第90話 吉夢
「んんぅ。目が覚めちゃった。何か嫌な夢を見ていた気がするな」
目が覚めて伸びをする僕の名前はセレシア・B・シャオローナ。この世界アースフィアの創造神であるオリジン・シアンの末の娘だ。僕には六人の兄弟がいて、全員神の子として神霊様と呼ばれている。名前の語源は知らないけど僕はこの名前を気に入っている。神霊様と呼ばれることが多いけど僕としてはみんなに気に入っている名前で呼んで欲しい! そこで考えたのが渾名だ。僕はセレスと呼んでもらう。これでみんなも名前を呼びやすくなったと思う。これからもいっぱい名前を呼んで欲しいな!
さてはともあれ僕は寝るのが好きだ。数百年でも数千年でも眠っていられる。だけど最近は夢見が悪い。具体的な内容は思い出せないけど、目が覚めるととにかく嫌な感情ばかりが残っている。うーん。いい夢を見る方法はないかな? 教えて!
ふんふん。…………ありません…………だと……。軽く絶望する。このままだと僕の安眠が……。うん? ふんふん。もう少しすれば何もしなくても良い夢を見れるようになるの!? ふっふっふ、僕のスキルは有能だね! ウキウキしつつも先ほど見たはずの夢が少し気になる。
「んー、どんな夢だったか思い出せない」
むむむ。と唸っても夢の内容が思い出せない。まあいいか。思い出せないなら大した夢じゃないんでしょう! そうと分かればひと眠りだ!
「次は良い夢を見れるといいな!」
こうして僕は夢の世界へと旅立った。
―――
ここは……どうやら夢の世界だね。しかし世界は滅んでおらず誰かに殺された後みたいだ。つまり悪夢は終わりで次の世界が始まるのかな? ん? 夢の中だと前回までの夢を思い出せるのか……不思議だ。というか忘れちゃいけない類の夢だと思うんだけど……頑張れ! 僕のポンコツ脳!!
悲鳴も敵意も感じず一人ほっとしていると場面が切り替わった。どうやら前回の悪夢の中で最初に殺した少女が無事に成長したらしい。前回の悪夢では気付かなかったけどこの少女は僕の魂の欠片を持っているらしい。つまり僕の契約者だ……。そうか、将来、悪夢が現実になるとしたらこの少女が死んでしまった時なんだね? 絶対に守らないと。僕の契約者ってことはエンシェントエルフ。つまり限りなく不老に近い長寿の種族だ。僕がつきっきりで鍛えれば僕が暴走してもこの子が止めてくれるかな?
再度場面が切り替わる。今度は僕と契約者が一対一で戦っている。……すごい! 僕の契約者はとても強く育ったみたいだ! まだ幼いのに僕と戦えている! ねえ、君はなんて言うの? いつ現れてくれるの? 出会えるのを楽しみにしているからね!
契約者が刀を構えるところを見届けた私は目を覚める予感がする。あぁ、せっかく良いところだったのに起きたら忘れちゃうかも……。
―――
再度目が覚める。どうしても覚えていたい夢だった気がするのに思い出せない。このポンコツ脳め!
「んんぅ。また目が覚めちゃった。なんとなくだけど今回はいい夢を見れた気がする!」
うんうん。そんな予感がする。……誰かのおかげ? ふと少し遠くにある森の方角が気になった。
「誰かな? 私に良い夢を見せてくれる人かな?」
もちろん答えは返ってこない。それでも私は幸せだ! その場に寝転がりつつ思う。
「えへへ。またいい夢を見れますように!」
なぜか今見た方角に私の希望の光がいる。そんな予感を覚えつつ再度夢の世界へと旅立った。
―――
ここは? 僕の知らない世界だ。夢の中はなんでもありだね。金属の塊が空を飛び、魔物がいない世界。僕を含めてこの世界の人間は髪の色が黒いみたいだ。
キョロキョロしながら散策していると男の人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい……」
慌てて頭を下げる。しかし男の人は気にした様子もなく頭を撫でてくれた。えへへ。
「大丈夫か? 周りが気になるのも分かるけどしっかりと前を見て歩かないとな。気になることがあったら一度立ち止まってからにするといいぞ」
「うん。分かりました」
こくこくと頷くと男の人は一瞬破顔してから飴ちゃんをくれた。
「本当はこういうのあげない方が良いかもしれないけど特別だぞ?」
「あー! 桜庭先輩が子供を誘拐しようとしてる!」
「こるぁ! 人聞きの悪いことを言うんじゃない!」
別の男の人がやってくる。そっか、飴ちゃんをくれた男の人の名前は桜庭っていうのか。珍しい名前だね? サクラとかで終えればいいのに。
「うわー。桜庭先輩! この子モデルっすかね? めちゃくちゃ可愛いじゃないですか。ダメですよ? 手を出しちゃ」
「誰が手を出すか! 俺はロリコンじゃねえよ!」
ふと目が覚めそうになっているのに気が付く。覚えられるか分からないけどできればまた会いたい! どうしようと焦っておろおろしていると桜庭さんが僕の様子を気にしてくれた。
「どうした? あ、そうだ。俺の名前は桜庭龍馬ってんだ。なにか困ったことがあれば俺が助けてやるからな」
「うわー。出たよ先輩のお節介。そうやって人をたぶらかしていくんですね。子供を落としてどうするんですか? 警察に連絡しないと!」
「止めろ止めろ。この子が泣きそうな顔をしていたからな。名前も知っていれば安心して頼れるだろう?」
「うん。桜庭龍馬だね。頑張って覚える」
「はっ。別に忘れてかまわないよ。ただ、一人で抱え込まずに信頼できる友達や大人に頼るんだぞ!」
笑いつつも手を振ってくれる桜庭龍馬に僕は手を振り返しつつ、現実の世界へと戻っていった。
―――
またまた目が覚める。不思議な夢を見ていた気がする。いっぱい寝てちょっとすっきり。
「うーん。良く寝た。そろそろ眠るのはお終いだね。そろそろ僕の欠片を持つ人を探さないといけないし。僕のパートナーはどこかなー? どんな人なんだろう……ふんふん。桜庭龍馬っていうのか。会うのが楽しみ……あれ? 聞いたことがある名前な気がするんだけどどこだったっけ? ……ま、いっか」
それにしてもサクラ……サクラだね。くふふ。僕の目覚めが気持ちのいいものになったのも良く眠れるのもサクラのおかげだ。会ったらお礼に力を貸してあげないと! サクラ、ありがとう! 絶対に恩返しするからね!
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