第69話 幻影<ライアス視点>

 まずいまずいまずいまずい……。

 サクラが蔓のような植物に拘束されてアービシアが剣の形をした植物を手に持つ。

 サクラを助けようとするもこのうざったいシルクハット帽のせいで助けにいけない。


父娘おやこの会話の邪魔をしてはいけませんねえ。そんな男はモテませんよ?」

「うっさい! レオン! 助けに行けるか?」

「行けるならとっくに行ってる!」


 俺たちはアービシアがサクラに向かって剣状の植物を突き刺すのをただただ見てることしかできなかった……。


 ―――


 俺ことライアスとレオンの二人がヴァニティアの相手を、サクラがアービシアの相手をすることになった。

 相手が父親だということで少し心配だがサクラなら大丈夫だろう。それよりもこちらも気合を入れないとな。サクラが一度捕縛したとはいえ俺が捕まえたわけではない。


「あなたは私に攻撃が当てられますか?」


 ヴァニティアが挑発してくる。実際、天の適正を持ち、魔力感知に長けたサクラはともかく、俺程度の魔力感知ではこいつの本体を捉えるのは難しいだろう。しかし、それは種を知らなければの話だ。


「フラッシュ」


 光の魔法を当てて無理やり陽炎を解く。あいつの陽炎は光と闇の複合魔法で実現しているからより強い光を当ててやるだけで本体をあぶりだすことができる。


「少々鬱陶しいですねえ」

「カラクリが分かれば対応できるな」


 陽炎を使えないこいつであれば直ぐに倒せるだろう。

 攻撃を仕掛けると隣でサクラとアービシアの戦闘が始まった。


「?」


 なにやら黒い靄が一瞬だけアービシアとサクラの周りを覆った。


 サクラなら大丈夫かと思いヴァニティアに集中することにする。


「煉獄」


 体を炎で覆い、本体が露になったヴァニティアを叩く。


「!?」


 からぶっただと!? 確かに捉えたはずなんだがな。

 後ろから拍手が聞こえてくる。


「そこそこ速いみたいですねえ。ま、そこそこですが」


 陽炎で大きな姿を現したヴァニティアが馬鹿にするように言う。


「さっきまで手を抜いていたのか?」


 先ほどまでの戦いの速度だと今の一撃が当たったはずだ。


「ええ、先ほどの戦いは所詮時間稼ぎでしたから」

「時間稼ぎだと?」


 確かに質問のくだりが長かったりしていたけど……。


「サクラさんは途中で・・・気付いていたみたいですよ? ふふふ。あなたに教えなかったのは頼りにされていないからでは?」


 確かに最近の俺はサクラの二番手みたいな立ち位置になってる気はしていた。敵の解析もサクラを頼りにしてることが多くなってきていた。現にこいつを捕縛したのもサクラだ……。


「……」

「どうやら心当たりがあるようですねぇ」

「……」

「ふふふふふ。つまりサクラさんはあなたを切り捨てたんですよ。そんなあなたはどうしますか? サクラさんを見返したいと思いませんか?」

「……」

「かわいそうなライアスさん。サクラさんに心の中で馬鹿にされ、神霊の愛し子と言われている特別な存在なのにまるでそこら辺の雑魚みたいに利用されている。ふふふふふ。」

「俺は……」

「悔しいでしょう? 腹が立つでしょう? 人の心は読めない。だからこそ恐ろしい。」

「俺は……」

「恨めしいでしょう? 信じてた仲間に裏切られて心が痛むでしょう? 悔しいでしょうねぇ。ふふふふふ。」

「俺はっ!」


 ゴン!


 俺は自分の顔をぶん殴った。


「は? 何をしてるんです?」


 初めて驚いた顔をしたヴァニティアを見て少し気分が愉快になる。


「いやいや、礼を言うぜ。俺は少し腑抜けていたようだ。……そうだな。まずはお前をぶっ飛ばしてサクラの信頼を勝ち得るとするぜ」


 俺はライアスだけどライアスじゃない。穴抜けとはいえ日本の記憶を思い出した俺は一番にこだわったりはしていない。……けど、男としてはカッコつけないとな!


「ライアス、今、奴が闇魔法で精神を弱らせに来てたぞ」

「おう、レオンが打ち消してくれたんだろう? サンキューな」


 闇魔法……待てよ? さっきのサクラの周りを覆った黒い靄って……。


「レオン! サクラにかかってる魔法も解いてやってくれ!」

「おう! うおっ」


 サクラの数少ない……数少ない……うん戦闘面での数少ない弱点が精神的な攻撃だ。サクラ本人は気付いてないみたいだが、父親のいない幼少期での生活が何か心に影を落としているのだろう。もしかしたら日本の記憶も何か関係しているのかもしれない。サクラから日本の話を聞いた時も両親の話は聞かなかったしな。

 カトレアもサクラがカトレアの両親とあったときの表情に寂しさのような思いが出ていたと言っていた。


「そう簡単に余計な真似はやらせてあげませんよ?」


 ヴァニティアが攻撃を仕掛けてきた。またも動きが見えない。


「レオン。あいつの動きが見えるか?」

「俺は見えてるが、お前にはまだ難しいだろうな。役割を変えるか。」


 悔しいがそうだな。本当は俺がこいつをぶっ飛ばしたいけど……まずはサクラを助けないと。


「させるとお思いですか?」


 ヴァニティアの言葉と共に偽レオンが出現した。


「なっ!? エピゴーネンの鏡は倒されたはずじゃあ」

「それはあなたがたの勝手な予測でしょう? この通り魔力が貯まれば再度複製体が作れるほどにはぴんぴんしてますよ」


 倒したはずの偽レオンが出てきた。そしてそのままレオンを抑えに来る。


 俺はこいつの動きが見えない、光魔法のおかげでこいつの攻撃も俺には聞かないが俺の攻撃もこいつには当たらない。レオンは偽レオンに手一杯になっている。

 向こうでは強力な闇魔法を受けたサクラの動きが鈍くなっている。


 闇魔法の解除をしようと焦るが一向にこいつらを突破できない。


 サクラの動きがとうとう止まってしまった。


 まずいまずいまずいまずい……。

 サクラが蔓のような植物に拘束されてアービシアが剣の形をした植物を手に持つ。

 サクラを助けようとするもこのうざったいシルクハット帽のせいで助けにいけない。


父娘おやこの会話の邪魔をしてはいけませんねえ。そんな男はモテませんよ?」

「うっさい! レオン! 助けに行けるか?」

「行けるならとっくに行ってる!」


 俺たちはアービシアがサクラに向かって剣状の植物を突き刺すのをただただ見てることしかできなかった……。

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