第65話 遺跡の深部へ

 セレスを探しながらも深部へと向かって進んでいく。


「魔族に全く合わなくなったな」

「ついでに直進しかできないね」


 セレスと分断された後、しばらくは魔族が襲ってきたり突然構造が変化したりして大変だったが今はもう直線の通路しかなく、魔族の気配も周りにはない。

 SDSの時とは内部の構造がかけ離れてしまったため正しい方向が分かっていなかったがなんとか正解の道を選べたのだろう。こういった通路はなんだかボス戦の前みたいな気分になる。


「このまま進んで大きな部屋があればそこに父さまがいるかもね」

「すでにセレスが制圧してたりしてな」

「そうなったら手間が省けていいね」


 嫌な予感を振り払うようにお気楽な話を続ける。

 しばらく進むと大きな扉があった。中に入る前に簡単な作戦会議をする。


「ボス戦みたいだな」

「モンスターハウスならぬ魔族ハウスかもね。」

「やっぱり魔法はなるべくなしの方向か? この遺跡の魔道具が内部構造を変える物だとしたらもう魔法を使ってもいいよな?」

「うーん。内部構造を変えるのはメインの効果じゃないと思うんだよね……。こんな大掛かりな魔道具の効果としてはしょぼいというか。他の可能性がある以上魔力供給は減らしたほうが良いと思う。でも、苦戦しそうなら仕方ないから魔法も使っちゃおう」

「心配性な気もするけどな。一先ず了解だ。んじゃ、行くか」


 大きな扉を開けて中に入ると、そこには猫形態のレオンとセレスの姿をした影がこちらを見て攻撃してきた。


「あぶなっ!」

「レオンとセレスの複製体か!? 気合入れないと全滅するぞ!」

「だね。魔法も温存とか言わないで全力で行こう!」

「レオンとライアスはセレスをお願い! 偽レオンは私が抑えるよ!」

「了解! 早めに倒して直ぐに援護にいくから耐えろよ!」


 この敵はエピゴーネンの鏡だろう。魔境型の魔物で本体は弱いがその特性からSランクに指定されている凶悪な魔物だ。


「いやー、魔法を制限していて良かった」


 一人呟きつつ偽レオンに対峙する。エピゴーネンの鏡は他人の魔力を吸収して吸収した魔力の持ち主に似た能力を持つ複製体を作り出す。ただ、吸収した魔力量によって複製体の能力が変動し、半分以上魔力を吸収されるとオリジナルと同等のステータスになる厄介な相手だ。


 魔力の吸収量を抑えた今の状態ならなんとかなるだろう。ただ、戦闘が長引いて魔力を与え続けるとどんどん強化されるのが厄介だ。それに、私とライアスの複製体が出てきていない。今挟み撃ちにされると全滅する可能性が非常に高くなってしまう。


「先手必勝! すでに攻撃されてるけどね!」


 氷華に魔力を込めてレオンに切りかかる。今回は冷気を発生させずに抑え込む。しかし、偽レオンにあっさりと躱されてしまう。


「熱っ!」


 レオンの周囲の温度が一瞬で沸騰し空気の急激な膨張に弾き飛ばされる。とっておいた氷華の冷気で熱を相殺しつつも流れに逆らわずに後ろに飛んでダメージを減らす。


「ふぃー。さすが神霊様。魔法を制限してたら勝てないね。レイラさんには悪いけど無茶するよ!」


 氷華に込める魔力量を一気に増やす。冷気が場を支配し偽レオン周辺との温度差で突風が吹き始める。


絶対零度コキュートス


 前、魔境を作った氷の世界ニブルヘイムの一点集中型の魔法だ。偽レオンの体が凍り付く。


「さて、どうなるかな?」


 ここで勝利を確信してはいけない。それはフラグというものだ。


 ピシっ……ピシピシピシっ!

 パリーン!


「結局ダメなんかい!」


 氷が割れて偽レオンが龍の形態をとる。ここからが本気ということだろう。


「ここからが踏ん張りどころだね」


 再度氷華に魔力を込めて龍形態のレオンに突っ込んでいった。


 ―――

<ライアス視点>


「煉獄」

「フォトンレーザー」


 体に炎魔法をまといつつ偽セレスに突撃する。サクラにはなるべく魔力を温存するように言われたけど偽物とはいえセレス相手だとそんな余裕はない。レオンは一点に光エネルギーを集中させたレーザービームで援護をしてくれている。周囲から大量に生えてくる植物を炎で燃やしつつ接敵する。しかし、まるでどこに攻撃が来るか分かっているかのように躱されてしまう。


怠惰の大罪ベルフェゴール……だったか? 厄介だな」


 思考する過程を飛ばして結果を知ることが出来るスキル……。こちらの攻撃位置が分かるみたいで攻撃が当たらない。植物から体を守るために常に炎で体を覆う必要もあって魔力消費が馬鹿にならない。サクラやセレスみたいな膨大な魔力量がうらやましい。


「そんなことを言ってる場合じゃないな」


 気を抜くと先読みされたように回避先に攻撃が来るため対処がきつい。これはサクラの援護に行けないんじゃないか? なるべく早く倒したいのに。と焦りが出る。


「ライアス。落ち着け! 慌ててもいいことないぞ!」


 レオンからの檄が飛ぶ。空回りしそうになったところを止めてくれたレオンに感謝だ。サクラを見ると偽レオンが戦闘形態になっている。さすがだな……俺も負けてられない。


「さっさと偽物ぶっ飛ばしてサクラを援護して本物のセレスと合流しないとな!」


 再度気合を入れて偽セレスに殴りかかる。途端に力が抜けるが光魔法で状態異常を回復させる。……デバフも使えるのか。植物とデバフを回避するために炎魔法と光魔法を常に使いつつ接敵する。


 ほとんどの攻撃を躱されるせいでこちらの消耗だけが進む。こいつ偽セレス、段々と強くなってないか? もしかしてこちらが魔法を使うたびに強くなっていくのか? ……サクラが言ってたように魔法を制限していて良かったな。ただ、戦闘が長引いたら今までの努力も意味なくなるな。レオンと共に連携しつつ攻撃していく。

 躱せない範囲攻撃をメインに使用していく。詰将棋のようにしても途中で気付かれてしまう。


「ちっ。やりにくいな」


 こちらが本気でやってるのに偽セレスはあくびまでしている。余裕そうな姿が腹に立つな……。すまないサクラ。援護に向かうのは無理そうだ……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る