。……またここの夢か。


 ……! 桜庭龍馬! 前にこの世界の夢を見た時にも優しくしてくれた男の人を見つける。……桜庭龍馬? あ! サクラのもう一つの名前! もしかしてこの桜庭龍馬が僕を悪夢から解放してくれた人?


 こっそりと桜庭龍馬に近付いて後ろから突然抱き着く。心落ち着くいい匂いだ。


「うおっ。嬢ちゃん誰だ? ……もしかしてあの時の?」


 やった! 覚えていてくれた!


「そうだよ! 桜庭龍馬! ひさしぶり!」

「ひさしぶりだな。元気してたか? ……フルネームで呼ぶのは止めてくれ。桜庭か龍馬か好きな方でいいからさ」


 少し困った顔をしながらも頭を撫でてくれた。ふふふ。龍馬と呼べばいいんだね? 撫でてくれる手が気持ちいい。思わず目を細める。


「……やっぱこの子どえらく可愛いな。騙されて食い物にされないか心配になるな……」

「龍馬どうしたの?」


 しまった。なでなでが気持ち良すぎて何言ってるか聞いてなかった!


「ふっ。なんでもないよ。飴ちゃん食べるか?」

「うん! ありがとう」


 そのままこの世界を案内してもらうことになった。分からないことだらけのこの世界。ワクワクがいっぱいだね!


「箱入り娘? いや、それだと一人で外に出ないか……。家出とか? 両親のことを聞いてみるか?」


 龍馬が一人ぶつぶつ言っているのに気づく。僕の両親?


「お母さまは遠いところに行っちゃったから会えてないよ?」

「そうか……。悪いこと聞いたな」


 お母さまは神界にいて僕はアビスフィアにいるから普段会うことはできない。普通のことだよね? 首を傾げると頭を撫でてくれた。えへへ。


「まだ理解できてないのかもな……。じゃ、父親に育てられているのか?」

「ちちおや?」


 ちちおやって何だろう? 僕にはお母さましかいないはずだけど……。再度首を傾げていると龍馬が驚いた顔をしている。


「まじかよ……。ネグレクト? ……いや、俺も似たようなもんだしどこの家庭もそれが普通なのかな?」


 龍馬が小声で何か言った後僕を改めて見てくる。えへへ。なんだか照れくさいね。


「そうだな。父親は母親と似たような存在だ。母親の性別が男になったものだと思ってくれ」


 お母さまが男……? 僕のポンコツ脳だと理解できずにはてなマークが頭の中を飛び交う。


「理解しづらいか……。うん。えっとな、一緒にいて安らぐ。とか、頼りになるって思える存在が近いかもな」


 一緒にいて安らぐ男の人の事? ふむふむ? それってつまり……


「龍馬が僕の父親だった?」

「ぶっ」


 龍馬が噴き出した。失礼じゃない? 頬を膨らますと頬を突かれた。ぷしゅー。


「紛らわしいことをいうな。……でもそうだな。俺のことをそう思うならそれでもいいぞ。助けが欲しくなったらいつでも呼んでくれ」


 頭をわしゃわしゃされる。きゃーと悲鳴が口から出るけど悪い気はしないね!


「あ、母親がお母さまなら父親はおととさま?」

「惜しい、正しくはおとうさま。だな」

「そっか。龍馬お父さま!」

「ぐはっ。破壊力が凄いぞ。……ミスったかも」


 龍馬が顔を抑えてるけどどうしたんだろう? あ……。目が覚める予感がする。楽しい時間ももう終わりか……。次寝た時もまた龍馬に会えるかな?


「どうした? やっぱり俺が父親じゃ嫌か?」


 僕の表情の変化に気付いた龍馬が不安そうな顔をしている。


「ううん? 龍馬がお父さまなら僕は嬉しい。……ただ、今日はもうすぐお別れしないと……」

「そっか。また会おうな。寂しくなったら俺の名前を呼ぶんだぞ? 直ぐに駆けつけてやるからな」

「うん」


 もうお別れの時間だ。目が覚めたら僕は忘れてしまうけど、サクラは……龍馬の名前を持ったサクラなら僕のことを覚えているかな?


「あ、そうだ。嬢ちゃんの名前を聞いてなかったな。教えてくれるか?」

「うん! 僕の名前は……」


 しまった。完全に目が覚める直前になっちゃった。……僕の名前は聞き取って貰えたかな?


 ―――


 ん? 何かほっとする気配が近くにいる。この気配は……


「あ! 龍馬だ! おはよう!」

「お、おはよう……?」


 あれ? 僕はなんでサクラじゃなくて龍馬って呼んだんだろう? むむむ。まあいいか。そんなことよりサクラだよ! サクラが会いに来てくれたよ! 僕のことに気付いてくれた!


 嬉しさが極まってサクラに抱き着く。僕のことに気付いてくれたし普段の姿に戻ってもいいよね? サクラの傍が落ち着く。むふー。落ち着きすぎて眠くなってきた。おやすみなさい。


 ―――


「セレシア、起きて。お願いがあるの」


 サクラが僕の名前を呼んでる! 直ぐに起きなきゃ! サクラの声に直ぐに覚醒する。その前にお兄さまレオンの声がしていた気がするけど気のせいだよね!


「私のことはセレスでいいよ。お願いってなーに?」


 せっかく考えたあだ名だからサクラにもセレスって呼んで欲しいよね! ん? レオンが怒ってる? やれやれ、怒るのはドラゴの役目なのにお株を奪うなんてダメな兄だ。それより僕のサクラとばかり話しててずるい!


「ねえセレス。私の父さまに力を貸してるでしょう? その魔力供給を止めて欲しいんだけどいいかな?」


 魔力の供給? サクラのお父さまって……ふんふん。ああ! あの男か! 魔力は渡してないんだけど……。うぅ、せっかくサクラが頼ってくれたのに役に立てない。


「サクラのお願いなら聞いてあげたいけど無理かな! でもでも、代わりの対処ならきっとできるよ!」


 なんたって僕は神霊だからね! サクラの役に立っちゃうよ!


 ふむふむ? どうやらサクラ達が解決しようとしているのはサクラのお父さまが原因のものじゃなさそうだね? そっか、あの虫さんにあげた木の実がダメだったのか。むぅ。人助けしたって褒められると思ったのに残念。虫さんには悪いけど僕がどうにかしちゃおう! 虫さんよりサクラの方が大切だもん!

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