第67話 幹部との戦い
少しの間ヴァニティアと打ち合う。向こうの攻撃は普通に当たるのにこちらの攻撃は当たっても陽炎のように揺らめくだけだ。
「本体は別の場所じゃねえか?」
「んんーむ……」
「珍しくハッキリしないな」
「情報が足りなすぎるからね」
違うと思うけど確証は持てない。別の場所にいるとしたら向こうからの攻撃もうまくいくとは思えない。こいつが本体で合ってるけど何かしらのカラクリがあると考える方がしっくりくる。
「わたくしの情報が欲しいと……。ではあなた方が勝った時にはわたくしの秘密をお話してさしあげましょうか?」
「遠慮するよ。本当に欲しい情報が貰えなくなっちゃうし、勝った時はその秘密とやらを暴いた後だからね!」
情報の総どりと言いつつも正直に答えるのは一つと言っていた。くだらない情報を正直に答えて他こちらの欲しい情報に嘘を吐く可能性が高くなるだけだ。
「ふふふ、御三方ともとてもお強いので保険をかけておきたかったのですが失敗してしまいましたね」
小馬鹿にした話し方に腹が立つ。ただ、この余裕を見るに普通に攻撃して倒したとしてもその後逃げ出す算段があるのかな?
「アイスバインド」
情報を得るまでは殺すわけにはいかないから大技で辺り一面ごと葬ることはできない。ヴァニティアの足元だけを凍らせる。地面に一体化させれば逃げられないはず……。
「効きませんねぇ」
何事もないかのように接近してきた。むむむ。氷華の周りに澄んだ氷を発生させて切りかかる。この氷はかなり透明度が高いためぱっと見では気付かないだろう。
氷華を振りぬいても手ごたえは無い。……? ちょっと違和感があったな。氷が通過してるときの見え方が変? なんどか切りかかり一つの仮説を立てる。
体で隠しつつ透明な氷の槍をいくつか発生させる。氷華で攻撃を仕掛けつつ隙を見て氷の槍を当てようとする。ヴァニティアは氷の槍に気付いてなさそうだけど……。
「おっと。びっくりしました。やりますねぇ」
最後の一つにだけ気付いた?
うーむ。……倒す方法は二つかな?
「っ!?」
「よしっ!」
軽くだが初めて攻撃が当たった感触が得られた。タイミングが少しズレたせいで威力が低いと思ったけどヴァニティアはかなり吹っ飛んで行った。
そう、倒す方法の一つはカウンターを当てるのこと。技術は必要だけどよくある攻略法だろう。
「カウンターですか。かなり合わせにくい筈なのですが」
「集中すれば簡単だったよ?」
派手に飛んで行った割には身体に傷一つないヴァニティア。これはもう一つの方法が良さそうかな?
「あいつ不死身か? 攻撃が当たらないうえに当たっても無傷とか……」
「よく分かりましたね。不死身の私に負けはありえません。ふふふ、三対一でも勝てるから勝負を引き受けたのです」
二人の会話を横目に魔力の感知に集中する。分かりづらいけどあの位置かな?
「アイスショット」
「ぐはっ!」
「はっ?」
ヴァニティアが吹き飛ぶ。やはりこちらが良さそうだね。
「ライアス、見た目に惑わされちゃダメだよ。恐らく見えてる姿は幻影だからね」
「は? でも今吹っ飛んだだろうが」
それは幻影の中に隠れている本体を叩いたからだ。氷華の周りに見えにくい氷を纏った時は氷の場所で揺らぎが見えたし、途中まで氷の槍に気付かなかったのは本体から遠い場所を氷が通過していたからだろう。つまりヴァニティアの大部分は幻影で本体は一部のみだと考えられる。
「うん、本体はかなり小さいんだよ。幻影で自身を大きく見せてるから普通に攻撃しても当たらないんだ」
「実は子供ってか? それじゃあサクラが足元を凍らせてもダメだった説明がつかないだろ」
ライアスは頭が固いな。そんなに大きかったら攻撃が当たりにくいだけで直ぐに当てられるだろう。
「そんな大きくないよ。蚊とかハエのサイズだからね」
「そうか……。ってお前見えてない虫サイズの敵を撃ち抜いたのかよ……」
「ふふっ。天の適正万歳だね。ついでに本体を凍らせたからもう動けないはずだよ」
吹き飛んだヴァニティアの方を見るとシルクハットの幻影が消えて氷漬けになったハエのようなヴァニティアが倒れていた。回収して顔だけ解凍し質問に移る。
「質問に答える前に一つよろしいでしょうか?」
「あ? 約束を破る気か?」
「いえいえ、決めたルールは守りますとも。わたくしの秘密が知りたかったのでしたな?」
どさくさに紛れて質問を変えないで欲しい。気付かないほど間抜けじゃないよ?
「質問内容を勝手に変えないでね。……そうだね。こっちの質問二つに増やしていいならそっちも質問していいよ」
正直に答えるかは別だけどね。
「ありがとうございます。では、いつ私の正体に気が付いたのですか?」
これくらいなら答えてもいいか。
「じゃ、正直に答えるからそっちも二つとも正直に答えるんだよ?」
「仕方ないですねぇ。答えてあげましょう。それでいつ気が付いたのです?」
そんなに気になることかな? もしやこの状態でも逃げ出して再度他の人に攻撃する機会があると思ってる? それとも時間稼ぎかな?
「気になったのは氷華で切りあっていた時だよ。透明な氷で切った時に見た目がぼやけていたからね。氷の槍で確認した後カウンターで確信を持ったかな」
「そうでしたか。次の機会には参考にしましょう」
「ふんっ。次の機会なんて来ないと思うけどな。……さて、次はこっちの質問だな。一つ目はここにいる理由。二つ目は魔王の居場所を教えてもらおうか」
ここにいる理由は予想がつくし聞く優先度は低いかな。
「いや、一つ目はこの遺跡はなんの魔道具か、二つ目は魔王の居場所はどこかを聞こう」
「ん? 魔力を吸収してたのは複製体を作るためじゃないのか?」
……ライアス。まだまだだね。
「遺跡とエピゴーネンの鏡の能力は別だよ。遺跡が吸収した魔力の一部を鏡が吸収していたかもしれないけどね」
「こいつらがここにいる理由は気にならないのか?」
「それは予想がつくよ。と言ってもこの遺跡を起動するかブルーム王国を攻め入るための拠点にしたかの二択だけどね」
私の予想を聞いてもひょうひょうとしたままの……いや、虫の状態だと表情が分からないな。でもなんとなく雰囲気がひょうひょうとしてる気がするヴァニティアと向き合う。
「いいでしょう。遺跡の魔道具と魔王様の居場所ですね」
「ああ、頼む」
「この遺跡は魔王様を覚醒させるための遺跡ですよ。あとはあの男が他にも用途があると言っていましたがそちらを聞きたければ質問してくださいね」
魔王の覚醒だって? 既に復活してるから魔物が活性化してるんじゃ無かったのか? そして遺跡の用途?
「おやおやおや? 二つ目の質問を変えますか? 三つ目は答えませんよ?」
正直、一番気になるのは魔王の復活と覚醒についてだけど……。アービシアがどう遺跡を使うのかも聞いた方が良さそう……。いや、この二つは予測が立てられる。となると一番確定させたいのはやはり……。
「質問は変えない。魔王の居場所は?」
「知りませんねえ」
「……」
「……」
……え、それだけ?
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