第68話 悪夢

 捕らえたヴァニティアに魔王の場所を質問したのにも関わらず知らないとの返答が来た。


「おい、約束が違うじゃねえか。ちゃんと答えろ」

「いえいえ、わたくしは約束を守っていますよ? 一度も魔王の居場所を知ってると言ったことはありませんし、約束は正直に答えるだけなので知らない。と正直に応えただけですとも」


 やられた。私達が魔王の居場所を聞くと予測した上で質問を増やしたのか。


「ですが騙し討ちになってしまったのも事実です。仕方ないのでわたくしの質問にもう一つ答えてくだされば。わたくしももう一つ質問にお答えしましょう」


 ここで本命の質問がくるのか? でも一つ分の質問に答えてもらえるのはありがたい。どうしたものか……。……いや、さっきの質問は嘘? こいつが保証しているのは“二つの質問に正直に答える”だ。さっきの問いで嘘を吐いても次の質問で嘘を吐かなければ問題ない。


「サクラ、拷問すればいいんじゃないか? そしたら質問に答えるだのなんだのややこしい事をする必要が無くなる」


 私が悩んでいるとヴァニティアに聞こえないようにライアスが聞いてきた。それも視野には入れていたいけど……。


「じゃあライアスは嘘ついてるかどうか見分けられる?」

「いや、無理だな。内容次第で答えるか決めるか」

「そうだね」


 正直に答えるというのも嘘くさいが仕方がない。早くセレスと合流したい。


「コソコソしてないでわたくしとお話ししましょうよ?」

「悪い悪い、そっちの質問を聞いてから答えるか判断することにした」

「ふむふむふむふむ。いいでしょう。では、わたくしの質問はどうしてエピゴーネンの鏡があなた達の複製体を作れなかったのか。です。先程聞き逃してしまったので」


 ん? 今更そんなことを聞くのか? わざわざこちらの質問回数を増やすほどの質問ではないよね……。


「予想でしか無いけどそれで良ければ」

「ええ、もちろんですよ」

「私もライアスも契約を通してセレスとレオンの魔力を借りてるから、エピゴーネンの鏡が私達から魔力を奪ってもセレス達の分に傘増しされるだけだったんだと思うよ」

「なるほどなるほど。合っていそうですね。残念でした。では最後に質問をどうぞ?」


 最後……? もしやこいつ……。時間稼ぎが目的? ライアスとも相談してないけど早めに質問するか。


「じゃあ、アービシアが考えてるこの遺跡の用途は?」

「その問いにはオレが答えてやろう」


 つ!


 襲いかかってきた植物群を躱す。時間稼ぎだと気付かなければ危なかった。


「ふむ、躱したか。ヴァニティア、引き付けが甘いんじゃないか?」

「いえいえ、わたくしはミスしてませんよ。ねえ? サクラさん?」


 父の存在を忘れていた。目的の人物だったはずなのにヴァニティアの強烈な印象の所為で頭から抜け落ちていたな。思わずしかめ面になる。


「いい顔をしていますね。では、第二ラウンドと参りましょうか」


 先程の父の攻撃により氷が砕け、高速から抜け出たヴァニティアは先程現れた私の父、アービシアの横に立ちそう言い放った。


「父さま……」


 変わり果てた父の姿をみて絶句する。


「サクラの父親ってあんな姿してたか?」

「人族の筈だから違ったかな」


 父を見ると角や牙が生えている。皮膚の色も青白く魔族の様な姿……いや、他の魔族よりも禍々しい姿になっている。


「怨みを糧に我々と同じ種族まで昇華したのですよ。ふふふ」


 ヴァニティアが何かを父にしたようだ。薬か血か、よく分からないけど私の父は魔族になったということで間違いないようだね。


「サクラ、アービシアの相手は俺がしてもいいんだぞ?」

「いや、私がケリをつけるよ。向こうもそのつもりみたいだし」


 せっかくのライアスの申し出だが断る。カトレアちゃんにも私と父で戦うのはやめたほうが良いと心配されたし、ライアスに任せたいところではある。


 しかし父はずっと私を睨みつけてきている。

 ヴァニティアも私と父の戦闘に手を出すつもりは無さそうだ。

 しかたなくレオンとライアス対ヴァニティア、私対アービシアの構図になって再び戦闘が始まる。


「少し鬱陶しいですね」

「カラクリが分かれば対応できるな」


 レオンが補助をしつつライアスがヴァニティアに攻撃している。光魔法で幻影対策もしているみたいだ。向こうは任せて大丈夫そうかな。

 こちらも打ち合いが始まる。


「さて、父さま? この遺跡の用途を教えてくださいますか?」


 答えは返って来ないだろうが攻撃を仕掛ながら質問をしてみる。


「お前はオレをまだ父だと思ってるのか? それならオレのために死んでくれ」


 意味が分からん……。しかし心がざわつく。これ以上は会話もしない方が良さそうだ。そう判断した私は黙って攻撃を続ける。こちらの方が僅かに押しているが、なんだか動きが鈍い。父が蔓状の植物を生やして鞭のように攻撃してくる。


「ふむ、便利なスキルだ。木の適正の最上位魔法みたいなイメージか。適正が無かったオレとは大違いだ」

「!」


 父に適正が無かった? それって私と同じ超級適正ってことか……。私と違って何も知らずに育ったのだとしたら……。

 何とか凌ぐが植物の数が増えていく。


「お前はオレと同じで適正が無かった。オレと同じような人生を歩む子なんて見たくなかった」


 あの時の“処分する”って発言は、私のためだったの?


「なのにお前たちは逃げた。それだけではなく、オレを迫害した」


 ウィードさんとディアードさんのこと……?


「オレは、お前たちがオレの前から消えてもいいと言った。なのに、お前たちは……」


 逆恨みでもなんでもなくて、父には父の理屈があった? 徐々に私の動きが鈍くなっているのが分かる。私は父を裏切って放置した? 前世の両親が私にしたように…………。

 私の攻撃は遂に止まり。手足を拘束されてしまう。


「だから死んで後悔しろ」


 父は剣の形をした植物を持ち、既に動けない私に向かって突き出した。

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