小さな龍のレクイエム<セレシア視点>

第89話 二周目の夢

 悲鳴が聞こえる……。

 止めたいけど止まらない。僕のスキルが暴走して村を、町を、廃墟へと変えていく。


 ごめんなさい。ごめんなさい。でも、止められないの。誰か、僕を解放して。僕を……みんなを助けて……。


 いやだいやだいやだ。その敵意の、殺気のこもった目で僕を見ないで! 僕の感情に反応するように植物が荒れ狂う。待って! 誰かを傷つけたいわけじゃないの! 止めてよ……僕のスキルでしょう? なんで勝手に動くの。


 ―――


 今日もまた、一つの街を滅ぼした。響き渡る悲鳴が、潰した命の感触がまだ残っている。返り討ちにした人間達ももう数えきれない。涙はすでに出し切ってしまった。もう心も限界だ。僕の何がいけなかったの? なんで僕はこんなことをしてるの?


 ―――


 遂に、遂にやってしまった。誰も僕を止められなかった。すべての国を蹂躙しつくした僕が一人森に立ち呆けていると一人の男がやってきた。ダメだよ。僕から離れてじゃないと君も死んじゃうよ?


「くっくっくっ。ご苦労だった。お前のおかげで俺は復活を果たせそうだ。礼に苦しまないように殺してやろう」


 殺す? 僕を? 殺せるの?


「あり が と」


 久々に出せた声はとてもか細く、それでも伝わったと思う。そのまま僕はその男に殺された。


 ―――


 殺された衝撃で目が覚める。僕の頬には涙がつたっている。夢……だったの? 夢とは思えないほどリアルだった。

 恐る恐る豊穣の神デメテルを使う。少しだけ、暴走しないように注意しながら。


 ……無事に使えるみたいだ。ちゃんと暴走もしない。一息ついてから森の外に出る。良かった、夢の中で最初に滅ぼしたメディ村も滅んでいないみたいだ。一安心した僕はそのまま森に戻り眠りについた。


 ―――


 なんだろう、森が騒がしい。嫌な予感がして目を覚ますと森の生き物達が右往左往している。魔物も同様だ。なにか強大な力を持った存在が近くに来てる? 気になった僕は森の中を見て回る。


 少し進むと夢で見たあの男がいた。声をかけようとして止める。……あの男の事は夢で見た。だけど向こうが僕を知ってるとは限らない。しばらく男の後を付けていくと男の名前が分かった。アービシア。それが僕を救ってくれた男の名前なんだね。


 アービシアはどうやら誰かに裏切られたらしい。その復讐をすると意気込んでいる。復讐なんてダメだと言いたいけど僕は声に出せない。夢の中の敵意ある目にアービシアの目が重なって動けなくなってしまう。


 それでも何とかアービシアに付いて行くとメディ村に着いた。ここに復讐相手がいるのだろうか……。


 男が村に入ると一つの家から火の手が上がった。少ししてアービシアが吹き飛ばされたように外へと出てきた。中から女性と少女が外に出てくる。女性は少女を守りながらもアービシアを攻撃する。止めて! 僕の恩人を攻撃しないで! 思わず僕がスキルを使うと女性と少女に植物が突き刺さる。突然生えてきた植物に驚いたアービシアがこちらを見るとにやりと笑う。


「くっくっくっ。まさか神霊様に助けられるとは。数奇なものだな」


 !? 僕を知ってるの!? アービシアに聞こうとするけど突然力が沸き上がってきた。あれ? この感じどこかで……!?


「そんな!! どうして!? 嫌だ!!」


 この感覚は夢の中で暴走していた時の感覚だ。どうして!? 突然スキルが暴走を始めたの?


「ふんっ。自分でやっておいて不思議そうな顔をしているな。貴様ははるか昔に俺がかけた仕掛けに引っかかったんだよ。まさか自らトリガーを踏んでくれるとは。くっくっ。手間が省けた。お前が世界を滅ぼしたらまた会おう」


 僕がスキルを必死に抑えようとしている間にアービシアが何処かへ行ってしまった。どういうこと? アービシアがかけた仕掛け? スキルの暴走はアービシアの所為だったの? 何がいけなかったの?


 スキルの暴走が始まる。龍の形態を超えて、スキルに取り込まれて姿が魔王のような姿へと変わっていく。いやだいやだ。夢の再現だけはしてはいけない! 誰か助けて! 暴走しかけると突然の痛みが体を襲う。下を見ると先程アービシアを攻撃していた女性が僕を攻撃していた。自分の娘を殺されたからか殺意を込めた目で。いいよ。そのまま僕を殺して。僕が国を壊してしまう前に! 僕は目をつぶってその時を待つ。アービシアだって僕を殺すことができたんだ。そんなアービシアよりも強いこの女性であれば……!


 そのまま攻撃を受けて僕にダメージが蓄積していく。思ったように一撃で死ぬとはいかなかったけど夢とは違うから仕方ない。この痛みは世界を一度滅ぼした僕への罰なのだろう。それに、自分で世界を壊しながら自分で止められない悪夢を考えたらこっちの方が良いくらいだ。そろそろ僕の命が付きそうになり、女性が止めを刺そうとする。


 ありがとう。すでに声は出ないけれど、僕のことを止めてくれることに心の中でお礼をいい、目をつぶって止めを待つ。…………? 止めの一撃が来ない。目を開けると女性は既にこと切れていた。どうやら最初の一撃で限界になっていたらしい。つまり僕はこれから……。


 ―――


 スキルの暴走が始まり、僕の意に反してメディ村を滅ぼした。せめて人のいない所へ! そんな僕の願いが通じたのか僕は森の中へと移動する。良かった。ほんの少しだけだけど僕の意思でも動きを決められるみたいだ。それでもスキルは暴走し続ける。どうしよう……そうだ。王都に……ブルーム王国の王都に行こう。あの場所にはジークがいるはずだ。彼なら僕を止めてくれるはず……。


 ―――


 完全に魔王のような姿と変化した僕はスキルを発動しつつ王都へと向かう。……途中途中で森の中にある集落や森の近くの街を壊しつつ。

 ごめんね。ごめんねと謝りつつも暴走は止まらない。王都へと到着するとレオンとジークだけでなくドラゴやヴィー、リヴィにルディまで、僕以外全員の神霊兄弟の気配を感じた。良かった! これで僕は救われる殺される


 王都の手前で神霊とその契約者達との戦いが始まる。残念ながら僕の魂がスキルに侵されて変質しているらしく誰も僕だと気付いてくれないけどそれで国を、世界を滅ぼさずに済むのならやすいものだ。


 しばらくの間激戦が続く。僕は女性にやられた怪我で本来の調子が出ていないのに激戦になるのはおかしい。スキルの暴走の所為で実力が底上げされてる? このままじゃまずいかもしれない。僕は兄弟のことも殺してしまうの……? そんなの嫌だ! なんとかスキルの暴走を抑えようと気合を入れる。僕の攻撃が緩んだ瞬間に契約者達の一斉攻撃を受ける。そのまま僕が不利になっていき、体勢を立て直した神霊達に追い詰められていく。


 そして……ついにレオンによく似た獣人族の少年に止めを刺されたところで僕の意識は暗転した。

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