第64話 分断
遺跡の中に入った私達。SDSの知識を頼りに魔族が隠れそうな場所や集まれそうな場所を虱潰しにしていく。
「中の構造はSDSと一緒かな?」
「今のところは同じだな。魔族が手を加えてなければ楽なんだが……」
一応SDSの時と構造が違う場合も想定していたけど不要だったようだ。分岐地点ではセレスに敵の数を教えてもらいつつ取り逃がしをしないようにしていくが魔族の数が思ったより少ない。
「なんとなく魔族の数が少ない気がするな」
「奥に集まっているか父さまと一緒にいるのを魔族が嫌って派遣した人が少ないのかのどっちだろうね」
結界を解除したことで父には侵入者の存在がばれているはずだ。それなのに攻撃しにくる魔族が少ないのはなぜだろうか? 少しの懸念を持ちつつも急ぎ足で遺跡を進んでいく。
「サクラ。想定よりも魔族の数が少ないし二手に分かれるか?」
「基本一本道なのに?」
遺跡の内部には分岐点や部屋があるけど基本廊下は一本道の構造だ。分かれようにも分岐道も行き止まりだしすぐに合流することになると思うんだけど……。
「俺とレオン、サクラとセレスの片方が最奥まで突っ切るんだ。もう片方は手前から順々に見ていく。どうだ?」
つまり父さまの捕縛チームと魔族の殲滅チームに分かれるってことかな? ……いい案だとは思うけど嫌な予感がするんだよな。
「セレス。二手に分かれて行動するのは良いと思う?」
「ふんふん。やめた方がいいと思うよ!」
「そう。私も嫌な予感がするし二手に分かれるのは止めておこうか」
囲まれないように急ぐ必要はあっても慌てる必要は無いから手前から確実にだね。
―――
奥に進むにつれてトラップが増えてきた。
「落とし穴にわにばさみ。だいぶ古典的だな」
「そうだね。魔法を使った罠があってもいいと思うんだけど……」
足止め用の罠は多いけど侵入を排除するための罠は少ない。それにどれも原始的な罠ばかりで魔法を使った罠が……ない……?
「セレス。今までつぶしてきた罠に魔力が込められたものってあった?」
「ないよ? それがどうしたの?」
「気の所為ならいいんだけど……。ライアス、魔力が減った感覚はある?」
「ん? そういやいつもの魔法なのに少し魔力を多く消費する感じがするな。いわれないと気が付かない程度だし気にする必要はないだろ」
ライアスは楽観的すぎない? 魔力を吸われているってことは何かしらの魔道具の魔力供給に私達の魔力を使われているってことだ。そんな魔道具は聞いたことないけど……。
「うーん。他人の魔力を使って発動するタイプの魔道具が置かれてるかも……もしかしたらこの遺跡が魔道具だったりする?」
「はぁ? どういうこと……うおっ」
ライアスが疑問を言ってるがそれどころじゃない。背後から大量の魔族が突如現れた。分岐路は全て潰したはずなのに? ……この遺跡か誰かの魔法か。いや、考えるのは後だね。
「魔法の使用は避けるよ!」
「無茶言うな。この数を魔法無しとかマゾゲーかよ!」
「移動しつつ対応するよ。なるべく離れないように!」
ライアスとレオンが前方の魔族を倒しつつ走り、私とセレスは後方で近づいてきた敵を順に倒していく。
「あんなに数がいるのに一遍には来ないんだな」
「走る速度が違うからね。到着時間に差が付けば一斉攻撃はできないよ」
対集団線の基本だろう。ま、後方の魔族が前方の魔族を巻き込んで魔法を使うとなったら別だけど……。
しばらく走りつつ対処していると見知らぬ分岐路が見えた。やはりこの遺跡は……。
「どういうことだ。この遺跡にこんな場所は無かったはずだ」
「それは後で、とりあえず右に行くよ!」
「了解!」
ライアス、レオンが右の通路へと走り抜ける。続いて私が通り抜けると遺跡が揺れ始めた。
ゴゴゴゴゴ
突然の揺れに一瞬全員の足が止まる。ハッとして後ろを見たときはもう遅く、私達三人の後ろには壁がそびえたつのみだった。
……セレスとはぐれた?
