第72話 セレスの呼び出し

 冒険者ギルドを出た私とセレスはライアスと分かれて寮へと帰る。私室へと戻るとカトレアちゃんが出迎えてくれた。


「サクラおかえり。今回は大丈夫だった?」

「大丈夫だったよ?」


 セレスがいなかったら死んでた可能性があるけど生き延びたのだから問題ないだろう。


「……嘘ね。今度は何で死にかけたのよ」


 ……さすがカトレアちゃん。隠そうとしてもお見通しか……。


「いや、アービシアの闇魔法に捕まっちゃってね……」

「そう。大変だったのね」


 それだけ? もうちょっと心配してもらえるかと思ってたのに。いたっ。ちょっと膨れたらカトレアちゃんに叩かれた。


「心配してるにきまってるでしょ。でもね、サクラの顔、前よりもすっきりしてるわよ」


 そうかな? 自分の顔をむにむにしてみる。


「父親のことは吹っ切れた?」

「っ!?」


 私が驚くと呆れた顔をされた。


「何年一緒にいると思うのよ。サクラが私の両親を見る時に羨ましそうな顔してたの自覚なかった?」

「気付いてなかった……」

「サクラが日本の話をしてる時も両親の話題を避けてたのよ?」


 そうだったのか……。無意識だった。


「サクラにとって前進できたのなら良いわ。でもね、私はもうサクラが死にそうになった話は聞きたくないからね」

「うん。気を付ける」


 まっすぐに見つめてくるカトレアちゃんにしっかりと頷く。

 このまま話を続け、アービシアを無事捕まえたことを伝えた。


「カティ! ただいま!」

「セレス! おかえりなさい」


 セレスも姿を表し、三人でしばらく話をした。カトレアちゃんがセレスの変化に驚きつつもその日は眠り、それから数日間、アービシアの尋問の結果を待ちつつもつかの間の日常に戻っていった。


 ―――


「サクラ、話があるんだけど今いい?」


 日常に戻って数日、カトレアちゃんがミーヤやチコと商学科の授業を受けていて私とセレスの二人きりになった時、意を決した顔をしたセレスに話しかけられた。


「もちろんいいよ。どうしたの?」

「遺跡ではぐれた後の話なんだけど」


 はぐれてから助けて貰うまでの間の話か。


「実は、お母様に会ったの」

「へ?」


 セレスの母って……、創造神様!!?


「い、いつ降臨してたの?」


 少し動揺して噛んでしまった。


「ううん、顕現したんじゃなくて鏡を経由して話をしたんだよ。その時にいろいろと知ったんだ。詳しくは話せないんだけど……」


 少し悲しそうな顔をするセレス。頭を撫でつつ続きを促す。


「話せる事だけ教えてくれる?」

「うん。といっても話せることは無いんだ……。それでね、魔王の討伐なんだけど、止めない? サクラには魔王と戦って欲しくないんだ」

「なんで? それはセレスの頼みでも難しいんだけど……。理由次第では戦わない選択肢も……」

「ごめんね。理由も話せないんだ……」


 うーん。魔王が強すぎて私の勝ち目がない? それともセレスの知り合い? それか……


「セレス……」


 私としても小さな頃からの目標で、学園に来てからも魔王と戦うために努力してきた。みんなを守るために。大切な人達を守るために。それでもセレスの真剣な表情に言葉が詰まる。


「サクラの目標だったよね」

「うん……」


 私がこの世界に転生したのは、サクラとしてSDSの七周目の世界をクリアすることため。といったこともあると考えている。確証はないし、ライアスに任せて私は手を出さないのも一つの手だと思う。それでも、私は……今の私は魔王に挑戦してみたい気持ちもとても大きい。

 しばらくセレスと見つめあっていたが先に折れたのはセレスだった。


「できればやめて欲しかったけど……サクラが決意を変えないなら応援するよ。付いてきて」

「?」


 疑問に思いつつもセレスの後をついて行った。


 ―――


 セレスの後をついてしばらく歩くと王宮の庭に出た。


「……セレス、王宮に不法侵入しちゃったんだけど……」

「ここは私の管理してる庭であって王宮の物ではないよ?」


 たしかにセレスがこの庭を作ったと聞いたことはあるけど……。陛下の言い方だとすでに下賜されたつもりみたいだったのに……。

 見つかったら大問題にならない?


「大丈夫大丈夫。ジークに話は通してあるから!」


 それなら安心……なのかな?


「サクラ、本当に入ってこれたんですね……」

「そう言ったんだよ? でもシルビアは嘘だと思っていたんだよ?」


 首をひねってると殿下の呆れた声が聞こえた。

 どうやら私達の確認に殿下とジークが来た。殿下にはジーク経由で話が通ったのだろう。


「あははは、お邪魔してます……」

「神霊達のすることだから気にしていませんよ。私が来たのは本当に入れるのかの確認ですから。後でどうやってここまで来たか教えてくださいね」


 聞かれても私には答えられないのですが? セレスの後ろを付いてきただけだし。


「私の力でパパっと道を創っただけだから私がいないと入れないよ。気にしないで!」

「そうですか……。分かりました。では気にしないことにしましょう。ジーク、終わったら話せることだけでいいから教えてくださいね。では私はこれで」


 殿下は納得していなさそうだったけど神霊達を信頼して細かいところはスルーしてくれた。そしてそのままジークを残して帰って行った。


「よう、俺が最後だったか。で、セレス。本気か?」

「うん。本気だよ」


 殿下が帰ってからしばらくするとレオンもやって来て神霊が三人揃う。


「じゃあ始めようか」

「なにを?」

「まだ説明してなかったのかよ」


 やってきて直ぐにレオンが何かを始めようとしたけど私は何も聞いていない。何をするのか聞くとレオンが呆れた目をセレスに向けた。


「今から説明するの! 順番はなんでもいいでしょ?」

「まあな、早くしろよ?」


 どうやらセレスが説明してくれるようだ。さて、なんだろうか。わざわざ三人も集まるなんて。


「うん、今からするのは私からサクラへの祝福だよ! どうするかは今から説明するね」


 祝福……。セレスのスキルが一部使えるようになるとか、私のステータスが急増するとかかな?


「と言ってもやることは簡単だよ? レオンとジークに見届け人になってもらうから私と戦ってね!」


 そう言ってセレスは龍形態に変化した。


 ……突然過ぎません?

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