第66話 魔王の幹部

 龍形態になった偽ライアスとの戦いが続くが決着がなかなかつかない。

 氷華のおかげで近づいても焼かれることなく戦うことができるがダメージを与えてもすぐに光魔法で回復してしまいとても厄介だ。

 ちらりともう片方の戦闘を見たがむこうも偽セレスが二人を軽くあしらっている。増援は望めなそうかな。


 しばらく戦闘していて分かったのは戦っている最中でも力が変動していることだ。レオンかライアスが魔法を使うと力が強くなり、偽レオンが魔法を使うと徐々に弱体化していく。


 なるほど? これはなんとかなるかな?


「レオン、ライアス! 偽レオンの相手もお願い! なるべく魔法使用するの禁止で!」

「お前は馬鹿かー!! 今でも手一杯なのにできるか!」

「偽セレスは放置で大丈夫! 偽レオンを魔法無しで足止めして!」

「スイッチってことか? 無茶言うなよな。」


 なにか勘違いしているが放っておいていいか。やればわかるだろう。

 二人がこちらに移動したのを確認して戦線離脱し氷華をしまう。偽セレスは放置だ。


「サクラ!?」

「だまって偽ライアスの足止めをして! 集中力がいるの!」


 ライアスがうるさいけど魔力の制御に集中する。

 戦闘の相手がいなくなった偽セレスは寝始めた。


「あ、あの猫寝やがった……」


 ライアスが驚愕しているが偽セレスがセレスのコピーである以上不思議なことではないだろう。そんなことを頭の隅で考えつつも魔力の流れをとらえることに集中する。


「サクラ、どういうことだ?」


 ライアスの言葉は無視だ。なんとか魔力の流れを知覚できた。


「ライアス、もう魔法を使っていいよ。ただ大技使うとしんどくなるのは二人だから気を付けてね」

「サクラ、どういうことだ?」


 ライアスの言葉に反応する余裕はない。遺跡から魔力の制御の主導権の奪い合いの最中だ。


「ちっ、後で説明してもらうからな」


 ライアスが光魔法で自己の回復を行うと遺跡が魔力を奪おうとする力が強くなり、それに合わせて偽ライアスの能力が上がる。

 想定より速い動きに対応できずライアスが吹き飛ばされる。


「魔法を使うとしんどいってこういうことかよ……」


 再度回復しつつライアスが呟く。今度は遺跡が魔力を奪うのを阻止できた。これで感覚はつかめたかな。


「よし、まずは偽レオンから仕留めるよ。レオンも魔法使って攻撃しちゃって!」


 氷華を再度構え、ライアスの動きに合わせて突撃する。

 レオンとライアスから吸収される魔力を奪い取って攻撃に転用することで偽レオンのパワーアップなしでダメージのみ与えていく。偽レオンは光魔法で回復するとケガは治るが弱体化していく。


「そろそろとどめが刺せそうかな。レオンは偽セレスに警戒。ライアスは私と止めをさすよ!」


絶対零度コキュートス

炎熱放射プロミネンス


 偽ライアスは一瞬で凍り付いた後、蒸発した。


「無事倒せたみたいだな。偽セレスは寝てるけどどうする?」

「無視して本体叩こう。場所も把握したし……。っ!?」


 さきほどの魔力の制御の奪い合いのときに探り当てた本体を叩きに行こうとしたら偽セレスが消滅した。


「セレスが本体を叩いたのかな?」


 全員の無事を確認した後、一度休憩する。


「久しぶりにしんどかった……」

「何が起きたのか説明してくれ。途中経過がわけわからなかったぞ」

「そうですねぇ。わたくしにもお聞かせ願えますかな?」

「私たちが戦った相手はエピゴーネンの鏡が作ったセレスとレオンの複製体だよ。エピゴーネンの鏡は知ってる?」

「ああ、聞いたことがあるな……他人の魔力を吸収してその魔力を元に複製体を作るんだったか?」

「不思議なのは四人のうち二人分しか複製体が作られなかったことですねぇ。あなたはどうお考えで?」

「それは……。だれ!?」


 自然に会話に混ぜってきていて気付かなかった。その場から離れて警戒する。私達三人のいたところにシルクハットを被った魔族がいた。


「おやおや、これは失礼いたしました。わたくし、魔王が幹部の一人、ヴァニティアと申します。以後よろしくお願いしますね。ふふふ」


 こちらの警戒も気にせずに一礼をするヴァニティア。


「セレスをどこにやった」


 氷華を構えてヴァニティアに問う。


「はてはて。どこかで見たような見ていないような?どちらにしろただで教えるわけにはいきませんねぇ。ふふふふふ」


 ニヤニヤしつつ思案したあと一つの提案をしてきた。


「こうしましょう。勝負をして勝った方が情報の総どりです! 負けた方は勝った方の質問に一つ。正直に答えなくてはならない。どうです? 三対一ですしそちらに有利でしょう?」

「こちらが勝った時にそっちが嘘を吐かない保障はないでしょう?」


 胡散臭いヴァニティアが正直に話すとは思えないんだよな。


「人族……エルフ族は知らないのですか? 魔族は嘘を吐かないのですよ? ふふふふふ」

「絶対嘘だ!」

「ばれてしまいましたか」


 おどけて見せる魔族に腹が立つ。さて、セレスがいれば自白剤を作れるのに……。


「そちらが勝った場合はセレシア様のお力を借りればいいのですよ。そうでしょう?」

「こいつ……」


 どこまで知ってるのか気になるな……。どうするかな……。正直こちらにメリットは無いし。


「ふふふ。約束しなければ私は負けた瞬間自害します。情報は得られなくなりますよ? それとも一対三でも勝つ自信がないとか?」


 笑ったと思ったら急に真顔になって脅し、最後は馬鹿にしてきた。


「こっちが勝つし! 仕方ないから受けます。ただ、こちらが約束を守るかは分かりませんよ?」

「それでもいいですよ。ふふふふふ」


 こうして胡散臭い自称幹部との戦いが始まったのだった。

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