―――
先ほどまでいた魔族が嘘のように見えなくなり、ライアスとレオンと三人で次の行動について話し合う。
「どうしよう。セレスを探しに行かないと」
「サクラはセレスの居場所わかるんじゃないのか? 契約前も魔の森で互いの居場所わかってただろう?」
「この遺跡の中だとわからないよ。早く探しに行かないと」
最近はいつも傍にいるため気にしてなかったから気付かなかったけど、この遺跡の中ではセレスの居場所が分からない。魔力感知もほとんど機能してないから直接移動して探すしかない。
「いったん落ち着け。セレスがそう簡単にやられるわけないだろう。むしろ敵さんのほうに同情するレベルだぞ」
「セレスが寂しがってるかもしれないでしょう? 早く会ってモフモフしないと!」
レオンは薄情者ではなかろうか。セレスが強いのは百も承知だ。いくら強くともそういう問題ではないのだ。
「わかったわかった。見つけるためにもいったん落ち着け。深呼吸をしろ深呼吸を」
「ひっひっふー。ひっひっふー」
「ラマーズ法になってるぞ……。落ち着いたらさっき気付いたことを共有してくれるか?」
よし、少し落ち着いてきた。後でモフモフしてあげるからセレスは待っててね! 帰ったらカトレアちゃんも一緒にモフモフしよう。……はっ。気付いたことの共有だったね。
「まず、この遺跡は巨大な魔道具だと思うんだ」
「な、こんなでかいものが魔道具だと?」
驚くのも分かるが恐らくそうだろう。この世界の魔道具は大きなサイズの物でも魔動車程度のものだ。遺跡丸ごと魔道具だなんて考えもしないだろう。
誰かの魔法の可能性もあったけど壁ができたときに遺跡全体に漂う魔力量が減ったからね。
「おそらく動力源は私達。というよりも遺跡内部にいる人の魔力だと思う。魔法を使うごとに少しずつ奪い、中にいるだけで少しずつ魔力を奪うことで起動するための魔力を供給していると思うんだ」
「それで魔法を使うなって言ったのか」
「うん。そして建物型で内部に入れる魔道具ならどこかで管理するスペースがあると考えるのが自然だと思うんだよね」
独立した魔道具なら別だけど……。イレギュラーにイレギュラーが重なってるからその可能性も視野に入れるべきかな?
「そうか。結界の解除で俺達の侵入に気付いたアービシアがその管理するスペースで俺達の動向を見ていて分断できそうなタイミングでセレスを引き離したってことか」
「そうかもしれないし違うかもしれない」
これ以上は憶測に憶測を重ねることしかできないから保留かな……。一つの可能性に賭けて違った時が怖いからね。
「セレスが狙いで分断させたかったのかも……。やっぱりすぐに探さないと!」
セレスがそう簡単にやられるとは思わないけど対策を練ることができたのかもしれない。
「これ以上は考えても仕方ないしな。深部を目指しつつセレスと合流するぞ」
若干の不安を抱えつつも奥へと進むことにした。
―――
<セレシア視点>
「はぐれちゃった。向こうの三人は問題ないよね? それよりも僕の方もどうにかしないと」
セレスが後ろを向くと今まで追ってきていた魔族が集まってくる。
「どうしよっかな? とりあえず倒しちゃうかな。えいっ!」
植物が大量に発生して魔族を一人残らず縛り上げる。セレスに向かっていた魔族の集団はそのまま消滅していった。
「壁は壊すと怒られちゃうし……。ふんふん。あっちの道に行くと良さそうだね。早くサクラと合流して褒めてもらおう!」
セレスは新たにできた分岐路に向かって歩き始めた。
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